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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしのおわりとはじまり
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第1章 第18話 その関係は蜜すぎる

〇環奈



 あたし、どうしちゃったんだろう。席に通され、目の前に座った小野塚さんを見て小さく頭を抱える。



 小野塚さんと仲良くなれたのはよかった。本当によかった。一緒にいて楽しいし、居心地が良いとさえ今は思えている。



 でも、なんだろう。なんか、小野塚さんは、違う。



 きららちゃんや他の友だちと一緒にいても楽しいとは思うけど、小野塚さんはまたなにかが違うのだ。だからといってどっちの方が楽しいかというのでもない。



 ただ、違う。



 言い方を変えれば、小野塚さんだけは特別。



 それとなぜか今、スランプに陥った時と似たような感情あたしの中を渦巻いている。服を買う前は消えていたのに、どうして今になってまた復活したんだ。



 胸がドキドキする。


 頭の中がクラクラする。


 視界に雲がかかったようにモヤモヤする。


 さっきもなんでかテンプレ染みたツンデレ台詞言っちゃったし……。



 これってもしかして――。



「これってカップル専用なんだー」

「カップルっ!?」



 小野塚さんの発言に条件反射で立ち上がってしまった。カップル……カップルって……! あたしたちそんなんじゃ……!



「……どしたの? 水空さん」

「へ?」


 小野塚さんの心配そうな視線があたしに向けられる。その手元にはメニュー表が広げられていて、一番大きく『ラブラブ! あなたのことが大好きなのセット』というふざけた名前のカップル専用セットの写真が載せられていた。



「あ……あはは……なんでもないです……」


 なに勘違いしてるんだあたしはっ! 馬鹿じゃないのか? 馬鹿じゃないのか!


 カップルという言葉に反応してこんなに取り乱すなんて……恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!



 でも……。座って顔を下に向けながらも、目だけで小野塚さんの姿を盗み見る。


 無邪気にワクワクしてメニュー表を捲る様子、あたしがコーディネートしてあげた格好……さっきあたしのことをかわいいって言ってたけど小野塚さんの方がよっぽどかわいいじゃん。



 これは……この胸の高鳴りは……やっぱりあれなのかな……?



 恋、なのかな……?



「ねぇ、水空さん」

「ひゃいっ!?」


 名前を呼ばれただけで声が裏返ってしまう。こんなこと生まれて初めてだ。



「なに頼む? わたし的にはやっぱりカップル専用のセットが魅力的なんだけど……」

 そう言って小野塚さんはページを広げたままメニュー表を手渡してくる。



 カップル専用セットの内容は四枚ほど重ねられた生クリームがたっぷりと盛られているパンケーキに、ハート型に曲げられた二つの飲み口があるストローが付いたドリンク一つ。そしてスポーツフェアをやっているみたいで、ボール型のマスコットキャラクターのキーホルダーが二つもらえるらしい。キーホルダーはいくつかスポーツ別に種類があって、その中にはバレーボールの形をしたキャラもある。


 ひょっとしたら小野塚さんはこのドリンクをあたしと飲みたいのかなと一瞬どぎまぎしたけど、たぶんこのキーホルダーがほしいんだろうな。どこか日本一有名なバレーボールキャラクターに似ている気もするけど、ボールの中心にはハートが描かれていて普通にかわいい。なんならあたしも割とほしい。



「それなら頼みますか?」


 言ってからすぐ、しまったと思った。確かにキーホルダーはほしいけど、それってつまりこのカップル御用達のドリンクを小野塚さんと飲まなきゃいけないってことじゃん!


 だってそれって間接キスとまではいかないけど、間接的な間接キスを小野塚さんとするってことで……。



「な、なんてじょうだ……」

「ほんと? よかったー、断られるんじゃないかってドキドキしたよー」


 だめだ、今更取り消すことなんてできない! 小野塚さんのこの笑顔を奪えない!



「お、小野塚さんはいいんですか……?」

「ん? なにが?」


「だってこれって……間接キスみたいなものですよね……?」

「んー、わたしは別に気にしないかな」


 あーもー、どうしてあたしがこんなにドキドキしてるのに小野塚さんは平然としてられるんだよー……。余裕ない時の方言を出してよー……。



「間接キスなら美樹とよくしてるしね。二人でお金出してジュースを半分こしたりとか」

「それ犯罪の臭いがするのでもうやらない方がいいですよ」


 小野塚さんは気にしてなくても扇さんは絶対によくないことを考えているはず。あの人ほんと最悪だなぁ……。



「そうだ! カップルって設定ならお互い呼び方を変えた方がよくない?」

「呼び方……ですか」


 確かにカップルなのに苗字にさん付けで呼び合っているのはおかしいかな。



「わたしは環奈ちゃんって呼ぶとして……そっちは梨々花さんかな……あ、さん付けっていうのも変だし梨々花ちゃんとか……」


 梨々花ちゃん……あたしが小野塚さんのことをちゃん呼び……。少し恥ずかしいというか先輩に対して申し訳ないという気もするけど、こういう機会でしか呼べないし、たまにはいいか。



「梨々花先輩……って呼んでもいいですか?」



 ……あれ? あたし、今なんて言った……?


 もしかして梨々花先輩って呼びたいとか口にしてた……?



「え? まぁ別にいいけど……」

 しかもオッケーもらっちゃった!? ていうかあたしなんでわざわざ先輩呼びなんて……。



 それじゃあまるで、部長さんに対する小野塚さんみたいじゃないか。



「でも先輩呼びだと敬語になっちゃってカップル感薄れちゃうよねー……」


 小野塚さんの言う通りだ。今からでも遅くない。おとなしくちゃん付けにしよう。



「別に先輩後輩間のカップルがいてもいいと思います!」


 だからあたしはなにを言ってるんだ!


 思考と言葉が一致しない! なんで? なんで!?



「それにはうん、すごく同意する」


 あたしが苦しんでいるのにも関わらず、小野塚さんはなぜか納得した顔でうなずいていた。きっと部長さんのことを考えてるんだろうな。



 ……なんだろう、胸がチクチクする。苦しくて吐いてしまいそうだ。



 本当に、なんで――。



「じゃあ環奈ちゃん、注文するね」

「はい、お願いします。……梨々花先輩」


 お互い確かめるように名前を呼び合うと、梨々花先輩は注文ボタンを押す。ピンポーン、という間抜けな音がした数秒後、すぐに店員さんがテーブルに注文を取りにきた。



「お待たせしましたー」


 あれ? この店員さんの声、どっかで聞き覚えが……。



「ってリリーとかんちゃんじゃん」



 その変なあだ名は……! 慌てて顔を上げると、予想通り。ウェイトレス姿の外川さんが驚いた顔で立っていた。

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