第3章 第続話 二人を引き裂く影
「HIT! GREAT! PERFECT!」
花美高校対藍根女学院の試合に熱中していたのは、瀬田絵里だけではなかった。
「中々いいんじゃない!? 紗茎中学があまりにも弱かったから心配していたけど、想像していたよりジャパンのレベルは遥かに高いわっ!」
一人は、明らかに子どもでありながら、少しダボっとしたスカートスーツを着てポップコーンを口に運びながら叫んでいる女の子。そして、
「ご主人さま、紗茎中にもマシな方はいましたよ」
その半歩後ろで傅く、スーツの女子より三十センチ近く高い、フリフリのミニスカートのメイド服を着こなしている女性。
「あー、『殿銅の漆』の双蜂音羽と皇志穂だったかしら? まぁ皇志穂の方は見所があったわね。実力がなくても努力する選手は嫌いじゃないわ。でも双蜂音羽の方はないわね。実力もないのに傲慢。あの北の『神世四剣』、『雲咲天剣』の双蜂天音の妹だとは思えないわ」
「薬特製常備データによると、天音さまと音羽さまのお二人はお母さまが違うようです。教育も違うようですし、その差が出たのでしょう。ですがご主人さまも評価が厳しいですよ。紗茎中のお二人も中学生の中では上手い方です」
「はっ。しょせんあの二人は井の中の……何だったかしら?」
「狐です。フォックス。間違えたら恥ずかしいので絶対に間違えないでください。……ぷぷ」
「ちょっと待ちなさい。あなたが笑うということは間違っているわね。正解を教えなさい」
「申し訳ございません。正しくは狸でした」
「まったく……恥をかくところだったわ。薬、ドクペ」
「かしこまりました」
薬と呼ばれたメイドはストローを差し、紙コップを差し出す。それを持たないまま一吸いすると、スーツはタブレットに人の名前を書いていく。画面には『PERFECT』、『GREAT』、『HIT』の欄が設けられており、既に何人かの名前が打ち込まれた後だった。
「『PERFECT』は……いないわね。さすがに双蜂天音レベルは早々生まれないか」
「ご主人さま。先程も申し上げましたが、少々厳しいです。飛龍さま、蝶野さまもそこに入るのなら何人か候補がいるのでは?」
「わかっているわ。水空環奈、木葉織華はここに入れても問題ないわね。もっとも木葉織華は『寄生』の使い方が下手だし、水空環奈は中学時代の方が断然上手かった。トス以外トラッシュな『熱中症』の飛龍流火と言い、その飛龍流火がいないと力を発揮できない蝶野風美と言い、中々一筋縄ではいかないわね」
「そのお二人が入るのであれば深沢さまも入れていいのでは? 薬特製常備データによると、同じ『金断の伍』というグループに入っているようですが」
「あなたも知っているでしょう? チビはトラッシュ。実力でおまけしても『HIT』止まりよ。代わりに翠川きららを入れるわ。途中までは身長の分プラスしても『GREAT』止まりだったけど、終盤のあの迫力は文句なく『PERFECT』よ。あと一人花美で候補がいたのだけれど、あれは期待外れかしら? 一応声はかけるけれど」
「あとは他の学校の方を数名加えて完成でしょうか」
「この県で紗茎、藍根以外に期待できる選手はいないわ。花美は突然変異で、あとはせいぜい紅葉学園くらい。それもギリギリ『HIT』に入れるかどうかね。それより三人目の『銀遊の参』、加賀美和子の足取りはまだ掴めないの?」
「申し訳ございません。他県には進学していないようですがどこのチームにも所属しておらず……」
「あれは何とか捕まえておきたいわね。引き続き捜索を続けなさい」
「かしこまりました。……それで『GREAT』の方は?」
「鰻伝姫。紗茎の蒲田霧子と加えて二人かしらね」
「……矢坂さまはそこに入れてもいいと思いましたが」
「あれも期待外れよ。中学時代と何も変わっていない。『HIT』でいいでしょう」
「新世珠緒も悪くないけれどね……あの向上心は目を引くものがあるわ。身長だけで見ればトラッシュだけど、実力は確かにある。遊んであげるだけの価値はあるわね」と言い、スーツはページを変える。そこには『TARGET』という文字が。
「帰るわよ、薬。見るべきものは見れたわ」
そのページに三人の名前を書き込むと、タブレットをメイドに渡してスーツは出口へと一人歩いていった。
「想像していたよりずっと楽しめそうだわ。待っていなさい、全国」
「お待ちください、ご主人さまー!」
一人そうつぶやいたスーツを追いかけるメイド。彼女が持つタブレットはまだ光を放たれており、『TARGET』の欄に三人の名前を確認することができる。
水空環奈。
翠川きらら。
小野塚梨々花。
その三人の名前は、時間経過によって暗く消えていった。