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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第3章 春待つ夏
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第3章 第43話 必ず2点取れる技

「さっきのブロック、どう見る?」


 リリーによるツーアタックに木葉さんがブロックに跳んだところ奇跡的に吸い込みで得点できた直後、小内さんは最後のタイムアウトを取った。タイムアウトは本来選手の休憩だったり、作戦の指示だったり、流れを切りたいといった目的で取られるものである。つまり総じて点を取られた時に取ることが多いのだが、今回は珍しいパターンだ。でもその選択に意義はない。たいしてバレーに詳しくないひーにだって違和感を覚えたんだ。ここでタイムアウトもなしな選択じゃないだろう。


「微妙なところですけど……まだ大丈夫だと思います」

「いいえ、もうやられたと思った方がいいですわ」


 返事をしたのはかんちゃんとマオちゃん。二人の言っている意味はわからなかったが、木葉さんのブロックのことで間違いないだろう。


 ツーアタックはトスに見せかけて相手コートにボールを放る技だ。つまりよっぽど下手じゃない限り寸前までわからない。なのに木葉さんはマオちゃんくらいの身長だったら完全に打ち落とせただろうというタイミングでブロックに跳んだ。別にリリーのツーが下手だったわけじゃない。木葉さんのタイミングが異常なんだ。


「環奈さんは楽観的すぎますわっ。タイムアウトの今対策を打たないとセット取られますわよっ」

「珠緒が悲観的すぎるんだよ。だって実質セッター三人だよ? いくらあたしと珠緒の癖を知られているからってこんなに早く対策されるわけないって! それに珠緒も今回ツーすごい我慢してるしまだ大丈夫だってぜったいっ」


「環奈さんはリベロだからわからないんですのよっ。ブロッカーのプレッシャーを一身に受けるセッターのわたくしにとって織華さんは一番嫌なタイプなんですわっ」

「あたしだってそんくらい知ってるから! ていうか珠緒、織華と三年の時しか練習できてないでしょっ!?」

「あー! 言いましたわねっ。くそっ、くそっ、むかつきますわーっ!」


 ……それにしても、この二人はなにを言い争ってるんだろう。一昨日の対策会議を欠席したからかもしれないけど、本当に意味がわからない。


「おら落ち着けお前ら」

「「ぎゃーっ!」」

 そんな二人の間にあっさんが入って髪をくしゃくしゃとかき回した。二人ともおしゃれには気を遣うタイプなのですぐに離れ、一人で髪を整えた。普段は生意気だけどこういうとこ子どもだなー。


「正直に言うけど藍根相手にここまで接戦に持ち込めてるのは奇跡に近いとウチは思ってる。だからこのセットは意地でも取っておきたい」

 みんなの前では常に明るいあっさんが割と弱気な発言だ。でも顔はまったく死んでない。そして強い瞳でこう言った。


「必殺技、やるぞ」


 必殺技。必ず、殺す、技。


「……は?」

 いや、いやいやいや。必殺技って、んなマンガじゃあるまいし。絶対決まる技なんてないでしょ。でも、


「ぅあー……緊張してきた……」

 みんなすごい真剣な表情だ。みきみきに至っては冷や汗を垂らして胸に手を置いている。


「ちょ……みきみき、どういう意味?」

「あー……日向ちゃんは練習来てないもんね」

 またそれか。ひーがサボってる間どんだけ新しい技仕込んできたんだ。


「必殺技ってのは言い過ぎだけど……必ず二点取れる技だよ」

 みきみきの顔にも緊張の中に真剣味が確かにこもっていた。でも本当に二点取れるならどちらかが二点差つけるまで続くデュースに持ち込める。だったら期待するしかないか。


「あーしも一ノ瀬さんと同意見よ。一ノ瀬さんにまた戻ってもらって、一気にこのセット取るわよっ!」

『はいっ!』


 タイムアウトが終わり、ひーとあっさんが交代する。これで前衛はマオちゃん、きららん、あっさん。マオちゃんのツーアタック解禁で、リリーが後衛になると同時にサーブとなる花美でも強いローテだ。


「はぁっ」

 セットポイントということで藍根が攻め気味になっていることを察知したのか、リリーはサーブを打たなきゃいけない時間、八秒丸々使って相手の隙を作り、ジャンプサーブを打ち込んだ。


「くっ」

 それを矢坂さんがなんとか拾い上げたが、ボールは本来のセッターの場所とは大きく離れた場所に飛んでいく。これじゃあ複雑な攻撃はできないと判断したのか、ボールは高くオポジットの人へと届けられた。それに対しきららんがクロスを塞ぎ、ストレート側にリリーが構える。


「あぁっ!」

 そしてオポジットがボールを打った瞬間、後衛ライトに移動したみきみきが跳び出した。これは――!


一手飛ばしの速攻(ファストクイック)!』


 リリーはボールを上げるのではなく弾き、ちょうどみきみきの最高到達点に高速のボールを届けた。


「やぁっ!」

 そしてそれを完璧なタイミングで合わせると、みきみきはバックアタックを相手コートに叩きこんだ。


「……なにあれ?」

「知らないわよ……あんなの」


 それに対しまったく反応できなかった深沢さんと木葉さんがぽかんと口を開け顔を見合わせる。そういえばビーチバレーでみきみきとかんちゃんが『一手飛ばしの速攻(ファストクイック)』を打った時二人はリリーを偵察しに行ってたんだっけ。


 まぁ初見殺しだし確かに一点は取れるかもしれないけど、紗茎戦で(すめらぎ)さんに見破られた通り、この技には大きな弱点がある。相手のスパイクと同時に跳んだ人が必ず打つしかないからだ。フェイクにしても『一手飛ばし』はレシーブからの技なので、普通のトスからのスパイクという流れの時に十分ブロックに間に合ってしまう。だから二点目は確実じゃないんだけど……。


「はぁっ」

 疑問を抱えていると、まだ状況が呑み込めてない藍根に笛と同時のジャンプフローターが放たれる。今度も矢坂さんが拾うが、今回は少し離れているが十分多彩な技ができる場所に上げることができた。


 まだ顔にハテナが浮かんでいるが、それでも決めればいいと思ったのか『金』の二人が『黒雲降雷(こくうんこうらい)』のモーションに入る。どこから打ってくるのかわからないと同時に、深沢さんのブロックアウトによってボールを弾かれてしまう。でもブロックアウトについては考えなくてもよくなった。


「!?」

 誰もブロックに跳んでいなかったのだ。その代わりに深沢さんが出てくる木葉さんの左右の正面にはリリーとかんちゃんが待ち構えている。


 花美から見えないということは、藍根側からも向こうが見えないということ。コートの状況に深沢さんは面食らった顔をするが、コースを変えることはできずリリーの方へとスパイクを打ち込むしかなかった。


 それを確認し、跳び上がる。


一手飛ばしの(ファスト)――


 みきみきだけでなく、残りの四人同時に。


――同時多発位置差攻撃(シンクロ)!』


 『一手飛ばしの速攻(ファストクイック)』の弱点は、誰が打つか丸わかりなこと。だったらその対策は単純。誰が打つかわからなくすればいい。


 普通の『一手飛ばし』ではみきみきだけが跳び上がるが、加えてあっさん、きららん、マオちゃんが同時に跳ぶことで誰が打つかわからなくなった。


 それにスパイクを打ったばかりの深沢さんはまだ落下の途中。つまり残る前衛は二人だけ。

 スパイカー四人対ブロッカー二人。どうあがいても全てをマークしきれない!


「――もう、みんな元気(げんき)だなー」


 なのに。


若々(わかわか)しくて(たの)しそう」


 みきみきへと上がったボールは完璧に木葉さんに叩き落とされた。


「でも(たの)しいことはいいことだよね」


 そもそも『一手飛ばしの速攻』は世界中どこを探したって見られる技じゃない。だからすぐに対策をとれるわけがないんだ。とんでもなく速い技だし、公式戦というプレッシャーでどうしても動きが固くなるだろう。


「だってその(ぶん)絶望(ぜつぼう)もでかいから」


 地に強く根を張った大木を多少斬りつけてもそれで木が死ぬことはない。まるでそれを体現しているかのようだった。


「『新緑大木(しんりょくたいぼく)』、木葉織華(このはおるか)


 着地し、体勢を崩す花美の選手たちを見下ろし、彼女はいつものように笑う。

 へらへらと、まるでそれが当たり前かのように。


「――全部(ぜんぶ)、ふみつぶしちゃお―」


 ひーたちを、見下した。

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