第3章 第32話 春高予選1回戦 花美高校VS日回高校
〇きらら
「スターティングは話した通りでいくわ」
試合開始数分前。ミーティングにて小内さんがそう言います。
後衛ライトにセッター、小野塚梨々花さん。後衛センターに自分、翠川きらら。後衛レフトにアウトサイドヒッター、扇美樹さん。前衛レフトにセッター、新世珠緒さん。前衛センターにミドルブロッカー、真中胡桃さん。前衛ライトにアウトサイドヒッター、一ノ瀬朝陽さん。後衛の自分がリベロ、水空環奈さんに代わります。ちなみにこの並びは対日回高校専用ローテで、基本のローテは自分と胡桃さんの位置が逆になります。今回こうなったのは、相手がそんなに強くないということから初っ端で点を取り、逃げ切る形にしたいからだそうです。ちなみに今回は先サーブなのでこうなりましたが、先レシーブだと一つ前に戻った並びになります。
「相手は格上。最初から全力でいくわよっ!」
『はいっ!』
小内さんのその発言はローテを決めた理由から矛盾するかもしれませんが、ここで不用意な発言をするわけにはいかないのです。理由はすぐ横で張り付かんばかりに大きなカメラを構えている人の存在。試合前の話を経て日回高校が一回戦負けの可能性も出てきて、自分たちにもちゃんとカメラが付くようになりました。
「じゃあおらからも一つ」
テレビの緊張のせいか少し顔がこわばっている小内さんの前に徳永先生が立つ。さすがは教師というべきなのか、カメラを前にしても堂々としています。
「みんなはすげぇがんばった。もちろん努力したから必ず勝てる、っていうわけじゃねぇが、それでも努力したことには価値がある。今までの辛かった全部、この試合で発散してこいっ!」
『はいっ!』
コーチと監督の話が終わり、自分たちは円陣を組む。なんだか小内さんがコーチに就任した時のことを思い出します。
「正直このカメラはちょーうぜぇ。いつも通りやるのは無理だと思う」
部長のあっさんが円陣にまですり寄ってくるカメラを横目で見て苦々しく言う。
「でもウチらのコンセプトは変わらない。勝つ。勝つんだ。勝つんだよ。相手が弱小だろうが、強豪だろうが、廃校だろうが関係ねぇ。ただこの一戦に勝つ。それだけ考えてろ」
そして一段と深くつながり、自分たちは叫ぶ。
「花美ー、ファイッ!」
『オーッ!』
各校ミーティングが終わり、試合が始まります。まずは梨々花さんのサーブから。強豪紗茎をも苦しめたサーブが日回高校を襲いました。二十五本連続で。
「こんなことってあるんですねぇ……」
「普通はないよ。ていうかあたしは一回くらいしか見たことない。バレーって取って取られてが基本だし、プロだって普通にミスするスポーツだし。よっぽど実力が離れてるか、八百長をしているか。まぁ当然今回は前者だけど……あたしもびっくりした」
つまりなにが言いたいかというと。
二十五対ゼロ。
第一セットは日回高校に一点も取られることなく、花美高校が取りました。