第3章 第21話 いつだってそれとの勝負
バレーボールは高さの競技。それに異議を唱える人は少ないでしょう。
では高さとはなにか。それを考えた時、身長であると答えた人は間違っていると、強く言うことができます。
なぜなら、それをこの身で実感したからです。
「きららちゃん跳んでっ」
いつも余裕そうに笑っている木葉さんが叫びます。その様子を珍しいと思う暇なく自分は言う通りにすぐさま跳ねる。木葉さんがサーブレシーブしたボールが向こうのコートに返っていく。そのボールをそのままダイレクトで叩こうと深沢さんが助走を開始していたからです。
「ふっ」
自分と深沢さんが空に舞ったのはほぼ同時。先に最高到達点に辿り着いたのは自分。しかしボールに触れたのは深沢さんでした。
空を漂う雲のように決して落ちることなく自分より長時間空にいた深沢さんは、雷を思わせる鋭い一撃を放ちました。
手足の長い木葉さんでも決して届かない場所に落ちたボールは、砂を巻き上げてその場に留まります。九対二十一。自分、木葉さんペアは、風美さん、深沢さんペアに大敗を喫しました。
「高さとは身長じゃない。打つ瞬間、守る瞬間。誰よりも高く宙にいることよ」
その身長百五十センチが提唱する真理に、身長百八十越えの自分たちはなにも言えませんでした。
「どう? 小さな子に負けた感想は」
コートから出ると、なぜかうれしそうな顔をしている胡桃さんが待っていました。
「自分とほとんど身長変わらない風美さんもいたんですけど」
そもそも身長の差はありましたが、結局のところ高さ勝負でしたし。胡桃さんが言うバレーとは高さじゃないという話とは合ってないです。ほんと頭悪いんですから……。
「あ、また心の中で馬鹿にしたわね」
「うっ」
な、なぜばれたんですかっ。
「別に高さ自体を否定するつもりはないわ。高い方が有利なのはどうあがいても事実だし」
とぼとぼと歩く自分と木葉さんにスポーツドリンクを渡して、胡桃さんは遠く彼方に見える地平線を眺めます。
「でもその理論を信じていると、海外の選手に負けることが当然になってしまう。それは屈辱でしょう?」
「海外って……」
またプロになる話ですか。木葉さんは知りませんが、自分は海外の選手と戦うつもりはないのに。
「まぁテクニックとかも大事だと思いますけどー……やっぱり高さの方が大事ですよ。おんなじテクなら高い方が有利だし」
「あら? さっきまで偉そうに高さ高さ言ってた人がちょっと弱気になってるわね」
思わずといった様子で木葉さんがぼやくと、ここぞとばかりに胡桃さんが煽ってきます。木葉さんが持つボトルが少しへこんだのを見て胡桃さんがまた笑みを深めます。
「身長にはある程度の上限があるけれど、テクニックに終わりはないわ。どこまででも上手くなれる」
そう言うと胡桃さんはたった今試合が終わった最後のコートに目をやります。
「さぁ、高さ対テクニック。どちらが勝つかしら」
長くなると思われましたが、五対二十一という圧倒的な差を見せつけた勝利者がコートから出てきます。
「おねーちゃん、絶好調だねーっ」
「……うん。今日のわたしは絶対に負けるわけにはいかないから」
環奈さんの『浸透』や、流火さんの『熱中症』。どちらも思わず見とれてしまうほどの輝かしいオーラを纏っていますが、今先頭を歩く方の雰囲気は正反対。
触れたものを全て斬り裂くかのような殺気。こんなに暑いのにどこか寒気を感じてしまいます。
「勝負だよ。わたしこそが最強だと証明してみせる」
環奈さん、美樹さんペアを余裕で斬り捨てた天音さんはそう宣言しました。
決勝戦。風美さん、深沢さんペア対天音さん、音羽さんペアの試合が今、始まります。