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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第3章 春待つ夏
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第3章 第13話 積み重ねの差

〇日向


「んー、海って感じっ!」


 砂浜に立ち、大きく息を吸う。熱気を帯びた風に、鼻を突く潮の香り。見上げれば雲一つない青天で、確かな夏を感じさせる。これで泳げたらさいっこうなんだけど、


「まずは走り込みからやってもらうわ」


 まだまだ海はお預けみたい。ロゴの入った白いTシャツに短パン、肩にタオルをかけた海の家スタイルの小内さんがそう指示を出した。


「ここから一直線に三キロ先のコンビニまでひたすら砂浜を走る。そこで一.五リットルの飲み物を買って、戻ってくるっていうコースよ」

 うげ、つまり六キロ走るってこと? しかも帰りは重り付きで。


「ちなみに戻ってきた時にペットボトルが空いていたらやり直し、また買ってきてもらうわ。給水したいなら二本買ってくるのがおすすめね」

 ……こんな炎天下で六キロ給水なしとか死ねる。重りが三キロに増えちゃった。


「あと罰ゲームとして下から二番目までの人はその後スクワット百回。それとご褒美として上位三人には何か奢ったげる」

「やりましたーっ」


 うわ、もうきららん勝った気だよ。でもあの子の運動能力やばいからな。トップ三には入れるだろう。あと候補としては運動神経よさそうなあっさん。たぶんひーも三位までならいけると思う。逆にビリ二人はみきみきと勉強漬けのくるみんさんかな。


「じゃあよーい、スタート!」

 と、思ってたんだけど……。


「はぁ……はぁ……」

 だめ……全然むり……。


「ぅえ……しんじゃうよぉ……」

「はぁ……はぁ……みきみき、だいじょぶ……?」

 ひーと二人で最下位争いをしているみきみきに話しかけるけど、ひーだって余裕がない。


 まず砂という足場が最悪。うまく踏み込めないし、柔らかいせいで普通の地面より体力を奪われる。加えて熱気も下からガンガン押し寄せてくるからもう最悪。


 しかも朝早いせいでお客さんは少なく、ずっと同じ景色ばっかり続いている。まだ往路だけど、何キロ地点まで来たのか皆目見当もつかない。


「おーい! がんばれーっ!」

 もうまともに走ることもできないひーたちに辛うじて目に映る場所にいるあっさんが大声を上げた。まだまだ声は元気そうだけど、走り方がぎこちない。たぶんあっさんも限界が近いはずだ。


「ぅあ……もう……むりぃ……」

 そしてついにはみきみきが砂浜に倒れてしまった。身体中汗まみれで、口の端からはよだれが垂れている。一瞬本物の熱中症かと思ったけど、まだ走って十分くらいしか経ってないしたぶん普通に疲れただけだろう。


「ちょっと休憩しようか……」

 これがいい機会だとひーも砂浜に寝転ぶ。あー、砂が天然のベッドみたいになってて気持ちいいけど……すっごい熱い。座り直して仰向けで激しく胸を上下させているみきみきを眺める。


「……こんなに予想が外れるとは思わなかった……」

 みきみきが遅いのはわかってたけど、まさかひーがビリから二番目だなんて。しかもその次はあっさん。大外しにもほどがある。


「大丈夫ですか?」

 しばらく身体を休めていると、さわやかな汗を流しながらも涼しい顔をしているきららんがひーたちを覗き込んでいた。


「……もう帰り?」

「はい。あ、お水飲みます?」

「うん……ありがと……」


 きららんが小脇に抱えているスポーツドリンクを受け取り、口から離しながら一気に喉に流し込む。きららんのことを考えて少ししか飲まないという選択肢はなかった。


「ぶぇっ」

 半分ほど飲んできららんに返すと、突然倒れていたみきみきがブサイクな声を上げた。


「こんなので疲れるなんてまだまだですね、扇さん」

「……あとで覚えときなよ、水空ちゃん」


 少し顔を上げると、かんちゃんがペットボトルの蓋を開けてしたり顔をしていた。みきみきの顔が濡れてるし、たぶんかんちゃんがみきみきに水をかけたんだろう。みきみきは恨み言を言ってたけど、少し顔色がよくなった気がする。


「って、これコーラでねぇかっ! あとでべたべたになるやつっ! ぜってぇゆるさねぇっ!」

「日頃のお返しです。ざまぁですね」

「もう、子どもじゃないんですのよ。美樹さん、どうぞ」

 かんちゃんに続いて到着したマオちゃんが紙コップに入ったスポーツドリンクを手渡してくる。


「え……わざわざいいの……?」

「ええ。どうせお金はコーチ持ちですし、これくらいはかまわないでしょう」


 ……もしかしてマオちゃんペットボトル二つ持った上で紙コップも持ちながら三位だったの……? ていうか上位三人全員一年生とか……。


 よく考えたらそりゃそうか。かんちゃんもマオちゃんも紗茎出身。そりゃひーたちとはレベルが違って当然だ。


「では自分たちは行きますね」

「一年生でビリの方、かき氷奢りはいかが?」

「乗った。ぜったい負けないかんね」


 ……それにしても、こんなに違うもんか。ひーたちは死にそうになってるのに、三人は余裕そうに笑い合っている。


 こんなにすごいならもっと強い学校行けばいいじゃん。


 ひーはただ、普通に楽しくバレーがやれればよかったのに。


 なんでひーが、こんなに劣等感を感じなきゃいけないんだ。

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