第3章 第12話 水着お披露目
〇きらら
「海ですっ!」
徳永先生の運転するバスで揺られること約五時間。自分たちは県内でも珍しい砂浜のある海水浴場へとやってきました。
小内さんの親戚が経営しているという海の家へと挨拶をし、そこから歩いて十分ほどの小さな宿に荷物を置き、自分たちは着替えをします。
海に来たと言ってもあくまで目的は練習。水着ではなくいつもと同じ練習着です。
「織華たちは練習なんてしないけどねー」
自分たちが飾りっ気のない練習着に袖を通す中、木葉さんがニヤニヤしながらパンツタイプの水着を見せびらかしてきました。
「その余裕を数週間後に後悔するがいいですわ」
「んー、期待してるよー」
そのなめくさった態度に珠緒さんが指を指して言い返しますが、木葉さんはどうでもよさそうにひらひらと手を振ります。日を置いてもやっぱりこの人、苦手です。
「そんな気張らなくても勝負なんて時の運なんだから。勝つ時は勝つし、負ける時はどれだけ強くたって負けるよ」
そう身も蓋もないことを言ったのは、同じ部屋の流火さん。
ちなみに部屋割りは自分、環奈さん、珠緒さん、流火さん、風美さん、深沢さん、木葉さんの一年生七人が大部屋。梨々花さん、美樹さん、日向さん、天音さん、音羽さんの二年生と妹さん部屋。胡桃さん、朝陽さんの三年生部屋。徳永先生、小内さんの大人部屋という組み分けです。
「そんなことより水着! 水着がいっぱい見られるんだよっ! こんな楽しみなことあるっ!?」
オフショルダーのビキニに大きくスリットの開いたパレオという水着の流火さんはその容姿も相まってとても大人っぽくてかっこいいのですが、言動がかなり危ないです。なんかすごいはぁはぁ言ってますし……。
「この人こんな感じでしたっけ?」
「うん。バレー関係ないところだとただの変態だから。バレーやってても変態だけど」
環奈さんは平然としていますけど、あの瞳孔が開いてる表情って確か『熱中症』ってやつだったような……。バレーに熱中しすぎるとこうなるとは聞いてましたけど、ただ単純に興奮すればいいんですね。同じ部屋で寝て大丈夫なのでしょうか。
「ていうか風美、何でパーカーなんか羽織ってるのっ!?」
宿中に響くような大声で騒いでいる流火さんは部屋の隅で縮こまっている風美さんを見つけ、謎のテンションで詰め寄ります。
「ぅぇ……でもはずかしいよぉ……」
「脱いで」
「でも……おなかだって最近ちょっと気になるし……」
「いいから脱いで」
緑色のラッシュガードで水着を隠している風美さんは、流火さんの有無を言わさぬ命令に顔を真っ赤にしながらファスナーを下ろします。さっさと脱げばよかったのですが、焦らすようにゆっくりとゆっくりと下げるものですから、思わず全員無言で見入ってしまいます。
「うぅ……あんまりみないで……」
時間的には十秒も経っていないと思いますが、体感的には一分ほど。ようやく風美さんの全貌が露わになります。
「おぉ……」
誰が言ったかわかりませんが、どこかから感嘆の声が漏れます。水着の見た目は普通の黒いビキニなのですが、その豊満な肉体を収め切れず、とても際どい感じで……。
「最高っ!」
「流火ちゃんが選んだんじゃんっ!」
親指をシュビッと立てる流火さんに珍しく風美さんが声を荒げました。
「しょうがないでしょ。私たちって背高いからワンピースタイプは売ってないし、風美のサイズだとあんまりかわいいのないんだから」
「そうだけど……そうだけどさぁ……」
脱いだラッシュガードを素早く取り上げられ、風美さんは泣きそうな顔でうずくまってしまいました。それを見下ろす流火さんはとても満足気で……なんというか、歪んでます。
「くだらないわね。一々水着なんかで盛り上がって」
なんだかアダルティな空気が充満する中、さっさと着替えを終えた深沢さんがため息をついて立ち上がります。
深沢さんの水着は貧相な身体に似つかわしくないクロスデザインのもの。でもわかる人にはわかるのですが、こういうタイプの水着ってバストアップ効果があるんですね。それなのにまったく平坦で……。
「なんだか梨々花さんみたいですね」
「小さくたっていいでしょっ!?」
「なんで環奈さんが怒るんですかっ!?」
深沢さんに言われるのならまだしも、深沢さんとあんまり身長が変わらないのにサイズは天と地ほどの差がある環奈さんに怒鳴られる理由は本当にわかりません。
「はぁ……私は先に行っています」
そのやり取りにため息をつくと深沢さんは手荷物を取って部屋を出ようとしたのですが、
「雷菜ちゃん、これなにかな?」
「っ! なんで人の荷物勝手に漁るのっ!?」
木葉さんが手に持ったものを見て急いで戻ってきました。手で揺られひらひらと舞っているのは、膨らむ前の浮き輪やボール。どうやら遊ぶ気満々のようです。
「返しなさいっ!」
「ていうか雷菜ちゃん泳げなかったんだねー」
「泳げるわよっ! ただ足が地面に着かないのが怖いだけっ!」
「そっちの方が恥ずかしくない……?」
手を上に上げていたずらする木葉さんから浮き輪を取り返そうと深沢さんは飛び跳ねますが、ちょこまかと移動する木葉さんには届かず四苦八苦しています。
「…………」
ですが……すごいジャンプ力。すごすぎて余計に跳んでいるせいで取り返せないのですが、たぶん最高到達点としては胡桃さんと同じ、いや少し上……? 二十センチ以上差があると思うのですが、とんでもない高さです。
「……わくわくしてきました」
紗茎と藍根の方々は遊びがメインですが、ビーチバレーの大会にも参加するそうです。つまり、全国でも上位の方たちと公式戦前に戦えるということ。しかも、より個人の実力が問われる二対二の試合で。
――私個人の実力がどこまで通じるか。試させてもらお。