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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第3章 春待つ夏
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第3章 第11話 ゴー・トゥ・合宿

〇日向


 長いようで短かったテスト期間が終わり、ひーはバイトと遊び。みんなはバレーに時間を費やすこと約二週間。ついに合宿の日がやってきた。


「やっほー。リリー、みきみき」

「あ、日向」


 集合時間ギリギリに校門に着いたひーは校舎の日陰で涼んでいた同期の二人に声をかける。


「サボり魔の日向も合宿は来るんだね」

「お、嫌味?」

「嫌味くらい言ってもいいでしょ。全然来ないんだから」


 たぶんリリーの言い方的に本当に嫌味を言おうとはしていなかったんだろうけど、ひーの言葉につられてそう話は続いていく。


 ひーが夏休みに入ってから部活に顔を出したのは一度か二度。しかも一日中続く練習に耐えられなくて午前中で抜け出している。自分で嫌味と言ってしまったのも心の中に罪悪感を持っていたからだろう。少し自己嫌悪に陥ってしまったのですぐに話を変えよう。


「悪いとは思ってるから合宿には参加したんじゃん。ちゃんとこの一泊二日は練習するよ」

 そうは言ったけど合宿に来た目的は海で遊ぶため。ビーチバレーやるって聞いたしそんながっつり練習はしないでしょという目論見だ。


「ところであれ、なに?」

 正直ここまでは前振り。学校に着いた瞬間目についた他校の制服を着た女子たちに目線を向けて訊ねる。


「みきも知らない。なんか水空ちゃんと珠緒ちゃんが色々動いてたみたい」

「環奈ちゃんが言ってたけど小内さんが呼ぶよう頼んだらしいよ。なんでかは知らないけど」


 ふーん。あのバレー馬鹿たちが……なんかめんどくさいことになりそうだ。

 と思ってると、その内の一人がひーたちの視線に気づいて駆け寄ってきた。


「今日はお招きいただきありがとうございます。お邪魔にならないようにするのでどうぞよろしくお願いします」

 その女子は丁寧に頭を下げて挨拶してくる。えーとたしか……、


「天音さん……でしたっけ?」

「はい。紗茎学園高等部女子バレー部二年、双蜂天音です。覚えていただけて光栄です」

「いえいえ……」


 んー、朝っぱらからすっごい笑顔。普段ならひーもテンションを合わせられるけど、さすがに朝六時はきついや。


「えと……ひー……私は外川日向です。どうぞよろしく」

「あ、もうお名前はうかがっていますよ。外川さんがいらっしゃる前にお二人にご挨拶させていただいたので」

「天音ちゃんってわたしたちと同い年なんだって。見えないよね」


 もう結構仲良くなったのか、リリーは下の名前プラスちゃん付け。ちょっと人見知り気味のみきみきはまだあんまりって感じかな。


「いえいえ、わたしなんて身長が高いだけですから」

「どっちかっていうと話し方とかじゃないのかな」


 リリーに倣ってひーも少しフレンドリーな言葉遣いをする。特に何の反応もないし別に問題なさそうかな。


 でもやっぱり同い年に見えないというのは背の高さだけだね。バレー選手に向かって謙遜で身長を引き合いに出すのはだめでしょ。ただでさえリリーもみきみきもちっちゃいのに。


「で、なんで天音さんたちがうちの合宿に?」

 かんちゃんたち一年生と固まっている天音さんの連れたちに視線を向けて訊ねる。


 前にバイト先に来ていた紗茎の飛龍さんと蝶野さん。あと名前は知らないけど藍根女学院の制服を着た背の高い子と低い子。それに天音さんの妹である中三の音羽(おとは)さんが今ここにいる外部の人だ。


「環奈ちゃんに呼ばれたんですよ。もしよかったら合宿に参加しないか、って。それでこのメンバーでお邪魔させていただくことになりました」

「へぇ」


 おそらく主導していた小内さんの意図はわからないけど、たぶん強豪校のプレーを見て学べって感じかな。それで海につられてのこのこやってきたのだろう。


「ずいぶん余裕だね、春高前に遊びにくるなんて」

「一次予選なんて紗茎も藍根もあってないようなものですから」

「うち二回戦で藍根と当たるんだけど」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


 ものすごく失礼なことを言ったことに気づいた天音さんがめちゃくちゃ高速で頭を下げる。


「花美さんと当たるというのにこんなところで油を売っているなんてあの二人はだめですねっ! ちょっと注意してきますっ!」


 そして口早にそう言うと一年生の方に走って逃げてしまった。別にひーたちは気にしないのに。それに、天音さんの言っていることは事実だし。


「……リリーたちも勝てないって思ってる?」

「まぁきついよね」

「インハイも春高も運ないよ。序盤でこんな強豪と当たるなんて」

「……だよね」


 リリーもみきみきもあっさんと同じように勝てるはずないとわかっている。


 それなのに、なんで毎日毎日馬鹿みたいに練習できるんだ。


「……やっぱりわからないよ」


 そう漏らしたひーの声は小内さんの集合の声にかき消されて誰にも聞こえなかった。

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