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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第3章 春待つ夏
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第3章 第8話 打診

〇日向


「珍しいっすね。あっさんがひーのとこに来るなんて」


 いつものように授業終わりにバイトに勤しんでいると、連絡もなしに一ノ瀬朝陽さん、通称あっさんがひーのバイト先に現れた。


「色々伝えたいことがあってな。終わるまで待ってるよ」

「いやいいっすよ。休憩にしてもらいます」


 時間的には夕飯時だし、お客さんはあんまりいない。ひーは一言店長に休憩をとることを伝えると、ハンディだけ持って奥の席で待ってるあっさんの席に向かった。


「なに頼みます?」

「んー……この店で一番安いやつで」

 メニュー表を軽く眺めたあっさんが渋い顔でそう頼んでくる。まぁあの喫茶店よりは普通に高いしバイトもしてない高校生としては辛いよね。


「いや好きなもの頼んでいいですよ。割引利くし奢れるんで」

「後輩に奢られてたまるか……って言いたいところだけど、今月マジでやばいから任せていいか?」

「はいはーい」

 ハンディにチョコパフェとイチゴミルクを二つ打ち込むと、水を少し口に含む。


「で、今日はどうしたんですか? あ、その前にミーティングに顔出せなくてすみませんでした」

 大方今日のミーティングでなにか大事なことが告げられたのだろう。そしてたぶん、ひーに関係すること。だとしたら、


「ひー、スタメンから外されたんですね」


 そう訊ねると、あっさんはわかりやすく目を見開いて驚いた表情を見せた。


「……梨々花とかから聞いてたのか?」

「いやまったく。ただの予想だったんですけど……そうですか」


 そっかー、外されちゃったかー。それはそれは。


「よかった……」


 こんなにサボっているひーよりも、ずっとがんばってきたリリーが試合に出られる方がずっといい。心の底からそう漏らすと、あっさんは少しムッとした表情を見せる。


「悔しくないのか?」

「別に。試合に出たいからバレーをやってるわけじゃないしいいっすよ」


 でも圧倒的な身長のきららんはともかくとしてみきみきより上だと思うんだよなー。身長も普通にあるし、そもそもあの子運動センスゼロだし。


「まぁ普通に練習に出ている人を優先するのは当然じゃないですか?」


 小内さんって確か中高でバレーをやってたけどずっと試合に出られなかったみたいだし、たぶんそういう想いは人一倍のはずだ。がんばっている人が報われるべき。そういう、努力主義の想いが。


「勘違いするなよ」


 だがそんなひーの考えを見透かしたかのように、あっさんの低い声がひーの耳を突き刺した。


「お前がレギュラーから外されたのは練習に参加してないからじゃない。単純にお前の実力が劣っているからだ。他の誰よりもな」


 別に怒っているつもりはないのだろう。でもその言葉には有無を言わさぬ凄みのようなものを感じる。……こういう雰囲気あんまり好きじゃないんだよなぁ。


「……すみませんでした」

 めんどくさいしとりあえず謝っておくと、ちょうどパフェとドリンクが運ばれてきた。


「あー、別に謝ってほしいとかじゃなくてだな……。この、なんというか……」

 意図せず謝られたこととパフェが来たことで調子を崩し、あっさんがもどかしそうに言葉を探っている。ひーは運んでくれた同僚に軽く会釈をし、イチゴミルクに刺さっている太いストローに口をつけた。


「なんとなく言いたいことはわかってますよ。これからはもう少し練習に出るようにします」

 たぶんあっさんが言いたいことは、部活にもっと顔を出せということ。そのためにわざわざバイト先に足を運んだんだろうし、とりあえずほしいであろう言葉は伝えておこう。もちろんだからといって部活に行く日を増やすつもりはないけど。


「あー……まぁ……そうなんだけどなー……」

 しかしあっさんはまだ納得していない様子でイチゴミルクを口に運んだ。なんだろう、こういう言葉がほしいんじゃなかったのか?


 わからない以上これ以上の詮索は無理だ。ひーもあっさんと同じようにストローに口をつける。


「……まぁいいや、色々流れは考えてきたけどめんどくせぇ」


 目だけで様子を窺っていると、突然飲むのをやめて小声でぼやく。


 そしてまっすぐひーを見つめると、一言。


「日向、次の部長をやってみる気はないか?」


 考えてもいなかったことを伝えた。

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