勇者と聖女は結ばれないといけないのか!?
16歳になり、本来は孤児院から出て働き始める時期なのだが、務めていた人で子供が生まれる予定という人やその他の理由で数人の人員不足のため、私を含めた数人が孤児院で一時的に働いている。そんな時に魔王復活の情報が世界中で流れ始めた。
子供たちの面倒は忙しいが、元々いた孤児院のため家族のように育ってきたため大変ではあるが、楽しい日々を過ごしていた。だが、そんな時に城から遣わされてきた護衛騎士様たちが突然私たちのいる孤児院にやってきた。
「ここに聖女様がいると教会からお告げが降りてきた。」
突然にそんなことを言うものだからみんな口を開けてポカーンとしてしまった。すぐに正気を取り戻した職員が、何かの間違いでは?と困ったように答えていた。ここはただの孤児しかいない。聖女様のようなすごい人がいれば誰もが知っているはずだと。
「ここにいる長髪の女性を集めてもらいたい。」
そんなことを騎士様が言うが、この孤児院には髪の長い人物は一人しかいないのでみんながその人物に目を向けた。そう、現在孤児院で髪が長いのは私しかいないのである。先日、孤児院で美容師と呼ばれる職業になったばかりで練習したい、と無料という善意で切ってくれる人がきてくれたため、そんな機会はないだろうとほぼ全員が参加したのだ。だが、私は外の作業を任されていたために参加せずに唯一長いままなのである。他に参加しなかったのは男性しかいないので女性という条件がつくと私だけになるという悲しい現実である。
みんなの視線が私にくるので、私ですが・・・・と自ら名乗り出るしかなかった。
「聖女様、お迎えに上がりました。」
護衛騎士様たちは良い笑顔で私に手を差し伸べてきたので、困った笑いしか返せなかったのは悪くないと思う。
「え、えっと・・・あの?私はただの孤児院のお手伝いのもので、聖女様ではありません。ねぇ?」
誤解がないように皆にも同意を求めた。もちろん全員が納得しているように頭を上下に動かしたのである。なんせ、本当にただの人間なのだ。むしろ、守ってくれる後ろ盾のような家族もないことから一般人よりも下の扱いとなるだろうと考えた。ひどい考えかもしれないが、聖女様などと嘘をついて大罪人になるよりもマシだからだ。
「あなた様が聖女様で間違いありません。教会に来ていただければ自ずとわかるでしょう。」
どんな根拠を持っているか知らないが護衛騎士様たちは、私が偽物である可能性をありえないと否定していた。もし違っても孤児院や自分に咎がないのであれば確認だけなら、と孤児院の職員一人を強制的に引き連れて教会まで運ばれたのである。後から聞いた話だが、聖女様の情報は本来もっと事細かに詳細がわかっていたらしく、曖昧な条件のみを伝えてお告げの人物を探す予定だったようだ。だが、その必要もなく私の姿を見た全員が条件をすべて満たしていた私以外にありえないと確認が取れ納得して連れて行くことになったとのこと。
そして、教会に着くや否や本当に私が聖女様であったことがわかった。なぜなら、ただの人間だった私に突如として回復魔法なるものが備わったからだ。
「ありえない、なぜ私なんかが?」
教会でそんな不思議なことが起きたが、自分が聖女であるなど全くもって信じていなかったので、本当に不思議で仕方なかった。それに、人を無償で助けるような優しい心は持っていないのである。そんな考えを少しでも持つ自分が聖女様などと、何かの間違いではないかとずっと思っている。何度教会の職員に訴えても聖女様は間違いなく聖女様です、や聖女様は心配性なのですね、と柔らかい笑顔が返ってくるのみなのだ。本物の聖女様とわかったために、孤児院から来てくれた職員は無事に返されてしまった。たった一人、知らない教会に残された不安から少し疑心暗鬼になったことは否めない。
ある時に、回復魔法を確認してみましょう。と、咳き込んでいる若者を教会の職員が一人連れてきた。
「この方には出来ません。」
すかさず私はそう答えたのだ。この若者、ただの咳症状だけで普通に歩いてきてほとんど元気なのだ。おそらく、回復魔法の確認のためなので重症者を選ばなかったのはわざとだが、こんな初期症状の人を治していたら何人も診て行く羽目になる。つまりはいい様に使われることを避けたかったのだ。どんな間違いで私が聖女様になったかは不明だが、誰にでも優しい心で接していたら、世界中の病気の人を治すことが当たり前にされそうで怖かった。本当は誰にでも回復魔法の使用ができるとは言えない。しかし、条件があったほうが自分の安全につながると思ったのだ。こんな考えをする時点で自分は聖女様ではないのではと思ってしまうのだが、選ばれてしまったことには仕方ない。これが私という聖女なのだ。恨むなら神様?を恨んでほしい。いや、私を聖女様にした神様・・・ちょっと恨みます。孤児というだけで聖女様に向いていないのでやめてほしい。教会の人も直接は言わないが微妙な距離感がある。
そして、教会の人には回復魔法の使用制限について詳しく聞かれることになる。後で何とでも言えるように曖昧にしか答えなかった。なんせ、今後は魔王討伐のために勇者という人物を回復することが私の役割だからだ。勇者には問題なく使用できるとは伝えておいた。むしろ、勇者以外使用できないと言ったほうが楽かもしれないな。
気づけば、ただの孤児の私が聖女様なんてものになって、勇者と旅をすることは決定事項にされていた。私も反発はしたのだ。回復魔法の制限があることや旅に慣れていないことなど、だが無駄だった。聖女様というものは世界のために魔王討伐は当たり前のこととして周知されていたからだ。聖女様になって唯一良かったことは、定期的に給金があるために村があれば宿に泊まれることと、魔王討伐後は莫大な賞金が確実に手にすることが出来ることだ。それ以外に聖女様としての良い条件は存在しないと私は思った。
無情にも魔王討伐の旅が近づいてきたころ、やっと勇者と言われる人物と邂逅することとなった。実は旅の当日にでも紹介されるのではないかと予想していたが、さすがにそれはなかったようだ。
私は聖女様として、毎日同じ服を着させられている。真っ白な長い衣装で、所々に金の刺繍がされている。締まるところは締まるように、手首や腰回りは私の長さにしっかりと調整されている。また、長い髪の毛は神聖な布でのみ結んでいいようで、白の長い布で軽く結われている。勇者と会うと言われた本日も、聖女様の恰好をさせられている。いや、私が聖女様なのだが、いつまでたっても慣れない。
「俺が勇者のリクトだ。」
正直に言おう。え、勇者って不良さんですか!?
自分も聖女様とは思えないが、この人も十分勇者に見えない。村にいる悪者みたいな少し鋭い目力に、髪を染めていたのか頭の天辺は黒いがほとんど金髪。私と同じで若いが、鍛えているのがわかるのは上着を気崩しているからだ。
「初めまして、勇者様。私が聖女です。」
取り敢えず、自己紹介は大事だろう。後、第一印象は大切なので笑顔で対応をすることにした。あと、私は不良とは一線を引きますという合図のため、丁寧な言葉遣いに姿勢も意識するようにした。
「名前は?」
勇者様はどうやらあまり言葉数が多い人ではないようだ。不良勇者とあまり仲良くはしたくないので、適当に答えることにした。
「聖女になった時に名は捨てました。」
訳:お前に教える名前はない。
いや、なぜか危機察知能力が自分の名前を言ってはいけないと言っている気がするのよね。こういうのも聖女の力なのだろうか?
勇者は私の言葉に眉根を寄せていたが、初対面なので何を考えているか不明だった。孤児なので名前がないと思われた可能性もあるな。そのまま可哀想な聖女様だと思われているほうが楽かもしれない。
そんなこんなで月日は過ぎて、魔王討伐の任をお城で賜るために出発前日になり、初めて王族と会うこととなった。
正直今更かよ、とツッコミんでいいだろうか。聖女様と勇者様の値踏みでもしていたのだろうか?私はただの孤児だしな。でも勇者様はどこの誰なんだろうか?あの不良の見た目で高貴な身分だったら・・・うん誰だろうと、粗相があってはいけないな。これから魔王討伐の旅に一緒に行かなければならない仲間?だし。私の命を守ってもらうためには必要な存在だ。うん。
当然のことながら、私はいつもの聖女様の恰好をしていた。そして、二度目となる勇者様との再会となる。前回と違い、勇者様はしっかりとした生地で仕立てられている衣装となっている。見た目不良なのは相変わらずだ。だが、顔をよく見ると小さな傷がいくつも見えるので鍛錬をしていたのだろう。私も教会でさせられたな。ただ回復魔法だけは一切やらなかったから、本番は勇者様に、と言われた。そこだけが彼らの不安要素みたいだ。本物の勇者様を連れてくるなら回復魔法をしてあげたのだが、今日まで会うことはなかった。
「勇者様、お久しぶりです。本日はよろしくお願いいたします。」
「ああ。」
取り敢えず、挨拶は大切だ。孤児院の人も言っていた。苦手な人でも外面だけは取り繕わなきゃダメだと。
勇者様は相変わらず不良の見た目だった。なぜかこちらを凝視している気がしてならない。顔になにか付いているのだろうか?
「あの、私の顔に何か付いていますか?」
「いや、お前の名前を知りたい。」
なにやら真剣な顔をしているように感じるがたかが名前をここまで真剣に聞いてくるだろうか。また聖女の危機察知能力が発動している気がする。
「以前もお伝えしましだが、名前はありません。」
「不便ではないか?」
「困りません。」
「なんと呼べばいい?」
「お好きにお呼びください。」
「・・・・・。」
睨まれている気がする。さらに不良度が増してないだろうか!?こわっ!私こんな不良勇者様と二人で旅できるかな!?
これはさらにがっぽりと魔王討伐の報奨金があげてもらわなくてはと再度心に決めた。
私と勇者様は、城の使用人たちに案内されて王様と初顔合わせを行った。この国の王様は威厳に溢れすぎている。少し強面な人のようで渋い声もそれに増長されていた。豪華な衣装を着ているのに、悪者の親玉ではないかと心配になった。だが、顔とは裏腹に会話内容はしかりとしていた。討伐における安全の保障は難しいが、討伐に至るまでの道のりは援助を惜しみなく行うと説明された。また、魔物討伐以外での危険を最小限にするために国の宝とされるような高価な薬や小物を詰めて渡してくれた。魔王討伐後の保障は特にしっかりしており、莫大なお金と土地を約束してくれた。もちろん書面で。
国の上が討伐後の安全も考えてくれているところは出来ている。だが、その後の聖女様の仕事は一切したくないことを契約書に追記してもらった。王様は渋っていたが、魔王討伐とどちらが大切か考えてもらうようにした。問答無用で仕事をさせられると思っていたが、そこは配慮してくれたようだ。だが、なぜか任意であれば聖女様の力を使用していいと言っていた。そんな時はこないと思ったのだが、一応了承した。拷問されても他人には使用したくないけどね。強制的に聖女様の力を使用するような輩がいれば報告するようには言われた。聖女様の力は一応国預かりとなっているからだそうだ。なにそれ怖い。
そして、緊張の時間が終了した。王様と話している間も勇者様はけっこう無口だった。勇者様のほうの取り決めはけっこう前から決定しているらしくほとんど会話していなかった。それに、勇者様は魔王討伐において絶対勝利条件があるようで、その技のおかげで私も魔王討伐の旅に了承したほどだ。王様もそれには絶対の自信があると言っていた。
「明日からは二人旅になる。」
「はい。」
突然、勇者様から話しかけてきた。
「困ったことがあれば言え。」
「わかりました。勇者様も、何かあれば遠慮なく言ってくださいね。」
良かった。割と普通の精神も持ち合わせていたようだ。2回しか会ってないから今はどうとも言えないが、お互いが命をかけて魔王討伐に行かなければならないんだよな。勇者様、すいません。もし私の命が危ない時はあなたを一人置いていく気満々です。取り敢えず、回復魔法だけはするので、それ以外の手助けは一切しませんので。と心の中だけで頭を下げて置く。
「リクトでいい。」
「いくら勇者様でも、聖女である私が誰かの名前をお呼びなど」
「いいから、言え。」
「・・・・。」
私の話を遮った。怒っている!?たかが名前を呼ばないことだけで睨まれている。目力がすごいよ。
「り、リクト?」
恐る恐る言えば、首を縦に一度動かしただけだった。すでに旅が前途多難な気がしてならない。
不良の見た目な勇者様のリクトと、私という欠陥聖女様であるが、案外旅は普通に出来ていた。魔物討伐も行っていたが、勇者様は強い。小さな怪我はするが、大きな怪我をすることもなかった。だが、小さな怪我を放置しようとする傾向があるため回復魔法を使用して体調管理はしっかりしていた。これはお金のためである。
「勇者様、また小さな怪我だからと放置しないでください。」
「リクトだ。」
「はい。リクト、次からはしっかりと回復魔法を使わせてください。私の役目はあなたを癒すことですので。」
「・・・ああ。」
なんだか、旅を続けるうちに勇者様は不良の見た目を少し崩すことが多くなった気がする。これが仲間意識というものなのだろうか?この何回目かもわからない会話で、勇者様は少し口角をあげている気がする。他人の表情の変化などあまりわからないが、嫌われてはいないと思う。彼も私のような欠陥聖女と一緒の旅で可哀想だが、少しでも不快な気持ちがないことはいいことだ。
いろんな村で旅をするうちに私たちの噂が流れているらしい。時々歓迎してくれる村もある。ありがたいが、夜も遅くまで酒盛りに付き合わそうとするのはやめてほしい。そして、宿の部屋が一つしかないという嘘はやめてほしい。すぐに冗談だと言ってくれるが、そんな冗談を言ってほしくない。
勇者様は微動だにしていないが、この人は冗談を言うような人種ではないので怖いのだ。同い年くらいの同性を見るとなぜか睨んでいることが多い。自分は命をかけているのに、軽率に自分に話しかけてくる人が許せないのだろうか?ちなみに異性からの声掛けは無視が多い。それはそれで相手の女性の反応が怖いので私は逃げる一択である。
少しずつ旅に慣れた頃、ある村で私たちの噂が先回りしていると聞いた。
『勇者様と聖女様は仲睦まじい姿を見せている。魔王討伐後は、結婚を考えている間柄である。』
その噂を聞いた時は気絶するかと思った。ちょうど勇者様と一緒にその噂を聞いてしまったので気まずい。
「噂とは怖いものですね。誤解を解いてきますね。」
引きつった顔で勇者様に言うと私はその噂をしている若者のところに歩み寄った。
「あの、それは誤解です。」
聖女様である私が声をかけると若者たちが驚いた表情をした。笑顔を向けると男性の一人が私の手を取ってきた。行動がわからず、否定の言葉を言う前に目をパチパチと相手を見てしまった。
「おい。その手を離せ。」
勇者様まで誤解を解こうとこちらに来てくれたようだ。良かった。私は身長が低いのでついつい他人からの接触にびくびくしてしまうのだ。
「あの、私と勇者様は旅の仲間です。その噂は根も葉もないものですので、誤解しないでくださいね。」
取り敢えず、誤解を解いておこうと相手の手を強く握ってしまった。ただの反射的な行動だった。相手は理解してくれたのか何度も首をコクコクと動かしていた。良かった。
そんな一幕があったが、すでに出回っている噂とは怖いものであると知った。すでに結婚は国の了承も取っているなど、噂が加速している。時々、村の人に幸せになってくださいと言われるようになった。何度も否定の言葉を言っているが意味を持たない。
そんなある時、勇者様がポツリと言った。
「結婚してしまえばいいだろう。」
「はぇ!?」
出したことのない声を出してしまった。
「結婚すれば、それが事実ということになる。」
意味が分からない。
「勇者様、私の回復魔法は精神的な回復は見込めません。頭をどこかにぶつけましたか?だから、あれほど怪我を放置するなと。」
「精神に異常はない。頭もぶつけていない。あと、リクトだ。」
相変わらずの不良の見た目で淡々と答える勇者様。この人は冗談の通じない人なんだ。周りが結婚を望めば、それに応えようとしているのだろうか?思考回路が危険人物だった。
「勇者様も冗談を言うのですね。あははっ。」
乾いた笑いしか出ない。
「リクトだ。」
相も変わらずこの答え。勇者様は恐ろしい。旅の仲間と気を許しそうになったが、気は抜けない。魔王討伐後も気は抜けないと知った。
その後は勇者様に結婚おめでとうなどと言うバカが増えて行く。それに対してありがとうと答えるようになってしまったので体の震えが止まらない。噂を加速してどうする!?
誤解だと私が言うとなぜか照れているとさらに誤解されてしまう。意味が分からない!しかも、勇者様と聖女様はお似合いだとまで言われる。
身の危険を感じて自分に彼氏または婚約者でもいればいいと思うのだが、村々を長居は出来ないため、誰かを口説く時間がない。それにどう口説いていいかわからない。それなら勇者様に好きな人が出来ればいいと思いついた。
これが、お姫様という存在でもあれば勇者様と結婚という矛先が変わると思ったのだが、王様との謁見の時にいたのはたしか男性だった。お姫様はいないようだった。残念。
ある時、とある村の話を聞いた。美人村があるという。
『きたコレ!』
男は美女に弱いはず。この不良の見た目勇者様も美人の前では形無しだろうと考えた。少し魔王城に向かうには外回りになってしまうが少しの遠回りくらい許されるだろうと、この旅で初めて勇者様に我儘を言った。
勇者様は名前を呼ぶと少し機嫌が良くなることがわかったので、“リクト、お願い”と言っただけで許可が出た。勇者様も美人村に興味があったのかもしれない。やった~。
村に着くなり、美人がいた!こんな美人な村があるなど夢のような村だった。同性だが、あまりのかけ離れた美しさになぜか私も幸せな気分になれた。
「勇者様、この方は今年の村一番の美人さんなんですって!」
少し興奮気味に勇者様に紹介をする。美人村なだけあり、聖女様である私にも皆優しくしてくれた。綺麗なうえに優しいとか私が男ならお嫁さんにしたい。
「勇者様、この方は私たちよりも年下ですが、将来有望です!」
若い村娘さんもすでに美人の片鱗を見せている。恥ずかしそうにしている顔が赤くなりさらに美人度が増す。この人は妹にしたい。
「勇者様、この美人さんはお胸が大きくて身体が素敵体型です!」
男性の夢、巨乳まで併せ持つとは美人村、恐るべし!出来れば私も彼女の大きな胸に包まれたくなる。
そんなこんなで美人村のあらゆる女性を堪能していたのだが、勇者様の機嫌がすこぶるよくない。こんな美人たちがいるのになにが不満なのだろうか?
あらゆる種類の女性を紹介していたのだが、勇者様はだれにも興味を示さなかった。
____
「聖女様はとても可愛らしい方ですね。」
「・・・。」
「聖女様は私のことをたくさん褒めてくださいました!あんな妹が欲しいです。」
「・・・。」
「勇者様、この村はどうでしょうか?お気に召していただけましたか?」
「・・・。」
勇者は、村の娘たちの言葉を無視して視線を聖女だけに向けていた。眉間に皺を寄せて。
____
夜、別々の部屋へ向かう時に勇者様がやっと口を開いた。
「この村、何かおかしい。」
それだけを言って部屋に入っていった。
その言葉の意味に私たちはすぐに気づくことになる。夜中、不審な気配に気づいた。急いで勇者様の部屋に向かおうとしたが、部屋を出るとすでに勇者様は部屋に出ていた。
「勇者様、魔物の気配です。今まで魔物の気配が多くて気づいていませんでしたが、これは・・・。」
「ああ。」
阿吽の呼吸とでもいうのだろうか、そこからは早かった。どうやらこの村は魔物が人間に化けていた村だったようだ。夜の村に出ると、美人たちが襲ってきたのだ。そこからは勇者様の独壇場での戦闘だった。千切っては投げ、美人に容赦なく剣を振るう姿は鬼のようであった。
ああ、私の計画が。美人村で勇者の嫁候補計画が・・・。
朝になると村は静かなものだった。あんな美人な人たちがと残念だ。村の娘たちは怪我をしたようだが、消えるようにどこかにみんな行ってしまった。村を見ても人の死骸があるわけではなかった。どうやら、旅のものたちを美人な顔で誑かして遊んでいた上級魔物だったようだ。たしかに旅人が消えたという噂はなかった。ただ、誰もが落ち込んで帰ってくると。つまりは振られたと。勇者様ならモテると思ったが、相手が魔物であったならこの村に寄った意味がなかった。
私が落ち込んでいることに気づいた勇者様が声をかけてきた。
「どうした?」
「だって、あの美人さんたちが魔物・・・。はぁ~。あ、勇者様のお好みの女性はいましたか?」
「そんなものはいない。お前と結婚するのだから。」
「だから!結婚なんてしませって!」
今までやんわりとお断りしていたが、もう限界だ。村には今誰もいないので大声で反論した。
「大丈夫だ。お前は、俺と結婚する。」
「はぁ!?」
「だから、名前を教えてくれ。」
今度はなぜか満面の笑みで名前を聞いてきた。意味が分からない!
その後も私たちの攻防のような旅は続いた。
その後、異形の魔王との邂逅となるのだが、魔王は異形の容姿だが会話できるようだ。不意に勇者が魔王に対して名前をご丁寧にも聞いていた。
「戦闘の前には名前を名乗るのが礼儀だ。俺は勇者のリクト。魔王、お前の名前は?」
「フッ、人間にはそのような儀式めいたものがあるのだな。私は、魔王ブロロギウムだ。さぁ、闘いの・・・・。」
そんな礼儀は一度も聞いたことがない。そう思っていると魔王の動きが止まった。そして、勇者の初めて見る能力に私は気づいた。
勇者様に名前を“自ら”名乗ると強制的に勇者様の支配下になる・・・。なんで誰も教えてくれなかったのか。聖女様の力を使用して勇者がその術を魔王にしていることが瞬時に理解できた。今まで、魔物に対しては声がないために普通に討伐していた。魔王の配下とは普通に争っていた。つまり、魔王討伐の絶対勝利条件を誰にも知られるわけにはいかないということなのだろう。だが、一緒に旅する聖女にも言わないとはなんたることか!勇者様、図ったな。危ない、危ない。初対面で名乗らなくて良かった。聖女様としての危機察知能力万歳!
そんなことを思っていると、不意に勇者様が悔しそうに小声で発言していた声が聞こえた。
「くそ、予想より魔王が強いとは・・・。この力は聖女にと最後まで・・・くそっ。」
どうか、この勇者様も討伐されないだろうか。せめて魔王と相打ちとかでも!この勇者、いや、くそ勇者!くそ勇者は、自分の勇者としての力を私に!?私がろくでなし聖女様であるなら、勇者も勇者としての誇りとかないんだろうな!本当に私たちがなんで勇者と聖女なんだろうか!?私も聖女様ではないが、勇者、お前もか!
これで、勇者が私を絶対に落とす自信がある理由がわかった。
魔王、君には世界の運命と私の運命がかかっている!この聖女様の力はお前のためにあったのか!?いや、さすがに魔王を手助けはダメですよね。ええ、理解はしていても心の中の声だけは許してください。
「勇者様・・・・声、聞こえていますよ。」
「聖女、魔王を討伐したら、褒美として君の名前を教えてくれないか?」
「聞こえたって言っているのですが?」
そもそも、魔王討伐までの時間はもうすぐじゃないですか。名前での縛りを勇者が持っていることは、聖女様の力でもうバレているのですが?
「城に戻れば、すでに周知の事実のようになっている・・・はず。この力を使用しなくても強制的に結婚か?」
「だから、聞こえているって!」
私たちのこのバカな言い争い、意思疎通のとれる異形の魔王も理解しているのだろう。だが、すでに勇者の支配下にされているため迂闊に動けないと理解して、微動だにしていない。わかる、魔王も勇者が情け容赦ないことを直感で感じているのだろう。見た目不良なだけあって、魔物討伐でも気を抜いたところを見たことがない。
魔王討伐が近くて遠い。こんなはずではなかった。討伐のお金持って遠い国に移動すればいいかな?いや、このまま戻れば強制的に何をされるかわかったものではない。魔王の城を占拠してしまうか?いや、勇者だけはいつでもこの城に侵入出来てしまうか。
まだ魔王討伐まで出来ていないのに、私の頭の中はどう逃げるか会議中である。
反対に勇者のほうは結婚する気でいる。さっきから声が聞こえまくりだ。
「やはり、名前を聞いて確実にしていくべきか・・・・。いや、しかし結婚することはもう決定事項であるしな。」
好きだの、愛しているだの、何も言われていないのにこの勇者は何様なのだろうか。周りに流されての結婚など、なぜしなければならない。果たして勇者と聖女は結ばれないといけないのだろうか!?
END
*魔王討伐までいかないのですが、戦闘はある意味すでに決着はついているようなものでした。勇者と聖女はこの後も攻防を続けて行きます。勇者の正体を知ったり、聖女様の力がバレたり。