第007話 0日目 キャラクタークリエイト①
万物の理はこの書に従う。
すなわちこの書に基づいて神は創られ、やがてすべての世界を支配するだろう。
アーヴェ。
イヴォエル。
ウルトス。
エトゥエリム。
オキュルベのみは今の汝にまだ見えず、触れ得ない。
これらは混ざり合い、縦糸と横糸となりて汝の躰を紡ぐ。
意志は汝そのもの。
力はかの地にてこれより得るのだ。
汝が賽を振る必要はない。
今存在する力を好きなように振り分け、ただ遊戯をはじめればよい。
人を超えた人としてはじまり。
やがて神へと至るべく。
いずれ汝こそが。
すべての世界で振られる賽――運命をすら支配するのだ。
さあはじめよう。
終末の向こう側、創世の彼方、その地にて。
遍く世界を統べる、最後にして最初の遊戯を。
◇◆◇
なんか壮大っぽいのがはじまった!
それが今ここにある意識が最初に考えたことだった。
正直、こういうノリは嫌いではない。
とうかこの手の厨二系は大好物だ。
願わくば開幕だけが無駄に壮大だという、ありがちな展開にならぬことを願うのみだ。
っぽいのはやめてくれ、最後まで壮大であってくれと本気で祈る。
不思議な状況だ。
意志はある。
思考もできる。
だが自分が誰だかどころか、何なのかすらわからない。
要らん知識ばかりが無駄にあるような気もするが、なんの役に立つのやらである。
ノリだとか、厨二だとか、そもそも「ゲームにおける仮想分身に意志があるとしたら、プレイヤーの性格を骨子としながらキャラメイク時にはこんな感じなんだろか?」とか考えている時点でろくなものではない。
拠って立つ土台、自分というものを確固とさせる躰が無い魂、意志とはこんな風にふわっふわなのかもしれないなと何とはなしに考える。
物質世界の存在である以上、やっぱり先に器があってそこに注がれるのが魂――意志なのかなとも。
であればさっき壮大に告げられたように、これから創りだされる器たる躰こそが最重要。
この手のやつは初手のキャラメイクで失敗するとわりと取り返しが付かないのだ。
一度確定してしまってからのやりなおしを、そうあっさり認めてくれるはずも無いだろうし。
とはいえ気合を入れたところでやることは単純だ。
今意識が捉えている「ステータス画面」とでも言うべきものを操作して、自分の器――躰を含む初期ステータスを確定させるだけである。
そもそも先の序文らしきものも、見たことが無いゆらゆらゆれる古代文字のようなものとして意識は捉えていた。
だが読めたのだ。
それと同じで、今やたらと細かくいくつもの表示枠に分かれて表示されているステータス画面のことも理解できる。
まずは名前と年齢で表示枠がひとつ。
そこにはデフォルトで
『名前:アルジェ・クラウィス』
『年齢:16』
と表示されている。
意識としては仮想分身の名前も年齢も自分で決めたい派だが、己が誰かどころか何かもわからない状況でもあるし、そこはそのままでいいかと判断する。
意識を向けると反応するので、リネームや年齢を変更することも可能っぽいのだが……すぐに気の利いた名前も思いつかないし、年齢にしてもおっさんやショタに拘りがあるわけでもない。
であれば16歳というのはプレイヤーキャラクターとしてはまあ順当なところだろう。
意識がそれをよしとした瞬間、名前と歳が確定された。
それまでふわふわとしていた意識が『アルジェ・クラウィス16歳』に固定され、少年としての躰が瞬時に形成される。
黒白の世界に少年の躰が浮かび、その目の前にステータス画面が幾重もの表示枠によって表示されているような空間へと変わる。
鏡はないのでたった今『アルジェ・クラウィス16歳』となった意識は自身の顔を確認することはできないが、黒髪と強い意志を感じさせる黒眼、左目だけが銀眼というかなりの美形である。
意識の趣味なのか、髪はやや長めのストレートだ。
――おー。
顔こそ確認できないが、自身の躰は確認できる。
まだステータスをすべて確定させてはいないが、かなり引き締まった体躯であり手足も長く様になる体型であることを確認したアルジェが感嘆する。
ということは、本体があるのだとすればわりとだらしない体型なのかもしれない。
ちなみにアルジェ・クラウィス16歳は男である。
それを自然と受け入れているあたり、もともと男だったと判断していいだろう。
――女性の躰だったら動揺しただろな……喜んだんだろうか?
メイン仮想分身は同性でいきたい派であるアルジェとしては男性で問題ない。
いやそもそも意識の段階で性別区分があったのかどうかも不明なのだが。
もしも名前や年齢を変更していたら、容姿や性別も変わっていたのかもしれない。
次話「キャラクタークリエイト②」 2/8 0:00前後に投稿します。