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第005話 ×日目 雨の廃墟、迷宮都市の成れの果て⑤

 ラト――ナ・ラトゥースという名を持った、人語を理解する謎の黒猫。


 アルジェがこの地で目覚めた瞬間――というかラトに目覚めさせられたのだが――から傍に居る御猫様だ。

 さすがに自身は人語を話すことはできないようで、アルジェの銀眼に表示される顔文字でなんとなく機嫌を理解できる程度である。

 

「ナ!」(`・ω・´)9


 ラトの泣き声はこれのみだ。

 気分や状況により、その高低長短は変化するが。


 ――やる気はあるのね。


 ラトを捉えた銀眼(義眼)に表示された顔文字に、アルジェは思わず笑う。

 猫らしい機敏な動きで、ラトがアルジェの左肩にトッと乗る。


 発進準備完了、いつでも行けます! とでも言いたそうなラトの様子。


「おっといけね。『魔法障壁』発動。『索敵』発動。『飛翔』発動」


 思わずそのまま飛び出そうとして、アルジェが慌てて呪文を詠唱する。

 詠唱といってもその魔法の名称を唱えるだけだが。


 『魔法障壁』発動と同時に、アルジェを中心として半径1メートルくらいの球形に蒼い魔力を宿した古代文字らしきもので綴られた円環が幾重にも重なり、その後薄くなって消える。


 だが一定のダメージを無効化する魔法障壁は確かに展開されており、窓から身を乗り出してももうアルジェの髪も躰も、その肩に乗るラトの小躯も一切雨に濡れたりしない。


 不可視の障壁に沿って雨粒は流れ、それによってそこに確かに魔法による障壁が発生していることを可視化する。


 『索敵』発動によって、アルジェの銀眼――左目に薄い緑色の光が宿り、その瞳に映る範囲に敵性存在がいた場合にはその輪郭に色をつけて知らせてくれるようになる。

 警戒度は薄い水色から濃くなり、同じ要領で黄色を経て赤に染まる。

 最もアルジェは説明でそう理解しているだけで、今のところ水色以外の魔物(モンスター)接敵(エンカウント)したことはない。

 これで目に見える範囲からの不意打ちはなくなるが、『哨戒』は第一階梯の魔法に過ぎないので死角からの接敵(エンカウント)には対応できない。

 それらはより上位階梯の魔法である『全方位索敵』を覚える必要がある。


 とはいえまあ基本的に敵性存在のいない地上で、警戒するべき対象が明確である現状であればさほど問題にはならない。

 今は暗雲の向こうから引き摺り降ろされつつあるナニカを警戒しておけばいいのだ。

 ラトが野性の感覚で、アルジェの視界外の警戒はしてくれていることでもあるし。

 

 最後の『飛翔』発動により、アルジェの背後に魔力による不可視の翼が、先の魔法障壁の際に現れた古代文字と同じ蒼で描かれた後こちらも消える。

 消える前に形作られたのは鳥や天使のような翼。


 これは今のアルジェが取得した魔法の中で最上位である第三階梯。

 効果時間である約一時間、アルジェの思うがままに空を舞える移動系補助魔法だ。


 残念ながら高度制限があり外壁上部までは届かないのだが、今は十分。


「はやく無詠唱化とりたいナー」


「ナ!」σ゜ロ゜)σ


 空中に浮かんだアルジェが一人ごちる。

 元気よく左肩で返事をするラトも同じ意見のようである。


 第五階梯のPS(パッシブ・スキル)である『無詠唱化』をとれば、今のようにいちいち声に出して魔法を発動しなくてもよくなる。


 それは「魔法遣い」という(ジョブ)をこよなく愛するアルジェにとって、かくあれかしと想い描く理想の姿の最低条件なのだ。

 

 アルジェとラトはお互いに顔を見合わせて、ほぼ同時に雲を突き抜けて伸びる四本の鎖のほうへと向き直る。


 そして『飛翔』を行使。


 背後に魔力の軌跡をひきながら、かなりの速度でアルジェは中央の円形広場へと飛翔する。


 四本の鎖が引き寄せ続ける、雲上から訪れるナニカを待ち構えるために。



次話 2/7 20:00前後に投稿します。

22:00 24:00にも投稿予定です。

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