第004話 ×日目 雨の廃墟、迷宮都市の成れの果て④
日本人にしか見えない容姿でありながら名はそれだというのは、如何にもゲームじみている。
そうこの時代も世界も入り混じったような雨降り止まぬ廃墟、元迷宮都市の成れの果てと同じく。
上半身を乗り出したために髪は雨に塗れ、その身を包む如何にも魔法遣い然とした衣服、装備の上半身にも雨が徐々に染みていっている。
「あのでっかい砲台みたいなやつか! 誰が撃ったんだ? つか撃てたのかあれ!」
この地に自身が現れてから、一度はみて回ったこの都市の記憶をアルジェは思い出している。
初めて目にしたときは雨に打たれ朽ち果てた過去の遺物にしか見えなかった。
だがそれが今自ら錆を払い、用を成さなくなったかに見えた銛を雲上のナニカに叩き込んだのだ。
それだけではなく、今その銛に繋がる鎖はピンと張り、轟音とともにその雲上のナニカをこの地に引き摺り降ろさんとしている。
間違いなくこの街を統べる巨大な力が起動している。
――面白くなってきた!
アルジェは正直なところわくわくしている。
この廃墟、名も知らぬ元迷宮都市にアルジェが現れてから数日、自身が現れた場所である中央広場の地下迷宮を攻略し湧出する魔物を狩りもしている。
粗々ではあるが、一応は四つの区域すべてを周りもした。
そのおかげでレベルも上がり、装備も初期よりも充実している。
そうやってルーチンワーク的に攻略、強化を続けながらこの広大な廃墟を探索するだけでも相当長い時間楽しめるだろうが、得た力、強化した力を行使できる対象の出現は望むところだ。
ハック&スラッシュの真髄は永遠の滑車回しではあることに異論など無いが、序盤にプレイヤーをひきつける魅力的なイベントがあっても何も困ることはない。
全力で滑車を回して得た力をぶつけられる対象を、いいタイミングで用意してくれるゲームこそがいいゲームだ。
無限の強化もその力を振るうべき相手がいないままでは、いずれは虚無に呑まれてしまう。
何のために力を得たいのか、何のために滑車を回すのか。
より希少な装備が欲しい。より上位の強力な武技、魔法を使いたい。
そういった理由も充分に動機にはなりえる。
強力なステータスを持った、あるいは気に入った見た目の装備で仮想分身を飾り、強くなっていく実感を得るのは快感だ。
その力を以って、より強力な敵性存在を鎧袖一触で、あるいは紙一重の接戦を制してぶち転がすことに勝る楽しさは、ある種の人間にとって何物にも変えがたい。
だからこそアルジェは仮想分身創造系、ハック&スラッシュRPGをこよなく愛するのだ。
それがVR系アクションどころか、現実としか思えぬ域にあるとなれば文句などあろうはずも無い。
代償として自分が誰かがわからんくらいは甘んじて受け入れる所存である。
どう見ても日本人らしき思考の自分の名前が、アルジェ・クラウィスとかいうスカしたものであることだって受け入れるとも。
なかなかに箍が外れた考え方だといえるだろう。
名前と現在行使可能な力のこと以外、自分のことすらもまだ良くわからない、要らん現代日本の知識ばかりが脳に詰まったアルジェにとって、ここはゲームではなく現実なのだが。
やがてそうやって得た力を用意された強敵を倒すこと以外にも――いやそれ以外のことのためにこ行使するべきモノだということを、この場所でアルジェは知ることになる。
だが今のアルジェにとって、ここはまさにゲームが現実化した世界。
今はまだ、ただただ単純に愉しい時間帯でしかない。
まあアルジェに言わせれば、ゲームを現実にしたような世界はゲームなのだろう。
圧倒的な現実感があるだけで、やるべきことは確かにゲームのそれだ。
朝起きてスーツや制服に着替えて、会社や学校に行く必要はここではない。
己の基が社畜系会社員だったのか、陰キャ学生だったのかは今なお不明。
だがあっという間にこの世界に馴染み、元の世界だとか自分の正体だとかにほとんど興味を惹かれないことから、リア充系キャラではなかったのであろうくらいにアルジェは考えている。
そんなことよりも今は攻略を進めるコトが最優先だ。
おもいっきりハマるゲームにしたって、序盤ほど面白いものはなかなか無いのだから。
魔物を狩って鍛え、装備やアイテム、この世界でなぜか通用する通貨を集めて飯食って風呂入って寝てまた攻略。
一人ぼっちなのがまったく寂しくないといえば嘘になるが、それを除けばこの数日の暮らしをアルジェはいたく気に入っている。
自分が誰なのかの記憶はないが、間違いなくこの手のハック&スラッシュ系RPGをこよなく愛した人間が基になっていることは疑い得ない。
今ステータス画面に表示される年齢通りだったかどうかは、かなり疑わしけれども。
今の自分をきっと現実化した仮想分身だと思っているくらいなので、かなりアウトな部類の中の人だろう。
アルジェはいったん室内に戻り、ベッド脇に立てかけておいた昨日入手したばかりの杖を右手につかんで再び窓へと向かう。
わざわざ部屋から出て一階に降り、入り口から外へ出るつもりはない。
窓から直接、飛ぶつもりなのだ。
「ラト! いくよ!」
魔法効果を付与された外套を翻すと同時に、雨に濡れるのを嫌って室内で待機していた小動物――如何にも魔法遣いの使い魔然とした黒猫に声をかける。
――そうか、一人ぼっちなんて言ったらこいつに怒られるな。
次話 2/6 8:00前後に投稿します。




