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第016話 1日目 雨に烟る地上②

 転移に伴う魔力エフェクトが完全に消え去ってから、アルジェは周囲を確認する。


 一見すれば転移前と何も変わっていないようにも見えるが、大き目の石室から四方へと繋がっていた通路が消失している。

 それにさっきの石室よりは確実に明るい。

 なによりも『魔弾』の試し撃ちで穿った巨大なトンネルが消失している。


 尤も先の迷宮(ダンジョン)がゲームにおける都度実体化(インスタンス)迷宮(ダンジョン)を基にしているのであれば、次に潜った時には何事もなかったように修復されているのだろうが。


 ――個人的には都度実体化(インスタンス)迷宮(ダンジョン)より、常在共有(パブリック)迷宮(ダンジョン)のほうが好みなんだけどな……


 育成効率としては間違いなく都度実体化(インスタンス)迷宮(ダンジョン)のほうがいいのだろうが、常在共有(パブリック)迷宮(ダンジョン)における他のパーティーとの狩場の取り合い、譲り合い、時に助け合いも捨てがたい。

 時に起きる悪意なき魔物のトレインで、安全地帯までの道中が死屍累々になることは確かに悲劇ではあるが嫌いではないのだ。


 それこそその世界にみんなが居て、共に冒険している実感を得られるから。

 

 さておき、アルジェの正面の壁には、さっきまでは確実になかった地上への階段がある。

 その先はほのかに明るく、まず間違いなく地上へと繋がっているのだろう。

 

「出入り口、ってコトかな?」


「ナ!」σ゜ロ゜)σ


 そちらの方へアルジェはラトを伴って進む。

 肩に乗っているのに飽きたものか、ラトは身軽に地上に降りて自身の足で歩んでいる。


 ――直接迷宮(ダンジョン)へ繋がっている入り口ってわけじゃなくて、都度発生する『転移魔方陣』で進入するスタイルっぽいな……


 いよいよもって都度実体化(インスタンス)迷宮(ダンジョン)っぽいなとアルジェは思う。

 とはいえここはまだ最初の迷宮(ダンジョン)に過ぎない。

 世界に迷宮(ダンジョン)がたった一つということもなかろうし、今は都度実体化(インスタンス)常在共有(パブリック)が混在してくれていることを祈るのみだ。


 ――最悪迷宮がすべて都度実体化(インスタンス)であったとしても、地上域はどうしたって常在共有(パブリック)荷ならざるを得ないだろうしね。


 たとえそうであったとしても、そこを共有する他者がいなければ同じことだということを、今のアルジェが知る由もない。


 だがそうである可能性の一端が、じわりと広がる不安のようにすでにある。

 

 この場に他者の気配はない。

 今は、という意味ではなくだ。


 雰囲気的に、日常的に迷宮(ダンジョン)攻略へと向かう多くの冒険者たちが行き来している場所だとはとても思えない。

 とういか転移前の迷宮(ダンジョン)の方が、まだしも生きている感があった。


 ここは出入り口でありながら長い間――それも一年二年どころか十年単位ですらなく、もっともっと長い年月、誰も出入りしていなかったからこそ醸しだされる空気なのだ。


 歩を止めたアルジェを、不思議そうにラトが振り返って見上げている。

 

「ごめん、なんでもない」


「ナ?」(´・ω・`)?


 ここで考えていても仕方がない、まずは外へ出ることだ。

 アルジェがそう思って階段の一段目に足をかけたタイミングで、思ったよりも長い階段の先から微かな音が聞こえてくる。


 ――雨音?


 さあさあというささやかな音ではない。


 ざあざあどころかドドドドという濁音の連続が、階段の距離に薄められて小さくなっている感じだ。

 これが雨音で間違いなければ、外は相当土砂降りだろう。

 階段へと雨水は流れ込んでは来ていないようだ。

 

 人並みはずれた敏捷性によって得た身体能力を遺憾なく発揮し、数段とばしでアルジェは階段を駆け上がる。

 それに苦もなくついて来るラトの猫脚もたいしたものである。


 一瞬だけ地に着くアルジェの足が巻き上げる微細な埃は、少なくとも数十年単位の長い時間をかけて降り積もったものに思える。

 アルジェの判断どおりだった場合、この迷宮は生きているにもかかわらず、攻略対象とはされていないということだ。


 ――人に忘れ果てられた古の迷宮(ダンジョン)なのか、あるいは……


 死んでいるのは――滅んでいるのは攻略する人のほうなのか。


 それを確かめるためにも、地上への出口へと急ぐ。



次話 2/16 20:00前後に投稿します。

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