第015話 1日目 雨に烟る地上①
アルジェが軽い浮遊感を得ると同時に、目に映る景色がコマ落としのように変化した。
地下迷宮に現れた『転移魔方陣』
アルジェがその効果範囲に足を踏み入れたことによって第四階梯魔法である『転移』が発動した結果だ。
第一階梯魔法である『魔法障壁』発動時に展開された古代文字のような呪印。
それと間違いなく同種のもので綴られた複雑な魔法陣は、転移元と先でまったく同じものが描かれている。
薄く消え行く蒼い魔力の残滓を纏わり付かせながら、アルジェとラトはちょっとはしゃいでいる。
普通は『転移』などそうそう経験できるものでもないので、テンションがやや上がってしまうのも止むを得ないといえるだろう。
いずれ自身の意志でこの魔法をも使用できるともなればなおのこと。
第四階梯魔法に『転移』があることを、意識操作で視界に表示させた取得候補一覧の表示枠で確認する。
記憶のとおりにキチンとある。
ということはチュートリアル完了と同時に手に入れた5CPを使用すればすぐにでも取得可能だということ。
だがアルジェとしては第二階梯魔法の『浮遊』を前提条件として第三階梯魔法の『飛翔』を取得することも捨てがたい。
ちょうど5CPで取得が可能でもある。
瞬間移動と空中を自由に飛ぶことは確かに甲乙つけがたい。
だがそれは「どっちを先に取得するか」程度の悩みであって、「どちらかしか選べない」という苦渋の選択を強いられているわけではない。
いずれ間違いなく双方ともアルジェの力――取得魔法のひとつとなるのは疑い得ない。
それに魔法取得を優先するのが最善手とは限らない。
慎重を期すのであれば基礎能力値、特に現在は1しかない『生命力』を『魔法障壁』と同程度のHPになるまで上げるべきかも知れない。
いや「魔法遣い」には必要ない能力値である『力』の能力値も、物理防御力に大きく影響するようであればある程度上げるというのもアリだ。
魔法防御力は「魔法遣い」としてまっとうに育成していけば問題ないだろうが、敵は物理属性攻撃を主とするモノだって多いはずだ。
適材適所の理想系、得意分野を伸ばして不得意分野は仲間に任せるパーティー攻略であれば邪道ともいえるが、単独攻略が前提となるのであればそのアタリも一考する必要がある。
軍団モノの絶対的主ポジションを望むというのであれば、万能を目指した構築だってアリ、というか必須なのだ。
それよりもなによりも、アルジェがかくあれかしと望む理想の「魔法遣い」を目指すというのであれば、第五階梯PSである『無詠唱化』ははずせない。
それぞれの魔法にお洒落な呪文詠唱が用意されているタイプであればその限りではなかったかもしれないが、現状の『魔法名orスキル名+発動』というのはちょっとアルジェ的にはカッコがつかない。
武技であれば『武技名』だけで発動するので問題ないのだろうが。
詠唱なしで魔法を連射できるというのは純粋な戦闘力向上という意味においても大きいし、最終的に取得しないという選択肢はありえまい。
魔法連射体勢が早口言葉みたいになるのは、とてもじゃないが容認できない。
魔法遣い同士の対決で、お洒落な長めの呪文詠唱の後大魔法同士が激突する→わかる。
飛翔しながらの魔法乱打による探りあいが口喧嘩みたい→わからない。わかりたくない。
他にも最序盤で5CPを入手できるということに意味を見出そうとすれば、やはり攻撃魔法として五行――火(火)、水(水)、木(雷)、金(氷)、土(土)の攻撃手段を取得しておくべきだと深読みすることもできる。
考え出したらきりがない。
そしてそれこそが最大の楽しみだ。
よってアルジェは思わず顔がにやけてしまうのを止められない。
こればかりはラトに半目を向けられても仕方がない。
序盤において最終的に目指す構築を見据えた魔法、スキルの取得順を考えることや、それを前提とした育成方針を立てることは醍醐味のひとつであることは間違いない。
ハマッたゲームの育成方針を、授業中にノートやEXCELに書き込んだことのないゲーム好きなどほとんどいない筈だ。
しかもアルジェは『必要CP増加無効』と『取得経験値減衰無効』を天性能力として持っている。
基礎能力値や種族レベル育成で本来は大量に消費されるべきCPの多くを魔法、スキルの取得に回すことが可能だし、育成の基本となるレベル上げの速度は本来とは比べ物にならないものだろう。
純魔好きのアルジェではあるが、それを極めた上でより強くなるのを厭うわけではない。
魔法の頂点を目指すことを妥協して、汎用性を高めることにどこか負けたような気持ちになるというだけだ。
ちなみに当然のことだが第三階梯以上の魔法、スキルなど本来はぽこぽこ取得できるものではない。
この理に支配された世界において最上位にカテゴライズされるであろう冒険者たちですら、第三階梯の武技、魔法、スキルのいずれかひとつを身につけられれば御の字。
第四階梯や第五階梯ともなれば勇者や英雄といった、伝説に名を謳われる存在でもなければ望んだとて習得できるはずもない。
もとより人の身では習得不可能な第六階梯以降など、その実在さえ疑われる域なのである。
冒険者を生業とした者がいまだレベルがひとつも上がらない時点で、「なにを習得しようかな~」などと夢を膨らませる対象などでは決してない。
アルジェは今の時点ですでに相当に規格外の存在ではあるし、本人もある程度それを自覚してはいる。
だがそれはアルジェが認識しているよりも、はるかにとんでもない域でのことなのだ。
とはいえ今ここでいずれかを取得することはありえない。
それはこの後宿屋の部屋でゆっくり冷静に決めるという意味ではない。
確かに最序盤で5CPを入手できたことからも比較的CPの入手は容易で、その上『必要CP増加無効』を持つアルジェにとってそこまで難しく考える必要はないように思える。
それでもそれが事実であることを確認してから取捨選択をするべきだと、アルジェは現時点では判断している。
最終的にはすべての魔法、スキルが取得可能であったとしても、その取得順序によって攻略効率どころか、生死に関わるコトだってありえるのだ。
育成方針に関しては神速に拠る先手確保と同じくらい、巧遅による適応力を重視するべきだ。
常にCPはある程度の余裕――振らすに確保しておくコトを大前提とする。
どうあれ、とりあえず迷宮から出て地上へ出ることが先決。
今のところアルジェが単独で判断している内容が、この世界で生きる者たちにとっての常識と合致しているかどうかを確かめることもまた重要だからだ。
あるのであれば御約束の冒険者ギルドへ赴いて、宿の確保と共に情報収集を行いたいところである。
次話 2/15 20:00前後に投稿します。




