第014話 1日目 チュートリアル④
そこで爆発四散すると予想したアルジェの予想を裏切り、巨大な『魔弾』は迷宮の壁をその直径のままに削り取りって進む。
その先はアルジェの優れた視力でも捉えられないほどの果てまで続いている。
撃ったアルジェ本人にも、己の魔弾がどこまでこの迷宮の壁を掘り進んだ後に消えたのかは解らない。
距離と共に魔弾そのものと、迷宮外部の地中を掘削する轟音は遠く小さくなり、やがて消える。
残ったのは、その気になればアルジェが道として進めるほどの坑道が一本だ。
何らかの力が働いていなければ、間違いなく崩落しているような。
「……エグない?」
「ナ!」:(´◦ω◦`):
攻撃魔法やばい。
これが偽らざるアルジェとラトの共通認識だ
正体不明の御猫様であるラトまで本気でビビッているということは、これはやはり想定外と見たほうがいいのだろうか。
とりあえず魔法の特徴として、狙った目標に着弾してそれを滅したら消えてくれることを願うのみである。
あと『追尾化』をとっておいて良かったと心のそこからアルジェは安堵する。
第一階梯魔法とはいえ、こんなものをたとえばすばやい敵に当てられずに連打した日には、敵の攻撃ではなく自分が原因の迷宮の崩落に巻き込まれて死ぬ未来しか見えない。
恐ろしすぎて誰もパーティーなど組んでくれないだろう。
「き、気をつけような」
「ナー!」((( ;゜Д゜)))
最後に盛大にビビらされることになったが、これで一通りの確認は完了した。はずだ。
今は装備の初期装備のみなので、本格的な迷宮攻略には雑嚢など必需品を取り揃える必要があるだろう。
今のところ万能のアイテムボックスはその機能の片鱗しか使用不可能なようだし。
――Gや創造石は出し入れ可能だもんな。
そんなことを考えていたら、締めとばかりに眼前に魔物の湧出が始まった。
半透明から虹色に揺らぎ、カタチを成してゆく。
意外なことにそのカタチは人型に近いが、絶対に人ではないと瞬時に理解できるもの。
発動している『警戒』が即座に捉え、警戒レベルとしてはそう高くないことを示す水色の線でその外殻を縁取る。
アルジェの銀眼には『スライム』と表示されているその魔物の姿は、解け崩れたようで艶のある女性系の人型。
当然衣装などは再現されておらず、おぞましさよりも淫靡さのほうが強い。
――魔物って全部人型前提なのかな? そうだとしたらスライム以外にも期待できそうだな。
「…………」(ㅍ_ㅍ)
――しまった、忘れてた。
思考を呼んだラトに三度半目を向けられる。
だが今目の前に現れたスライムレベルでみな人型だったら、ある程度期待するなというほうが無理というものだろう。
アルジェだって男の子なのである。
アホなやり取りをしていたら、先手を取られた。
それなりの距離があるにもかかわらず、粘液による遠隔攻撃を喰らった。
アルジェの約一メートル手前の空間に着弾し、それと同時に蒼色の魔方陣が三枚はじけるようにして消滅する。
それと同時に、視界に表示されている『魔法障壁』が97/100と変化した。
――油断した。
3とはいえ侮っていいダメージではない。
本来のアルジェのHPはまだ23、装備のブーストを除けばたかだか7しかないのだ。
魔法遣いらしく、遠距離から封殺する形で仕留めるスタイルを確立する必要がある。
当面単独であるのであればなおのことだ。
同時にダメージ3程度の攻撃を今受けておいたのは良かったとも言える。
HPの在り方も今ので理解できた。
つまりは生身を護る障壁としてHPは機能し、それが失われれば直撃を食らうのだ。
おそらく鍛えた体であっても、HPなしの直撃に耐えられるものではないのだろう。
魔法に代表される全身を飲み込むような攻撃でなければ、あたった場所を消し飛ばされるだけで即死には至らないのかもしれないが、戦闘継続などはもちろん論外となる。
ゆえにHPが失われるということは、ほぼ死と同義と考えていいだろう。
あと練習相手としか思えない魔物――スライムのものとはいえ、その特殊攻撃で3しかダメージを受けないことを知れたのも大きい。
少なくとも『警戒』が水色で示す敵からの攻撃を一発喰らって『魔法障壁』が消し飛ばされるということはなさそうだ。
油断は大敵だが。
後はこちらの攻撃である。
さっきのを見る限り、心配する必要はなさそうだが。
「『追尾化』発動! 『魔弾』! 発動!」
アルジェが『追尾化』を発動すると同時、視界のスライムにロックオン・カーソルが重ねられる。
これはアルジェが対象を視界に捉えつづける限りはずれることはない。
つまり必中だ。
だが逆に言えば視界からはずされる――目を切られれば、『追尾化』とはいえ必中ではないということになる。
だがスライムの動きは鈍く、まだ距離もある。
先と同じく巨大な『魔弾』が瞬時に着弾し、一撃で消し飛ばしたスライムと共に消滅する。
幸いなことに、目標に着弾すればすべてのエネルギーをそこへと叩き込み、消滅してくれるようだ。
過剰分がどこに消えるのかは知らん。
――いやこれ強いのはいいけど、これだけ完全に消しとばしてたら『魔物支配』なんて発動する機会ないよな。
アルジェがそう思うとおり、色っぽい人型をしたスライムはその痕跡を毛先ほども残すことなく完全に消滅している。
レベル1の魔物を相手に、知力15の魔法をぶっ放すのは少々過剰攻撃が過ぎたようである。
とにかくこれでチュートリアルは完了だろう。
スライム一体を倒した取得経験値である「105」が表示される。
チュートリアルの敵だけあって、特にドロップはない模様。
『チュートリアル完了』
『取得経験値:1000』
『取得物 創造石:1』
『取得CP:5』
『取得G:500』
のログがアルジェの視界を流れ、石室の中心に転移魔方陣が現れる。
どうやらこれでやっと地上に出られるようである。
「なるほどー」
アルジェは一人納得する。
取得経験値はまあそんなにおかしな数値ではない気がする。
Gや創造石については用途がわからないからなんともいえない。
だがこの程度でCPが5も入手できるということは、キャラ育成にはレベルアップと同じくらいCPの収集が重要だということだろう。
そして本来であればこんな簡単に手に入るくらい必要なCPが増加していくはずなのだろうが、アルジェは天性能力で『必要CP増加無効』を取得している。
本来であれば中級冒険者レベルのCPで、ほぼ敵なしの職構築に到達できる可能性が高いのだ。
ある程度は様子見は必要だが、この調子でCPが入手可能なのであれば、力はともかく生命力はさっさと安全域まで上げるべきだろう。
敏捷度は上げすぎたら自分の体が暴れ馬になりそうでちょっと怖いが。
「これはわりとはやく魔法遣いらしくなれるかもね」
「ナ?」(・-・)?
ラトは理解できていないようである。
本気で愉しくなってきたと思いながら、左肩にラトを乗せたままのアルジェは現れた転移魔方陣へ足を踏み入れる。
やっと地上に出られるのだ。
次話 2/14 20:00前後に投稿します。




