第013話 1日目 チュートリアル③
天性能力欄に並ぶ三つの赤字を見て、ちょっとドヤ顔になりそうになる。
無限の成長のために、自身が必須と判断した天性能力が二つと、魔物を敵とするこの世界においてはちょっと変り種の天性能力ひとつが並んでいるのは確かににやける。
よってアルジェはなりそうではなく、実際ドヤ顔になっていた。
なぜわかったかといえば、すべての表示枠を外周へと移動させ、姿見のような表示枠――要は鏡が視界の中心に表示されたからだ。
「おお……」
思わず声がこぼれるアルジェである。
それもそのはず、その鏡に映った己の姿は小鼻が膨らんだなかなかに間抜けな表情であるにもかかわらず、それでも様になっていたからだ。
長めの黒髪と黒眼。
左目だけが月のような銀眼。
名前のわりにあまり欧米系には見えない顔は、意志の強そうな瞳をはじめやたらと男前に仕上がっている。
――仮想分身たるものかくありたいものだ。
今はもうこれが自分自身であるにもかかわらず、そんなことをアルジェは思わず考える。
どちらにせよ自分の姿を気に入るのは大事なことだ。
これから無限に繰り返すハック&スラッシュを愉しむのであれば、まずは己に愛着がなければはじまらない。
かわらず左肩に乗るラトの存在も相まって、己の思い描く理想の『魔法遣い』らしい姿を確認できたのでアルジェはご満悦である。
猫のくせにと言っては失礼だが、どうやらそれはラトも同様らしい。
二人? して鏡を見て悦に入るなど傍から見たらドン引き案件だが、今は誰もいないのでまあセーフ。
こうなってくるとはやく背中装備である外套や頭装備系が欲しくなるし、首や耳、指などもいわゆるらしい装備で固めたくもなってくる。
似合うのであれば、実効性能とはまた別に「気に入った見た目」の装備を集めることも、また愉しい――というか極めた先にあるのはそれといっても過言ではなかろう。
高性能な武装に、気に入った見た目を移す機能があればなお良しである。
おそらくはチュートリアルである今をこなして、さっさと迷宮外に出たくなる。
この見た目とレベル1にしては規格外としか言えない能力で、たとえば冒険者ギルドなどで登録して注目を集めることを想像するとわくわくするなというほうが無理だ。
ゲームでもものすごく愉しい展開なのに、それを現実としてわが身で味わえるとなれば急ぎたくもなる。
――特にこの銀眼がいい、この左右非対称感!
ある種の病に罹患した者は、生涯その病が快癒することはないという。
アルジェも間違いなくその一人だ。
その病を得た者特有の理解力を以って、アルジェは自分の視界に展開される「ゲーム画面のような補助」の一切はその左目の銀眼――まず間違いなく義眼が行っていることを把握する。
それも含めていたく自身の左目を含む容姿を気に入っている。
ラトも客観的に見た自分の姿を気に入っているようなあたり、二人? はいいコンビなのかもしれない。
――さて、残るはメインイベント。
アルジェがそう考えるとおり、あとは魔法の行使である。
取得した魔法がどうすれば発動するのか、はじめから知っていたようにアルジェの知識の中にある。
制御できずに暴走させるかもしれないというような不安は微塵も抱かない。
言っても今アルジェが身につけ、今から行使せんとしているのは第一階梯の最も基本的な魔法『魔弾』と、魔法遣いが自身を護るために必須ともいえる『魔法障壁』
あとは『魔弾』をほぼ必中とする『追尾化』と、いちはやく敵の存在を捉える為の『警戒』だ。
ちなみにアルジェがほぼと判断しているのは『追尾化』を無効化する魔法の存在を想定しているからである。デコイやチャフのような魔法があってもおかしくはない、というかあって然るべきだろう。
とはいえアルジェがたとえ魔法を使うのがはじめてであっても、初級魔法の行使であるからにはそう警戒する必要もないと判断している。
そもそも戦闘ではないのだ。
その判断の元アルジェはいかにも魔法遣いらしく右手に持つ杖を掲げ、詠唱――といっても魔法名とその起動の言葉を口にする。
「『警戒』、発動」
これだけだ。
瞬時に時間起動型ASである『警戒』が発動し、アルジェの銀眼に緑の光が宿る。
MPは第一階梯に属する武技・魔法、ASの共通として1消費され、アルジェのMPが365/366となる。
今は視界に敵性存在がいないのでこれだけだ。
これで自主的に切らない限り、丸一日『警戒』は発動したままとなる。
MPの価値もまだピンとこないアルジェにとっては、やたらとMP対効果が高く感じられるがどうなのだろう?
MPが二桁前半しかない魔法使いにとってはそれなりのコストなのかもしれない。
いまだ視界に存在する鏡に映った、緑色のエフェクトを宿した銀眼にアルジェは満足する。
これもなかなかにかっこいい。
「『魔法障壁』、発動」
こちらは『警戒』よりも派手だ。
蒼色の魔力が古代文字のようなカタチを成し、幾重もの円環を綴る。
それらがゆっくりと回転しながらアルジェを中心とした半径1メートル程度の真球を描き、一度強く発光してから消える。
発動時のエフェクトが消えれば何も変わっていないようだが、アルジェの視界に常に表示されているHP欄は25/25の隣に100/100というサブ数値が表示されている。
MP欄は364/366となっている。
『魔法障壁』を砕かれない限り、こちらは消滅することはない。
魔法遣いであれば、MP1でHP100を失うまで増加できるというのは必須といっても過言ではないだろう。
『魔法障壁』取得が取得条件でもある、第三階梯魔法である『上位魔法障壁』も可及的速やかに取得するべきだと判断する。
これが今のアルジェにとって、戦闘準備といえる段階。
『警戒』は朝起きたら発動する癖をつければいいが、『魔法障壁』は切れると同時にかけなおすのを忘れないようにしなければならない。
まあ常に視界に表示されているので、よほどのことがなければ心配は要るまい。
いよいよ攻撃魔法である。
とはいっても第一階梯魔法の中でももっとも基礎的な魔法であり、すべての攻撃魔法の中で最下位に位置するものだ。
基本こそが奥義であるというのもよくある話ではあるが、特殊な魔法遣いを除けばほぼ全員が身につける魔法ではあるし、ある意味安全ともいえる。
敵がいない状況なので『追尾化』は必要ないと判断し、アルジェは杖を迷宮の壁の方向へとに突き出してそれっぽく詠唱を行う。
「『魔弾』発動」
杖の先に発生した魔力集積点へとアルジェの魔力が集中し――とはいっても高々1MPだが――半透明の『魔弾』を形成し、アルジェの視線が捉える中心点へと向けて撃ち出される。
太陽の白でも月の黒でもなく、五行の火水木金土でもない、純粋な魔力の塊であるがゆえの半透明。
そのたった1の魔力をつぎ込まれた魔法とはとても思えぬ巨大な――アルジェの身長を越える『魔弾』が迷宮の床を削りながら壁へ激突する。
――轟音。
次話 2/13 20:00前後に投稿します。




