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第011話 1日目 チュートリアル①

「ナ!」


 ……。


「ナ~」


 …………。


「ナ⤴」


 ………………。


「ナ⤵」


 ……………………。


「――ナ?」


 ――いやうるせえよ。


 耳元でいろんな調子、長短高低でナーナ、ナーナ鳴かれてもそうとしかいえない。


 あと粘り強いな、おい。


 だがその鳴き声の主は目的を果たしたといえる。

 鳴き声の主――黒猫のナ・ラトゥースは、アルジェの意識を取り戻させる為にこそやかましく鳴いていたのだから。


 アルジェ・クラウィスとして、意識が覚醒する。


 仰向けに寝転んだ体勢で目を覚ましたアルジェの視界に最初に飛び込んできたのは、意識を叩き起こしにきたナ・ラトゥースの猫面のドアップ。

 そして得た感覚は地に接する自身の背中のものと、顎あたりを御猫様の前足でたしったしっと叩かれる衝撃だ。地味に結構痛い。


 ――せめて舐めてくるとかなら可愛げもあるのに……


 それはそれでざりざりと痛いのかもしれないが。


 だがわりと精悍といってもいいナ・ラトゥースの猫面はなかなかにアルジェの好みだ。

 艶のある黒毛皮に金眼というのもポイントが高い。


 とはいえ仮にも肉食獣の端くれに覗き込まれたままというのも居心地が悪いので、さっさと体を起こす。

 喰っていいものかどうかを確認されていた恐れもあるし、うっかり喰われたらたまらん。


「……君は何者ですかね?」


「ナ!」( ・ω・)ノ


 質問とほぼ同時に、アルジェの視界に『ナ・ラトゥース』というその黒猫の名前と、おそらくは答えるような鳴き声に込められた意味を示すのであろう顔文字が表示される。


 ――オッス! オラ、ナ・ラトゥース! って感じだな……


 よくわからんが相棒ポジションの小動物なのだろうか。

 あるいはナビゲーション・キャラクター?


 まさに一人称ゲーム画面のように構成された視界に捉えた黒猫にはカーソルらしきものが重なり、『猫:ナ・ラトゥース』と表示され続けている。

 顔文字は鳴き声と連動して表示されるらしい。

 たぶん詳しく調べれば過去ログとかも追えそうだ。


 どういう仕組みが自分の視界をゲーム画面的に加工しているのか今のアルジェにはわからない。

 鏡がないので、自身の左目が銀の義眼になっていることを知る術がないのだ。

 それだけ義眼に違和感がないということなのだろう。


 ――猫て。いやまあどう見ても猫っちゃ猫なんだけれども。


 精悍なイメージを見る者に与える、すらりとした金眼の黒猫。

 種でいうならボンベイだが、少々ではすまないくらいに尾が長い。

 間違いなく人語を理解し、ただの獣ではない知性をその金の瞳に宿している。


 知性とはいっても神獣や聖獣といった神秘性を秘めた高尚なものではなく、遊び盛りの子供のような好奇心に満ちたものではあるが。

 まあそれを猫が宿している時点でかなり特殊な存在であることは間違いない。


 そのおかげというべきか、精悍でありながらも可愛らしさも漂わせる謎の黒猫である。


 しかしアルジェが今知りたいのはどんな猫かであって、一応猫であることは見りゃわかる。

 わりと間抜けな視覚補助機能なのかもしれない。


 ――『分析』の魔法覚えたらその辺の情報も表示されるのかな? 何階梯だったっけ?


 とにかく猫だというなら猫でいい。


「フルネームは長いから、ラトって呼ぶよ?」


「ナ!」d(´・ω・`)


 問題はないらしい。

 吾輩は猫であるにとって、名前はまだないよりはあるだけマシなのか。

 省略されるくらいはおおらかな心で御認め下さる構えのようだ。


 ともかくアルジェはラトを、そういうものだとして受け入れる。

 アルジェが目指す『魔法遣い』を極めるのであれば、使い魔としての黒猫は順当なところだともいえる。


 如何にも駆け出し魔法遣いといったアルジェの今の格好でもそれなりに似合うが、よりらしくなった際には金眼の黒猫はもっと映えるだろう。

 アルジェの成長に合わせて、中身と同じく化猫らしく尻尾が分かれてくれでもすればなおよし。


 ――別の職構築(ジョブ・ビルド)にしていたら、ラトの見た目も変わったのかな?


 この手のお供系小動物の形態であれば、仔竜から小妖精までバリエーションには事欠かない。

 魔法遣いに黒猫が似合うように、竜騎士には仔竜、姫騎士には犬系など、なんとなく御約束めいたものはあるような気がする。

 ここを突き詰めると、譲れない者同士が抜刀しかねないわけだが。


 ラトが美少女妖精(ピクシー)美女侍女式自動人形(オート・マタ)になる構築(ビルド)がもしも事前にわかっていたら、葛藤なく今の職構築(ジョブ・ビルド)にできたかどうかは少々自信がないアルジェである。


 ――まあ黒猫は黒猫で捨てがたい。将来的に美女とかに変身してくれないかな?


 アルジェが阿呆なことを考えていると、猫特有の身軽さで左肩へトッとのる。

 なかなかの運動能力を誇る御猫様のようである。


 ちらりとアルジェを見るラトは半目である。


「…………」(ㅍ_ㅍ)


 ――鳴かないときも顔文字出るのかよ!


 どうやら言葉にしなくともアルジェの考えている、少なくとも表層思考とも言うべきものは読み取り可能のようだ。

 なかなかに恐ろしい状況である。

 ラトが言葉を話せないことに感謝するべきかもしれない。


 ちらりと見返したアルジェの視界には『猫(雌):ナ・ラトゥース』と表示されている。


 ――アホな御主人だと呆れられたかな……


 尤もアルジェが主でラトが従だという保証もないのだが。

 ともかく雌だというのであれば、将来的にはちょっと期待してもいいかもしれない。


 ――安易な獣の人化も賛否両論あるけどね。


 アルジェはどちらかといえば否定派のような気がする。

 冒険が本格化して仲間や知り合いが増えれば、こんな小動物に半目を向けられるバカな妄想もしなくなるだろう。なるといい。


「……よろしく、でいいのかな?」


「ナ!」(・д・ゝ)


 なかなかに妙ちきりんな開幕だが、とにかくスタートだ。



次話 2/11 20:00前後に投稿します。

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