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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
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7:神の試練に挑んでみる噺

「向こうよりも、森が深いんじゃあない?」


 森から森へ、円座の周りの石碑が消えたおかげで、ミルにも転移を実感することができた。


「一体ここはどこなの?」


「さぁな。間違いなく言えるのは、俺はここを知らないと言うことくらいだな」


「そう、ね」


 少なくともこの森を抜けなければ、本当にここが目的地かであるのかを、特定することはできなさそうだ。


 二人の目標はこの辺りにある古びた神殿跡、迷わないように注意しながら、探索するしかない。


 勘を働かせ、方角を決めて歩き出した二人は、直ぐに森を抜けて大きな建物に行き着いた。


「やっぱすげぇな、ミルのこういう時の鼻」


「いやな言い方しないでよ」


「褒めてんだよ。へぇ、これは……」


 そこにあるのは神殿造りの建物。


 庭園も綺麗に整備されていて、芝生には雑草の一本も混ざっていない。


 左右が対称的なシンメトリーの建物は、中心に大きな二枚の開き扉、振り返れば立派に整えられた参道が延びている。


「ここはやっぱり、あの帝国領の観光地とは違うみたいね」


 綺麗にされてはいるが、ここには人っ子一人いない。


 さっきまでいた遺跡群なら、休息日でなくとも、幾人かの観光客を見掛けるはずだ。


「それでミルさんよ。これは一体なんだと思う?」


「何って、神殿でしょ?」


「あるのは古びた神殿、じゃあなかったのか?」


「そう言われれば……」


 古びていても神の加護を受け、神々しさを失わない神殿はある。


 しかしこの建物は、明らかに新しい。


「入ってみるか?」


「分かった……」


 ここまでの情報は正しかった。確かめるしかない。


 なに、死ぬようなことにはならないだろう。どちらかと言えばあるのは、ここがまた、観光地なのではという心配だ。


「この扉、重そうね。二人で開けられるかしら?」


「必要なのは、そっちの心配じゃあねぇよ」


 確かに頑丈そうで重そうな金属の扉ではあるが、ここまで整備されていて、人の出入りがないはずがない。


「鍵が掛かってるのね。鍵穴は見当たらないけど」


「そうだな。鍵と言ってもいいんしゃねぇか。扉に掛かった封印なら」


「封印?」


 それならいつも突破している。ミルは巨剣を抜こうとするが。


「力付くにどうにかなるもんじゃねぇよ」


 神殿は初めてのミルは知らなかった。神の加護を受けた扉の封印は、簡単には開けられない。


 下手をすれば天罰を下される恐れもある。


「俺が封印解除を? できないよ。解除法を知らなきゃな」


 なぜだろう。男は何も悪くないのに、この絶望的な失望感。


「何か手掛かりでもあればな」


「手掛かり?」


 そう言えば、商人から何か聞いていたような?


 ミルが記憶の糸を解く。


「もしかして、あれかな?」


 ミルは扉の前に立ち、掌を合わせた両手を頭上に伸ばし、踵をくっつけたまま膝を90度曲げて、顔を上に向ける。


「えっと確か、……我、理を解く」


 言葉に力が宿り、大きな音を立てて扉は内側に開いていく。


「なんだ、秘術発動の決まり文句じゃないか」


 秘術を行使するには、イメージを強く固めなくてはならない。


 秘術の呪文の冒頭は「我、理を解き……」と付けることで理力が集まる。


 次に精霊の名を呼び、力をどのように行使するのかを示す。


 最後に術の名前を口にすれば完成。


 例えば「我、理を解き(先頭文)/シルフィードの名に(精霊名)於いて/風の刃を放つ(事象)/“風刃ふうじんの秘術”」と、初心者は全てを唱える。


 中級者になれば先頭文を省き、精霊の名と事象、術の名前で発動させられる。


 上級者なら、精霊の名前も唱えなくなる。


 そしていよいよ極めれば、術の名前だけで十分成立する。


「開いたぁ~」


 まさかのワードと、普通なら恥ずかしくて取れない、あんな格好が封印を解いた。


 ウイックはミルのプロ根性を目の当たりにし、表情には出さずに感心しながら、心の爆笑を必死に隠しながら中に入る。


「おお、中もりっぱじゃあねぇか」


 扉を潜った最初の部屋は、二階までの吹き抜けになっている、やや広めのエントランス。


 部屋の灯りは油を使った、豪奢な飾りのランプが室内を照らしている。


 奥には次の部屋に通ずるであろう廊下があり、ここには誰もいないので、許可を取る事なく、先に進むことにした。


「やっぱりここって、神殿なんだよね?」


「だろうな。あまり見慣れない様式だけど、なんとなく神聖な空気は感じるからな」


 曲がり道もない廊下を進んでいると、そのまま真っ直ぐ延びる廊下と、二階に上がる階段が出てきた。


 中の情報は全くない。ここで何をするのかも知らないので、どちらに進めばいいのか、まったく見当も付かない。


「どうしようか? ウイック」


「ミル、道はまっすぐこのままだ。奥からすんげぇプレッシャーが、押し寄せてきやがる」


 ウイックの後ろを付いていくミルが、彼の視線を追って、廊下の奥に意識を向ける。


 確かにただならぬ雰囲気を感じる。ミルは湧き出る生唾を飲み込んだ。


 程なく出たのは、先のエントランスのように、二階までの吹き抜ける大きな広間だった。


「あれって、座席?」


 二階にはどうやら観客席が設けられているようだ。つまりここは……。


「演舞場か?」


 恐らくは神事を行う為の部屋なのだろうが、ここにも人の気配を感じることはできない。


「プレッシャーの正体はこいつらか」


 舞台の中央には、二体の人型をした巨像が立っていた。


「ゴーレムか?」


 二人が入室すると、後ろの通路に格子戸が降りて、退路を断たれてしまう。


「第一の試練、ってことか」


「試練って何よ。私たちはここに来てまだ何もしてないのに」


「お前が扉の封印を解いたから、このトラップが発動したんじゃあないか?」


「そんな!?」


「多くの人の出入りはあるようだな。と言うことは、入ってき方が間違っていたんだろうぜ」


「ぐぬぬっ」


「落ち込むのはここまでだ。始まるぞ」


 鍛え上げられた鉱石で覆われた体が、理力を帯びて動き出す。


「ルールの説明はしてもらえるのか?」


 ウイックは声を大きくし、ゴーレムの後ろに向けて問い掛ける。広間の奥には閉ざされた扉が一つある。


『ルールというほどのものではない。その二体を倒せば先に進める。ただそれだけだ』


 答えたのは変換されているが、恐らくは女性と思しき声。


「但し、この神殿を傷つけることは許されない。障壁はあるが、あまり強力な術や技は、使わないことを約束してもらう」


「つまりここは試練の場であり、これは神判と言うことだな?」


「物分かりが良くて助かる。ここは通過点にすぎない。お前達が求める物はその先にある」


 改めてゴーレムに目を向ける。


 基礎はストーンゴーレムのようだが、その上から追加された装甲には、多くの精霊石が埋め込まれている。


「頑丈そうだな。ミル、その剣に補助秘術を掛けるぞ」


「何する気よ?」


「そのまま斬りつけたら間違いなく剣の方が負ける。技術がどうとかじゃなくな。嘘だと思うなら試してみるか?」


 細かく分析するためにウイックは“鑑査かんさの秘術”を使った。


 この二体の装甲に使われている鉱石は、自ら微振動を繰り返しており、物理攻撃を一切受け付けないように設計されている。


 その上、用心深いことに、接触する物質を破壊する効力まで、付与されている。


「……お願いします」


 素直に出されたミルのグレートソードを、ウイックは“堅硬けんこの秘術”で強化してやる。


「こいつら、飛び道具もあるようだから気をつけろよ」


「なんか他人事のように聞こえるんだけど、あんたも戦うんでしょうね?」


「……、当然だろ」


 ミルは補助の掛かった愛剣の破壊力を、ウイックの頭で確かめた。


「よし、俺は右のやつをやるから、そっちは任せるぞ」


 真面目にやれと言われウイックは、今度は自分の両拳に、“剛拳ごうけんの秘術”を掛け、クロスファイトに備える。


 こちらの準備が調うまで待っていたかのように、待機していたゴーレムは一気に距離を詰めてくる。

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