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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
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4:孤軍奮闘、快進撃を続ける噺

 その夜ミルは昔の夢を見た。


 両親と年の離れた兄、幼い妹と共に、穏やかな日々を過ごした、遠い昔の幸せな夢。


 目が覚めたのは明け方、まだ空は薄暗いが、焚き火が消えても、辺りを見渡せるくらいには、陽が差し込んできている。


「何を感傷的になっているんだか……」


 自嘲的に一笑しながら目尻を拭い、顔を上げて陽が昇る方向を睨みつける。


 ゴブリンが巣くう遺跡は、もう目と鼻の先だ。


 周辺で被害を受けた村落に行き、詳しく聞いて回った情報に寄れば、ここのゴブリンは、主に夕暮れが過ぎてから行動を開始するらしい。


 もちろん決めつける事はできないが、これからの時間、ターゲット達の大多数は休眠に入ると想定できる。


 確認されているゴブリンの数は40~50匹程度、遺跡の大きさが情報通りだとすれば、相当数は大体合ってるはず。


 気になるのは一点、群れの中に大型の個体が存在し、それが群れを統率して人里を襲っている事。


「取り敢えずはその大物を討伐する。それで群れが散り散りになれば上々、いずれにしても統制は崩れるはず。きっと大丈夫。勝ち目はこちらにある」


 少し値は張ったが、ミルは眠りを誘う護符を用意してある。


 限定された空間を対象にするので、睡眠効果が出れば、第一目標の大型個体までは、労なくして辿り着けるだろうと期待している。


 果たして効力は覿面。


 休眠時間であることもあるのだろうけど、ただの一匹も動き回ることはない。

 護符の影響も十分に、ゴブリンたちは深い眠りについている。


 この状況からミルが勝利を確信した事を、愚かだと非難する者がいるとすれば、それはよっぽどの熟練者か、ただのお調子者と言えるだろう。


 ベテランからすれば、なぜゴブリンの一匹一匹を仕留めて回らなかったのか。と言われたかもしれない。


 それはミルも奥へ入っていくうちに、不安と共に浮かんできていたが、護符の効果が続いている間に終わらせるしかないと、警戒しつつ遺跡の最深部へと進んでいく。


「……こいつがボスに違いないわね」


 小さな遺跡には稀に、罠の情報付きで、ほぼ完璧な地図が手に入るケースがある。


 ここまでは手に入れた地図通り進めた。


「大体見て回ったけど、この先が最後みたいだし」


 地図を信じるならそこに期待の品があるはず。


「嘘、封印されてる。ここにお宝があるってことね。ここの奴らをやっつけておけば、少しくらい大きな音を立てても大丈夫よね」


 宝物庫手前の部屋にいるのは、ボスとおぼしき大きな個体の他に4匹。


 先ずは小さい方の首筋を静かにナイフで斬りつけ、息をしなくなったことを確認し、最後に大型の個体の前に立つ。


「案外簡単な依頼だったわね」


 ターゲットの喉にナイフを突き刺し、慎重に絶命を確認してから、ミルは宝物庫の前に立つ。


 封印の種類も解除方法も、手に入れた情報の中にちゃんと書かれていた。


 持ってきていた聖水を、5枚の封印札に掛ける。


 しばらくすると、札は自然に扉から剥がれ落ちて、封印は解除された。


「よくこれで誰も、今まで荒らしに来なかったものよね」


 中は思っていたより遙かに大きな空間だった。


 火の光が届かないような場所は、もっとちゃんと調べなくてはならない。いつものミルなら、そんな初歩的なミスを犯したりはしない。


 夕べは変な少年に絡まれたり、懐かしさに感傷的になった夢を見たことで、気持ちが揺らいでいたのかもしれない。


 情報は十分に揃っていた。


 ここまでが順調だったから、過信してしまった。言い訳としては十分に通るのだろうけど。


「こいつ……、他の奴らと、比べものにならないくらいにデカイ」


 この部屋の扉は、ちゃんと封印されていた。


 冒険者として、秘宝ハンターとして、暗いことを理由にはできない。でもやってしまったことは仕方がない。


「まずいわね」


 言い訳はいくらでも浮かんでくるが、後悔は先に立たないものだ。


 まさかこの群れのボスが進化したホブゴブリンであり、ここにはまだ20匹以上のゴブリンが残っていること、この場所に眠りの護符の効力が届いていないこと、その全てが誤算だった。


 唯一の救いだった、休眠時間で寝ているゴブリンが大半という状況も、ホブゴブリンの一鳴きで覚醒してしまうという大ピンチ状態。


 ミルは両手に短刀を抜き構える。


 慌てる必要はない。


 手下に隠れるように下がるホブゴブリンは、ミルの事を警戒している。


 この隙に小物を減らせば、ここまで温存してきた短刀も、この数ならどうにか切れ味を落とす前に、片づけることができるはず。


 一匹のホブゴブリンに少し驚いたが、今のミルの実力でも、これくらいなら一汗かく程度で、無事に終わらせられるはずだ。


 襲い掛かってくるゴブリン達、思っていた通り、ホブゴブリンは動かない。


 大立ち回りをするのが人間の女なら、そんなに体力がもつはずがないとでも、考えているのだろうか?


 更に勝機が増したと感じるミルだったが、思わぬ展開に流石に青ざめてしまう。


「……噓でしょ」


 死神の鎌がかざされたような恐怖がミルを襲った。

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