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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
19/192

18:挑戦前夜のお楽しみ噺

 魔物退治のクエストを受けるにあたり、王都ラクシュからも、二つの師団を同行してもらえることになった。


 ミルと同行する藍玉騎士団と、イシュリーと赴く紅玉騎士団、必要に応じて二手に別れて探索することが決まった。


 まず二人が受けた洗礼は、ウイックのことに興味津々の質問攻めだった。


「へぇ、だからここには女の人しかいないのに、ちゃんと子供も生まれるのね」


 イシュリーは質問を返すのが精一杯で、あたふたしているばかりだが、ミルは自分からも気になることをちゃんと教わることを忘れない。


「これが子母の種子しぼのしゅしです」


 この探索が終われば、休職して子供を産むと言う藍玉の兵士は、拳の半分くらいの大きさの種を、生殖器から体内に入れれば受精できると教えてくれた。


「それじゃあビーストマスターが、メルティアンから貰う技術って、これのことなのね」


 強い遺伝子を貰える提供者に出会えなかった獣王は、メルティアンと同様の方法で種を受け継いできたのだ。


「へぇ、精霊の加護を受けられないことを覚悟の上で、この世界から出て行く人もいたんですね」


 王宮で手続きを受ければ外の世界、主に大海洋界への移住が認められる。


 しかしその際に獣王の神殿を使うことは認められておらず、使えるのは神聖樹に開いているゲートだけ。


「その門は今から行く洞窟にあるのね」


 強力な魔物も棲み着いているという洞窟の攻略。


 もし今の次代にも外の世界に気持ちを馳せようものなら、危険な洞窟を通り抜けないといけなくなる。


「もう長い間、訪問される外界人は獣王様だけですからね。ここを出て行きたいなんて言い出す人はほとんどいないんですけどね」


 入り口付近にはさほど強い魔物はいないが、先に進むとなると難易度はかなり高いものになる。


「それで結構広い洞窟の中を探索するのに、二手に別れるのが効率的ということだから、イシュリー」


「分かってます。獣王として神殿を継いだ者以外の、一族の者は皆、一流の冒険者になっています。私もビーストマスターの名に恥じない働きをしてみせます」


 王都から神聖樹まで半日、拡がる草原、洞窟の入り口付近に幕営を設営し、幕舎の中でマップを広げる。


「これはまだ中が、魔物であふれる前に作られた物です」


 渡された地図をイシュリーと二人で相談し、直ぐに分岐点を見つけて、どちらがどちらに向かうかを取り決める。


「判らない事があったら、軽率な事はしないで騎士団でちゃんと相談しなさい。第一の目的は魔物狩りだから、怪しい物には触らないようにね。なんなら後から私が確認しに行くから」

「分かりました。初冒険ですが、がんばります」


 昨晩は遅くまで秘宝探索のあれこれをレクチャーしたが、まさかその間にウイックがオイタをして捕まるとは思いもしなかった。イシュリーを一緒に連れて行って貰おうと考えていたのに、トンだ大誤算だ。


 ここはイシュリーの奮闘に期待するしかない。


「明日は夜明けと共に潜りましょう。今日はまだ早いけど、体を十分に休めるように」

「でしたら……」


 藍玉騎士団員八名、紅玉騎士団員十三名。


 ミル達を含めた二十三名は、幕営地からほどない場所にある、温泉地でゆっくりお湯に浸かることにした。


 野生の生物も入りに来る、温水のため池が十以上ある、王都ラクシュからもよく人が訪れるため、旅館も数件がちらほらと。


 管理者の領主の了承を得て、無料で入らせてもらえることとなった。


「旅館もあるのなら、わざわざテントなんて張らずに、最初からここに泊まっておけば良かったんじゃないの?」


 ここならフカフカのベッドで眠れそうなのに、ミルは昨夜の寝床と、さっき設営した幕舎の寝床を比べて溜め息を吐いた。


 分かっているのだ。中の探索では何が起こるか分からないのだから、なるべく現場の近くにベースキャンプを設けなければならない。そう、それは分かっている。

 しかしせめて夕食くらいはと、町の食堂に入ることにした。


 温泉地とあって、大きな食堂もあるが、ここは敢えてそれぞれが気になったお店で食べることにし、ミルとイシュリーは各々の騎士団長を加えた四人で、家族連れが好みそうな定食店に入った。


 騎士団長とミルは軽めのお酒を注文し、最初はこの世界についての質問に次々と答えて貰い、その後はいつの間にかお酒の量も、アルコール度数も上がって、気がつくとイシュリーまでもが上機嫌に酒に酔っていた。


「それじゃあ、あの牢獄の男は、どっちの恋人なの?」


 女性だけの世界でも、いやだからこそ色恋沙汰に敏感で、お酒の後押しもあり、師団長達は食いついて離してくれない。


「ウイックさんは私の未来の旦那様です」


 臆面もなしに堂々と宣言してくれるが、誰よりも早くイシュリーの言葉に反応したのは、いい感じにできあがったミルだった。


「まだ保留状態でしょ? そもそもイシュリーがあいつに会ったのって昨日でしょ。なんでそんな簡単に結婚なんて言えるの?」


「時間なんて関係ありません。ウイックさんは理想の男性なんですから」


「あんなのただのチカンよ。そりゃあ秘術士としては計り知れないし、物知りだからハンターとしても見習うところは多いけど、女に見境ないし、すぐ触ってくるし」


「なんれすか? 自慢しれるんれすか? 私、まら一度しか触られれません。なんれれすか?」


「触られたいの? 物好きね。まぁ、たまにならいいけど、たまにだったら、……たまにだったら何だからね」


 後日に確認すると、二人はこの時のやり取りを全く覚えていなかった。


 このウイックを巡る舌戦は、最初はにやけ顔で眺めていた師団長二人の酒が、興と共に醒めるほどにいつまでも続いた。

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