幸福に訪れる悪魔
女は願いを叶えるため、悪魔と契約した。
悪魔はその見返りに、人生で一番幸せな時に迎えに来ると言った。
そして、女の願いは叶えられた。
女は、第一志望の大学に合格した。誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、一流企業に就職が決まった。誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、職場で一番人気の、顔も性格も良いエリート社員と結婚した。
誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、元気な赤ちゃんを産んだ。誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、やがて年をとり、かわいらしい孫ができた。誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、多くの人に囲まれた、豊かな老後を過ごした。誰もが彼女を祝福した。
――怖いわ。悪魔が来てしまうかもしれない。
女は、病床で今まさにその命の灯火が消えようとしていた。
誰もが彼女の最期を迎えんとする時に集まり、涙を流して悲しんでいた。
――ああ、良かった。最期まで悪魔が来なくって。私はとても幸せだわ――
その時、悪魔が現れた。
「ずいぶん長くかかったね。ずっと怯えていた人生はどうだった?
一番幸せな時なんて、本人にしかわからないのにさ」
悪魔は、女を連れて行った。