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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神衣輪舞

作者: 月灯銀雪




 初めましての方も、そうでない方も、拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございますm(_ _)m









 かつて。世の覇権を争う群雄が そこかしこに割拠し蠢いていた時代から、幾人かの突出した英雄たちにより吸収併合、或いは調略されて大きな国として幾つかの纏まりになった頃……乱世と呼ぶには平穏で、太平と呼ぶには不穏な時代。国と国の間には煌びやかな“友好”という虚飾を隠れ蓑として 、策謀と間諜……そして兇手が行き来し、暗躍していた。



  * *



「はぁ……。星明(シンミン)様は いつ見てもお美しいわぁ」



「まったくだ。各地より陛下の下へ集められた百花を霞ませる見目だけでなく、舞と琴の演奏も他の追随を許さぬとは……惜しむらくは 歌が聴けぬ事か」



 華やかな宴の席にて、派手な衣を纏い 濃いめの化粧を施したご婦人と、その同伴者と思われる立派な顎髭を蓄えた位の高そうな男、そんな2人の視線の先。庭園の開けた場所に一段落高く設えられた舞台の上で、篝火に照らされて真白き衣を靡かせ 一心に輪舞を舞う乙女がいた。


 並み居る観客の絢爛豪華な衣とは対照的に、簡素とも言えそうなほど 無駄を省きながら、長くたっぷりとした袖や裾で露出を抑えた出で立ちは 彼女の天性の麗質と長い手足を活かした舞いを更に高尚なものとしていた。



「あぁ、本当に残念だわ……“声無き舞姫”だなんて。きっと、彼女が歌えれば 天界の仙女様さえも聞き入る歌声でしょうに……」




 口許を団扇で隠したまま やや悩ましい溜め息とともにそう囁いたご婦人の視線を受ける舞姫は、1曲を舞い終えて尚 涼やかな面持ちで舞台から離れ、静々と この宴で最も高き御位の者が座する上座へと向かい、この場の主……いや、この国の主へと深々と跪拝する。



「相も変わらず 見事な舞いであった。余からの杯をくれてやろう」



 壇上より降りて国主が手ずから差し出した杯を、舞姫は恭しく捧げ持ち 流麗な所作で干す。そして、再び深々と頭を垂れて感謝の意を表した。



「うむ。では、暫し下がるがよい。今日は 虫 が多いゆえ その柔肌を刺されぬようにな」



「……」



 刹那に視線を交わし、三度 頭を垂れた舞姫 星明は、一人 宴の場を後にした。











 回る 廻る まわる。






 凶刃を握る腕、仕込まれていた暗器も剥き出しに振るわれた脚、時には黒布に隠された頭部を斬り飛ばし、禍々しく咲き乱れる(鮮血)の中。




 黒と赤の色彩の中で、いつまでも染まらぬ白だけが異彩を放ちながら くるくる と舞い続ける。



「がっ……は、まさか 善政を囀ずる王の膝下に咲く華が……このような毒華であったとは……」



 片手片足を失い、身動きも儘ならぬ一人が吐き捨てる。



(標的を前に無駄口を叩くなど……三流が)



 軽く手を翻して 衣の軌道を操り、余計な事を喋る口の軽い兇手の頸を刎ねた舞姫は思う。





 ああ、気分が悪い。なぜ、自らが楽しむため、そして 人を楽しませるためだけに舞わせてはくれないのか。



 ー お前には 不本意であろうが ー



 なぜ、自分は兇手ばかりを輩出する家系に生まれてしまったのか。



 ー お前にこそ この衣が相応しい ー



 なぜ、裏社会で“変幻の美女”と謳われ、色香に惑わされた数多の男を仕留めてきた 祖母の美貌を受け継いでしまったのか。



 ー 我が一族に伝わる秘宝、この神衣を纏い 誰よりも美しく、そして誰よりも残酷に舞いなさい。次代の凶星……あたくしの可愛い小星(シャオシン)



 なぜ、楽舞に喜びを見出だし、才能を花開かせてしまったのか。






 己が身の上を嘆いても、押し付けられた立場(しごと)に憤っても、星明の身に染み付いた舞と楽を捨て去ることは難しく、舞に付随する兇手としての技は今、確かにその命を繋いでいた。



(どいつもこいつも、三流ばかり)



 放たれた吹き矢を翻る左腕の衣で絡め取り、回転の勢いもそのままに 跳躍して距離を詰め、右腕側の衣で相手の腕ごと吹き筒を断ち斬る。物陰から狙うべき吹き矢を姿を見せて使えば、狙いを見極めて対処するなど 兇手として育てられた星明には容易い事である。


 少しは頭を使ったらしく 死角から腕や脚を狙って投げられた鎖分銅も、衣に多めに気を纏わせ硬質化してから 軽く飛び上がって錐揉みのように角度を付けた回転をすることで衣に絡ませて防ぐ。


 衣に絡んだ鎖を見て笑声を洩らす兇手(三流)達に、白き舞姫は再び硬さを失って流れるような動きで鎖から抜け出す衣と軽やかな旋回をもって応えた。




 最後の兇手の頭を斬り飛ばし、御粗末にも床で痛みに呻く兇手たちの息の根を 引き抜いた鋭利な簪にて止めた事により、その場には静寂が舞い戻った。幾人もの兇手を相手取った故か、方々の壁や床に 人の熱を持った無数に咲く華によって 室内の空気が外よりも微妙に高い温度である故か、簪の血を払って 再び同じように頭上へ飾る舞姫の額から頬へ汗が伝う。






「あんの、クソ王……自分の代わりに毒杯なんぞ呑ませやがって!あいつも一応 耐性つけてあんだろうがっ! あ~気持ちワリぃ……」






 やっと開いた 淡い紅を引かれた桃の花弁の如き唇からは、天界の仙女もかくやあらん とも言える嫋やかな見た目とは似ても似つかない 低音で口汚い罵声が吐き出された。






  カツッ



「誰だ?!」



 生きている者の無い筈である室の奥で微かに聞こえた 何かが打ち合わさったような音に、星明が鋭く誰何の声を上げ、警戒しながら壁際に寄せられた衝立の向こう側へと回り込む。



「ひっ!! し、星明 さま? あれ、声が……男の、人? え? じゃあ、他にも誰か…」



 そこにいたのは、宮中にて働く女官の衣を纏う娘であった。争いの気配に 怯えて隠れていたのであろう彼女は、星明の悪態に身動ぎでもしたのだと思われた。しかし、本来の性別を誤魔化しようのない星明の声に混乱した様子で、衝立の蔭から惨状の広がる室内を覗こうとする。



「ちっ」



 今 彼女に悲鳴を上げて人を寄せられるのは星明にとって非常に不味い事態である。咄嗟に袷から取り出した眠り薬を口に含んで、今にも悲鳴を上げようとしている女官の口を自らの口で塞いだ。


 見開かれた この国には珍しい翡翠の瞳を間近で見ながら、片手は女官を逃がさぬように引き寄せ、もう片方の手で彼女の抵抗(平手)を封じる。



 次第に力を弱め、深い眠りに落ちた女官を引き寄せていた片手で支えて、ほつれて垂れ落ちてきた髪の一筋を耳に掛ける星明は 微かに口角を引き上げ、自らの艶を帯びた唇を舐める。



「相手が色ボケて脂下がったオッサンじゃなくて良かったな……お互いに」



 兇手としての適性ゆえに 女の姿をしている手前、星明は“そんなオッサンを相手にする可能性”から逃げる事はできない。色仕掛けも兇手の技のひとつであるのだから。もちろん、彼自身は力の及ぶ限り 余計な接触を回避する努力は惜しまない所存であるのだが。



「あ~あ。どっかの室に置いてったら、夢だと思って忘れてくれねーかな、俺の事」



 言ったところで詮無き願望。きっと、この女官には印象深い(トラウマレベルの)出来事の連続だったことだろう。星明には日常でも、そうそうに十体にも及ぼうかという ()殺された死体を目撃する機会など、彼女にあろう筈もない。困った事態だと思案する星明だが……。



「……あ。やべっ! 俺、さっき 毒杯カッ食らったばっかだったわ!!」



 つい先程 毒杯を呷った事を思い出した。星明の唇に残っていた程度では耐性が無くとも致死量には及ばないであろうが、まあまあ強い毒である。同時に眠り薬も飲ませてしまった為、万が一の事があっても不味い。



「仕方ねぇな……とりあえず俺の室で様子を見るか。あ~面倒くせぇ。解毒薬も作んねーと駄目かな……?」



 部分的に垂らしながら美しく結い上げた黒髪を、形崩れさせずにバリバリ掻くという無駄な器用さを発揮してから、星明は空いている手の指で中空に某かの合図を送った。そうして、両手で女官を抱え上げて 幾つかの影が舞い降りる 赤黒く染まった室を後にする。





 その衣は 未だ真白きまま 星明の歩みに合わせてゆらゆらと揺蕩い、静謐なる月の光を浴びて、散らばる星々の如き あえかな煌めきを弾いていた。








 ちょっとだけ バトルシーンを書いてみたかっただけなんです。なのに、何時の間にやらジャンルの区分に困る作品に……(;>_<) たぶん恋愛(出会いだけ)。


 というか、出会い頭に何しとんねん アホ星!……と、作者自身がツッコミを入れたのは内緒です。


 国や王様の名前も、これからどうなるのかも、神衣が羽衣タイプなのか羽織タイプなのかも、ほとんど考えていない思い付き作品でしたm(_ _)m


※主人公の名前が作者と類似しているのは、偶然です。流石に中身は男の子なのに花とか麗とかは可哀想かな と思ったらこんな名前に。




 なお、輪舞は複数人で輪になって舞う踊りの事ですが、ここでは くるくる 回転することを主体とした舞を指しています。タイトルをアイヌ語っぽく読むと、幼き日の作者にトラウマを刻みかけた いにしえの格ゲー に出てくる、とある技名が浮かび上がるかもしれません。今でも形を変えて存在するかもしれませんが。


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