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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第二章「カリスマ××」
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-7


夜の23:54分。

辺りは、シンッと静まり返っている。


「――……」


タカキは、自宅の部屋の中央で、正座をしていた。

目を閉じて、精神統一をする。


その時、ふと、タカキの意識が宇宙の彼方へと飛んだ。






「……これは、」

「タカキ!!」

「ライト、元気になったんだ……よかった」


突如、宇宙と無意識の狭間へと送り込まれたタカキは、そこでライトと久しぶりに再会する。

ライトは、タカキを見つけるなり、タカキに飛びついてきた。

それをタカキは、軽々と受け止める。


「ごめんね、回復が遅くて」

「心配してた。もう大丈夫?」

「ありがとう、大丈夫よ!」


ライトの言葉を聞いて、タカキは、安堵の息を吐いた。


「この間、ライトみたいなイヤリングをつけている子に出会ったんだ」

「え、そうだったの?」

「うん。でも、ライトが反応しなかったから、ミネラル戦士ではなかったんだと思う」

「そうね……何も感じなかったわ」


ライトは、首を横に振った。

タカキは、やっぱり、と頷く。


「最初の時も、ここにきたよね」

「あの時は、タカキが夢の中だったから、ここに連れてこれたのよ」

「俺、さっきまで起きてたんだけど、ここって、俺の夢の中なの?」

「うーん、夢の中とは少し違うけど、似たようなものかも。タカキ、さっきまで無意識と繋がろうとしてたでしょ?」

「精神統一のこと?」

「そう、それのこと! だから、起きてても引っ張ってこれたの! でも、ちょっと無理矢理だったかも。ごめんね」


ライトの謝罪に対して、タカキは首を横に振った。


「ここは、何なの?」

「全ての宇宙に存在している生命体に共通してることなんだけど、ここは、生き物たちの言わば「無意識の先」の空間よ。私たちはここをフリー・スペース。通称“FS”と呼んでいるわ」

「無意識の先?」

「あ、人間は、そういう言い方はしないのね。うーん、そうだなぁ。人間は、意識について、どう考えてるの?」

「全ての人間の共通認識でなくても良い?」

「共通していないなんて、変わってるのね? でも、いいわ。聞かせて」


ライトは、大きく頷いた。


「地球では、人間の意識について説明する時に、哲学者のフロイトの考えを用いることが非常に多い。フロイトの考えでは、心は意識と前意識と無意識の三つに分類されている。意識は、自分が認知できている状況や内容のこと。つまりは、ハッキリと存在している記憶のことだ。これらは、心、もしくは脳で、自覚することができる。一方、自覚できないもの、思い出せないもの、それが無意識だ。これは、意識よりも大きい割合を占めていると言われている。無意識は、思い出そうと思っても、自力では思い出せない範囲にある領域の記憶。だが、何かのきっかけで、その記憶の一部が行動に現れることがある。そして、それにより、自分の中に、その記憶が存在していたことが明らかになる。更に言うなら、人間は自分が経験したわけではない記憶が呼び起こされることもある。これは、反射とも違う働きで、遺伝子から伝わる遺伝的要素が大きいのではないかという研究が今の所、有力説だが、実際には、明らかになっていない。そして、最後が前意識だ。これは、普段は無意識化の領域に存在している記憶のことを示しているが、中でも自力で思い出すことができるものを指している。大まかに分けると、意識はこの三つに分類されることが多い。これは、ある哲学者の一論だから、これが答えの全てではないけれど、こういう見解で物事を見ることもあるという一種の例にはなるかもしれない。さらに詳しく説明するなら、この哲学者は、意識の機能についての概念を……」

「待った」

「ん?」


タカキが首を傾げると、目の前のライトがだらだらと汗を流していた。


「タカキって、もしかして、……勉強ができる子?」

「説明が、わかりにくかったか?」

「いや、多分、わかりやすく話してくれているんだろうけど、一ミリもわからなかっただけ」


ライトの眉が見る見るうちにハの字に垂れ下がってゆく。

それを見て、タカキは話をリセットした。


「そうか。じゃあ、ライトの世界の考えを聞かせて欲しい」

「そうね、こっちの世界の考え方をタカキに理解して貰う方が早いかも!」


ライトは、ブレスレットの一つに手を翳した。

すると、そこに映像が映し出される。

それは、意識や無意識をわかりやすくまとめた映像だった。


「私たちの心の中には、『無意識』という領域が存在しているわ。無意識は、意識が無いという意味じゃなくて、宇宙と繋がっている意識の部分を指しているの。言わば、宇宙の一つね。生命の全ての根源は、宇宙から来てるの。星も鉱物も人間も、みんな元は同じ、宇宙の一部だったのよ。だから、無意識の部分を解放することによって、宇宙と交信ができるようになるっていうわけ」

「なるほど」

「かつては、みんなその無意識の部分を解放したままで、普通に暮らしていたみたいなんだけどね。宇宙と繋がると、様々な情報が一気に入ってきちゃってパンクする生き物が、どの星でも増えてしまったの。だから、宇宙の創造主は、生き物たちの中から、宇宙と繋がっている記憶の部分を隠したんだって言われているわ」

「消したわけじゃないんだ」

「あくまで、隠しただけ。生命体の能力が高まれば、自然と記憶の整理ができるようになるはずだから、元の無意識の領域を解放しても、普通に生活できるようになるでしょう。その時まで、封印しているって話よ」


ライトの説明に合わせて、映像が動いていく。

タカキは、映像を見ながら、ライトの説明を真剣に聞いた。


「私たちミネラル星の住人も、無意識の領域に関しては、完全に解放されているわけじゃないの。ただ、人間ほど、隠されてはいないってだけ。だから、このFSにアクセスすることぐらいはできるけど、宇宙からの意識を受け取ることは、まだできないわ」


ライトは、少し残念そうに、そう言った。


「この空間は、宇宙の色々な生命体がアクセスしている共有スペースみたいなものなの」

「じゃあ、俺も自分で、その無意識な領域にアクセスできるようになれば、自分の意志で此処に来れるってこと?」

「そういうことになるわ」


ライトの説明を聞いて、タカキは大きく頷いた。


「修行、頑張ろう……」

「あ、そうだ。それよ! ずっと眠っていたからできなかったけれど、ちゃんと、タカキに技を教えないと!」

「武器を使った技?」

「そうよ! 前に武器の出し方は、教えたわよね? 出せる?」


タカキは、コクンと頷いた。


「変身してないけど、武器出せるの?」

「この空間では、出せるはずよ。地球では、変身しないと無理だけどね」

「わかった。じゃあ……ミネラル・レコード!」


タカキが唱えると、右手の近くに大きなミネラル・ソードが現れた。

それを軽々と、片手でキャッチする。


「これか、」

「ミネラル・ソードよ、あっちに向けて、軽く振ってみて」


タカキは、言われた通りに頷き、軽く剣を振ってみた。

剣の先から、光線が飛び出す。

たった一振りで、大きな爆風を巻き起こした。


「おぉ、」

「攻撃力を上げたい場合は、どうしたらいいか覚えてる?」

「この柄の部分の石に、自分の意識を集中させればいいんだっけ?」

「そう! 正確には、ミネラルの力を意識するのよ。ミネラルの力が、まだ掴みにくいようだったら、宇宙をイメージするといいかも!」

「わかった」

「暫くそのイメージを続けて、宝石の部分にエネルギーが溜まったら、攻撃が……へ? もう赤くなってる?!」

「あ、溜まった」

「嘘?! まだ、ちょっとしかエネルギー注入してないのに、どうして?!」


ライトは、目を疑った。

目の前のミネラル・ソードの宝石は、確かに赤く光っている。


「元々、溜まってたのかも」

「な、なるほど? でも、そんなことあるのかしら……うーん、」

「それよりも、ライト、ここから、どうすればいい?」

「あ、そうだ! まず、この柄の部分を持って」

「こう」

「そう! そして、後は敵目がけて攻撃するんだけど、その時に、エレフ・セリヤと叫べば、その音に反応して、剣の先から、光のエネルギーが飛び出すようになっているわ」

「やってみてもいい?」

「もちろんよ!」


ライトの言葉通り、タカキは剣を構えた。

敵がそこにいることを想定して、呪文を唱える。


「エレフ・セリヤ……ッ!」


そして振り翳した剣の先から、さっきとは比べ物にならない程のエネルギーの塊が飛び出した。

山一つは、吹き飛ぶ威力だ。

タカキは、流石に、目を開かせた。


「凄い、」

「凄いのはタカキよ! 最初から、ミネラル・ソードを扱えるなんて!」

「ライトの教え方が上手いんだよ」


タカキの言葉を聞いても、ライトは、納得がいっていない顔をした。

この一発が撃てるようになるまで、ライトは三か月もかかっていたのだ。


「うぅ……タカキ、凄すぎ」

「ライトの力が無ければ、俺はこれを扱えないよ」

「私の力が無くても、タカキは十分強い……って、そうだ! 思い出した! タカキ、あの時の技って、どこで覚えたの?」

「あの時の技?」

「あ~、アズマなんたらって、言ってたやつ!」

「あぁ、アズマ 神月一心流のこと? あれは、俺の師匠から教わったんだよ」

「師匠? なにそれ?」

「先生みたいなものかな」


タカキが剣を持ち上げると、ライトがそれを指さして言った。


「“クリア”って言えば、剣は消えるわ」

「クリア」

「ね?」


ライトの言う通り、剣が消えたので、タカキは、その場に腰を下ろした。

ライトも、タカキの目の前に、腰をおろす。


「それで、その師匠って何者なの?」

「学校の先生だよ!」

「もっと、ちゃんと説明して! 学校で習ったじゃ、納得できないわ!」


ライトの言葉を聞いて、タカキは、ポリポリと頬を掻きながら言った。


「俺の通ってた初等部の学校は、ギフテッド・チャイルドが集められた学校だったんだ。イギリスにある学校なんだけど、名前は、Heavensヘブンズ Collegeカレッジ

「ギフテッド・チャイルドって?」

「ギフテッドは、贈り物を意味する英語のギフトが語源なんだけど、天から与えられた資質を受け継いでいる者って意味があるんだ。同年代よりも、並外れた能力がある者と認められた子どもだけが、入学を許可されている学校だよ」


ギフテッドは、目指すものでなく、開花させるもの。


つまりは、生まれた時から、その才能が無ければ、学校に入学することはできないのだ。

いくら、お金を積んでも入れない。


才能こそが全ての世界。


「学校なら、ミネラル星にもあったけど、何だか、それとは、ちょっと違いそうね」

「勉強するって意味では、同じだよ。授業は少し変わってたけど。俺は、そこで、アズマさんって人から、神月一心流を教わったんだ」

「タカキに教えるくらいだから、相当強い人なのね」

「強いと思うよ? 俺、一度も勝てなかったし」

「嘘?! タカキが?!」

「うん。全然、歯が立たなかった」


ケロっとした顔で言うタカキは、まったく悔しそうじゃなかった。

それを、ライトは不思議に思う。


「負けてばかりだったの?」

「うん」

「悔しくなかったの?」

「全然」

「どうして? 本気でやっていたんでしょう?」


ライトの言葉に、タカキは、うーん、と首を傾げた。

感覚の違いというものは、説明するのが難しい。


「力の差があり過ぎて、なかなか悔しさが感じられなかったのかも。アズマさんは、あくまでも、俺の師匠で、ライバルってわけじゃなかったから」

「そっか。じゃあ、タカキにライバルはいたの?」

「ライバル……うーん、いた、のかな?」

「なんで、疑問系なの?」

「ライバルだって、言ってきた奴はいたけど、俺の方は、ただの友達だと認識してたから」

「一方的にライバル認定されちゃったのね。いたわ……そういう子」


ライトは、誰かを思い出したかのように、頭をおさえた。


「うーん、わからない所は、多々あるけれど……。タカキが、やっぱり地球人の中でも、特別強い人間だって言うのは、ちょっと理解できたわ」

「まだまだ、だけどね」

「そんなことない! 凄く心強いもの!」

「よかった」


タカキが、頷くと、ライトはポッと頬を染めた。


「そろそろ、朝になるわ。タカキも目を覚ます頃ね」

「もう、朝なんだ」

「あ! ごめんなさい! 無理矢理、意識を引っ張ってきちゃったから、タカキ、きっと床で目覚める事になるわ……!」

「別にいいよ。岩の上でも、木の上でも寝れるから」

「わぁぁん! 本当にごめんなさい……! 身体が痛くなってたら、どうしよう」


タカキは、落ち込むライトを見て、クスッと笑った。


「タカキ…?」

「俺、身体鍛えてるし、このくらい大丈夫だよ」


タカキの大丈夫という声を聞いて、ライトは、ハッと顔を上げた。


「不思議、タカキの大丈夫って言葉を聞くと、なんだか、凄くホッとする」

「俺の大丈夫は、絶対大丈夫だからだよ」

「ふふっ、前もそう言ってたもんね!」


ライトは、タカキに向かって、ぎゅっとハグをした。

タカキは、それを当たり前のように受け止める。


「タカキの意識、戻すわね」

「そっか。じゃあ、今日の修行は、ここまでだな」

「ごめんね、寝てる時まで、戦わせて」

「全然。それよりも、ライトの無事な姿が確認できて、安心した」

「もう、タカキってば……優しすぎるよ」


タカキの言葉を聞いて、ライトは苦笑する。

それを見て、タカキは、ライトの頭をポンッと撫でた。


「敵が現れるか、仲間が現れるかするまで、また暫く休んで。何かあったら、俺から声をかけるから」

「……うん、ありがとう」


ライトがそう言った瞬間に、タカキの意識が身体に戻った。


パチッと目を開けて、起き上がる。

時計の針は、いつもの起きる時間を指していた。


「あ、今日は、瞳さんのバイトが入ってたんだ」


タカキは、急いで支度をして、家を出た。

今日は、病院でのアルバイトだ。


「ただの事務仕事だって言ってたけど……大丈夫かな?」


医療のことが何もわからないタカキは、少しばかりの不安を抱えながらも、バイトへと向かったのだった。









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