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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第二章「カリスマ××」
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-6



「タカキ、今日珍しくバイト無いんだろう。何処か寄って帰ろうぜ?」


ナイトの誘いに、タカキは、コクンと頷いた。


「久しぶりだよな。何処行く?」

「ナイトは?」

「うーん、堅苦しくないところなら、どこでも」

「お疲れ様」


ナイトは、連日、会食に付き合わされていたせいで、大分ストレスが溜まっていた。

相変わらずニコニコしているけれど、その顔の端々には、疲れが見えている。


「タカキは、ショッピングあまりしないからな。何か、甘いものでも食べに行くか?」


その一言に、ピクリと、タカキの耳が動く。

タカキは、食べることが大好きなのだ。


「行きたい」

「そっか! じゃあ、美味しい店検索しないとな!」


タカキとナイトが二人で、この後のスケジュールについて相談し合っていると、後ろから大きな声で、呼びとめられた。


「じゃあ、この間、オープンした店とか、ど……」

「ちょっと、ナイト! アンタ、ちょうど良かった! ツラ貸しなさい!」

「は?! げっ、ミキ!」

「げって、何よ!」


ナイトが振り向くと、そこには、一人の美少女が立っていた。

タカキは、ぱちくりと瞬きをする。


「なんで、ミキがここにいるんだよ」

「仕事に決まってるでしょ!」


セーラー服、美少女、黒髪、目がぱっちり!

な女の子が現れれば、誰もが振り返ることだろう。

現に、道を行き交う人達が、立ち止まって、こちらを見ている。


「ナイトの知り合い?」

「あー……従姉妹、」


苦々しい顔で、ナイトはそう言った。

ミキは、強い力で、ナイトの腕を引っ張る。

だが、ナイトは、それに珍しく抵抗した。


「いいから、来なさい! 急いでいるのよ!」

「待てよ! 俺、今、友達連れてるんだって……!」

「友達〜〜〜?!」


ミキは、タカキをギロッと睨んだ。

タカキは、何となく背筋を伸ばした。

その場に、緊張した空気が走る。


ミキは、タカキのことを上から下まで眺めながら、腕を組んだ。

そして、ジトッとした目で、タカキを見ながら言った。


「……じゃあ、お友達も一緒に」


ミキの言葉に、タカキとナイトは、キョトンと目を見開いた。


「は?」

「?」


返事をする間も無く、二人とも服を掴まれ、強制連行される。

ナイトが抗議していたけど、彼女は聞く耳を持たなかった。



***



「キャノさ~ん、連れて来ました〜〜!」

「おぉ、イケメンねぇ! 流石は、ミキチーの親戚ちゃん!」

「あの、これは、何かの撮影ですか?」


ナイトが尋ねると、カメラマンのキャノさんは、ニコリと笑って答えた。


「そうなのよ〜! 君、ミキチーの従兄弟なんだって? ちょっとしたスナップ写真だと思って、協力してくれないかしら?」

「そう言われても……」

「頼むわよ、二、三枚でいいの!」


胡散臭いサングラスをかけた怪しいおじさんだが、こう見えて、キャノさんは、売れっ子のカメラマンだった。


「ナイト、早く! 撮影、おしてるのよ!」

「ミキ、だから、俺は……っ!」

「つべこべ言わない!」


ナイトは、普段ならば、こういう話に乗るタイプだが、今回はタカキがいる。

タカキを待たせるなんて、ナイトには考えられなかった。

何とか穏便に断われないかと考えていた、その時。


タカキが、ナイトの肩を掴んだ。


「俺、待ってる」

「タカキ……っ」

「ミキちゃん、困ってるんでしょ」

「だけど、……いいのか?」

「うん。終わるまで、ここにいる」


タカキの言葉に、ナイトがグルグルと頭を悩ませていると、キャノさんが二人に近づいてきて言った。


「ん~~、よく見たら、こっちの少年も可愛い顔してるじゃない~?」

「……?」

「あ、じゃあ、そっちの彼も一緒に、「タカキは、こういうの苦手なんで!」」


キャノさんの言葉を遮って、ナイトがタカキの前に出た。

まるで、ボディーガードだ。

キャノさんは、残念そうな顔をしながらも、頷いた。


「あらそぉ? 勿体無いわぁ。磨けば光る原石のようなのに。気が向いたら、撮らせてね!」


ナイトは、キャノさんがあっさり引き下がってくれた事に、ホッと溜息を吐いた。


「で、ナイトくんは、撮らせてくれるの?」

「数枚で、お願いします……」

「OK!!」


キャノさんは、撮影が始まると、急に真剣になった。


おねぇ口調だったのが、すっかり、男言葉に変わっている。

結局、数枚と言っていたはずが、何十枚も撮らされる羽目になった。



一方で、タカキは、少し離れたところから、ナイトたちの撮影現場を見ていた。

道行く人たちが、チラチラと二人を見ている。

そんな中、近くを通った女子高生たちが、キャッキャッと話している会話が聞こえてきた。


「見て見て、アレ! 何かの撮影してるよ!」

「嘘!? カリスマモデルのミキチーじゃない?!」

「めっちゃ、可愛い〜〜〜〜!!!!」

「あんな風になりたいよね~~~!」


女の子達は、羨ましそうな目で、ミキのことを見ていた。


「あ~、ミキチーがつけてるイヤリング、私も欲しいなぁ~」

「でも、あんな派手なデザイン、庶民の私たちには、似合わないよね」

「知ってる? ミキチーって、すっごい、お金持ちらしいよ!」

「あんな派手なイヤリングが似合うなんて、さっすが、ミキチー! 美人で、お金持ちだなんて、まさにカリスマだよね~!」


ミキの耳元で揺れている、大きな宝石のような形をしたイヤリングに意識を向ける。

そのイヤリングを見て、タカキは、ライトを思い出した。

踊り子のような、あの戦闘服には、たくさんの宝石がつけられていたからだ。


「ライト……、」


金色のパラサイトの一件で、相当な力を使ったせいか、ライトはあれから姿を見せていなかった。

夢の中でも、タカキに話しかけてくることはない。

ライトが反応しなければ、指輪もただのアクセサリー同然だ。


「大丈夫かな」


タカキは、ライトの身を心配していた。

指輪の宝石の部分を、指先で優しく撫でる。


「……次は、あまり無理させないようにしないと」


指輪を見つめながら、タカキは、静かにそう呟いた。


その時。

向こう側から、疲れ果てたナイトが戻ってきた。


「お、わっ、た……」

「お疲れ様、」

「ありがとう、待たせてごめんな、タカキ」

「全然。見てて、楽しかった」

「なら、いいけど、」


結局、撮影が終わったのは、それから30分後のことだった。

申し訳なさそうに謝るナイトを見て、タカキは、首を横に振る。


まだ、撮影を続けているミキを眺めながら、タカキは、ぽつりと呟いた。


「あの子、モデルなんだ、」

「読者モデルってやつだよ」

「凄いね」

「仕事してるって意味でなら、タカキも同じだろう」

「仕事してるのもそうだけど、彼女、全然雰囲気が違う」

「あぁ、裏表が激しい奴なんだよ」

「仕事の切り替えができるなんて、プロ意識が高い証拠だ」


タカキの言葉に、ナイトは、ムッと眉を寄せた。


「……随分と、褒めるんだな」

「ナイト?」

「タカキは、ミキみたいなのが、好みなのか?」

「え、」

「何それ、迷惑」


タカキがナイトを見上げた、その時。

撮影の休憩に入ったミキが、突然、顔を出した。


「言っておくけど、ナイトの友達だからって、連絡先教えたりしないからね」

「コラ! ミキ! お前の都合でタカキを待たせておきながら、その態度は、なんだ!」

「だって、男って、超面倒なんだもん。いちいちLINEのID教えてとか、電話するから番号教えてとか。こっちは、暇じゃないんだっつーの」


長い黒髪を靡かせ、さっきの撮影の時とは、打って変わって不機嫌そうな顔をしているミキを見て、タカキは首を傾げた。


「もう帰っていいわよ、ナイト」

「言われなくても、帰るよ」

「あなたも」

「俺?」

「ん、」


ミキは、タカキに向かって、一粒の飴を投げた。

タカキは、その飴を片手でキャッチする。

それは、のど飴だった。


「じゃあ、私、まだ撮影があるから」


そう言って、彼女は、一瞬でモデルの顔に戻っていった。

笑顔が、とても輝いている。

そんなミキの態度の変化に、ナイトは、やれやれと溜息を吐いた。


「ごめんな、タカキ」

「何が?」


撮影に戻った彼女の姿を見ながら、タカキは、貰ったのど飴を口に入れた。


「凄く、真剣な顔してる」

「あぁ、ミキは、仕事人間なんだ。モデルも中途半端にやりたくないからって、凄く頑張っているのは、知ってる。でも、タカキに対するあの態度は、改めるべきだ」


ナイトは、そう言うが、タカキは少しも気にしてはいなかった。

むしろ、彼女のことを、とてもいい子だと思っていた。


「ミキちゃん、少しナイトに似てる」

「どこが?! あ、裏表が激しいところか……?」

「いや、責任感が強いところ」

「?!」


タカキのその発言に、ナイトは複雑そうな顔をした。

そんなナイトを見て、タカキはクスリと笑う。


「夕飯、食べに行こ」

「……そうだな、」




◇◇◇




その日の夜。


「あー、撮影終わった! それにしても、ナイトのやつ~、あんなに渋ることないじゃないのよ! もう! お陰で、すっかり遅く……ん?」


ミキが一人で文句を言いながら帰っていると、道端で光る石を見つけた。


「何よ、これ……変な形」


何の躊躇いもなく、ミキは、その石を拾い上げた。


「うわ、きったない石。……でも、光ってる?」


光の反射のせいかと思ったが、今は、すっかり太陽が沈んでいる時間帯だった。

拾い上げてはみたけれど、実際は泥だらけの石で、お世辞にも綺麗とは言えない。

ミキは、眉を寄せた。


「……気のせいかしら」


何で光って見えたのかは、わからなかったが、ミキは、何となく、その石を持ち帰ることにした。



***



「……よしっと、なんだ、綺麗になるんじゃん!」


家に帰って、水で洗い、布で綺麗に拭くと、見違えるほどに、石は輝きを取り戻した。

紫色の鉱物は、キラキラと光っている。


それを見ながら、ミキはニコニコと笑顔を浮かべた。


「あんた、私とちょっと似てるかもね」


そう一人で呟いて、ミキは、それを小さな巾着袋の中に入れた。



「御守り、御守り!」


ミキは、その後。

どこへ行くにも、そのお守りを持ち歩くようになったのだった。




◇◇◇




撮影の日から、三日が過ぎた。

金曜日の夕方。


タカキは、再び、コーブツの家を訪れていた。


「コーブツ、」

「また、テメーか。チッ」

「これ、今日の夕飯と、今月発行の論文冊子」


タカキが、持ってきたものを見せると、コーブツはバンバンっと、机を叩きながら言った。


「貸せ、置け、帰れ」


タカキは、コーブツの横暴な態度にも平然と対応した。

言われた通り、机に夕飯と冊子を置く。

いつもなら、そのまま帰ろうとするが、今日は、そこで足を止めた。


「あ? 何、座ってやがる」

「この間、隕石の展示会があったの知ってた?」

「金色のパラサイトだろ」

「コーブツ、行った?」

「行ってない」

「興味ない?」

「興味が全く無いわけじゃない。けど、求めているジャンルが違う」

「ジャンル?」

「週刊漫画雑誌が好きで買っていても、自分の今読みたいジャンルじゃなければ、読まずに飛ばしたりするだろ。それと同じだ」

「コーブツ……週刊漫画雑誌、読むの?」

「例え話だ。シネ」


コーブツの言葉に、タカキは天井を見上げた。


「隕石、鉱物……か」

「今日は、よく喋るな。お前」

「コーブツは、鉱物のどこが好き?」

「は?」

「鉱物って、どんな存在?」

「脈絡がねぇ質問だな」

「最近、ちょっと鉱物と関わる機会が多くて、」

「鉱物と関わる機会って何だよ。道端に落ちてる鉱物でも拾ったのか?」

「……そんなところ」

「どこが好きって、そんな抽象的な質問に答えて、何になる。鉱物の美しさや素晴らしさなんて、言葉じゃ表現できねーよ。舐めてんのか、テメーは」

「そっか、ごめん」


タカキは、その答えを聞いて納得した。

安易に答えを知ろうとしたことを反省していた、その時。

コーブツが、真面目な声で言った。


「ただ、俺の未来、全部あげても微塵の後悔もない。それだけだ」

「……そっか」


その言葉に、全てが込められていた。

コーブツは、鉱物を愛している。

それこそ、揺るぎない愛だ。


「タカキ」


コーブツは、タカキの口にお菓子を突っ込んだ。

もごもご、とそれを食べながら、タカキは目を開かせる。


「チョコだ」

「ケッ」


それは、タカキの好物だった。


「さっさと帰れ」

「次、再来週になる」

「もう、来んな」

「瞳さんに、宜しく」

「シネ」


コーブツに追い出され、タカキは、コーブツの家を後にした。

夜空を見上げながら、丸くなった月を眺める。


コーブツは、相変わらずの返事しかしなかったけれど、タカキの中で、一つ考えがまとまった。




「……微塵の後悔もないか」



その通りだと、タカキは静かに頷いたのだった。






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