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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第一章「ミネラル戦士 ミネラル・ライト」
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「いいか! 新人! バイトだからって、手抜くなよ」

「はい」

「お前の持ち場は、ここだ! 宝石からは、少し遠いが、もし怪しい奴が来たら、速攻連絡しろ! わかったな!」

「はい」


タカキは、瞳さんに紹介されたアルバイトに来ていた。

先輩警備員に指示され、素直に頷く。

サボるなよ! と、タカキに釘を刺し、先輩警備員は持ち場へと戻って行った。


タカキの持ち場は、角を曲がった廊下の一番端だった。

メインの宝石が飾られている部屋からは、大分離れている。

関係者通路の警備なので、一般人が来ることはない。


つまりは、一人、ポツンと立っているだけの、孤独な警備仕事だった。



「あ、」

「よっ」


タカキが真面目に警備をしていると、目の前に見慣れた男が現れた。


「お疲れ様」

「ナイト、どうして、ここに?」

「この展示会、俺の家も出資してるんだよ。出入りは、自由ってわけ」

「八億円の宝石、見に来たのか?」

「うーん、別に興味はないかな。タカキこそ、八億円の宝石なんかに興味あったの? 欲しいなら、買い取ろうか?」


サラリと、そんな言葉を平気で言うナイトに、タカキは、やれやれと帽子の鍔を下げた。

首を横に振って、NOを示す。


「俺は、バイトに来ただけ」

「知ってる。タカキが宝石に興味持つなんて、あり得ないもんな」


ナイトがそう言った、その瞬間。

さっきの先輩が突然、タカキたちの元に現れた。


「コラー! 新人! 何をサボってる! ここは、関係者以外は立ち入り禁止のはずだ!」

「あ、先輩」

「怪しい奴がいたら、すぐに呼べと言っただろうが!」

「……」


先輩警備員の言葉に、ナイトの眉がピクリと動いた。

いつもの仮面を被りながら、ニコリと微笑む。


「失礼、怪しいと言うのは、俺のことでしょうか?」

「他に、誰がいるってんだ!」

「一応、関係者なものですから」


ナイトが、あるカードを見せると、警備員はピキッと固まった。


「関係……はぅあっ?! そ、そのカードのマークは!!」


ナイトたち含め、警備員全員にも、立ち入りの許可証が配られている。

そのカードを持ち歩いていなければ、例え展示会の主催者であっても、中には入れない仕組みとなっていた。


「大変っ、失礼いたしました!! よもや、関係者の方だとは知らず、とんだご無礼を! ささっ、私が中をご案内しますので、どうぞ、こちらに!」

「え、俺は、ここで構わな……え! ちょっと!」

「遠慮なさらず!! 隅々まで、ご案内致します!」


いきなり手のひらを返した先輩警備員に、ナイトとタカキは圧倒される。

強引に連れて行かれ、気付けば、ナイトの姿は見えなくなってしまっていた。

タカキは、心の中で手を振りながら、持ち場に戻る。


許可証には、三つの種類が存在した。

一つは、警備員やスタッフなどの許可証。これは、カードに青いマークが記載されている。

二つ目は、ナイトが持っていた、赤いマークが記載されたカード。関係者の中でも、スポンサーや、主催者などの、いわゆる「お偉いさん」を示すものだった。

そして、三つめが、一般客の持つ許可証だ。これは、受付で、住所や名前などを登録した上で発行される。

一般客相手と言えども、これだけの厳重な警備をしているのには、理由があった。



「……発見された特大隕石。通称〝金色のパラサイト″」


タカキは壁に貼られている、今回の展示会のポスターを眺めた。

パラサイトとは、石鉄隕石の一種である。石鉄隕石とは、鉄-ニッケル合金とケイ酸塩鉱物が、ほぼ同じ量だけ含まれている隕石のことだ。

ケイ酸塩鉱物の部分が,おもに橄欖カンラン石の結晶となっているもののことを、パラサイト、そして、カンラン石の中でも、宝石と扱われているものを「ペリドット」と呼ぶ。

今回発見された隕石に含まれていたカンラン石は、あまりにも美しく、金色のペリドットと呼ばれ、そこから「金色のパラサイト」と言う名前がついたのだった。


地球では、様々な隕石が発見されている。

だが、隕石の価値については、様々だ。

殆ど価値のないものから、価値がつかない程の高価ものまで存在する。


隕石は、主に、研究者たちの間で売買されることが多い。

一つの隕石から、宇宙の色々な情報を得ることが出来る。

その為、隕石は、いつでも貴重なものとして、研究者たちの間で取引されてきたのだが、今回発見されたこの隕石は、特別なものだった。

宝石ではない石に、これだけの値段がつくことは珍しい。

世界中の研究者たちは、喉から手が出るほど、この隕石を欲しがっていた。


「コーブツは、知ってるのかな、」


隕石も、また、鉱物の一つだ。

ましてや、今回発見された鉱物は、とても珍しいもの。

鉱物が気にしないとは思えなかった。


けれども、コーブツは、ナイトと相性が悪い。

できれば、鉢合わせをしたくなかった。


「そう言えば、昔コーブツに隕石の説明をされたっけ……」


隕石とは、惑星間空間に存在する固体物質が宇宙から落下してきた際に、燃え尽きることなく、残ったもののことを言う。

これだけの大きさで壊れずに残っているのは、奇跡に近い。

何万年も昔に、地球にたくさん隕石が降り注いだ時。

隕石の衝撃波により、大地が破壊された。


近年では、隕石が地球に向かって落ちてくることは、少なくなった。

だが、もし、今の地球に巨大な隕石が降ってくることがあれば、大参事になるだろう。

それが無いとは、言いきれない。


「……」


タカキは、自分の嵌めている指輪を眺めた。


( 仲間に近づいた時や、危険が迫った時には、交信できるようになってるって言ってたよな……、あれが、そうか、わからないけど )



「近づいてみる価値は……ありそうだな」


タカキは、帽子を深く被って、夜を待った。




◇◇◇




「……警備、大丈夫か」


タカキは、真顔で金色のパラサイトの前に立っていた。

ポリポリと頬を掻きながら、後ろを振り返る。

ここに来るまでの間、何人もの警備員に遭遇したが、どれも相手にならなかった。

監視カメラの映像も細工をしておいたので、正直、このまま隕石を盗んでも、バレないような状況だ。


タカキは、明日から、真面目に警備にあたろうと誓った。


「ライト、聞こえる?」


隕石の前で、タカキがそう呟くと、指輪が光った。

そして、宝石の部分から、ライトの声が響く。


『タカキ、タカキ!』

「あ、聞こえる」

『よかった! 強い、物質のエネルギーを感じるわ』

「やっぱり、この隕石かな?」

『どこから来たのかしら……、」

「仲間っぽい?」

『仲間じゃないけど、敵かもわからない......もう少し、近づける?』

「うん」

『待って! 何か、おかしい!』

「!」


タカキが一歩、隕石に近づいた、その瞬間。

隕石の中のペリドットが光り出した。

金色に輝いていた石が、赤く染まっていく。


大きな音を立てながら、隕石は形を変えていった。


「生き物か……?」

『これは、地球の生物じゃないわ……っ!』


隕石は、硬い鎧を纏った、鬼のような姿に変化した。

暗い室内で、赤い鉱物が光る。



「見つけた……、ミネラル戦士」



化け物がそう言い放った瞬間に、ライトは噛みつくように叫んだ。


『ミネラル戦士を知ってる……! じゃあ、お前は、やっぱり!』

「私の名は、鬼紅石きこうせき。全ては、ドローン様の為。お前を捕まえる」

『どうやって、ここへ?! クロノス様がいないのに、時空を超えるだなんて!』

「わからないのか。私は、ずっと地球にいたのだ」

『な、なんですって……』


ライトは、目を見開いた。


「ドローン様は、お前たちが地球に来ることをわかっていた。だからこそ、私たちを地球に残していかれたのだ。ドローン様は、ミネラル星だけでなく、この地球も手に入れ、そして、最後には、宇宙の支配者となる。お前たちには、希望も未来も残っちゃいない」

『ドローンが、地球に残していった? どういうこと……最初から、ドローンは、私たちが地球に来ることを読んでいたの? そんなこと、どうやって……』

「私たちは、時空を超えることはできない。だが、イリコ・マギアの力を使えば、ミネラル星にいるミネラルたちの力を、鉱物を通じて得ることができる」

『そんなはずない! イリコ・マギアの力が使えるのは、ゴッデス様だけよ!』

「馬鹿め。イリコ・マギアの〝欠片″の存在を知らないとでも?」


鬼紅石の言葉に、ライトは目を瞠った。


『……なっ! あれは、ブラックホールに飲まれたはず!』

「ドローン様が、ブラックホールの底から見つけてきたのだ」

『そんな、嘘よ……できるはずない』

「まぁ、お前が真実を知ったところで、何も変わらない。お前には、何も救えないのだ。ミネラル星も、ゴッデスも、そして、己自身も」


タカキは、一人、話についていけていなかった。

イリコ・マギアの存在も、目の前の敵がどのくらいの強さなのかも、わからない。

ただ、わかっているのは、今が、危険だということだけだった。


「安心しろ。お前たち、ミネラル戦士の力は、ドローン様の手によって生かされる。そこにいる地球人の命は、無いがな」


鬼紅石は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

タカキは、咄嗟に構えの姿勢をとる。


一方、ライトは、動揺していた。

指輪の中で凍りついたように、固まる。


「ライト、戦っていい?」

『駄目よ……勝てっこない』

「やってみないと」

『無理よ! まだ、仲間を一人も見つけてないのに!』


いずれ、敵と戦うことになったとしても、他の仲間たちの協力があれば、乗り切れると思っていた。

まさか、一人の内に戦いを挑まれることになるだなんて、思ってもいなかったのだ。


ライトは、ドローンの力を侮っていた。


「人間よ、お前にチャンスを与えてもいい」

「チャンス?」

「あぁ、そうだ」


鬼紅石は、タカキに取引を持ちかけてきた。


「その指輪を渡せば、命だけは、助けてやろう」

「断る」

『タカキ……っ!』


即答したタカキに対して、ライトは首を横に振った。


『ダメよ、渡して! 私のことなら大丈夫だから!』

「大丈夫じゃないのに、大丈夫って言うな」

『今は、そんなこと言っている場合じゃ……っ!』

「わかっているなら、逃げるな」


ライトが指輪の中で叫ぶと、タカキは、指輪に向かって言った。


「仲間なら、ここにいる」

『タカキ……?』

「俺を信じろ、ライト。絶対に、守ってみせる」

「……っ」


タカキの言葉が、ライトの心を動かした。

ライトの目の前に光が現れる。

それは、希望の光だった。


「愚かな人間よ、ならば、死ね」


ライトは震える身体を持ち上げて、鬼紅石に向かって叫んだ。


『私は……独りじゃない!』


その瞬間、指輪が再び光りだす。

鬼紅石は、目を見開いた。


「なんだ、この光は……!」


ライトは、指輪の中で、タカキに指示をした。


『タカキ、今すぐ指輪にキスをして!』

「キス……?」

『そうすれば、力が解放される! 私のミネラル戦士としての力を、貴方と融合させることができるわ!』

「……わかった」


タカキは、素直に頷いた。

チュッと、タカキがキスをすると、指輪から出ている光が、瞬く間にタカキの身体を包み込んだ。


タカキの魂と、ライトの魂が重なる。

すると、タカキの身体に異変が起きた。

タカキの鼓動が、どんどん速くなっていく。

着ていた服は、戦闘服に変わり、力が溢れだしていった。


( ――タカキ、私の後に続いて、唱えて )


脳内で響いてきた声に、タカキは頷く。

シャランと、鈴が鳴っているような音が、辺りに響いた。


「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物! きらめく光の戦士、ミネラル・ライト!」


タカキは、ゆっくりと目を開いた。


「まさか、変身しただと……!」

「お前を、倒す!」


鬼紅石が、タカキのオーラに圧倒され、一歩後ろへと下がった。

静かだった展示会場で、今、戦いが始まろうとしている。


だが、その瞬間。

決め台詞もポーズも完璧に決めたタカキは、ガラス窓に映った自分の姿を見て、固まった。






「……女の子?」



窓ガラスには、美少女が映っていたのだった。








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