表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第七章「ウィリアム・ベリルの××」
48/52

-36

VINヴィン SANTOサントの一角。

不思議な面子が顔を合わせていた。


「と、言うわけで、タカキは暫く連絡がつかないんだと! でも気にするなよ~、その内ひょっこり戻ってって……オイオイ、御曹司の坊ちゃん!」

「俺の携帯に触るな」


言っている先から、タカキに連絡を取ろうとするナイトの携帯を奪う。

クラゲは諭すように目の前の二人に言った。


「だから、タカキは仕事中なんだって! 仕事の邪魔したら怒られるぞ? な?」

「貴方の言っていることが信用できるはずないでしょう。殴られたいんですか?」

「その心配しているタカキが俺のことを信用して連絡してきてくれたんだから、もっと信用してくれてもいいんじゃない?」


クラゲの言葉に、ナイトはチッと舌打ちを鳴らす。

隣にいたコナカは、おろおろしながら、声を発した。


「それにしたって妙です。タカキさんは……その、アルバイトはたくさんしていたと思いますが、大学を休んでまで、バイトをするなんて」

「そうだ! タカキは真面目なんだ! お前みたいな胡散臭いホームレス男の言う言葉なんて……ハッ!」

「ん? どうした、坊ちゃん」


そこまで言って、ナイトは気づいてしまった。

出逢った時は、鳥ガラ体型のみすぼらしい恰好をしていたクラゲだが、今では完璧にスーツを着こなし、髪型もオールバックにし、髭もしっかり剃られている。

ホームレスどころか、御曹司だと言っても信じられそうな姿をしていた。


「チッ、だが、胡散臭さは増したな。ついでに性質の悪さも追加だ」

「まぁ、まぁ。でも、現にタカキには連絡繋がらなかっただろう? 何度も連絡して、困るのはタカキだ。アイツのことだから、仕事が終われば、何でもない顔して戻ってくるさ」

「……でも、タカキから何の説明もないのに、このまま黙っているなんて、」

「もし、変な事件に巻き込まれてたらと思うと、怖いんです……」


コナカとナイトがなかなか納得しないので、クラゲはやれやれと頭を掻いた。


「アンタらも、相当タカキが好きなんだな」

「なっ! す、好きだなんて! そんな!」

「当たり前だろう? 何言ってんだ」


ボソッとクラゲが呟くと、目の前のコナカは、真っ赤に顔を染め、ナイトはケロッとした顔で答えた。

その姿を見て、コナカの方は自覚しているが、ナイトの方は無自覚なことを知ってしまったクラゲは、面倒な気配を察知したため、気付かないふりをした。


「大丈夫だって! マジで、俺はタカキのことに関しては、嘘はつかないから。タカキは暫くしたら戻ってくるし、その時、タカキに本当のことを聞けばいい。でも、今アイツに連絡すんのだけはやめてやってくれ。アイツは大丈夫だから。それだけは保障する」

「……わかった」

「ナイトさん?!」


意外にも先に頷いたのは、ナイトの方だった。

絶対最後まで納得しないだろうと思っていたクラゲは、意外だと驚く。


「これ以上話していても意味がない。それに、タカキの着信がコイツの携帯に残っていたのも確かだ。タカキから最後に連絡を受け取ったのが、この男なら、今は大人しくしているしかない」

「ありがとうよ、ホッとしたぜ」

「だが、二週間の約束だ。それ以上タカキから連絡が無い場合は、俺の全権力とセブキの名にかけて、徹底的にタカキを見つけだしてやる。いいな」


ナイトの本気の眼を見て、クラゲは乾いた笑いを浮かべた。


「はいはい、お好きにどうぞ。そちらのお嬢ちゃんは?」

「私も……心配ですが、このまま待機しています。でも、何かあれば地球のどこにいても、すぐに駆けつけますから……!」


真っ直ぐな視線を受けて、クラゲは口笛を吹いた。


「うちのタカキは随分と人気者だなぁ~」

「誰がアンタのタカキだ。今ここで抹殺してやろうか?」


ナイトがフォークをクラゲの眼の前につきつける。

クラゲは両手をあげて、笑った。


「ははは、坊ちゃんに、そんな言葉は似合わねーぜ?」

「その坊ちゃんという呼び方も、この際正してもらおうか」

「言っておくけど、俺、拳銃で撃ったくらいじゃ死なないよ」

「なら、心臓を抉り取ってやる」


ナイトが吐き捨てるように言うと、クラゲは楽しそうに喉を鳴らした。

それを見て、コナカは「悪趣味」だと顔を呆れさせる。


「冗談だ。アイツは、まだ誰のものにもなっちゃいない」

「当然だ。タカキは、フリーだ」

「フリーね。じゃあ、あの指輪の相手のことは気にしていないのか?」

「あれは……ッ」


指輪のことをナイトだけが知らなかった。

コナカは、マリンからあれがライトの媒体だと聞いて知っている。

だが、これをその場でナイトに教えるわけにはいかない。


「タカキは、知り合いから貰ったって言っていた……」

「知り合いね~」

「でも、恋人じゃないとハッキリ聞いた」


タカキは嘘を言わない。

だからこそ、その言葉を聞いて、ナイトは無理やり納得したのだ。


「タカキは、アクセサリーが好んでつけたりはしない。だから、あの指輪をつけたのには、絶対に何か理由がある。だけど、それをタカキは言いたがらないから、俺は聞いていない……」

「独占欲が強い癖に、結構尽くすタイプなのな」

「何が言いたい」

「不器用って言いたいの。はぁ~……若者って、傍から見てると楽しいね。ジェットコースタは眺めているのが一番わくわくするってやつ」

「お前、性格最悪って言われないか?」

「え? 俺の性格? イイ性格だねってよく褒められるぜ?」


ナイトは、呆れたように溜息を吐いた。

コナカは苦笑しながら、クラゲに向き直った。


「あの、クラゲ……さんは、タカキさんと今でも連絡が取れるんですか?」

「いや、もう取れないよ。正確には、多分俺が電話したところで繋がらないと思う」

「どうしてですか?」

「電波の届かないところにいるんだろう。地下なのか、森の中なのか知らないけどな」

「そっか、電波のないところなら、確かに携帯も繋がらない」

「突然決まったバイトらしい。だから、全員に連絡することができなかったんだよ。それで、周りの奴等と唯一面識のある俺を選んだってわけ」

「俺は、アンタと面識があった覚えはないけどな」

「二度会えば、友達って言うだろう? それに、君に連絡したところで、俺やコナカちゃんのところにまで、情報を伝えにくるとは考えにくい」

「うっ……」

「だから、俺にしたんだと思うよ」

「間違っていないだけに、胸が痛い」


ナイトが密かに落ち込んでいると、タレメ先輩がやってきた。

机の上にオマケのクッキーを出しながら、ニコリと微笑みかける。


「コナカちゃん、今日は人気者だねぇ」

「いや、そういうわけじゃ……!」

「それにしても不思議な顔ぶれだね。これは、何の会なんだい?」


先輩の言葉を聞いて、コナカは、首を傾げながら答えた。


「……えっと、タカキさんの会でしょうか?」

「え、そうなの?」

「全員に関係していると言ったら、そこしか」

「へ~、また面白いことになってるね」

「はは、はははは。面白くは……無いかと」


コナカは苦笑しながら、仕事に戻るタレメ先輩に手を振った。


「あの姉ちゃん、スレンダー美人だな」

「ダ、ダメですよ! タレメ先輩には、もう、相手がいるんですから」

「ほう、大丈夫だよ! 俺、年下は範囲外だから」

「それ……嘘に聞こえます」

「ええ~、本当。本当。俺が年下に手を出す悪い大人に見える?」


コナカとナイトは、大きく頷いた。

否定の有無を与えさせないほどに。


「さて、要件は済んだことだし、解散するか!」

「ったく、さっさと帰……ん? 伝票はどこに?」


ナイトが伝票を探していると、クラゲはひらひらとレシートを見せながらウィンクした。

ぞわっ、とナイトの背筋を気持ち悪さが走る。


「ここはオジサンの驕りな」

「ふざけるな! お前に借りを作るつもりは……!」

「だから~、オジサンのお茶に付き合ってくれたお礼っつーわけで」

「俺は好きで付き合ったわけじゃ……っ! あ、待て!」


言い逃げをして、さっさと店から出ていったクラゲを、ナイトはいつまでも苦々しい目で睨んでいた。




◇◇◇




その夜、とあるFS内。


「と、言うわけなの、マリンちゃん!」

「なるほどねぁ。事情はわかったわ、コナカ。……でもぉ」


マリンは、コナカの頬を左右に引っ張りながら、言った。


「私のことは、マリンって呼び捨てにしてって何度も何度も言ったわよねぇ?」

「いひゃい、いひゃい! まりん! わひゃったから!」

「よし、わかればいいのよ」

「ちゃんと、普段は、マリンって呼んでるよ? たまに、ちゃん付けに戻っちゃうだけで……」

「だ~か~らっ、戻らないように、こうして苛めているんでしょ?」

「痛いってばぁ~~! っもう~~~~!」


コナカが涙ながらに抗議すると、マリンはパッと手を離した。


「タカキさんがどうなっているかはわからないけど、その調子だと、ライトお姉さまのところに行った方が早いかもしれないわ」

「え? ライトさんのところに行けるの?」

「行けるわ。FSは繋がっているもの。だけど、あくまでも他人のスペースの中に行くわけだから、それなりに体力を使うわ。いつもは朝までコナカもこっちにいれるけど、ライトお姉さまのところに行くなら、せいぜい二人とも、もって一時間が限界ってところじゃないからしら」

「じゃあ、その間に説明しないといけないんだね」

「えぇ。でもライトお姉さまのことが心配だから、いくわよ」

「もちろん」


そう言って、マリンは、自分の足のアンクレットを叩いた。


「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物 鳴り響く雷の戦士、ミネラル・マリン!」


力を解放させると同時に、マリンは、身体中の気をアンクレットに集中させた。

すると、マリンの身体中の鉱物たちが反応する。

次々に光だし、マリンの身体を、たくさんの光が包み込んだ。

マリンの身体が、地面から少し宙に浮く。


「へっ?!」

「コナカ、私にしっかり抱きついてて」

「えぇ?! わ、わかった」


いきなり腕を引っ張られたコナカは、ドキドキしながらも、マリンの腰に手を回した。

マリンのポヨンッとやわらかい胸に、コナカの顔が当たる。


「私たちを、光の戦士、ミネラル・ライトの所に……!」


マリンが地面を蹴った、その瞬間。

二人の身体が、FS内から宇宙空間のような場所まで飛ばされた。

空間を彷徨いながら、二人は必死にお互いの身体を掴んだ。

風圧で、身体が弾け飛びそうになる。


「あと……すこ、し……っ――!」

「く、るし……ッ」


その時、目の前に光が見えた。

穴から、ポンッと抜け出すようにして、飛び出すと二人の視界が一気にクリアになる。


「え、」

「ライトお姉さまーーー!!」

「キャーっ!! 落ちるぅ!!」


ライトが見上げると、そこには二人の見慣れた顔があった。


「えっ、マリン?! コナカちゃん?!」


音を立てて落ちてきた二人の元に、ライトは慌てて駆け寄った。


「ちょっと、ちょっと、大丈夫?!」

「ライトお姉さまぁん!! 会いたかったぁ!!」

「少なくとも、アンタは問題なさそうね。コナカちゃんは?」

「いてて、大丈夫れす」


頭をおさえながら、現れたコナカを見て、ライトは驚いたように首を横に振った。


「どうしたの? と言うか、此処に来るなんて、何かあったの?」

「ライトお姉さまに会いたくて」

「マリンったら! そうじゃないでしょ!」


コナカが突っ込むと、マリンは渋々ライトから手を離した。


「何があったの?」

「タカキさんのことなんですが……」

「タカキに何があったか知ってるの?!」


コナカの言葉に、ライトは飛びつくように言った。

その反応から、ライトも何も知らされていないことを知る。


「お、落ち着いてください。タカキさんは大丈夫です。何でも、急なバイトが入ったらしくて、しばらく忙しいみたいで」

「バイト?」

「はい」

「でも、おかしいのよ。いくらバイトがあっても忙しくても、夜は眠るはずでしょう? タカキは夜眠る時に、このFSまで来てくれるの。それなのに、ここのところ三日も、何の音沙汰も無くて」

「眠る暇もないくらいに忙しいバイトなんでしょうか、」

「何のバイトをしているかは、知らないの?」

「はい。私は、クラゲさんという方から、タカキさんがバイトで二週間ほど連絡が取れなくなるということしか聞かされていないので。クラゲさん曰く、タカキさんから電話で、『大丈夫、二週間後には戻る』って言われたらしいのですが……詳しくは何とも、」

「クラゲさんって、あの人のことね。あの人、何者なのかしら」

「わからないです……でも、タカキさんが彼に電話をしていたのは間違いなくて」

「そうなんだ。タカキのことだから、多分理由があると思うんだけど」

「私もそう思います!」

「そうよね。じゃあ、大人しく待つしかないかしら」


ライトはそう言ったが、その顔は少し悲しげに歪んでいた。

それを見た、マリンがライトの手を取る。


「そんなお顔しないで、ライトお姉さまっ! マリンが外の世界で探してきてあげるから!」

「ちょっと、マリン!?」

「だってコナカも気になっているんでしょう? せめて、どこで働いているかぐらいは突き止めてもいいじゃない。それにいつ敵が襲ってくるかもわからないのよ? 状況は把握しておくべきでしょ」

「それは……そうかもしれない、けど……でも」


コナカが、悩んでいると、ライトが言った。


「マリン、調べなくても大丈夫よ」

「え?! なんでですか、ライトお姉さま!」

「だって、タカキは、大丈夫って言ったんでしょう?」


ライトの言葉を聞いて、コナカも不思議に思いながらも頷いた。


「クラゲさんの話では、そう言っていたそうです」

「なら大丈夫よ、タカキの大丈夫は、絶対大丈夫だもの。それに、危険が迫ったら、私の方が外に出られるし、タカキも私を呼んでくれるはずだから」


二人の強い絆を見せられたコナカは、グッと手を握りしめた。

だが、ライトの言う通り。

今ここで、詮索するのは、タカキを信じていないことになる。


「そうですね。今は、タカキさんを信じて待ちましょう。何かあれば、私たちが、守ればいいんです」

「コナカまで……はぁ、二人がそう言うなら、仕方ないですね。今回ばかりは、大人しくしておいてあげます」

「いい子ね、マリン」

「はうんっ! ライトお姉さまぁーっ!」

「もう! すぐ、抱きつかないの! あ、コラ! どこに手を! マリンーっ!」


コナカは、ぎゅっと目を瞑って開いた。

今は、心乱されている場合ではない。


「タカキさんの為に……私もできることを頑張らなくちゃ」


そう覚悟を決めたコナカは、FSの宙を見上げながら、ニコリと微笑んだのだった。





















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ