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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第七章「ウィリアム・ベリルの××」
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-32

「お邪魔します」

「おう、いらっしゃい」


久しぶりにマンションに来たタカキを、クラゲは嬉しそうに迎える。

クラゲは、タカキから手土産のパウンドケーキを受け取ると、流れるような動作でタカキを部屋の中へとエスコートした。


「久しぶりだなぁ、タカキがこうして家に来るのも」

「少し、共有したい話があって。それに……」

「それに?」

「クラゲさんのコーヒーが飲みたくなった」

「ん、大歓迎。今コーヒー淹れるよ」


タカキはキッチン前のカウンターに腰掛ける。

上機嫌にコーヒーを淹れるクラゲさんを見ながら、タカキは部屋の中を見渡した。


「クラゲさん、体格良くなってきたね」

「前よりは太ったぜ?」

「筋肉は重いから」

「まぁな。お陰で少しスーツが見栄え良くなった」

「ナイトが、クラゲさんモテモテだったって言ってたよ」

「女性にモテんのは、悪い気はしねーな」


コポコポと心地よい音が流れる。

タカキは耳を澄ましながら、クラゲを見上げた。


「はい。出来た。じゃあ話しを聞こうか?」

「うん。でも、その前に……出てきても大丈夫だよ?」

「ん? この家には、俺とお前しか、」

「クロちゃん、何処かにいるんでしょ?」


タカキの言葉に、クラゲは目を細める。

流石に、誤魔化せないかと腹をくくった。


「ヒュ〜、驚かされるぜ。出てこいよ」

「……」


クラゲがそう言うと、リビングの奥の扉を開けてクロノスが入ってきた。

クロノスとタカキの視線が絡み合う。


「気配は、完璧に消えてたはずだぞ?」

「わかるよ。だって、前に来た時より、生活用品が増えてるし、物も低い位置に配置してある」

「あー……そこかぁ、流石すぎて何も言えないわ。こっち来て座れよ」


クラゲに手招きされ、クロノスはカウンター席まで来ると、タカキに補助されながら、高い椅子に腰かけた。


「それで? 本題は?」

「この間、ナイトの家に言ったら、ダイヤモンドの怪物と遭遇したって言えば、だいたいはわかってくれる?」

「把握した」

「クロちゃんの事は、何となくこっちもわかってるから、敢えて口に出さなくていいところは省略していこう。大丈夫、ライトも今はFSにいて、こちらには出て来てない」

「そう、よかった」


クロノスが頷くと同時に、タカキもまた頷いた。


「全てに答えれるかわからないけれど、できる限り話すわ」


クロノスの言葉を聞いて、クラゲが柔らかな声で言った。


「いいのか?」

「この子の目に、誤魔化しは効かないもの」

「そりゃあ、タカキだからな!」

「なんで、クラゲさんが嬉しそうなの?」

「友達を褒められたら、嬉しいに決まってるだろ」

「そっか」


タカキは納得すると、クラゲの淹れたコーヒーに口をつけた。

相変わらず、クラゲの淹れたコーヒーは美味しい。


「クラゲさんの言っていた『怪物の出てくる正夢を見る』友達って言うのは、クロちゃんのことであってる?」

「えぇ、そうよ」

「ライトには、まだこの話はしていないんだ」

「配慮に、 深く感謝するわ」


クロノスの言葉を聞きながら、タカキはベッと舌を出した。


「それにダイヤモンドと装備無しで戦ったことがバレたら、ライトに怒られそうだから」

「タカキでも怒られたくないとか思うんだな」

「怒られるのは、みんな嫌だと思う」

「どちらにせよ、黙ってて貰えたのはありがたいわ。それで、タカキ少年の知りたいことは?」


タカキは指を3つ立てて言った。


「ここ最近、気になっているのは三つのことだ。一つ、ダイヤモンドの言っていた事。二つ、灰簾かいれんの言っていたこと。そして、もう一つ。事件が俺の周りで集中している不可解な点についてだ」

「一つずつ、紐解いて行きましょう。まずは、ダイヤモンドの件について。彼女は何と言っていたの?」

「俺は、悪のドローンの手下をビー。ミネラル星に住んでいる住民たちのことはミネラリアンと呼んでいる。そこから、ミネラル星で、ビーに乗っ取られたミネラリアンは、ミネアンビーと呼ぶことにした。ミネアンビーは、地球にある同じ鉱物にイリコ・マギアの力を使って、体を共有し合う事で、地球で怪物として暴れている。だけど、ダイヤモンドは違った。彼女にビーは入り込んではいなかった。つまりは、自らの意志で、地球に来たと考えられる」

「イリコ・マギアの力があれば、単体のミネラリアンが地球にいる鉱物体と意識を結ぶことも可能な話だわ」

「じゃあ、どうして、ダイヤモンドが地球へ来たのか。そして、何故、俺を含む地球人をあれだけ憎んでいたのか、だ。彼女は自分のことをアダムスと言っていた。アダムスは、ミネラル戦士が人間に取り込まれていると勘違いしている。だが、かつて、そんな事件があったような言い方だった。『人間に取り込まれたミネラル戦士は星を捨てて、人間の配下に陥る。また、私たちから奪おうと言うのか』そう、アダムスは言っていた」


タカキの言葉を聞いて、クロノスは一瞬躊躇うように眉を寄せた。


「……彼女の言う通り、かつて、ミネラル星が襲われた時、先代のミネラル戦士が人間に取り込まれたことがあったの。最恐の戦士となった人間は、地球に戻って、地球を征服しようとしたわ。だけど、それは失敗に終わった」

「どうして?」

「先代のミネラルクイーンがイリコ・マギアの力を使ったからよ。それにより、人間とミネラル戦士は分裂し、人間たちは宇宙の塵となった。ミネラル戦士たちは、意識を取り戻したものの、戦士としての力は失っていたわ。大きな代償はあったけれど、ミネラル星の平和は、その力によって守られたの」


タカキはグッと拳を握りしめる。

人間がミネラル星を襲ったことは、間違いのない事実だった。

そのことが、タカキの心を痛める。

クロノスの言葉を聞きながら、タカキはいくつも考えを巡らせていた。

それを見ていたクラゲが、横からタカキの顎を掴んで、無理矢理顔をあげさせる。

その口に、クッキーを詰め込んで、ニッと笑った。


「はいはい、難しい顔すんな~。昔の話だ。ましてや、お前のせいじゃない」

「ふらへはん……っんぐ。美味しい」

「甘いもん食いながら、気楽に話そうぜ。これは雑談なんだからさ。今、パウンドケーキも切るから待ってろ」


クラゲにウィンクされ、タカキは、自分が気を張っていたことを反省した。

緊張の解けた顔で、クロノスに向き直る。


「話しの続き、してもいい?」

「もちろんよ」

「昨日、灰簾かいれんがプリンセスの為だと言っていた。ミネラル星にクイーンがいるのは知っていたけれど、プリンセスの話は聞いたことがない。これは、ライトに聞いても平気な話?」

「おそらく聞いたところで、何もわからないはずよ。本来、ミネラル星にプリンセスはいないもの」

「じゃあ、プリンセスって誰のこと?」

「それは、私の口からは、まだ話せないわ」


クロノスが申し訳なさそうにそう言うと、タカキはその頭を優しく撫でた。


「わかった。じゃあ、この話は、また今度。もう一つだけ、質問してもいい?」

「えぇ、大丈夫よ」

「ライトが落ちてくる時に、ミネラル戦士はバラバラに落ちていったと言っていたんだけど、実際はこの街に集中して来ている気がするんだ。宇宙から落ちてきたことを考えると他国に落ちていても不思議ではないのに、こんな狭い範囲にバラバラに散ることには何か意味があったんだろうかと思って」

「それに関しては、イエスよ。正確には、この位置を決めたのは私。そこまで細かく範囲は指定出来なかったから、あくまでも目的地は「日本」にしていたわ。あとは運に任せて、戦士たちを散らせたの。失敗して少し離れたところに落ちてしまった鉱物たちもいるわ。ライトのようにね」

「ライトは、俺の友人のコーブツが角島の祠で見つけてきたんだ」

「それも偶然。だけど、必然だったの」

「俺の周りでことが動いているのも、必然?」

「えぇ、そうよ。それと、この街だから鉱物が暴れているわけじゃ無いわ。この街にはタカキ少年とライトがいる。だから、みんなそのエネルギーに引き寄せられて来ているのよ」

「それなら、納得だ」

「納得できるの?」

「できるよ。人生に起きる出来事は、全て意味がある。つまりは必然。そう師匠が教えてくれた。その時だけの感情で、事の良し悪しを決めるなってね。今は不幸だと思って居るものも、未来では宝物に変わるかもしれない。だからこそ、未来を諦めるなって言ってくれたんだ」


タカキの言葉を聞いて、クロノスは、穏やかな表情を浮かべた。


「いい師に出会えたのね」

「アズマ師匠って言うんだ」

「すっげぇ、熱血な人だぜ。タカキとは大違い」

「クラゲも知っているのね」

「まぁな。俺も同じ学校だったし。俺のところはサクヤって言う、女の先生だったけど……先生っつーか、ありゃあ魔女だな」

「怒られるよ? あの人地獄耳だから」

「やめろよ、マジで怖いだろ? 泣くぞ?」


クラゲがぶるぶると震える真似をする。

だが、本気で怖がっていた。サクヤ女帝はドラゴンを操る、最強の女性だ。

その美貌から、落とした男は数知れず。そして散った男も数知れず。

命がいくつあっても足りやしないと、生徒から恐れられる伝説の女教師だった。


「強いの?」

「強いんじゃね? ぶっちゃけ、俺が現役の頃でも一度も敵わなかったし」

「俺も、アズマ師匠には一度も勝てなかったな」

「二人が勝てないなんて、相当なのね」

「アズマ師匠、サクヤ女帝、ジョージ閣下の三人だけで、マジで地球征服できるんじゃね?」

「興味ないからしないと思う」

「だな。あの人たちが悪じゃなくて、本当にラッキーだったよ」


Heavens Collegeで、生徒達に教える教師は他にもいるが、この三人は三つの寮を統べる教師陣だった。

よって他の教師よりも特別だったのだ。

圧倒的な力でカリスマ性を誇る、Heavens Collegeの柱的存在。

それが、彼らだった。


「ぶっちゃけ、怪物と戦う時に、あの人たちの力あれば百人力なんじゃね? って思う」

「師匠一人で、灰簾かいれんクラスの敵なら、1000体でも倒せると思う」

「サクヤ女帝も同じだな」

「でも、同時に街が凄いことになると思う」

「同感だ。あの人たち大人げないし、何より加減ってものを知らないからな」

「そうなの?」


クロノスが不思議そうに首を傾げたので、クラゲは、ちょいちょいっとクロノスを手招きした。


「ん、俺の記憶とタカキの記憶、ちょっと覗いてみ?」

「いいの?」

「タカキ、アズマ師匠の授業の時の記憶、ちょっと思い出してみてくれ」

「わかった」


タカキが思い出していると、クロノスは、大きく目を見開いた。

続いて、クラゲもサクヤ女帝とのやり取りを思い出す。

クロノスは、小さな声で、呟いた。


「……生きてて何よりだわ」

「はは、ありがとーさん」

「一応授業だから、死人は出ないように配慮されてたらしいよ」

「一命を取り留めるレベルだろ、それ」

「生きろ! が、学校の教訓だったからね」

「今でもあの化け物学校が続いてるのが、本当に不思議でならん」


Heavens Collegeは、毎年世界中から生徒が受けに来る、名門中の名門校だ。

中でも、特別な能力を持ったギフテッドチャイルドたちは、その才能を活かし、世界の中枢で働いている。

その中では、タカキやクラゲは、異例中の異端児たちだった。


「こう見えて、サクヤ女帝には気に入られてたんだぜ?」

「クラゲさん、不良だったんでしょ?」

「おう。逃げ出してばっかりだったけど、看守を突破するなんてやるじゃん!って褒められてた」

「サクヤ女帝らしいね」

「だから、俺もあの人のことは嫌いじゃなかったんだよなぁ」

「俺も、アズマ師匠にはお世話になったな」

「タカキも気に入られてたんじゃね?」

「あの人は、自分の寮生みんな愛してる人だったよ」

「あ~~~~愛とか普通に言っちゃう系だったな、確かに。熱血で、暑苦しくて、俺は無理だったけど……でも、あぁいう馬鹿みたいに真っ直ぐな教師は、他にいねーと思うよ」

「うん。誠実だった」

「タカキに言われるぐらいだから、世界一だわ」

「二人とも、恩師が大好きなのね」


クロノスの言葉を聞いて、タカキとクラゲは、顔を見合わせた。


「本人には、言ったことないけどな」

「次会ったら、言ってみる?」

「よせよ、もう二度とドラゴンに巻き込まれて窒息死しそうになるのはごめんだ」


クラゲの言葉に、タカキはクスッと笑った。


「クロちゃん、たくさん教えてくれてありがとう」

「いいの? 肝心なことは聞いていないでしょ?」

「最初に言ったけど、お互いに何となく話していないことは、話さないままでもいいと思う」

「私のこと、信用してくれるの?」

「もちろん。信じるよ」


あまりにもすぐに答えられたものだから、クロノスもそれ以上は何も言わなかった。

タカキが信じるというのだから、そうなのだろう。

不思議な子だと、クロノスはタカキを見て思った。


「私には、全てが見えているわけじゃないけれど、何となく見えている世界があるの」

「未来や過去?」

「それも、そうだけど……運命もそうよ」

「運命……か」

「タカキがライトと出会ったのも運命。そして、運命は、運ばれていくわ。決まっている未来へと」

「その未来は、もう見えてるの?」

「変わりつつあるけど見えてるわ。決して、生易しい道ではないけれど、貴方の進む道は、必ず先に光がある。そのことを忘れないで」


クロノスの言葉を聞いて、タカキは静かに目を閉じた後に、ゆっくりと瞼を開けた。


「わかった。光があるなら大丈夫。光のある方に、俺は向かって行くよ」


暗い道だと、どちらに進んでいいのかわからなくなる。

だけど、光は、いつでも傍にあるわけじゃない。

暗い道に入った時にこそ、光が消えてしまうことだってある。

そのことをタカキは、良く知っていた。

だからこそ、光があるのなら、迷うことは無い。


「困ったら、私を頼って」

「俺もな! タカキの為なら飛んでくぜ」

「ありがとう、二人とも」


タカキがお礼を言うと、クラゲさんはパンっと手を叩いた。


「さて、と! 堅苦しい話も終わった事だし、映画でもまったり見ようぜ」

「映画……と言うか、これ全部舞台のDVDだね?」

「いやぁ、タカキの大学祭に行ってから、クロ……っちゃんとハマっちゃってよ〜〜!」

「俺もミュージカルとか舞台好きだよ」

「じゃあ、今日はこれ見ようぜ!」


キラキラと目を輝かせたクラゲとクロノスの姿を見て、タカキは優しく微笑みながら、頷く。

この素敵な時間が、もっとゆっくり流れることを、心の中で祈ったのだった。








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