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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第七章「ウィリアム・ベリルの××」
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-31


ーーFS内。

いつもの様に、作戦会議中だったが。


「ターカキ?」


ライトは、心配そうにタカキの顔を覗き込んだ。


「タカキ? どうしたの?」

「……! ごめん、何でもない」

「今のタカキ、何でもないって顔してないわよ?」

「大丈夫。それより、話を中断させて、ごめん」


タカキが何でもないように話しを戻そうとする。

だが、ライトはその顔を見て、ムッと眉間に皺を寄せた。


「それよりって何よ!」

「ライト?」

「タカキの大丈夫は、絶対に大丈夫なんだって信じてるけど、心配するのは自由でしょ! それに大丈夫か、大丈夫じゃないかじゃなくて、問題は、タカキが今、悩んでいるっていう事よ!」


ライトのその言葉を聞いて、タカキは驚いた。


「大丈夫だとわかっているのに、心配するの?」

「当然よ。結果的に大丈夫になったとしても、そこに行きつくまでに、タカキが頑張ることには変わりないでしょ?」

「そんな考え方もあるのか……勉強になるな」

「タカキ?」

「ありがとう、ライト」


タカキがふわりと笑うと、ライトは、顔を真っ赤にさせた。

時々、ふわりと笑うこの笑い方が、ライトは大好きだった。


「うぅ、胸が」

「痛いのか?」

「キュンキュンする」

「ズキズキとは、違うのか?」


ライトの体調を気遣って、その肩に手を置くタカキだったが、心臓が口から飛び出そうなライトにとっては、逆効果だった。


「タカキは、こんな風に、心臓が速くなることとかって無いの?」


ライトが恐る恐る尋ねると、タカキは、一瞬考え込んだ後、コクンと一度頷いた。


「ある」

「そうよね、無……あるの?!」


今までの真っ赤な顔が打って変わったように、ライトの顔色が真っ青になる。

ガバッと顔を起こして、今度はタカキの肩をライトが揺すった。


「ど、どんな時?! 誰といる時?! 最近なったのは、いつ?!」

「落ち着いて、ライト」

「いいから、教えて!!」

「……最近なったのは、文化祭の時かな」

「ハッ! あの時ね?! 誰?! ミキちゃん?! それとも、コナカちゃん?!」

「二人とも違うよ」

「じゃあ、誰?!」

「……今は、もう、そう呼んだらいけないんだろうけど、俺の兄の話が出た時だよ」

「兄?」


タカキは、自分の名前をライトに話した。


「俺の正式な名前は、タカキ・ファントム・ベリルって、言うんだ」

「ファントム・ベリル?」

「日本で言う苗字とか、セカンドネームのこと。ベリルが苗字」

「そうなのね」

「兄の名前が、ウィリアム・ベリルって言うんだけど、今日本に来ているらしくて」

「あら! タカキのお兄さん! 会ってみたいわ!」

「でも、それができないんだ」

「どうして?」

「俺、あの人に凄く嫌われてるから」


タカキの言葉を聞いて、ライトは心底驚いた顔をした。


「タカキを嫌う人なんて、この世にいるの?」

「いっぱいいるよ。小学生の時までは、友達も一人もいなかったし、たくさんの人が俺を嫌っていた」

「嘘……」

「本当だ」


タカキの言葉を聞いても、ライトは信じられなかった。


「なんで、タカキが嫌われるの?」

「理由はいっぱいあっただろうけど、一番は愛人の子だったからだろうな」

「愛人? 愛してる人の子なのに悪いの?」


タカキの説明を聞いて、ライトはキョトンとした顔で答えた。

タカキは、それに苦笑する。


「父さんには婚約者がいた。だけど、母さんと子どもを作ってしまった。母さんを逃がすことを条件に、父さんはベリル家に戻った。だけど、ベリル家の当主だったフライヤお婆様が、俺が生まれた瞬間に、母さんから俺を奪ってきてしまったんだ。当然、父さんは怒りに狂った」


フライヤお婆様が約束なんて、守る人ではないと知っていたはずなのに。

それでも一縷の望みに賭けて、信じてしまったことを、タカキの父は死ぬほど悔いた。


「母さんの消息は、そこで途絶えた。多分殺されたんだろうって話は、俺が物心ついた時に、使用人達の噂話で聞いた」

「そんな……っ」

「俺が生まれた時には、父さんには、他に妻と子供がいた。子どもは父さんの精子を体外受精させて無理矢理産ませた子だった。つまりは、父さんの遺伝子がちゃんと受け継がれている。でも、表向きには、奥さんの連れ子として発表されていたんだ」

「どうして?」

「結婚を発表する前に産まれてしまっていたから」

「お父様は、それで、よかったの?」

「良くは無かったと思うけど、選べる道が無かったんだと思う。俺が来てから、今度は俺を使って父さんを脅すようになったみたいだけど、聞いた限りだと酷かったみたい。だけど、そんな日も、そう長くは続かなかった。気付いたら、ベリル家から父さんの姿は消えていた。死んだのかも、逃げたのかもわからない。だけど、もう一生会えないということだけは、フライヤお婆様から聞かされて知った」


ライトはタカキの言葉から、残酷な映像を読み取った。

言葉にできないほどの出来事が、そこにはあったのだ。


「タカキは、そこで幸せな生活が……送れてないわよね」

「幸せではなかった。けど、そんな中で、転機が起こった。ベリル家にも、女の子が生まれたんだ。そして、それと同時に、俺の価値は0になった」

「なにそれ?! タカキの価値がゼロになっただなんて、あり得ないわ!」

「ベリルの後継には、どうしても女の子が必要だったんだよ。でも、俺も兄も男だった。遺伝子を途絶えさせるわけにはいかなかったから、必要だっただけで、女の子が生まれれば、俺にも父親にも役目は無くなるってこと」

「そんな酷い話ある…?」


ライトは、首を横に振りながら、ショックを受けていた。


「彼女が産まれた時には、俺も色々自由に動ける知識を手に入れていたから、家から逃げて、母さんの生まれ故郷の日本に逃げ込んだんだ」

「え?! タカキって、家出してたの?!」

「うん」

「追いかけられなかった?!」

「正直、要らない存在が自分から消えてくれたんだから、向こうからして見れば手間が省けたんだと思う。そのまま見過ごされたよ」

「そう……それは、それで嫌な話ね」


ライトの顔がどんどん曇っていくので、タカキはその頭をポンポンッと撫でた。


「ここまでにしとこうか」

「ううん、ダメ。聞かせて欲しいの。ごめんなさい、私が悲しい顔をして……でも、当時のタカキのことを考えたら、凄く悲しいの」


ライトは、グリグリとタカキの胸に額を押しつけた。


「ありがとう、俺のこと思ってくれて」

「タカキは、日本に来て、大変じゃなかったの?」

「大変なこともあったけど、日本ではたくさんの人が支えてくれたから。コーブツとか、瞳さんとか。あと、ここの管理人の山田さんにも凄くお世話になった」

「そう……タカキが、日本に来て幸せだったなら、よかった」

「日本に来たのは、正解だったよ。今、凄く幸せだから」

「うぅ! それなら、よかった……! 本当に、よかった!」


ライトは、タカキに抱きつきながら、そう言った。

タカキは、ライトの頭を撫でながら、優しく答える。


「ウィリアム・ベリルは現当主だけど、最終的に、ベリル家を統べるのは、妹のアリーヤ・ベリルになっている。ベリル家は、代々、女が総当主になるものなんだ。今は、アリーヤが幼いから、一時的に兄が当主になっている」

「妹さんは、おいくつなの?」

「まだ、6歳か、7歳だったと思う」


アリーヤは、まだ幼すぎた。

だからこそ、フライヤは、ウィリアムを当主にさせたのだ。

だが、タカキの言う通り、それは一時的なものにしか過ぎない。


「お兄さんは、辞めたらどうなってしまうの?」

「兄は優秀だし、ベリル家の顔として、今は国内外でも有名になっている。おそらく、当主を辞めた後は、フライヤお婆様の決めた先に進むんじゃないかな」

「やりたいことは、やれないの?」

「フライヤお婆様の元では、それはできない」

「そんな……」

「もしかしたら、兄もそれを望んでいないのかもしれないけど、心の中までは、俺にもわからない。俺は、あの人のこと、キライじゃないんだけどね」

「どうして、意地悪されたのに、タカキはお兄さんのこと嫌いにならなかったの?」


ライトの質問に対して、タカキは、過去を思い出しながら、ライトに話した。


「ベリル家は、恨まれることも多かったんだ。兄は小さいころから、色々なパーティーに連れて行かれていて、そこで、運悪く刺されたことがあった」

「刺されたって、」

「そこまで深くは刺さっていなかったから、命に別状はなかったんだけど、襲われたことが初めてだった兄は、身体よりも心が傷付いてしまったんだ。そのせいで、夜に何度も魘されていた。だから、夢で魘されている兄の傍に行って、何度も頭を撫でたんだ。そうしたら、兄は目を覚ましたけど、俺を突き飛ばしたりはしなかった。涙をボロボロ流したまま、何も言う事は無かったけど、俺がそこにいるのは許してくれたんだ」

「タカキは、その後どうしたの?」

「ずっと、兄の頭を撫で続けてた」

「朝まで?!」

「うん」

「なんで?! それじゃあ、今度は、タカキ眠れないじゃない!」

「その歳の頃には、眠りはコントロールできてたから」

「コントロールって、何?!」

「落ち着いて」

「いいわ、まずは、話の続きを…ック!」

「それから、毎晩部屋を抜け出して、兄の傷が治るまで頭を撫で続けた。暫くは、兄が俺に怒鳴ることは無くなったんだが、ある日、兄がフライヤお婆様に変な提案をしたんだ」

「変な提案?」

「俺を、HeavensヘブンズCollegeカレッジに入れたらどうだって」

「タカキを? ギフテッドチャイルドだけが通える学校に行けって言ったのは、お兄さんだったの?」

「そう。入るためには受験が必要だったけど、俺、勉強だけはさせてもらえる環境だったから」

「そうなの?」

「閉じ込められた部屋に、本がたくさんあったんだ。言語だけは産まれた時から叩き込まれてたから、それを頼りに片っ端から読んだんだよ」

「それって、勉強させて貰える環境にあったって言えるのかしら?」

「正直、フライヤお婆様は俺のことが大嫌いだったし、兄も顔を見せるなって何度も俺に言っていたから、同じ家で暮らさないと言う兄のアイデアは、お互いにとって利点だった。HeavensヘブンズCollegeカレッジは、全寮制だから、基本生活に支障はない。俺は、学校で問題を起こさない、常に成績優秀者でいること、ベリルの名前を明かさないこと、そして、友人を作らないことを条件に、学校に入れて貰えることになったんだ」

「友人を作らないって、そんなの有り?!」

「基本、話さなければ、友人と呼べる友人はできないから。HeavensヘブンズCollegeカレッジの俺を知る人が、今の俺を見たら、驚くんじゃないかな」

「そんなに縛られていて、辛かったでしょ……?」

「家にいるよりは、全然辛くなかったよ」

「それも、どうかと思うけど」

「暴力も罵倒も無い世界で、俺は初めて、世界をちゃんと見れた気がした。あの時、師匠と会えていなかったら、世界に対する常識も、だいぶズレていたと思う」

「師匠って、アズマさん?」

「そう。アズマ師匠は、今でもイギリスにいるよ」

「今のタカキを見せてあげたいわ」

「どうして?」

「こんなに幸せそうに、この子は笑えるようになったのよ!って報告したいのよ」


ライトに頬をつままれて、タカキはふわりと笑みを浮かべた。


「いつか、会いに行けたらいいね」

「イギリスに? でも、タカキが行きたくないなら絶対に行かないわ」

「大丈夫。もう怖くないから。今は自分の意志を持っているし、守りたいものが何かもわかっているから、悩まない」


かつての自分は、消えたのだ。

だから、もう、何があっても怖くない。

例え、兄に会ったとしても。


「俺は、もう、ベリル家から逃げない」

「タカキ……」

「長話、聞いてくれてありがとう、ライト」

「ううん、話してくれてありがとう、本当に聞けて良かったわ」

「楽しい話じゃなくてごめんね」

「謝らないで! 次謝ったら、怒るからね!」

「了解」


ライトは、タカキと正面から向き合うように座り直した。


「タカキって、自分の話あまりしないから、凄く気になっていたの」

「聞かれれば、話すよ?」

「それじゃあ、意味がないのよ」


そう言って、ライトは苦笑する。


ライトの言った言葉の意味は、珍しくタカキには理解できなかった。








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