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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第六.五章「番外編」
40/52

‐102号室の住人


102号室の澤田さんは自称NASAで働いていたという現在ニート生活を楽しむ小太り眼鏡のおじさんだ。

ボリボリと煎餅を食べながら、今日もパソコンに打ち込む。


打ち込むと言っても新作のギャルゲーを楽しんでいるだけなのだが、その楽しみを一つのインターフォンによって妨害された。


ピーンポーン。


「……いませーん」

「澤田さん、カレー食べる?」

「いまーす!勝手に入っていいよ!」

「了解」


タカキは、そう答えると、カレーをポストの上に置いて、鍵の近くでガチャガチャと操作を始めた。

キーレックスはボタン式の鍵で、正しいボタンを押さない限り解錠はしない。

…はずだった。


ガチャンっ。


「お邪魔します」

「お、開いたか?」


澤田さんは、頭だけ後ろに振り返って、タカキの姿を確認すると、いそいそと身体を起き上がらせた。

そして、普段は機能されていない、机のスペースを空けて、カレーのタッパーを置かせる。


「いーい、匂いだなぁ!あ、でもうち米ねーや!」

「そう思ったから、タッパーにご飯つめてきた。これに、そのままカレーかけて食べる?」

「流石、タカキ!お前は最高だ!」


澤田さんの家には食器が一つもない。

箸やスプーンも無かった。

澤田さんは普段、コンビニ飯ばかりで、食器を使うことがない。

弁当には、箸もスプーンもついてくるので、買う必要が無かったのだ。


「キーレックスの記憶ボタン、ちょっと操作したよ。でも、戻せるから大丈夫」

「いい腕してんなぁ〜」

「インターフォン、作ったの?」

「おうよ! ドア叩かれるの腹立つからな!」

「なるほど」

「なぁ、タカキ! 前の話考えたか?」


もぐもぐとカレーを食べながら、澤田さんはタカキに尋ねる。

だが、タカキは首を横に振った。


「他にやりたい事があるんだ。誘ってくれてありがとう、澤田さん」

「いい腕してるからなぁ。まぁ、タカキなら何処でも楽しめるだろうから、問題は無いか。仕事は楽しくなきゃな!」

「仕事は、楽しく」

「仕事は辛くて苦しいもの。だから我慢しなきゃいけない、って思ってる奴は、一生我慢しなきゃいけないのよ。つか、楽しくない事してたら、人生つまらないだろ。人生は楽しくあるべきなんだ」


澤田さんは、キラキラした顔で、そう語った。


「澤田さん、仕事しないの?」

「今はギャルゲーの方が何百倍も面白いからな。こっちの方がやりたいの」

「成る程」

「仕事はするよ〜〜面白そうなの見つけたから、今は探り探りだけどな」


そう言って、カレーを食べきった澤田さんは、ゴクゴクと側にあったペットボトルのお茶を飲んだ。


「うっめぇ!」

「山田さんと作ったからね」

「アイツ、マジで飯だけは美味いよな」


山田さんと澤田さんは犬猿の仲だった。

アクティブな山田さんとインドアな澤田さん。

現実主義な山田さんと夢を語る澤田さん。


割と、正反対な所が多い二人だった。


「アイツ、定期的にあの鍵突破して家の中に入ってくんだよ。いっそ、ドアごと改築してやろうか」

「突破って、物理?」

「ゴリラだ、ゴリラ。お淑やかっつー言葉を教えてやってくれ、タカキ」

「何しにきたの?」

「ボルタリングに行くぞって、無理矢理連れて行かれた」


澤田さんは、「うげぇ」と言いながら、そう言った。

ボルタリングとは、本来、岩を登ることを言うが、現在日本では、石が無数に飛び出た壁を登る一つのスポーツとして、親しまれている。

山田さんは、多趣味だった。

そして、面倒見もいい。

その性格があってか、引きこもりの澤田さんを定期的に無理矢理外に出して、光合成させていた。


「ったく、余計なお世話だっつーの」

「ボルタリングやったの?」

「やらされた。何が楽しいのか全くわかんなかったけどな」


タカキは持ってきたサバイバルナイフで器用にりんごを切っていく。

それを素手で掴みながら、澤田さんはバクバクと食べていった。


「この体型でハードなスポーツを楽しめるわけないだろ。あの馬鹿が」


ボヨンボヨンと腹の肉を叩きながら、澤田さんが文句を言う。

会えば、口喧嘩ばかりの二人だが、案外相性は悪くないんじゃないかとタカキは思っていた。


「タカキは、何に興味があるんだ?」

「最近は、鉱物」

「そうか! 隕石とかはどうだ?」

「前に金色のパラサイトが来日した時に、警備をやりに行ったよ」

「あぁ、あれな! 色が変わって結構有名になったやつだろ?」

「うん」

「そうか、そうか。タカキは面白そうな人間だからな。何か困ったこととか、調べたい事があれば、俺に言えよ! 今なら、格安で調べちゃる!」

「ありがとう、澤田さん」


残ったカレーを、もう一つの小さめタッパーに流し込んでいく。

白飯のタッパーと合わせて、セットしておいた。


「これ、夜食べるならおいてくね」

「……」

「食べない?」

「ブハッ、やっぱりお前、変わってんなぁ〜〜」

「??」


タカキの言葉を聞いて、澤田さんは笑った。


「そこは金取るのかよ!って突っ込めよ〜〜!お礼言われちゃったよ、はは、ビックリだわ」

「?」

「ピュアで結構!こんなニートでも信じてくれるとは、ほんっと、おまえさんは凄いな」

「凄い?」

「俺が言うのも何だけど、あんまり人を信用するなよ?? 悪い奴もこの世には沢山いるんだぞ?」

「ちゃんと見てるよ。澤田さん、今度、宇宙について教えて欲しい」

「何でもいいぞ〜〜宇宙についてなら、エキスパートだからな! あ、カレーは食べるからおいてってくれ」

「うん」


そんな他愛のない話をしたのち、タカキは自分の部屋へと戻っていった。

ひらひらと手を振りながら、そんなタカキを見送った澤田さんは、くるりと座っていた向きを変えて、パソコンと向き合う。



「さて、そろそろか」


メールを一通開いた、澤田さんは、にやりと口端を釣り上げた。

そのメールに書かれていたのは、依頼者 ウィリアム・ベリルの名前だった。



「極秘任務か……腕がなるねぇ、ししし」



澤田さんは、パキパキと腕を鳴らしながら、そのメールに返事をしたのだった。





END


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