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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第六.五章「番外編」
38/52

-201号室の住人


月曜日の朝。

公園のジョギングから帰宅したタカキは、とんでもない者と遭遇した。


それは……。



「……河童?」

「……」

「動いた……」



【201号室の住人】



今、まさに201号室の扉の鍵を開けようとしている、河童に遭遇したのだ。

見るからに、河童だ。

身長、およそ、130センチ。

細見の体型に、頭上にキラキラと輝く白い皿。


どこから、どう見ても、歴史上の伝説の生き物、河童だった。

二人とも固まったように、真顔で見つめ合う。


「……」

「……」

「お隣さんですか?」

「……」


タカキの質問に、河童は、コクリと一度頷いた。

表情は、少しも変わらない。


「201号室に住んでらっしゃるんですか」

「……」


河童は、コクリとまた頷いた。

どうやら、日本語は理解しているらしい。


真顔の河童は、一度お辞儀をすると、家の中へと入って行った。

タカキは、一人になって呟く。


「やっと、お隣さんに逢えた」


少しずれているタカキだったが、顔も知らなかったお隣さんと挨拶することができて、内心とても喜んでいた。

タカキは家へと入り、いつも通り、洗濯と掃除を済ませる。

今日の大学は午後からだった。

昼に何を作って食べようかと、メニューに頭を悩ませる。

タカキが、冷蔵庫を開けた、その瞬間。


コン、コンッ――。


突然、後ろからドアを叩く音が聞こえた。

この部屋にはインターフォンなんてものはない。

タカキは、迷いもなく扉を開けた。

すると、そこには、さっき別れたはずの河童が立っていた。


「……」

「……」


再び、お互い真顔で見詰め合う。

タカキが沈黙を破ろうとした、その時。

河童が、菓子折りを差し出してきた。

ちゃんと、ラッピングもされてある。

それは、有名な高級焼き菓子店の品物で、タカキも知っていた。


「……」

「これは?」

「……」


河童は、一言もしゃべらなかった。

丁寧な菓子折りは、お裾分けには見えない。


(今、わざわざ、買ってきたのか)

(でも、どうして?)


タカキは、悩んだ末、ある一つの回答を思いついた。


「もしかして、引っ越しの挨拶?」

「……」


河童は、コクリと頷いた。

タカキが引っ越してきた時、隣には誰も住んでいなかった。

タカキが住み始めて、数か月後に、キョウカさんが入り、その一か月後に、隣に河童が住み始めたのだ。


「ご丁寧にありがとうございます」

「……」


河童は、背中の甲羅の中から、最新のスマフォを取り出した。

それを、ピコピコと打って、タカキに画面を見せつける。


≪ 挨拶が遅くなりまして、申し訳ない。201号室の住人です ≫


「はい、こちらこそ、ありがとうございます。あの、お名前はなんとおっしゃるんでしょうか」


≪ 河童です。 ≫


想像通りの名前だった。

むしろ、種族名であった。

しかしタカキはそれに対して疑問を抱くことなく、挨拶をした。


「じゃあ、河童さん、改めまして、タカキです。初めまして」


≪ 初めまして ≫


「今後とも、よろしくお願い致します。あ、お聞きしたいことがあるんですが」


≪ なんでしょう ≫


「食べれないものとか、キライな食べ物は、ございますか?」



タカキの質問に、河童は一度悩んだ末に、打ちこんだ。

河童は、タイピングの速さが異常に速かった。

どうやら、相当、スマフォに慣れているらしい。




≪ きゅうり ≫


(嫌いなんだ)



と、タカキは思ったが、口には出さないでおいた。

河童がきゅうりを好きと言うのは、どうやら、日本人が米を好きだと言うのと同じ感じらしい。

日本人の中にも、お米嫌いはいるだろう。それと同じことだ。


「わかりました。今度、料理を作った時に、お裾分けをしても、ご迷惑ではないでしょうか。たまに、作り過ぎてしまうことがあって」


≪ 迷惑なんかじゃ、ありません。が、お気遣いなさらず ≫


「ありがとうございます。河童さん」


タカキが微笑みかけると、河童は、無表情のまま、無言のまま、お辞儀をして、自分の部屋へと戻って行った。

タカキは、そんな後ろ姿を見つめながら、あることを思った。






「この河童荘アパートの管理人さんって、河童さんじゃないんだ」



素朴な疑問を抱いた、タカキであった。





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