-30
その後。
ミスコン、ミスターコンは、無事に再開された。
「優勝は、ミキさんです!」
「「ワァァァ!!」」
最終的に、一般の部の優勝者には、ミキが選ばれた。
先ほどの王冠は壊れてしまったので、即席で作られたトロフィーが渡される。
「おめでとうございます! 今のお気持ちは?」
「アカリ様〜〜っ、どこに行ったの〜〜!!」
「それどころでは無いようです! アカリ様の情報、我々も心よりお待ちしております!!」
タカキは元の姿に戻って、その光景に拍手を送る。
ミキは自分が失神している間に、アカリが消えてしまったことを、とても後悔していた。
ミキの耳には、ウパラのイヤリングがついている。
だが、今回はウパラは外に出てこなかった。
コナカのように、FSでコミュニケーション取っていたならば、反応したウパラによって、ミキも変身していただろう。
だが、ミキを巻き込むことを、タカキは望んでいない。
それを、ウパラも理解していた。
緊急事態以外では、ミキの身体で危険な真似はしないようイヤリングの中に収まっていたのだ。
だが、イヤリングの中で、大人しくしていることは、ウパラにとって苦渋の決断だった。
「そして、ミスターコン!映えある第1位は、もちろん、この方!! ナイト様だー!」
「「キャァァァァァア!!」」
大歓声が鳴り響く。
そして、ナイトは見事に優勝した。
ミスコンで優勝した女性とともに、写真を撮られまくっている。
タカキは、ナイトの勇姿を見届けて、その場から去ろうとした。
その時。
「ハァイ! タカキ!」
「瞳さん、」
ボフンっと、その豊満な胸に顔を受け止められる。
数週間ぶりの瞳さんに、タカキは目をパチパチと瞬きさせた。
「会いたかったわぁ! 私の癒しっ子」
「どうして、ここに? 仕事の依頼ですか?」
「違うわよ〜!! 最近、タカキが全然家に来てくれないから、寂しくって!」
ナイスバディに可愛がられるタカキに、周りから視線が集まる。
側から見れば、どんな関係なんだと怪しむ会話だ。
だが、しかし、タカキはそんなこと気にしない。
タカキは、ぽんぽんっと、瞳さんの背中をあやすように叩いた。
「俺も会えて嬉しい」
仕事の依頼に来る時の瞳さんには敬語だが、『瞳さん』としてくる時には、敬語を外すのが、二人の間の約束だった。
瞳さんは、タカキが他のバイトをしている時には、依頼を持ってこない。
だからこそ、今日は本当に、ただタカキに会いに来ただけだった。
「よかった! コーブツにも来る? って聞いたんだけど、シカトされちゃった! あの子ったら、相変わらずクールだから、全然寂しそうじゃなかったわ」
「コーブツって、寂しいと思う事あるの?」
「うーん、少なくとも生まれてからは、一度も無いんじゃない? 前世ではあったかもしれないけど」
「前世……」
「いいわ! 寂しがらなくても、会えて嬉しいは変わらないはずよ! またコーブツにも会いにきてね!」
「今、俺、コーブツに頼み事してるから。それで、調べてる間は、会いに来るなって言われてて……調べ終わったら、会いに行く事なってるよ」
「そうだったのね! いいの、いいの! 何でも頼っちゃって! 私も全力でタカキの力になるわ」
「ありがとう」
瞳さんは、タカキの頬をもちもちと触りながら、目の奥を揺らした。
相変わらず、サングラスのせいで見えないけれど、タカキは一瞬、瞳さんの雰囲気が変わった事を察知した。
「どうしたの、瞳さん」
「ん?」
「今、悲しい目をしたでしょ」
「え!見えてた?!」
「見えてないけど、わかるよ。それは、俺に会いにきた理由と関係がある?」
「……もう、本当に流石ね」
タカキが瞳さんの手を掴んで、そう言うと、瞳さんは、観念するようにタカキの耳元で言った。
「ウィリアム・ベリルが、極秘で日本に来ているって情報が入ったの」
「!!」
「……だから、心配で」
「大丈夫だよ、瞳さん。俺は、もう弱くないから」
「だけど……」
サングラスの奥で悲しそうな目をする瞳さんを見て、タカキは笑顔を浮かべた。
「今、しあわせなんだ。だから、絶対に大丈夫」
「タカキ、」
「信用してくれるでしょ?」
タカキの言葉を聞いて、瞳さんの顔にようやく笑顔が戻った。
「えぇ、もちろんよ」
その言葉を聞いて、タカキも微笑む。
瞳さんは、ご機嫌にタカキと腕を組んだ。
少し背の高い瞳さんを見上げて、タカキは言った。
「心配してくれて、ありがとう」
「私の大事な、大事なタカキだもの。大丈夫よ、何があっても、私が守ってあげるから。タカキには、絶対に、近付けさせないわ!」
「でも、あの人は、俺に会いに来たわけではないと思う」
「そうは言うけど、ボディーガードの数も最小限の人数で来ているのよ? わざわざ、日本まで来るのに、特別な会議も顔合わせも予定されて無いなんて、おかしいでしょ?」
「観光とか?」
「あの人が観光を楽しむタイプだと思う?」
「……無いか」
「あり得ない方に、ダイヤモンドを賭けてもいいわ」
瞳さんの言う通り、ウィリアム・ベリルは観光を楽しむタイプではなかった。
むしろ、その逆だと言い切ってもいい。
厳格で、冷静沈着なベリル財閥のトップは、誰も寄せ付けないほど、冷たい目をしていた。
まるで、氷のように。
「この学校に来たのも久しぶりだわ」
「瞳さんも、この大学出身?」
「私は留学してたから海外の大学に行っていたんだけど、元旦那は、この大学出身だったのよ」
「学生時代に知り合ったんだっけ?」
「そうよ。すっごく失礼な男だったけど、何でか付き合っちゃったのよね〜。なんか、タカキと恋バナしてるみたいで楽しいわね。ふふ、タカキはそう言うのないの?」
「恋バナ? 無いよ」
「あら、回答早過ぎない?」
「恋愛をあまり身近に感じないからかな」
「欲のない子ね」
「欲はあるよ。でも最小限しかないし、日々叶えられてるから、満たされてるんだ」
「例えば?」
「無事に大学祭が終わった。作ったお菓子も売れた。親友もミスターコンに選ばれた。友達の劇は面白かった。みんな特に大きな怪我もなく、事故もない」
「それって、特別なこと?」
「普通に生きれることが、特別幸せだからね。それに、今は特に幸せだよ」
「どうして?」
「大事な瞳さんが隣にいるから」
「……人妻を口説くなんて、やるじゃない」
瞳さんは、ニコリと微笑んだ。
しばらく、瞳さんと校舎の中を歩いていると、ふと、空がオレンジ色に輝いていることに気づいた。
タカキと瞳さんは、窓の外の景色を眺めながら、少し冷たい空気を吸い込む。
「夜になるのが、早くなったわね」
「うん」
「そろそろ、後夜祭かしら?」
「電子科学研究会主催のプロジェクションマッピングのステージが最後にあるらしいよ」
「あらやだ、豪華」
「光と音の世界にようこそ、って書いてある」
「私たちの時はキャンプファイヤーとマイムマイムだったのに、時代はプロジェクションマッピングか〜〜、凄いわね」
「光とか、音楽とか、そう言うものを見たり聞いたりすると、人は楽しい気持ちになるってことは、いつの時代も変わらないって事だよ」
「そうね」
やがて、空が暗くなり、ステージには、光り輝く映像が流し出された。
「わぉ、綺麗ね」
「凄い」
「タカキは、こういうの好き?」
「うん、凄く好き」
「ふふっ、私もキラキラしたもの、大好き」
そう言って、タカキは手を差し出した。
「マイムマイムじゃないけど……一曲いかがですか?」
「あら、アドリブダンスでもいいの?」
「もちろん。自由が一番楽しい」
「どうせなら、あそこの前で踊りたいわ」
「ステージの前?いいよ」
タカキはそう言って、通路の隣にいた女の子たちにお願いをしながら、窓を開けた。
「ごめん、ここ後で窓閉めて貰ってもいい?」
「へ? 後?」
「うん、俺たちが飛んだ後」
女の子たちは、キョトンとしながら、タカキを見つめる。
そう言って、タカキは、瞳さんを姫抱きにすると、窓の外から、ピョンっと外へと飛び出した。
後ろで叫び声がするが、気にしない。
そのまま、壁や、屋台の骨組みをトントンっと軽やかに伝って地面へと着地した。
ステージの前に降り立つと、周りから一気に人がいなくなる。
少し空いたスペースで、瞳さんとタカキは互いにお辞儀をした。
「それでは、一曲」
「踊っちゃいましょう!!」
タカキたちにつられて、みんなが踊りだす。
ステージは、大いに盛り上がった。
音も、光も、映像も。
全てが、テンションを高揚させていく。
後夜祭は、その日、遅くまで続いたのだった。




