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舞台へと、飛び上がってきたコナカは、コソコソとタカキへ耳打ちする。
「私に話しを合わせてください、今から舞台を乗っ取ります。私たちは、舞台の上では役者です」
「コナカちゃん、君、もしかして、マリンとまだ繋がっているのか?」
「今度こそ、協力し合おうって、マリンと約束したんです。微力ながら、あのバケモノを倒す手伝いをさせて下さい。幸いにも、ここは、ステージの上。即興劇をするつもりで、戦いましょう」
「成る程…! 全てを演技と言うことにするのか」
「そうです。演技だから、変身しても、何の問題もありません」
そう目配せした瞬間。
舞台の奥の王冠から、魔物の腕のようなものが生えてきた。
観客たちからは、悲鳴が上がる。
「キャー!」
「なんだ、あれ!?」
「CGか?!」
「ヤバイぞ、逃げろーー!」
ステージの周りにいた人達が一斉に逃げて行ったので、タカキ達には好都合だった。
怪我人は出したくない。
タカキとコナカは、王冠がバケモノになっていく姿を見ながら、叫んだ。
「出たな! 宝石のバケモノめ! 私たちが相手よ!」
「好き勝手なことは、させない」
コナカのは台詞だが、タカキの言葉は普通に口から出たものだった。
「あの王冠の飾りが、元になっているのか」
「あれを壊せば、いいのですね」
ミネアンビーは、今までの敵の中では一番小さい形をしていた。
だが、見た目は小さくても、中身は強い。
一本角を生やしたバケモノとなった姿を見て、コナカは口をキュッと噤んだ。
『グォォォオ!!』
「来た!」
その角で攻撃をしてこようとしたので、タカキとコナカは、慌てて舞台から、飛び上がる。
舞台に取り残されていた司会者たちを守るためだ。
コナカが司会者を、ナイトとミキを、タカキが逃す。
「アカリ様に抱かれ?!…っはぅん!」
「オイ、下ろせ!!」
「ここなら、大丈夫。出来ればもっと離れたところに逃げて」
ステージから少し離れたところに下ろし、すぐにまたステージに上がろうとした、その時。
タカキは、ナイトに腕を掴まれた。
「何をする気だ」
「何って、戦う」
「これは、予定されていた舞台なのか?」
「……」
「どうなんだ」
ナイトの表情を見て、タカキは人差し指で、ナイトの眉間に触れた。
その皺を伸ばしながら、控えめな声でつぶやく。
「貴方は、私が好きじゃないんですね」
「……あぁ、嫌いだ。タカキは俺の親友だ。その親友の物を勝手に扱う君に対して、いい感情を持つはずがない」
「そうですか。ごめんなさい」
タカキが素直に謝ると、ナイトは余計に眉間に皺を寄せた。
タカキは、ナイトの腕を振り切ってステージへと戻る。
その後ろ姿を、ナイトは苦々しい顔で見つめていた。
「行くわよ、マリン!」
『任せて、コナカ』
コナカは、意識を集中させて、足元のアンクレットを鳴らした。
「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物 鳴り響く雷の戦士、ミネラル・マリン!」
コナカがマリンに変身すると、周りの観客たちが目を見開いた。
そのセクシーかつ、美しい姿に、皆逃げる足を止め、コナカに釘付けとなる。
「なんだ! そういうステージだったのか!?」
「見ろよ、あの子!すげぇ、可愛い!」
「え、何!サプライズ劇?!そういう演出だったの?!」
「それにしても、あのバケモノクオリティたっけぇな!」
周りは、すっかり信じ込んでいる。
それを見て、タカキも、ライトを呼び出した。
「ライト、戦闘服に戻してくれ」
『もちろんよ! ミネラル・チェンジ!』
「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物! きらめく光の戦士、ミネラル・ライト!」
タカキが戦闘服へと変わった途端に、ミキはその美しさに昇天して倒れた。
周りにも、目をハート乱舞させている学生たちが大勢いる。
かく言う、マリンも、ライトには目がなかった。
「オイ、ミキ!」
「あかり、ひゃ…まぁ……」
ミキは脳裏に焼き付けたまま、意識を無くす。
だが、とても幸せそうな顔をしていた。
やれやれと、ナイトはため息を吐く。
その時、一際大きな音が、ステージに響いた。
ミネアンビーが雄叫びをあげたのだ。
「ミネラル・レコード!」
コナカが叫ぶと、雷の双剣、ミネラル・ダブルソードが現れる。
それを両手でキャッチして、コナカはタカキに言った。
「観客側は、私が守ります。タカキさんは安心して攻撃に集中して下さい」
「コナカちゃん…」
「この姿では、お互いミネラル戦士の名前で呼んだ方がいいですかね?」
「了解だ。ミネラル・マリン。そっちは任せた」
「もちろんですとも」
ライトとマリンの姿になったコナカとタカキは、ミネアンビーの攻撃を避けながら、応戦していく。
舞台を壊さないように動くのは、至難の技だった。
『我が名は、灰簾。ミネラル戦士の力を奪いに来た』
「内面から乗っ取れないんじゃ、奪うことは不可能なはずだ」
『奪う方法は、他にもある』
「なんだって、」
灰簾は、思い切り跳ねると、鋭い角からたくさんの角を生み出した。
そして、合図とともに、一斉にその角がタカキに向かう。
「クレモス…!」
タカキが叫ぶと、盾が現れ、角を弾いた。
『危なかったわね!』
「ライト、ミネアンビーがミネラル戦士の身体を乗っ取る方法って他に何か思いつく?」
『……私達を倒して無理矢理ミネラル星に強制送還させるか、或いは、イリコ・マギアの力を使えば、出来るのかも』
「成る程、一つ目は倒されなければ問題無いな」
『簡単に言うけど、今回は戦える範囲が限られているわ。今のままだと、全力を出したら大学を破壊してしまう』
「移動させたいが、どうにもそれは難しそうだ」
ライトと話している間も、灰簾は攻撃を仕掛けてくる。
角を飛ばすだけでなく、自らも襲いかかってくるので、上手に避けることで精一杯だった。
『お前を倒す。ミネラル戦士の力は我々が頂く。全てはあのお方の為……』
「あのお方、ドローンか」
『あのお方、プリンセスのためだ』
「プリンセス?!どういうこと?!」
コナカが叫ぶと同時に、灰簾は再び体を変化させた。
今度は一本角が、捻じ曲がったドリルのような形になる。
素早さが増し、攻撃力も上がった。
「状況が悪いな」
「このままじゃ、学祭がめちゃくちゃになっちゃう…!」
「せめて、あの動きを封じられれば…」
タカキとコナカが苦戦していた、その時。
「俺を、お呼びかな?」
「!!」
「誰?!」
現れたのは、少年の姿をしたクラゲだった。
ニヤリとした顔で、ステージの上に降り立つ。
「助っ人参上」
「少年、」
「ライトさん、この方は」
「敵じゃないよ、大丈夫」
「けど、」
「今は、疑ってる暇は無いんじゃないのー?」
クラゲの言葉を聞いて、タカキは頷いた。
そして、コナカもそれを見て、頷く。
「それじゃあ、派手にいくぜ!」
ニヤリと笑いながら、クラゲが叫ぶ。
それに続いて、タカキとコナカも叫んだ。
「サクヤ ドラゴン式! 紅龍の風」
「マリン・サンダーボルト!」
「アズマ 神月一心流 女郎花――!」
『ギァァァァァーーーーッ!!』
三人の技が決まり、灰簾は叫びながら消えていった。
見事にミネアンビーを倒すことができた、三人は、目を合わせ笑顔を浮かべる。
その時、会場からは大きな拍手が沸き起こった。
「アクションすっげぇ格好良かった!」
「演技とは思えないくらいリアルだったわぁ」
「あの子達、アイドルの卵なのかな?それとも、役者なのかな?」
「どっちでもいいけど、ファンになっちゃう!」
「片方、アカリ様とか言ったっけ? アカリ様ーーっ!!」
「衣装がめちゃくちゃセクシー!!」
「俺も!あの子達のファンクラブ入りてぇ!」
「キャーー!ショタ最高ーー!!」
そんな声を聞きながら、タカキは、ぽりぽりと頬をかいた。
「忘れてた……そう言えば、演技してるフリしてたんだ」
「いやぁ、愉快!注目の的は気持ちがいいねぇ!」
「そうだ!忘れてた、この子!」
「ふぎっ!」
そう言ったクラゲの顔を掴んで、コナカはグイッと顔を近づけた。
マリンの姿になると、積極性が増すのだ。
「坊や、何者?」
「少年と呼んでくれ!名前は、秘密だ」
「なんで、私たちを助けたの?それも秘密?」
「綺麗な女の子が困ってたら、助けなさいって、ママに教わったんでね」
「わぁ、マセっ子!」
「まぁ、まぁ、無事なら良かったじゃん」
「ライトさんに何もしないならいいけど〜っ?」
「ライト?あぁ、ライトは俺の嫁だ」
「はぁ?!!」
「ははっ、なんてな」
「何この、マセガキんちょ!マセガキんちょ!」
頬を弄られながら、クラゲは満足そうにそう言った。
コナカは納得していない顔をしつつも、クラゲの柔らかい頬を弄り続ける。
『本当に、あの子何者なのかしら?』
「さぁ。敵じゃないなら、問題ないよ。心配しないで、ライト」
『もう! タカキってば! そんなこと言ってる! いずれ、敵になるかもしれないわよ!』
「そうなったら……その時だ」
(多分、無いと思うけど)
と言う思いは、タカキは口には出さなかった。
少年の正体がクラゲな事には気付いているが、何か理由があって隠していることも、わかっている。
だからこそ、タカキは、暗黙の了解だと思っていた。
「とりあえず、ここから立ち去ろう」
「そうですね、目立ちすぎました」
「じゃあ、三人バラバラの方向に逃げるってことで」
三人は頷くと、せーので、ステージから飛び上がった。
クラゲは学園の木を渡って、西へ。
コナカは、風に跨って、南へ。
そして、タカキは壁を渡って、空へと逃げた。
その姿を、目で追いながら、観客たちは、再び大きな拍手を送る。
破茶滅茶なステージは、こうして何とか幕を下ろしたのだった。




