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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第六章「学祭で××ハプニング」
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-28


昨日の噂が広まったせいか、甘味サークルは、開催時からすでに列が並んでいた。

女性客で賑わい、大盛況である。

昨日よりも早く完売させたタカキは、カバンの中に琥珀糖をいくつか詰めて、大学を回った。


「いた」

「タカキ~! おはよう」

「…おはよう」

「おはよう、クラゲさん、クロちゃん。はい、これ昨日渡せなかった宝石菓子」


琥珀糖を手渡すと、クロノスの顔が、パァッと明るくなった。

あまり表に表情が出にくいクロノスだが、喜んでいるのがわかる。

タカキは、そんなクロノスの姿を見て、嬉しく思った。


「すげぇ、キラキラしてんな」

「琥珀糖って言うお菓子なんだ。幼馴染から教わって、作ってみた」

「幼馴染? そいつも、Heavens Collegeなのか?」

「ううん。普通の日本の公立学校出身だよ。でも、頭は凄く良い。俺よりも良いと思う」

「は? タカキより?」

「うん。鉱物について、研究しているんだけど、観察力とか、知識とか人並外れてるし。俺が知らないこと、たくさん知ってるよ」

「そいつは、すげぇな。そいつも、この大学なのか?」

「うん。コーブツも、この大学だよ」

「コーブツ?」

「うん。コーブツってあだ名なんだ」

「そうなのか。鉱物が好きだからか?」

「そうだよ」

「変わり者だってことは、よーっくわかった」


クラゲは、はは、と苦笑しながら頷いた。

クロノスは、首を傾げている。

変わり者の基準が、クロノスには理解できないのだ。


「それで? そいつは、今日は来ないのか?」

「コーブツは普段からあまり外に出てこないんだ。今日みたいに人が多い日は、絶対来ないと思う」

「成程、人嫌いか」

「人嫌いって言うよりも、鉱物以外に興味が無いんだ」

「それは、それは。今まで、よく生きて来れたな?」

「一般人の中にいると少し目立つけど、Heavens Collegeの中にいたら、きっと普通だよ」

「あ~……そうかもな。あそこは、変わり者の巣窟だったからな」

「クラゲさんも含めて?」

「……さぁ、どうだろうな?」


ニコッとクラゲは、笑みを浮かべると、クロノスと視線を合わせるために、その場に屈んだ。


「よし、俺らは、今日は何処回る?」

「タカキ……さんは?」

「タカキでいいよ。俺は、今から一人だけ案内しなきゃいけない人がいるから」

「案内? 誰だ?」

「ナイトのお父さん。セブキ会長だよ」

「あぁ、セブキ財閥のトップか。え、お前いつの間に仲良くなったんだ?」

「クラゲさんに、仲が悪いなんて話したことあったっけ?」

「うぉっほん、ごほっ、ごほっ」

「仲良く、と言うよりも頼まれたんだ。ユキナリさんに」

「ユキナリさん?」

「ユキナリさんは、Heavens College出身の人だよ。ジョージ閣下の寮の生徒だった」

「マジかよ! 日本にも結構いるもんだなぁ」

「集まるところには、集まるんだね」

「強さは?」

「恰好よかった」

「何だよ、それ。強さの比較がわかんねーよ?」

「戦い方がスマートで、無駄がなかったんだ。動きが洗練されていて、真剣に戦ったら、勝てないかも」

「わぉ。お前がそこまで言うか」

「憧れる強さだね」

「うわぁ、ちょっとジェラシーだわ、おじさん」


クラゲが、嫉妬していたので、今度はタカキが首を傾げる。


「今、ジェラシー感じるところあった?」

「クラゲは、タカキに憧れてもらいたいのよ」

「そうなの?」


クロノスの答えを聞いて、タカキは、屈みながら、クロノスに聞いた。


「クラゲさんのことも憧れてるんだけど、どうしたら本人に伝わると思う?」

「思い切って、言ってみるのはどう?」

「ちゃんと、聞いてくれるかな?」

「うーん、照れて逃げてしまうかもしれない」

「そうだね」


そんな茶番を目の前で繰り広げられて、クラゲは目を見開いた。

タカキもクロノスも冗談を言うことが殆ど無い。

そんな二人が、自分を揶揄っているのだとわかり、クラゲは、頬を赤く染めた。


「まだ、何も言ってないのに、赤くなってる」

「うわぁ。お前ら、俺のこと、意外と好きだね~?」

「……」

「……」


クロノスとタカキは、クラゲのその言葉を聞いて、目を見合わせた。

そして、二人同時に呟く。


「「 好きだけど? 」」


それが、何か?

と聞き返したそうな声で言うと、今度こそ、クラゲは顔を両手で覆ってしまった。

恥かしいのと、嬉しいので、一杯一杯になってしまったのだ。


「はぁ~~……天使が二人もいる」

「クラゲって、時々おかしくなるのよ」

「そうなんだ。でも……確かに、そうかも」

「なぁ、頼みがあるんだけど!」


クラゲは、勢いよく顔を起こすと、タカキとクロノスに向かって手を合わせた。

何の頼みかと、首を傾げたタカキとクロノスだったが、クラゲのお願いとは、意外なものだった。


「クラゲさん、何枚撮るの?」

「あと、20枚だけ!」


クラゲは、パシャパシャと、タカキとクロノスの写真を撮る。

タカキの膝の上にクロノスを座らせたり、タカキと、クロノスの頭をくっつけたりしながら、ポーズ指定まで完璧に指示して撮っていた。


「俺の天使二人が映っている写真とか、最高に俺得過ぎる」

「クラゲさん……何か、最近変わったね」

「本来のクラゲの性格がこっちだったのかもしれないわ」

「なるほど」


タカキは、頷きながら、クラゲのカメラを覗き込んだ。

そして、ゆっくりと手を伸ばす。


「ん?」


クラゲの手を引っ張って、タカキは強引にクラゲをクロノスとの間に引き寄せた。


「写真を撮るなら、みんなで」

「クラゲだけ映らないのは、狡いわ」


二人のその意見を聞いて、クラゲは、呆気にとられたように、ぽかんと口をあける。

カメラを向けられて、慌てて、顔を作ろうと思ったが、それより先に口元がにやけた。


「うわっ、俺、すげぇ、だらしない顔してる」

「良い顔だよ」

「そうね。自然体だわ」

「はは、これ待ち受けにしよ~、サンキュ。タカキ、クロ……っちゃん」

「どういたしまして。そろそろ、俺、ユキナリさんたちのところに行くね」

「えぇ、また」

「またな、タカキ! 菓子もあんがとよ!」

「ありがとう」

「二人とも、ゆっくり学祭楽しんでね、それじゃあ」


二人に手を振って、タカキはその場を後にした。

待ち合わせていたユキナリさんたちと合流し、ナイトの投票を済ませる。

セブキ会長は、あれから、色々な手を使って、ナイトの笑顔を見ようと試みているが、一向に笑顔を見ることが出来ず、落ち込んでいた。


「どうしたら、あの顔が見れるんだ……」

「大分、お困りのようで」

「ナイトの好物を出しても、テストの点を褒めても、あの頃のように笑ってはくれない。ナイトは、本当に、お前のように笑うのか?」


セブキ会長は、ギロリと涙目に睨みながら、タカキの頬を両手で引っ張った。


「いひゃいです」

「くそ、もち肌め!」

「セブキ会長。タカキ様を苛めますと、ナイト様に怒られますよ」

「ハッ! ぐぬぬ、仕方あるまい」


セブキ会長は、渋々タカキから手を離すと、ナイトのパネルを眺め見た。


「この写真、もう少し大きくしてもよかったんじゃないのか?」

「ナイトは、フォローしなくても一位になりますよ」

「当たり前だ!セブキ財閥の御曹司だぞ!私の息子が一位以外なわけなかろうが!」


参加している本人よりも意気込んでいるセブキ会長を見て、タカキは苦笑しつつも、微笑ましいと思ってしまった。

それは、ユキナリさんも同じだったらしい。

二人は、目を合わせて、やれやれと微笑んだ。


「あ、そうだ。セブキ会長。これ」

「なんだ、これは」

「ナイトが家に帰ったら、これをあげてください。昨日のと違って、これはナイト用に作ったものだったんですが、今日はナイトも始終忙しくて直接渡せそうにはないので」

「それでは、私がこの学祭に来たのがバレるではないか!」

「バレても大丈夫ですよ。それに、それをお渡しになられたら、ナイト様もきっとお喜びになられますよ?」


タカキの言葉を疑いつつも、ユキナリさんの一言で、セブキ会長は何とか納得した。


「いいか! 私は、まだ、お前とナイトの交友を許したわけじゃないからな!」

「はい」

「少しでもナイトを利用しようとしたら、海の藻屑にしてくれるわ」


そう言い残して、セブキ会長は、さっさと帰ってしまった。

ユキナリさんは、深々と御礼を言いながら、頭を下げて、その後を追いかけていく。

そんな二人の後ろ姿を見届けながら、タカキは、肩をおろした。



その時。



「……っ!」


ピリッとした感覚が身体を走る。

その瞬間に、ライトと繋がった。


『タカキ!』

「ライト、どうした」

『敵の反応よ! この反応は、ミネアンビーだわ! だけど、反応が小さすぎて、どこにいるのか、ハッキリわからないの』

「……探すしかないか」

『でも、いつでも武器は出せるようにしておきたいわ!』

「わかった、なら変身しよう。人気のないところに移動するから、少し待ってくれ」


タカキは、走って校舎裏まで行くと、指輪にキスをした。


「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物。きらめく光の戦士、ミネラル・ライト、」


パチッと目をあけて、窓ガラスに映る自分を見る。

久しぶりに見るライトとの融合した姿を見て、タカキは少し悩んだ。


「ライト、この姿のままだと少し目立つ。服を変えれるか?」

『でも、それだと防御が……』

「ミネアンビーを見つけたら、変えればいい。露出が多過ぎるこの恰好だと、下手すれば、学校側に止められてしまう。足止めを食らうのは、時間の無駄だ」

『わかったわ、それじゃあ、普段の服に変えるわね! ミネラル・チェンジ!』


ライトの言葉に反応して、タカキの服装が宝石の戦闘服から、布生地の服に変わる。

それでも、少し目立つ恰好だが、個性的だと言い張れば、問題ない程度だった。

タカキは、急いでその場から走り出す。

大学内のいたるところを駆け巡りながら、ミネアンビーの反応を探した。

途中で、色々な人がタカキの姿を見て、振り返ったが、タカキは気にも留めていない。


『待って、タカキ! あの王冠!』

「王冠……?」


すると、ある一か所で、ライトが反応した。


見ると、ステージの奥に飾ってある王冠に、ある鉱物が埋め込まれていた。

その鉱物が、怪しく光っている。


「あれか……まだ、化け物には変身してないな」

『どういうことかしら、変身しててもおかしくはないのに』

「何か、チャンスを狙っているのか?」


その時、ステージの上に、思いもよらぬ人物が現れた。


「エントリーナンバー10番! 飛び入り参加の、ミキでーす!」


途端に会場が大声援に包まれる。

そう、ミキが一般の部のミスコン参加者として舞台に上がっていたのだ。


『もしかして、またウパラを狙っているのかも』

「そういうことか」

『マズイわ、タカキ! あの王冠が、ミキちゃんと接触したら、また乗っ取られるかもしれない』

「ステージに飛び込んで、あの王冠を奪うか……」


どうやっても、目立ってしまうが、今はそれ以外にいい方法が思いつかなかった。

タカキが、頭を抱えそうになっていた、その時。

ステージ上に、ナイトが現れた。


「さて、こちらのミキさんですが、なんと! ミスターコン、優勝候補のナイトくんの従姉妹なんですってね!」

「そうなんです~! ナイトの従姉妹です!」

「はは、従姉妹同士でステージに上がるのも、不思議な気分です」

「右を見ても、左を見ても美しい! はぁ、司会も楽しくなって参りました!も う一般の部は、満場一致この方に決まりでしょう!」


パネルの一般の部の投票を見ても、ミキがダントツで一位だった。

そのパネルを見て、ミキは、ドヤ顔で笑う。

当然! と言いたげな自信満々な顔で、マイクを向けられたミキは、おもむろにマイクを奪い取って、観客に向かって言い放った!


「来年は、この大学に入って、ミスキャンパスを狙うわ!」

「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」

「来年も応援よろ………え、」


ドヤ顔だったミキの顔が、一気に真っ赤に染まっていく。

そんな彼女を見て、観客がそわそわした。

ミキは、片手で持ったマイクを両手で持ち直す。


「な、なんで、ここに……?」

「あの、ミキさん?」

「あ、あ、……」

「あ?」

「アカリ様……――ッ!」


ミキが叫ぶように名前を呼んだ瞬間。

ナイトの目が、夜叉のごとく鋭く光る。

そして、観客の視線が一気にタカキに集まってしまった。


「……あ、」


タカキは逃げ出そうとも思ったが、周りが人だらけで見動きも取れない。

明らかに雰囲気の違うタカキを見て、周りの観客たちは、ざわざわとざわめき始めた。


「オイ、なんだ、あの美少女」

「この大学の子か?」

「すげぇ、可愛い。ハーフかな?」

「ってか、ミキチー、今、アカリ様って言った?」

「モデル仲間か?」


どうしたものかとタカキがきょろきょろしていると、手を引っ張られ、壇上へとあげられた。

司会者が、ここぞとばかりに、タカキを連れてきたのだ。

ミキは、顔を真っ赤にさせながら、まるで少女のように大人しくなっている。


「あ、あの、アカリ、さま」

「ミキちゃん、久しぶり……様?」

「アカリ、さんって呼ぶのが恥ずかしくて、すみません……っ!」


様は、恥ずかしくないんだろうかと、疑問に持ったタカキだったが、深くは突っ込まないでおいた。

目の前で照れているミキをよそに、後ろからは、文字通り、刺さる視線が身体を突き抜ける。

見た目は、ニコニコしているが、後ろに閻魔大王が見えていた。


「失礼」

「……はい」

「ミキから話は伺っています。何でも、タカキとも知り合いのようで?」

「……えぇ」

「どのようなご関係で?」


眼が決して笑ってはいなかった。

タカキとナイトとの会話は、マイクを通していないので観客たちには聞こえていない。


「友達です」

「本当に?」

「嘘はつきません」

「……そうですか」


少しも納得の言っていない目をしながら、ナイトはそう答えた。


面倒なことになってしまったと、タカキが思ったその時。

内側から、ライトが話しかけてきた。


『やったわ、タカキ! 自然に、ミネアンビーに近づけたわね』

「自然かな……」

『問題ないわ! 後は、どうやって、あの王冠を奪うかだけど……』

「これだけ人の視線が多いと、派手なことはしにくいな」


タカキが、そう心で思っていると、後ろから突然司会者が声をかけてきた。


「ううん、見れば見る程、美しい……綺麗だ。本当に人間ですか?」

「へ?」

「近い、近い、ちかーーーーい!!!」

「ぐえっ」


タカキの顔をまじまじと見る司会者を、思い切り突き飛ばしたミキは、上から怒鳴りつけるようにして、言った。


「綺麗だなんて、そんなの当たり前でしょう!! アカリ様は、この世で一番美しいんだから!」

「ミキさんがそう言ってしまうと、一般の部の優勝は、彼女に変わってしまいますが、よろしいんですか?」

「アカリ様以外に優勝者がいると思ってるの?!このお方はね、この顔で、すっぴんなのよ?! まさに生きる宝石なんだから! 図が高いわよ!」

「ははーーっ!!」


ミキと司会者がそんなやり取りをしている中、置いてきぼりをくらうタカキ。


「あ、あの……」


振り絞って声を出したものの、二人には届いていなかった。


『チャンスじゃない! このまま優勝すれば、あの王冠は、タカキが貰えるんでしょう!』

「でも、そうなると、ミネアンビーが気づいて、この場で暴れることになるかも」

『そうなったら戦うしかないけど…一瞬で、あの王冠を持ち去れば、何とかならない?』

「これだけ人が多いと、怪我人を出さないように動くのは、至難の業だ」


タカキがライトと会話していると、後ろにいたナイトが、タカキに声をかけてきた。


「何を一人でブツブツと呟いていらっしゃるんですか?」

「あ……少し、考え事を」

「ミスコンが苦手でしたら辞退することも可能ですよ?」


さっさと目の前から消えろと言っているかのような笑顔に、タカキは引き攣った笑いを浮かべる。

ナイトにこんな顔を向けられたのは、初めてのことだった。


「ちょっと、ナイト! なに、アカリ様と話してるのよ!」

「ミキ、突然引っ張ってきたら、彼女も迷惑だろう」

「あの、」

「だって、アカリ様に優勝して欲しかったんだもの! と言うか、優勝はアカリ様以外にあり得ないでしょう! ね、アカリ様!」

「ミキちゃん、前は敬語じゃなかったのに」

「え?!」

「アカリさんって、呼んでくれてた」

「あ、それは、その、あの時は!」

「もう、呼んでもらえない?」


流石に、アカリ様呼びは慣れない。

タカキは、できるだけ控えめに、ミキにお願いをしたが、上目使いに加え、八の字眉のタカキ、もといアカリの姿を見て、ミキが興奮しないはずがなかった。


「あ、……かわ、天使……ッ」

「ミキちゃん?」

「あかりさん、可愛すぎて、生きるのが、楽しいっ!! 私、しあわせ!」

「敬語は取れたけど、カタコトになってる?」

「はーーーーーっ、尊いっ!! 世界がファンタスティック!」


タカキの声はもはや、ミキには届かなかった。

そして、そんなやり取りをしている間に、王冠がキラリと光り出した。

会場の視線が一気に王冠に集まる。


このままじゃ、まずい。


タカキがそう判断した、その時。

天の助けの声が、飛んできた。



「ちょっと、待ったー!!」

「……コナカ、ちゃん?」









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