‐27
「タカキ、どこ行く?」
ナイトのお手伝い効果もあって、琥珀糖含め、甘味サークルのお菓子は全て午前中までに完売してしまった。
「ナイト、ミスターコンは?」
「14時くらいから、そっちに引っ張られるけど、それまで空いてる。明日もミスターコン以外は、空ける予定だったんだけど、実行委員に聞いたら、コンテスト以外の時間は、取材でいっぱいらしい」
「じゃあ、今日、回れるだけ回ろう」
「そうだな、初めての参加だし。結構、どこ見ても新鮮だ」
「去年は、家の用事で参加できなかったからな」
「そう! だから、今年こそ、タカキと学祭を回れるのが、嬉しくて!」
「うん、俺も。ナイトは、屋台で何か食べるの、抵抗ある?」
「ない! タカキと一緒なら、何でも食べたい!」
嬉しそうに笑うナイトを見て、後ろで流れ弾に当たった女の子たちが、バタバタと倒れていった。
いつぞやの投げキッスの威力のようだと、タカキは考える。
だが、あの時と違い、今は無意識にやっているから、恐ろしい。
「タカキ、行こう」
「うん。そう言えば、あれからセブキ会長は、大丈夫だったか?」
「あー……なんか、様子がおかしくてさ。俺も、説教あるかなーって戻ったんだけど、何故か夕飯は、俺の好物ばかりだったし、何か、父さんがチラチラこっち見てるんだよ。ナイト、欲しいものはないか? とか、ナイト、テストはあったのか? なんて聞いてくるから……不思議で仕方ない」
「うーん。気持ちはわかるな」
「え?! わかる?! 俺、全然わからない」
「その内、答えがわかるよ。ナイト、何が食べたい?」
二人で、学祭のパンフレットを見ながら、屋台を巡って行く。
意外と、本格派な店が多かった。
スープや、変わり種の焼き鳥、各国の民族料理、田舎のB級グルメなどを巡りながら、行く先々で、ナイトが声をかけられる。
「あ、ミスターコンのイケメン御曹司じゃん! 頑張れよ!」
「キャー、恰好いい! 写真で見るよりも、イケメン!」
「見て見て! あの人、エントリーしてる人じゃない?」
「キャァア! 手を振ってくれた!」
まるで、芸能人のようだとタカキは思った。
だが、あながち間違ってはいない。
この後も、雑誌の取材が入ってる上に、明日もテレビ取材や、イベントに出演する予定なのだから。
「そう言えば、明日、ミキも来るとか言ってたな」
「ミキちゃん? 仕事? それとも、大学の下見?」
「生意気なことに、下見も含めているんだと。いつの間に、そんなに勉強してたんだか」
「努力家なんだね」
「タカキは、明日の予定は?」
「今日と同じで、販売する予定。ナイトの応援にも行くよ」
「タカキが来てくれたら、百人力だ!」
「俺のは、一票にしかならないよ」
「でも、俺に投票してくれるんだろ?」
「もう、投票したよ」
「タカキ……!」
タカキのVサインのピースを見て、ナイトは、両頬をおさえる。
ナイトにとって、タカキからの票が一番大事なのだ。
だが、しばらく学祭を回って、楽しんでいたところ。
ナイトのスマフォに、連絡が入る。
「あー……ごめん、タカキ。呼び出されちゃった」
「うん、いってらっしゃい。頑張って」
「うん! この後は、ずっと捕まるだろうから、また明日な」
「また、明日」
タカキは、ひらひらと手を振ってナイトを見送った。
すると、後ろから、聞きなれた顔がする。
「オイ! この焼き鳥うっまいなー!」
「お! お兄さん、味がわかる人ですね!」
「凄いな、学生の屋台のレベルを超えてるよ、な!」
「……美味しい、」
もぐもぐと焼き鳥を食べている、クラゲとクロノス嬢のところに、タカキがひょっこり顔を出した。
「クラゲさん?」
「「ぎくっ」」
「……と、お嬢さん?」
タカキは、二人の姿を見て、どんな関係なのかと不思議に思う。
「よ、よぉ、タカキ! 元気か!」
「学祭、遊びに来たの?」
「えっと、まぁな! つい、楽しみ過ぎちゃって、目的忘れそうになってたけど、お前に会いに来たんだぜ?」
「そうだったんだ」
タカキは、屈んで、お嬢さんと目線を合わせた。
膝をついて、手を差し出す。
「こんにちは、タカキです。初めまして」
「はじめまして……」
「お名前を聞いても、よろしいですか?」
丁寧な紳士的な態度で接するが、クロノスは自分の名前を言うわけにはいかない。
そのまま、困って、オロオロしていると、クラゲが助け舟を出した。
「あだ名は、クロちゃんってんだ、な!」
「……クロちゃんって、俺が呼んでもいい?」
クロノスは、コクンと頷いた。
タカキは、ニコリを笑みを見せる。
「さっきまで、俺もお菓子売ってたんだけど、今日の分は売り切れちゃった。明日も来る?」
「あぁ、来る予定だよ」
「なら、明日は、クラゲさんたちの分取っておくね」
「おー、あんまり気を使うなよ! それよりも、タカキは出ないのか? あれ」
クラゲが指差したミスターコンのパネルを見て、タカキは首を横に振る。
「出ないよ」
「勿体ないなぁ、綺麗な顔してんのに」
「若い頃のクラゲさんは、こういうイベント好きそう」
「あー、まぁ、選ばれることはなかっただろうがな。俺、ヤンチャしてたから」
「納得」
「コラ、コラ!」
すると、そんなやり取りを見ていたクロノスが、クスリを笑った。
それを見て、タカキも笑顔になる。
「パンフレットの、ここと、ここのお店、美味しかったよ。後は、ここ、オススメ」
「タカキは、これからどうするんだ?」
「知り合いの子が、劇に出るから観てくる」
「ほほう、観劇か」
「この間の、あの子だよ。店にいた、ウエイトレスの」
「あぁぁぁ! あの可愛い子な! なんだ、付き合ってるのか?」
クラゲの質問に、タカキは再び首を横に振る。
「付き合ってないよ」
「なんだ、そうなのか」
「クラゲさん、俺の近くにいる人、全員にそれ言いそうだね」
「おっさんになると、何でも口にしちゃうのよ! それより、その劇って、俺らも見れるの?」
「もちろん、案内するよ」
タカキに連れられ、クロノスとクラゲは、コナカの劇を見に行くことに。
コナカには、ミネラル戦士のマリンがついている。
アンクレットがマリンの媒体だ。
コナカは、マリンと相性が良く、実はFSの一部のエリアで、マリンと密かにトレーニングを重ねていた。
その事実を、クロノスだけは知っている。
タカキとは、違うエリアのFSなので、タカキもライトも、このことを知らない。
コナカとマリンは、いざと言う時に、タカキとライトのサポートができるようにと、また同盟を組んだのだ。
二人にとっては、今度こそ、お互いに協力し合える関係となった。
ライトにもコナカにも、変身している時に会わなければ、クロノスの存在がバレることはない。
だが、いつ変身してもおかしくはない状況だった。
実は、クラゲとクロノスは、遊びに来ていたわけではない。この学祭に、またミネアンビーが現れる予兆があったのだ。
なので、パトロールもかねてきているのだが、予想以上に人が多く、二人は、学祭で怪我人が出ないか、冷や冷やしていた。
ミネラリアンとビーが混ざった、ミネアンビー。
普通人間にとり憑くことはないが、ミネラル戦士を纏った人間の心に入り込むことができ、さらには、操ることができる。
万が一、ここに新たなミネラル戦士がいたとしたら、戦いは免れないだろう。
今まで、マリンもウパラも救出はできたが、実際に今後も救えるとは、限らない。
タカキたちは、もちろんのこと。
クラゲたちも、そこは、慎重に動くようにしていた。
そして、この学祭に出ることまでは、掴めたものの。
学祭のどこに出るのかは、わからない。
クロノスは、アンテナを伸ばしながら、学祭の隅々を観察していた。
「チケットは、これ。席は自由だよ」
タカキが手に入れてきたチケットを手に、クラゲとクロノスは、タカキの隣へと座った。
開演のためのブザーが鳴り、会場が暗くなると、タカキは、劇に集中する。
間もなくして、始まった劇に、クラゲもクロノスも、普通に感動してしまった。
コナカは、活き活きと演技している。
タカキは、そんなコナカを見て、優しい笑みを浮かべた。
素晴らしい演技に、会場からは、拍手が湧く。
「すっげぇな……」
「うん、」
ボソリと呟いたクラゲの言葉に頷く。
舞台の中で、くるくる変わるセットも面白い。
そして、人物の動きがダイナミックで、見ごたえがある。
指先まで、しっかりと演技している姿は、圧巻だった。
終わった後に、全力で拍手をする。
クロノスもクラゲも、目をキラキラさせていた。
「すげぇ!!」
「凄い…!」
タカキは、内心で、この人たち、何だか似ているな。と思っていた。
「はぁー! 楽しかった!」
「素晴らしい舞台だったわ」
「俺も初めて見た時は、感動が凄かったな」
「普段は、別のところでやっているのか?」
「うん、そうだよ」
「いいな、そっちも観に行きたいわ!」
「また、誘うよ。クロちゃんも」
「えぇ。ありがとう」
クロノスが御礼を言う。
すると、クラゲがいきなりタカキの肩に腕をまわした。
そして、コソコソ話をするように耳元で話す。
「オイ、聞かないのか?」
「何を」
「クロ……ちゃんのこと」
「話していいことなら、自分から言ってくれるでしょ。言わないってことは、聞いて欲しくないことなのかと思って」
「……相変わらず、大人だなぁ」
「違った?」
「違わない。だけど、悪いことはしてないぜ?」
「疑ってないよ。大丈夫」
タカキの言葉を聞いて、クラゲは、唇を尖らせながら、拗ねた顔をした。
「クラゲ、何をしているの?」
「拗ねた顔」
「何故?」
「タカキってな、時々、俺より大人なんだよ」
「あら、貴方が子供なだけじゃない?」
「えぇ、俺って、そんなに子供?」
クラゲとクロノスのやり取りに、今度はタカキが笑う。
「さっきも思ったんだけど」
「ん?」
「クラゲさんと、クロちゃんって、ちょっと似てる」
「え?!マジで?!」
「……そう?」
二人は、顔を見合わせながら、不思議そうに首を傾げた。
その時。
「タカキさん……!」
「あ、コナカちゃん。お疲れ様。観てたよ。凄く楽しかった」
コナカは、顔を真っ赤にして、頬を抑える。
タカキに褒められて、幸せで溶けてしまいそうだった。
「う、嬉しいです!タカキさん!ありがとうございます!」
「この間、お店に行った時の友達も一緒に観に行ったんだ」
「へ?」
「こっちの……あれ?」
タカキが振り返ると、そこにはクラゲの姿もクロノスの姿もなかった。
「タカキさん?」
「……何でもない。友達も凄く感動してたよ」
「ご友人の方まで、本当にありがとうございます!」
「うん、コナカちゃんはもう帰るの?」
「その、予定だったんですが、みんなが、俺たちは先に帰るけど、えっと、タカキさんに挨拶しておいでって言ってくださったので、」
コナカが照れながら、言うと、タカキはニコッと笑い返した。
「時間あるなら、一緒に学祭まわる? まだ、お店色々見れるよ」
「へ?!い、いいんですか?!」
「もちろん。エスコートが俺でいいのなら」
コナカは、顔が取れそうなくらいに頷いた。
こんな機会は滅多にない。
コナカは内心、初デートじゃないかと、ドキドキしていた。
「じゃあ、行こうか」
タカキはパンフレットを広げながら、コナカを案内する。
屋台で、甘いものを買ったり、展示物を見たりしながら、学祭を楽しんだ。
コナカにとって、大学すら初めてだったので、貴重な体験だった。
小さいコナカと小さいタカキは、高校生によく間違われる。
コナカとタカキは、最後に手作りアクセサリーを売っている場所に来た。
「わぁ、凄く細かい〜!」
「よかったら、鏡で合わせて見てくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
販売している学生に、ハキハキと答えている姿を見て、タカキは思わず微笑んだ。
その笑顔を見て、コナカは首をかしげる。
「どうかしましたか?タカキさん」
「いや、出逢った頃より、人見知りが随分と消えたなって、」
「あ、あの頃のことは……忘れてくださいぃ〜〜…」
「自信が持てるようになったからかな?前より人前で堂々としてる」
「ま、まだまだですが……へへ」
「凄いね。前から素敵だったけど、コナカちゃんはどんどん、魅力的になっていく。時が経てば経つほど、美しくなるなんて、まるで、桜の花みたいだ」
「ふぇ?!」
ボンっと爆発したように真っ赤になったコナカは、手をプルプルと震わせた。
すると、タカキは、1つの髪飾りを見つける。
「これは?」
「あ、髪飾りです! こっちのピンとこっちのピンが繋がっていて、こんな風になります」
「コナカちゃん、髪に少し触っても平気?」
「へ?!あっ、何でも!!平気です!」
「ありがとう、ちょっとジッとしててね」
説明を受けたタカキは、それをコナカの髪に合わせた。
コナカは、ピクリとも動かずもはや、固まっている。
ドキドキと心臓を跳ねさせながら、コナカはタカキが自分の髪に髪飾りをつけ終わるのを待った。
「こんな感じ?」
「そうです!わぁ、可愛い!お客様、とてもお似合いです!」
「よかったね。じゃあ、これ下さい」
「はい!」
「えっ、待ってください、タカキさん!」
コナカが財布を出す前に、タカキはサッと払ってしまった。
手早くお姉さんが、コナカの髪飾りの値段だけ外していく。
「それ、コナカちゃんに、凄く似合ってるから、俺からプレゼントしたいんだ」
「お、お金払います!」
「勝手な贈り物だから、気にしないで。気に入らなかったら、外してもいいよ」
「気に入らないなんて…あるわけないじゃないですか、もぉ……」
コナカは、幸せが過ぎて、どうしようかと思っていた。
こんな幸せでいいのかと。
タカキは、笑顔でコナカを見つめる。
そんなタカキの笑顔が眩しくて、コナカはタカキのことが直視できなくなってしまっていた。
「はぁ……タカキさん、」
「ん?」
「ありがとうござい、ますぅ……」
「どういたしまして。妖精さん」
「ヒィンっ!」
こうして、タカキの学祭1日目は、無事に幕を降ろしたのだった。




