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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第六章「学祭で××ハプニング」
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-26

「いっそがしい、いっそがしい〜〜!」

「終わらないよ~!」

「泣きごと言わない! あと、3日なんだから、急ぐの!」


タカキの目の前を、学生たちが駆けていく。

そんな彼女たちの後ろ姿を見ながら、タカキは大学を見渡した。


秋になった途端、大学内が忙しない雰囲気を纏う。

もうすぐ、日丸大学の大学祭が始まるのだ。

研究成果の発表に、サークルの屋台準備。

ステージの設置や、ミスコンなどのイベント企画の対応で、大学には連日、人が溢れかえっている。


その時、タカキを呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。


「あ、タカキさーん!!」

「コナカちゃん、どうして、ここに?」

「実は、学祭に呼ばれたので、特別出演することになりました! 今日は、その下見です!」

「そうだったんだ」


コナカの後ろには、劇団のスタッフたちが集まっていた。

彼らに、挨拶をするように頭を下げる。


「舞台、頑張って。観に行くよ」

「はい!」


コナカは、早々に劇団員たちの元へと戻って行った。

タカキは、優しい目で、コナカを見送る。

ヒラヒラと手を振っていると、カワニシが近づいてきた。


「今の誰?! 超可愛かった!」

「友達」

「はぁー?! 羨ましい! つか、ナイトは?」

「ナイトなら、学祭の委員会の子達に呼ばれて行ったよ。ミスコンとミスターコンの参加者を探してるらしくて、どうしてもナイトに出てもらいたいんだって」

「あぁ、アイツのイケメンって目立つからな」


カワニシの言葉に、タカキは頷いた。

忘れがちだが、ナイトはイケメンなのだ。

学祭ともなれば、外部からもたくさんの人が訪れる。

新入生の勧誘にしても、良いチャンスなのだ。

そして、ミスコンとミスターコンは、雑誌の編集部などが取材に来るぐらいには盛り上がる一大イベント。

実行委員も本気だった。


「ところで、タカキって、何かサークルとか入ってたっけ?」

「バイトが殆どだから、ほぼ参加してないけど、一応名前だけ……」

「真面目なタカキにもそういうとこあるんだな。で、どのサークルなんだ?」

「甘味サークル」

「は?」


タカキは、研究室の方を指差して言った。


「当日は、普段幽霊部員の俺たちが、本気出してお菓子作るから、良かったら……」

「俺たちって、もしや、」

「サークルの殆どは、甘党の男だよ。活動内容は、各々美味しい甘味を食べつくすこと。一年に一度、学園祭で、本気の甘味を作るイベントが発生。それ以外の日は、自由」

「自由過ぎねぇか?」


カワニシは呆れたように呟いたが、すぐに顔を元に戻した。


「それで? タカキは、何を作るんだ?」

「宝石みたいなお菓子……?」

「ザックリしてんな」

「最近、食べて美味しかったから」


タカキは、琥珀糖を作る予定だった。

琥珀糖は、あまりメジャーなお菓子ではない。

味はシンプルなのだが、好き嫌いが分かれそうな味だ。

しかし、見た目は美しい。


「まぁ、いいや! よくわからねーけど、買いに行くわ」

「カワニシは、何か出店したりするの?」

「俺は、手伝いくらいだけどな。はぁー!可愛い彼女と学祭まわりてぇー!あ、そうだ!タカキ、俺と一緒に女の子をナンパして……ヒッ!」


そこまで言いかけて、カワニシは固まった。

それは、強い力で肩を掴まれたからだ。


「カワニシ、何か言った?」

「ナンデモゴザイマセン!!!」

「タカキとナンパ……?」

「滅相もございません!! ナイト様!」


ギロリと笑顔で睨まれ、カワニシはタジタジになりながら、その場から逃げて行った。

ナイトは、威嚇するような顔でカワニシの背中を睨み続けている。


「ナイト、終わったのか?」

「タカキ……! 終わったよ!」

「……」


キラキラした何かが、タカキに降り注ぐ。

今の今までとは別人のような笑顔のナイトを見て、タカキは、思わず黙った。

先日、ナイトが抱えていた痼が取れたせいか、ナイトのデレは止まることを知らない。


「ん? どうかしたのか、タカキ?」

「いや、何も」

「学祭当日は、絶対買いに行くからな!」

「ナイトは、ミスターコンで忙しいだろ?」

「ずっとじゃないから平気だよ。タカキは、ずっとサークルなのか?」

「完売した時点で、自由な予定」

「全部、俺が買い占めるのは有り?」

「無し」


タカキの言葉に、ナイトはガックリと肩を落とした。


「なるべく早く売れるように努力するよ」

「努力?」

「接客モードで売る」

「販売員のアルバイトで培ったやつ? それ、安全?」

「安全なんじゃないか?」


こう見えて、タカキは販売員のアルバイトの時に、あり得ないくらいの売り上げ記録を更新していた。

その事を知らないナイトだったが、疑うような目つきでタカキを見つめる。


「無理して売る必要はないからな?」

「うん?」

「過激な売り方はやめてくれよ?」

「当たり前だろ」


ナイトの疑うような視線を受けながらも、タカキはなんてことなしに頷いた。




◇◇◇




それから、あっという間に3日が過ぎていき、学祭の日が来た。


「タカキ―、そっちはどうだ?」

「搬入は終了。数は、連日共に500個。値段は、一袋100円」

「OKだ! こっちの準備が終わったら声かけるな!」

「了解」


タカキは、段ボールを開けて、スペースを整え始める。

すると、準備をしているタカキの元に、キョウカさんが現れた。


「あ、いたいた、タカキ〜〜! おはようちゃん」

「キョウカさん、おはよう」

「今朝は早くに家出たでしょ〜〜ぉ? 挨拶出来なかったねぇ」

「キョウカさんは、仕事は大丈夫? お菓子食べる?」

「タカキのお菓子は、昨日貰ったからね〜〜ありがとぉ、美味しかったぁ! 学祭なんて初めてだから、ゆっくり見て回るよ〜〜、猫たんと」

「ネコ?」


周りを見ても、猫らしきものはいない。

タカキが首を傾げていると、キョウカさんはクスクス笑いながら鳴いた。


「にゃーご」


その頃、学校の近くで車を停めていたネコタは、ハックシュン!とクシャミをしたのだった。


≪ ただいまより、第一二三回、日出大学、大学祭を始めます。ご来場者の皆様、大変長らくお待たせいたしました。本日は、ごゆっくりとお楽しみください ≫


学祭が始まると、どこも一斉に騒がしくなる。

屋台は盛り上がり、舞台にも人が上がる。

コナカたちの劇は、夕方からだった。


「さて、と……」


タカキは、一瞬目を閉じた後、ゆっくりと瞼を開けた。

販売員モードスタートだ。


「ねぇ、見てみて! お菓子売ってるよ!」

「わぁ、綺麗! 何これ、宝石みたい!」


女の子二人が、キラキラとした目で琥珀糖を眺めている。

そんな彼女たちに、タカキは、とてもいい声で囁いた。


「いらっしゃいませ、可愛らしいお嬢様方」

「へ?! お、お嬢様?!」

「何、え、何?! 私たちのこと?!」

「このお菓子は、琥珀糖と言うのですが、宝石菓子とも呼ばれていまして、見た目が美しく、甘みと、やわらかい舌触りが特徴の甘味なんです」

「そ、そうなんですね!」

「やだ、よく見たら、この子凄く綺麗な顔してる…!!」


綺麗と言われたタカキは、ニコリと笑って言った。


「綺麗なのは、キラキラしているお嬢様の方です。その髪飾りも、そのブレスレットも、とてもよくお似合いです」

「なっ……!」

「うっ、か、買います!」

「ありがとうございます、今日はたくさん学祭を回って、是非素敵な思い出を作ってください」

「も、もう出来ました……」

「最高の想い出、ですぅ……トキメキ過剰摂取で苦しい」

「あ、そうだ。もし、手作りのアクセサリーがお好きでしたら、二階でハンドメイド作品を販売しているブースがございましたので、お時間があったら覗いてみるのも楽しいかと」

「「絶対、行きます!!」」

「お気に入りのものが見つかるといいですね」


タカキがニコリと笑うと、二人は、胸を抑えたまま、苦しそうにもがいた。

大満足の様子で、離れて行くかと思いきや、彼女たちは、タカキの隣のスペースにも足を伸ばす。


「ねぇ、こっちのお菓子も変わってるよ!」

「やだ、これとか絶対美味しいよね!」


結局、女の子たちは、甘味サークルのお菓子を全部買っていったのだった。


時間が経つと共に、次々に女性が並びだす。

あっという間に、廊下の端まで人の列ができた。


「このお菓子、本当に可愛いね!甘味サークルがあるなんて、知らなかった!」

「ね! しかも、100円だって! もっと買えばよかったね!」

「こっちの焼き菓子も美味しそうだよ!」

「我慢できないから、今食べちゃう!」


女の子たちが、歩きながら噂をすれば、また、一人。また一人と、甘味サークルのお菓子を求めてくる。


「お土産に、私3つ買っちゃった~!」

「それにしても、あの男の子、超可愛かったね!」

「身長は、少し小さかったけど、でも、笑顔が最高に可愛かった~!」

「名前くらい聞いておけばよかったよね!」


そんな女子高生たちの会話を聞いたナイトは……嫌な予感がする。と顔を一瞬だけ歪めて、タカキの元へと急いだ。

すると、そんなナイトの予感は的中した。

タカキの姿が見えないほどに、甘味サークルが列をなしている。


「……はぁ、やっぱり」


割り込んで行こうかとも思ったが、それでは、この並んでいる女子たちに負けた気分がしたので、ナイトは意地になって、列に並んだ。

女性ばかりの列に、男性が一人いるだけで、大分目立つ。

だが、さらに言えば、ナイトはこの学祭においては、有名人だった。


「あ、あの、もしかして、ミスターコンにエントリーされていた方ですか?」


その時、目の前に並んでいた女性たち二人がナイトに話しかけてきた。

ナイトは、爽やかな笑顔で返事をする。


「はい? あ、もしかして、パネルで、ご覧になられました?」

「はい! 舞台袖に大きく設置してあったのを見ました!」

「そうでしたか、お恥ずかしい。頼まれて、断り切れなかったもので……。でも、僕みたいなのが出るなんて、場違いも良いところですよね」


ナイトが、申し訳なさそうな顔で言えば、女性たちは、勢いよく首を横に振る。


「と、とんでもないです! 私たち、貴方に投票しましたから!」

「本当に! こんなイケメンなのに、頭も良いなんて、神は何物お与えになったのかと!」

「お嬢さんたちは、優しいんですね。ありがとうございます。こういうのは、あまり得意じゃないんですが、頼まれた以上は、最後まで頑張ります」


好青年の模範解答とも言えるべき、その返答を聞いて、周りの女の子たちも一斉に手をあげた。


「私も、貴方に投票します!」

「私も!」

「私は、貴方に、すでに投票してます!!」


並びながら、ナイトはファンを徐々に増やしていく。

そうして、周りから応援されている間に、先頭へと来てしまった。


「ナイト?」

「よ、タカキ」

「並ばなくてよかったのに」

「そういうわけにはいかないだろ。こういうのは、平等だ。はい、一つ下さい」


タカキに100円を渡したナイトは、ニコリと微笑んで言った。

タカキは、お代はいらないと言いそうになったが、それが、ここでは通用しないことを悟る。

なので、タカキは、販売員モードで接客することにした。


「宝石菓子をご存知ですか?」

「これ? 俺は食べたことがないな」

「琥珀糖と呼ばれるお菓子で、古くは江戸時代から親しまれてきたものなんです。この色は、貴方の瞳の色とよく似ています」

「え、あぁ、本当だ」

「でも、貴方の瞳の方が、ずっと美しいですね」


タカキがそう言って笑うと、ナイトは、目をギョッと開かせた。

色々言いたそうな顔をした後に、すぐに真顔に戻る。

ポーカーフェイスは、相変わらず健在なようだ。


「とても、素敵なお菓子をありがとう。少しだけ、そっち側に行ってもいいかな?」

「もちろんですとも」


タカキがニコリと笑うと、ナイトはタカキの腕を掴んで耳元で言った。


「販売員モード、禁止」

「丁寧な接客なのに?」

「いつものタカキが売っても無礼にはならない。イギリス紳士的な対応は、一旦中止にしてくれ」

「わかった。どっちにしても完売するまで、もう少しかかると思うけど」

「大丈夫だ。一瞬で、完売させてみせるさ」



そう言って、ナイトはタカキの店側に立つと、笑顔で目の前のお客様たちに言った。



「いらっしゃいませ」




その後。

タカキの店が、瞬く間に完売したのは、言うまでもない。







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