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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第一章「ミネラル戦士 ミネラル・ライト」
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「お待たせ、待った?」

「俺も、今来た」

「ん? あれ、元気ない? 暑い中、待たせてごめん、」

「え、」


五月の風のように爽やかな笑顔で現れたナイトに、タカキの近くにいた女性たちは、一瞬で目を奪われた。

タカキ相手だと言うのに、まるで彼氏のような台詞だ。

ナイトはタカキの体調を気にして、自分が被っていた帽子を、ポスンッとタカキの頭に乗せた。


「これ、」

「熱中症になったら大変だろ? 被っとけよ。それより、なんかあったのか?」

「何もない」

「お前って、嘘がつけないタイプだよな」

「……」

「はは、やっぱり。何か、悩んでたんだろう?」


ナイトの質問に、タカキはコクンと一度頷いた。


「友達の大事にしてた物、うっかり食べたんだ……」

「それって、まさか、あの、鉱物男?」


タカキの「友達」と言うワードに、ナイトがピクリと反応した。

一瞬にして、爽やかな顔が引き攣る。


「ナイト……やっぱり、コーブツ苦手?」


ナイトは、殆どの人に対して、人当たりがいい。

そんなナイトが唯一人前で喧嘩した相手が、コーブツだった。


大学に入学してから間も無くして、タカキとナイトは友達になった。

授業が殆ど被っていた為、ナイトとタカキはよく一緒にいた。


ある時、タカキに用事があったコーブツは、ナイトと話しているタカキを見つけ、無理矢理その場から連れ出した。

余りに強引で乱暴な態度にナイトが注意すると、コーブツはナイトに対して暴言を吐いた。


『 馬鹿は、話しかけてくるな。耳が腐る 』


真顔で、そう言い放ったコーブツに、その場にいた全員が固まった。

それも、そうだろう。

ここは、日本で一番頭の良い大学。

つまり、ここの学生たちは、今までの人生で『馬鹿』と言われたことが限りなく少ない人種なのだ。ただし、例外はいる。


タカキが急いで止めに入ったが、コーブツは「うぜぇ」と呟きながら、タカキの腕を引っ掴み、その場から立ち去った。

残されたナイトは、怒りで体を震わせていたが、そのことは、タカキだって知らない。


ただ、それ以来。

ナイトは、コーブツが大嫌いだった。


「コーブツが得意な奴なんて、世界にお前一人だと思うぞ。と言うか、彼奴の大事なものって、まさか……」

「コーブツが発見した新種の鉱物。金平糖に見えて食べちゃったんだ」

「なっ?! 身体は、大丈夫なのか?! どこか変なところは、」

「大丈夫、俺、丈夫だから。舐めたら消えちゃって、コーブツ凄く落ち込んでた」

「彼奴のことは、どうでもいいけど、タカキの身体が心配だ」


キッパリと言い切るナイトに、タカキはパチパチと目を瞬きさせた。

普段、誰に対しても穏やかなナイトだが、時折、こういう一面が現れる。


「身体は平気 。勝手に食べたこと反省してた。せっかく遊びに来たのに、気にさせてごめん」

「それは、全然いいよ。身体の調子が悪いのかと思って、心配しただけだから。まぁ、今も心配だけど。何か異変を感じたら、すぐ俺に言って?」

「ナイト、」

「タカキを病院に連れてった後で、法外な慰謝料をあの鉱物男に請求してやるから」


爽やかな笑顔はそのままのはずなのに、今は背中にサタンが見えた。

世間では、ナイトのような男を「腹黒」と呼ぶ。


「流石に混んでるなぁ〜、当たり前か」

「ナイト、並ぶなら、あっち」

「ん? 多分これ並ばなくていいチケットだと思う。ちょっと待ってて」


ナイトが受け付けのお姉さんに話しかけに行くと、受け付けのお姉さんたちは途端に頬を染めながら対応していた。

忘れそうになるが、ナイトは、世間一般で言うところのイケメンなのだ。

周りを見れば、何人もの女性がナイトを見つめている。


「お待たせ、タカキ?」

「どうだった?」

「このまま入っていいって。案内してくれるみたいだから、行こう」


ニコリと笑うナイトを見て、タカキはクスッと笑った。

さっきの受け付けのお姉さんの前では、完璧な微笑み方をしていたのに、今は少年のような顔をしている。


「え、何? 俺の顔に何かついてる?」

「ついてたけど、剥がれた」

「え! マジでついてたの? 早く言ってよ!」


貼り付けた愛想笑いがすっかり剥がれて、素のナイトになっている、ということは、タカキだけの胸にしまわれた。



◇◇◇



二人は、説明を受けながら、VRの機械を装着した。


目元が少し重くなる。

真っ暗だった視界に光が灯ると、世界が一瞬で変わった。


「バーチャルリアリティ、すごいな……」

「綺麗だ……」


まるで、星が降ってくるみたいだった。

周りが宇宙に包まれる。

最新の技術に、二人は目を瞠った。


「地球にいながら、宇宙を楽しめるなんて、変な感じだな」

「贅沢な気分」

「ははっ、わかる」


案内に連れられながら、俺たちはVRの世界で宇宙を旅していた。

その時、タカキの視界に、『ある星』が映った。


「あれ、あの星……」

「ん? どれだ?」

「なんか、煙が出てる……なんだろう」

「煙? そんなの出てる星、あるか?」

「あの、黒っぽい星だよ……南西の方角の」


タカキの言葉に、ナイトは首を傾げた。

そんなものは、どこにも見えない。

タカキには、もしかして別の映像が見えているんだろうか。

ナイトは、心配になった。


一方、タカキは、その星から目が離せなかった。

星は、どんどん黒くなっていく。

暫く黙って見つめていると、やがて、その星の一部が爆発した。

そこから、大量の流れ星が発生する。


その中の1つが、タカキのギリギリ近くまで来ると、光を放ちながら瞬く間に姿を変えていった。

オーロラのような光の中から、一人の少女が現れる。


「……っ」


少女は、人間と似た姿なのに、どこか違って見えた。

ふわふわとした長い髪の女の子が、悲しそうな顔でこちらを見ている。

彼女が必死に何かを伝えようとしているが、タカキには、何も聞こえなかった。


何か、大切なことを言っている。

それだけがわかったタカキは、彼女にソッと手を伸ばした。


すると彼女は嬉しそうにその手を取り、そのままタカキの唇にキスをした。

タカキは、思わず目を見開く。


そして、つい言葉に出してしまった。


「……君は、誰?」

「タカキ……!!」


目につけていたVRの機械をナイトに外された。

ナイトは慌てながら、タカキの肩を揺さぶる。


「オイ、大丈夫か?! 何か、変な映像が見えてたのか?」

「女の子が現れて……」


タカキがそう言うと、VR内のスタッフたちは、不思議そうに首を横に振った。


「あり得ません、そんな映像は無いはずだ」

「他の映像と混ざったにしても、女の子が出てくる映像なんて……」

「じゃあ、タカキが見たのは一体……」


何だかマズイことになりそうだったので、タカキは空気を読んだ。


「俺、昨日、眠りが浅かったから、夢見てたのかも」

「立ちながらか?」

「うん、今日が楽しみでなかなか寝付けなかったんだ。もう、大丈夫。心配かけて、ごめん、ナイト」


タカキの言葉にナイトは、少し照れながらも「タカキが、大丈夫なら」と渋々納得した。


その後、他のVRもせっかくなら、と楽しんで、タカキとナイトは大いに休日を満喫した。


そうして家に帰った時、ふと、指に違和感を覚えた。


見ると、右手の薬指に痣が残っている。

まるで指輪をつけていたかのような痕に、タカキは首を傾げた。




◇◇◇




その夜のこと。


タカキが眠りにつくと、また、あの少女が現れた。

今度は、声もちゃんと聞こえる。

彼女は、名前を呼びながらタカキに飛びついてきた。


「タカキ……っ!!」

「君は、さっきの……」

「私を受け入れてくれてありがとう!! よかった……!」


タカキが頭にはてなマークを浮かべていると、彼女は潤んだ目を擦りながら言った。


「自己紹介が、まだだったわ! 私、ミネラル星からきた、ミネラル・ライト! よろしくね」

「俺は、タカキ」

「知ってる、今日貴方の隣にいた子がそう呼んでたし、昨日のアイツも……」

「彼奴?」

「そう! アイツよ! アイツ! よりにもよって鉱物って呼ばれてた、アイツ!」

「あぁ、コーブツか。コーブツにも会ったの?」

「違うわ。正確には、貴方が私をあそこから救い出してくれたのよ。結果、食べられちゃったわけだけど」


そう言って、彼女は人差し指でタカキの唇を突いた。

タカキには、まだ何のことだか理解ができない。


「昨日、コーブツの家に行った時に、新種の鉱物を食べたでしょ?」

「あ……うん。食べた」

「アレが、私だったの」

「そうだったんだ。ごめん。金平糖みたいで綺麗だったから、つい」

「綺麗だなんて、そんな……って、照れてる場合じゃなかった! いいのよ! お陰でアイツの元から逃げられたんだから!」

「捕まってたの?」

「そうね、捕まってたも同然ね。アイツは新種の鉱物見つけて、ただ喜んでたみたいだけど、とことんまで調べられてたことを考えたら、ゾッとするわ……」


ライトは、ガタガタと肩を震わせた。


「ふぅ……あのね、折り入って、貴方にお願いがあるの」

「うん」

「私の仲間を見つけて欲しいの……!」

「うん、いいよ」

「え! 待って?! もっと、よく考えて!」

「うん?」


余りの順応の高さに、思わず、ライト自ら話を止める。

タカキの疑うことのない眼差しと即答に、ライトは、戸惑っていた。


「私、何も持ってないわ! 貴方に払える対価がないの!」

「対価とか、いいよ」

「危険な目に遭うことになるのよ?!」

「そうなんだ」

「私は、貴方に一つも得にならないことをお願いしてる……だけど、貴方以外に頼れる人もいなくて……。迷惑をかけることはわかっているんだけど、助けて欲しいの」


ライトは話す内に、どんどん顔を曇らせていった。


ミネラル星の鉱物は、ピュアな心にしか反応しない。

この、タカキと言う人物は、確かに、ピュアな心の持ち主だった。


しかし、だからこそ、巻き込んでしまうことに罪悪感を覚えた。


「……私の故郷、ミネラル星が悪いヤツに襲われてしまったの」

「それって、もしかして、今日VRの映像で見えたあの星?」

「そう、あれが、ミネラル星よ。煙が出ていたのは、敵の宇宙船が、ミネラル星を攻めてきたからなの。ミネラル星は占拠され、私たちは力を求めて、この遠い地球まで飛ばされてきたの」

「私たちってことは、他にもいるの?」

「全部で八人いるわ。私を含めて七人のミネラル戦士たちと、時空移動石、クロノス様よ。地球に来るまでは一緒だったんだけど……地球に着地した時に、バラバラになってしまって」

「ライトが探しているのは、そのミネラル戦士たちと、クロノス様なんだね?」

「彼女たちと再会して、人間の持つ物質の力を手に入れて、ミネラル星に帰らないといけないの……っでないと、ミネラル星が、ミネラル星が、あんなヤツのものに!」


ライトが悔しそうに拳を握り締めると、その手をタカキが上から覆うようにして握った。


「見つけよう。俺も協力する。大丈夫」

「タカキ……」

「どんなに辛くても、状況は変わらない。この一瞬の時に、拳を握り締めることも、手のひらを重ねることも、君の心次第だ」


ライトは、タカキの言葉に目を開いた。


「辛い時こそ、自分じゃなく、誰かの手を握るんだって、俺は、大切な人から教わった」

「……っ」

「握り締めるものが違うだけで、きっと何かが変わる」

「あ、」

「俺を信じて」


タカキの言葉を信じて、ライトは握った拳を緩めた。

そして、ソッとタカキの手に重ねる。


途端に、温かいものが込み上げてきた。


「うん、その調子」

「さっきから、凄く当たり前に私のこと受け入れてくれてるし、少しも驚いてないみたいだけど……貴方、何者なの?」

「俺は、地球人のタカキ」

「貴方みたいな地球人もいるのね……」

「地球人に、詳しいんだね」

「詳しく……は、ないわね。そうね。知らない内に、入ってきた情報だけで、勝手に決めつけていたみたい……」


地球人が自分たちよりも、弱いとか、劣っている等と考えてたことを、ライトは恥ずかしく思った。


「タカキ……本当に協力してくれる?」

「もちろん」

「じゃあ、私の後に続いて、呪文を唱えて」


ライトの言葉に、タカキはコクンと頷いた。


『 大いなる宇宙に繋がりし、物質のエネルギーたちよ。この波動の光を集めて、我が身にその力を与え給え。我こそは、ミネラル星の聖戦士、ミネラル・ライト。その力を、今、地球人タカキと共有する 』


タカキが後につられて唱えると、不思議な光がライトとタカキの周りを包んだ。

そして、タカキの中の光が一際大きく光ると、その光の線がタカキの指先に巻き付いた。

やがて、光がタカキの身体に吸い込まれるように消えていく。

ライトは、ホッとした様子で、タカキに笑いかけた。


「できた?」

「完璧よ!」

「俺、何か変わった?」

「朝起きたら、指輪を嵌めてるわ。それが、私よ」

「指輪になったの?」

「そうよ。元は、私の一部分だけどね」


タカキは自分の指を見たが、指輪は嵌めていなかった。


「明日、目が覚めたら、わかるわ。普段は、指輪の中で大人しくしているから安心して……と言うよりも、正直な話、まだ地球に慣れてないから、ずっと交信していられるほどのエネルギーがないの。でも、仲間に近づいた時や、貴方に危険が迫った時には、交信できるようになってるから、大丈夫!」

「わかった」

「とは言え、貴方を危険に晒すことは変わらないわ。敵が現れた時には、貴方にも戦ってもらうことになると思う」

「いいよ」

「もう! そんなに簡単に返事していいの?!」


ライトがツッコムと、タカキはクスッと笑みを浮かべた。

その笑顔を見て、ライトは固まる。



「大丈夫。俺が決めた事だから」



この瞬間。


ライトが、タカキに、恋をしたのは言うまでもなかった。






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