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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第五章「御曹司の××」
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-22


コーブツの家から帰る途中、タカキの目の前に一人の男が現れた。


「よ、ターカキ」

「クラゲさん、」


クラゲは、いつものスーツ姿ではなく、休日のラフな格好をしていた。

へらへらと笑いながら、タカキに近寄る。


「暇? 俺とデートしない?」

「……」

「そう、身構えるなよ」


ナンパでもするかのように話しかけてきたクラゲだったが、何かが起きたのあろうことを、タカキは察していた。

クラゲは、こう見えて、タカキと同じHeavens College出身だ。

つまりは、秀でた何かを持っているという事。

だが、傍から見れば、好青年に絡んでいる怪しい不審者にしか見えない。

しかし、最初に比べれば、クラゲの見た目も大分変化した。

少なくとも、浮浪者からは脱出したと言ってもいいだろう。

筋トレのお陰か、少しずつ筋力も戻ってきている。


タカキが、ジッとクラゲを見つめると、クラゲは、ご機嫌に頬を緩ませた。


「クラゲさん、顔」

「悪い、悪い。タカキが可愛くって」

「クラゲさんって、一度心許した相手には甘いよね」

「好きな奴と、その他で、世界が作られているからな!」


クラゲは、タカキの隣に来ると、その肩を持ちながら、誘導した。

タカキは、為すがままに連れて行かれる。


「何かあった?」

「いや、何、ちょっと~、会いたくなって?」

「なんで、俺が彼処にいるってわかったの?」

「ん〜、愛かな!」

「……」

「そんなスーパーの特売の玉葱を見るような目で、俺を見るなよ」


クラゲの話に付き合いながらも、クラゲは迷いなく足を進めていく。

連れて来られた先は、珍しくカフェだった。

それも、この間、タカキが来たばかりのVIN SANTOだ。


「あ! タカキさん!」

「こんにちは、コナカちゃん」


タカキが挨拶をすると、コナカは、ボフンっと顔を赤くする。

そんなコナカを見て、クラゲはニヤニヤと笑った。

席に案内されると、クラゲは頬杖をつきながら、タカキに囁く。


「モテモテじゃねーの? 色男」

「クラゲさん」

「あの子、公園で会った子だよな? 随分と雰囲気変わったみたいだが……俺は、今の方が断然好みだわ」

「それで。本題は、何?」

「クールだこと。実は、最近、ちょっと面白い展開になっててな。俺にも、友達が出来たわけよ」

「うん?」

「その友達っつーのがさ、ちょっと変わった奴で、怪物が出てくる夢をよく見るんだけどな。それが、どうにも正夢になるらしい」

「……怪物?」


その単語に、タカキがピクリと反応する。


「そ。それで、昨日、その怪物が出てくる夢をまた見たらしいんだが、その夢に出て来た場所っつーのが、ここだ」

「……ッ」


クラゲは、一枚の写真をタカキに見せた。

タカキは、それを見て、目を見開く。


「ナイトの家……」


渡されたスマフォの画面には、ナイトが家から出てくる姿が映っていた。


「隠し撮りなところは、目を瞑ってくれ。で、タカキの友達だった気がすんなぁ〜って思ったから、一応、情報共有しとこうと思って」

「クラゲさんの友達は、ナイトのこと知ってるの?」

「いや、知らない」

「その彼女は、何者?」

「さぁな。俺には、よくわからねぇや」

「彼女ってことは、やっぱり、相手は女の子か」

「……お前、ちゃっかりカマかけたな」


タカキは、ニッと笑みを浮かべた。


「なんてね。それだけわかれば、十分。ありがとう、クラゲさん」

「おう」

「お待たせしました~」


御礼を言ったところで、垂れ目先輩が珈琲を運んできた。

タカキは、顔を上げて、挨拶をしようと試みるが、肝心の名前が出てこない。


「ありがとうございます、……垂れ目先輩?」

「はは、いいよ、その呼び方で。慣れてるし、結構気に入ってるんだ」

「はい」

「そちらのお兄さんも、どーぞ」

「ありがとう、綺麗なお嬢さん」


クラゲが御礼を言うと、垂れ目先輩は、口をポカンと開けた後に、噴き出すようにして笑った。


「ハチクマくんの友人は、みんな面白いな」

「お、何か、ウケたぞ、やったな! タカキ」


クラゲがピースをしてきたので、ピースサインを返すタカキだったが、ふと、クラゲの指に傷がついていることに気が付いた。

垂れ目先輩が持ち場に戻った後で、タカキは、クラゲの手を掴む。


「……怪我してる」

「もう治りかけだ」

「なんで、怪我したのか聞いてもいい?」

「……この間、カマイタチみたいな風が吹いてきて、その時にやられたんだよ」


その時、タカキの目が見開いた。


「クラゲさん……いたんだ」

「ん?」

「気付かなかった……」

「どうした、タカキ」


クラゲの手を掴んでいたはずのタカキの手を握り直して、クラゲは、その手を撫でるようにして握った。


「自分が、まだまだだなって思っただけ」

「お前が落ち込む必要ってあるの?」

「精進しないと、大事な人を守れないから」

「ストイックな精神は尊敬するけど、それじゃあ、ダメだ」

「ダメ?」


クラゲは、タカキの手をひっくりかえして、手のひらに、人差し指で、マルを描いた。

そして、そのちょうど真ん中を人差し指で押さえる。


「お前は精一杯やってんだろ。なら、まずは反省することよりも先にやることがあんじゃねーの?」

「先に……?」

「自分を褒めてやるんだよ」

「……!」


その言葉を聞いて、タカキはキョトンとした顔をした。

クラゲにそんな言葉をかけられるとは、思ってもみなかったのだ。


「俺、すげぇ。頑張ってる。ちょー、良い奴。ほら、リピートアフターミー?」

「……」

「いいから、言ってみろって」

「俺、凄く頑張ってる。凄くいい奴?」

「そうだ。頑張ってて偉い! 偉いから、今日は、甘いもの好きなだけ食ってもいい! とかな、」

「……クラゲさん、」

「そうやって自分甘やかしていけよ。お前が甘やかせないなら、俺が甘やかしてやってもいいけど? 俺の甘やかし方は、凄いぞ」


ふふんっと、ドヤ顔で笑うクラゲを見て、タカキはクスッと笑みを零した。


「クラゲさんに甘やかされたら、凄そう」

「おう! 徹底的に甘やかすからな」

「じゃあ、遠慮しておく。まずは、自分で甘やかす努力をするよ」

「それがいい。そんで、たまには、俺に甘やかさせろ、いいな?」

「……加減してくれるなら」


タカキは、そう言って、珈琲に口をつけた。

ブラックのはずなのに、何故だか、甘く感じたのは、きっと心が甘いからだろう。


「ナイトのことは、こっちで何とかする」

「おう、悪いな。突然、引っ張ってきちまって」

「ううん。教えてくれてありがとうって、その子にも伝えて」

「わかったよ」


ひらひらと手を振ったクラゲをおいて、タカキはカフェから出た。

もちろん、お代をテーブルの上において。


クラゲは、タカキの置いていった500円玉を指で弾きながら、呟く。


「今度、ケーキバイキングでも奢ってやるか…」

「言わなくてよかったの? タカキ少年に」

「何を〜?」

「私のこととか……色々」


タカキが出た後で、クロノスは時空の狭間から現れ、タカキが座っていた席に腰掛けた。


「いいんだよ、あれで。タカキに必要な情報は全部伝わってるから」

「マリンの時、クラゲは私と時空の狭間から、あの子たちを見守っていた。タカキ少年が気づかないのは、当たり前のこと」

「だろうな。でも、例えそれを言ったところで、あいつは同じことを言ったと思うぜ?」


クラゲの言葉を聞いて、クロノスは首を傾げる。

タカキの後ろ姿を眺めながら、クラゲは誇らしげに呟いた。


「だって、あいつ、アズマ師匠のとこのガキだから」


アズマ式は、言い訳無用なのが、ルールなのだった。


それを聞いた、クロノスは呆れたように、返事をする。


「クラゲも、タカキ少年も人間離れしているけれど、その師匠たちは、もっと凄そうね」

「だろうな。だって、あの人たち人間じゃねーもん」

「宇宙人?」

「どうかなぁ。でも、すっげぇ、面白いよ」

「会ってみたいわね」

「いつか、会えるかもしれないぜ?」

「そうなの?」

「アズマ師匠は、弟子のピンチには、地球の裏側にいたってかけつける人だからさ」


クラゲが笑って、そう言った瞬間。

アイスコーヒの氷が、カランと溶けて、音を鳴らしたのだった。




◇◇◇



タカキは、カフェを出ると、その足で、真っ直ぐにナイトの家に向かった。


ナイトは、今日、講演会に行くと言っていた。

だとすれば、ナイト自身は、おそらく安全だ。

でも、なんでナイトの家なんだろうか。


そう思いながら、ナイトの家に向かっていたタカキは家の前まで来て、その理由に気付いた。

大きな豪邸は、閑静な住宅街の中でも、一際目立っている。


「そうか、ここには、宝石がたくさんあったんだ……」


ナイトがお金持ちだった事実を思い出し、タカキは自分の頭を小突いた。

屋敷の外を回りながら、異常がないか、確かめる。

広い広いこの家の何処かで鉱物が反応したのだとしたら、中の使用人達にも被害が及ぶだろう。

被害は、最小限に止めたい。

タカキは、忍び込もうか否か、悩んでいた。


その時。


「失礼致します。もしや、タカキ様でいらっしゃいますか?」

「……はい、貴方は」


屋敷の奥から現れたのは、初老の男性だった。

燕尾服を身にまとい、髪はしっかりとオールバックに纏められている。

白髪混じりの髪が、黒に混じって、髪の色が灰色に見えた。

タカキが、ジッと見つめていると、目の前の男性は背筋良くお辞儀した。


「この屋敷の使用人にございます、ユキナリと申します。ナイト様のご友人の方だと、お話しを伺っております。よろしければ、中に入られますか?」

「今日は、ナイトと約束してないんです。ただ、ちょっと近くまで来たので、ふと外観を眺めてしまいました。怪しい真似をして申し訳ありません」

「いえ、その様には思っておりません。たた、ナイト様のご友人にお会いしたいと、当主がお望みでしたので」

「当主?」

「ナイト様のお父上にございます」


ユキナリさんは、そう言いながら、屋敷の中へとタカキを促した。

大きな扉を開けて、ニコリと微笑んでいる。

一見、タカキに答えを委ねているようにも聞こえるが、ユキナリさんの目は、有無を言わさない目をしていた。

タカキは、悩んだ末に、ナイトの家に入る。

ナイトに連絡を入れようか迷ったが、タカキは自分のスマフォをポケットに仕舞った。


「ここへいらっしゃるのは、初めてですね」

「はい」

「何故、突然? それもナイト様のいらっしゃらない時に来られたのですか」

「偶然です」

「そうでしたか」

「はい」


しばらく、沈黙が流れた後。

今度は、タカキから口を開いた。


「ユキナリさんは、いつからこの屋敷で働いていらっしゃるのですか」

「ナイト様がお生まれになられる、ずっとずっとの昔の冬からにございます」

「そうでしたか」

「はい」


また、暫しの沈黙が流れる。

廊下を歩きながら、タカキはある事に気付いた。


「ユキナリさんは、ボディーガードも兼ねているんでしょうか」

「おや、変わった質問でございますね。何故、そう思いに?」

「……足音が一切しなかったので」


そう言って顔を上げると、ユキナリさんは顔色を変えないままで、答えた。


「昔、剣道を嗜んでおりましたので、そのせいでしょうか。すり足の稽古の時に、よく音を鳴らして叱られたものです」

「一般の人は、歩く時に、つま先を浮かせ、踵から地面に着きます。そのせいで音が鳴る。けれど、つま先から地面に足をつける人間は、足音が鳴らない。それは隙を見せる事なく、次の動作に直様移れるよう訓練されているからです。次の動作とは、すなわち反撃……。その足音は、強さの証かと」

「とんでもございません。剣道を習っていたとは言え、今となっては、全く使えない落ちぶれ者にございます。強さの欠片もない格好の悪い老いぼれです」

「落ちぶれているなんて、ご謙遜を。貴方は、イギリス紳士のように、美しくて、品がある。それに、瞳の奥の輝きからは、少しも老いが感じられない」

「まるで、口説かれているようですな」

「格好いいと申し上げているのは、確かです」


ハッキリと言うと、ユキナリさんは、肩を一度あげた。


「ナイト様が、貴方を気にいる理由がよくわかりました」

「ナイトは、家で俺の話をするんでしょうか?」

「いいえ。殆どなさいません」

「そうだと思いました」


タカキが納得したような声で頷くと、「ですが……」とユキナリさんは、言葉を続けた。


「タカキ様と出逢ってから、ナイト様は、この屋敷の中で携帯を眺めていらっしゃる時間が多くなりました」

「でも、ナイトと連絡を取っているのは、俺だけではありませんよ?」

「一度、お尋ねしたことがございまして。あまりにも嬉しそうな顔をされていたものですから。普段、私からそのようなお声がけをすることがありませんでしたので、珍しく思ったのかもしれません。ナイト様は、素直に、こうお答えなさいました」


ユキナリさんは、目を細めて言った。


「友達が出来たんだ。と」

「……!」

「その後に、待ち受けの写真を見せて下さりました。それで、タカキ様のお顔を存じ上げたのでございます」

「納得です」


タカキが答えると、ユキナリさんは、ニコリと笑みを見せた。


「楽しい話は、ここまで。……こちらです」


ユキナリさんは、意味深にそう囁いて、曇った笑みを浮かべた。

その笑みに、疑問を抱きながらも、タカキは大きくて立派な部屋の扉の奥へと足を進める。





「初めまして、タカキと申します」



一歩足を踏み入れたその部屋には、ピリッとした空気が漂っていた。




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