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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第五章「御曹司の××」
28/52

-21



今日は、日曜日。

連日の戦いで、ライトは疲れ切っていた。

休むようにとタカキから言われ、ライトは、大人しくタカキの中で眠っている。

はじめは「大丈夫だ!」と主張していたけれど、休むことも必要だとタカキに諭されれば、ライトは、頷く他なかった。




一方、タカキは、鉱物について、何か調べられないかと図書館へ向かおうとしていた。


「……」


だが、数秒考えた末に、踵を返した。

図書館とは、反対の方へと向かう。


着いたのは、コーブツの家だった。


呼び出されてもいないのに、タカキから赴くのは珍しい。

そして、そういう日は決まって、タカキは、あることをする。

それは、電話だ。


「……でるかな」


心配しながらも、電話を鳴らす。

三回目のコールで、コーブツは電話に出た。


「切るぞ」


第一声からして、コーブツらしい一言だった。

タカキは、慣れたようにスルーして、本題に入る。


「コーブツの家の前にいる」

「それが、どうした」

「入って良い?」

「何しに来た」

「ちょっと調べたいことがあったから」

「知るか」

「ダメなら、帰る。今日は、コーブツに頼まれた資料も弁当も、何も持ってきてない」

「チッ……勝手にしろ」


そう言って、ガチャンッと乱暴にコーブツは電話を切った。

コーブツの勝手にしろは、勝手に入れ、という意味だ。

タカキは、誰も聞いていないのに「お邪魔します」と言って、部屋に入った。


コーブツの研究室のセキュリティーを破って入ると、中には、相変わらず、ぼさぼさの黒髪を鬱陶しそうに掻き乱しているコーブツがいた。


「……お邪魔します」

「調べたいもんって、何だ」

「鉱物のことについて」


タカキが素直に答えると、真面目な顔をしたコーブツが、珍しくタカキの前に腰掛けた。


「お前、この間から変だぞ」

「……?」

「何で、そんなに鉱物について調べようとしてんだよ」

「それは……」


タカキが黙ると、コーブツは片眉を上げた。

そして、椅子から立ち上がると、コーブツは扉の方へと向かう。


「タカキ、ついて来い」

「うん」


素直に、コーブツの後ろを歩く。

連れて行かれた先は、台所だった。


「何か淹れろ」

「紅茶でいい?」

「何でもいい。俺は、部屋に行ってる」

「……コーブツの?」

「あぁ」

「わかった。後で、そっち行く」


コーブツの言う部屋は、研究室のことではない。

普段、寝る時にしか使わない、コーブツの部屋のことだった。

タカキですら、あの部屋に入るのは、久しぶりだ。

勝手知ったる台所で、サッと紅茶を淹れたタカキは、そのままコーブツの部屋へと向かう。


すると、そこには、キラキラとした景色が広がっていた。


「ほらよ」

「……あ!」

「どうせ、そろそろ来るころだろうと思ってたからな。もう、食えるだろ」

「琥珀糖だ。コーブツが作ったの?」

「それ以外に、誰が作ると思ってんだ。あぁ?」


コーブツが作ったのは、寒天のお菓子だった。

外側を乾燥させて結晶化させることにより、見た目が少し固く、中が柔らかい甘味の菓子が完成する。

作り方次第だが、見た目が鉱物にそっくりなことから、宝石菓子とも呼ばれていた。


「たまに作ってたっけ」

「一年に一回くらい、甘いもんが食いたくなる時があんだよ」

「それが、今だったの?」

「チッ、紅茶」

「はい」


コーブツに温かい紅茶を渡す。

窓際に腰掛けるコーブツは、タカキに向かって、顎で椅子に座れと誘導した。

タカキは、言われた通りに腰掛ける。


「で、何が起きてる」

「……え」

「言えないところは、言わなくていい。概要だけ説明しろ」

「……」

「何も言えないのか」


タカキは、悩んだ末に、口を開いた。


「女の子に、助けてって言われた」

「それで」

「その女の子は、危険な敵から狙われていて、今、その子を匿いながら、情報を集めてる」

「それは、少し前から、警察の間で噂されている、怪物事件と、何か関係があるのか」

「……怪物事件?」


コン、コンッ。


コーブツは、ベットサイドの壁を、二度叩いた。

モーター音が、静かに部屋に響く。

すると、突然壁が動き、中からパソコンが出てきた。

何個も繋ぎ合わされたモニター画面が、タカキの目の前に広がる。

コーブツは、キーボードを叩きながら、タカキに説明した。


「コーブツって、電子機器が嫌いなのに、電子機器の扱いに長けてるよな」

「こんな箱、俺の敵じゃねぇ」

「警察の管理データシステムに、侵入したのか?」

「侵入なんてしてねぇよ。たまたま目に入っただけだ」


モニターに映し出される画面を見ながら、タカキはコーブツの隣で、その画面を脳内に焼き付けた。


「お前、前に金色のパラサイトの警備やったっつってたろ。あの時、目玉だった隕石が、展示会の翌日、何故か変色した形で発見された。周りの警備員たちは、揃って意識を失っていたが、盗まれたものは何もなかったそうだ。隕石を盗むことや、壊すことが目的だったのなら、まだわかるが、変色させてまで何がしたかったのか、犯人の動機がわからなかった。そこで、俺の元に、依頼が来たんだ」

「初耳……」

「だろうな。一応、一通り調べたが、おかしな箇所が、二、三点見つかった。犯人の指紋や、形跡は残されていなかったと言っていたが、納得だ。鉱物は外側から塗り替えられたんじゃない。内部の構造を変えられていたんだからな」

「内部構造って、どこが変わってたの?」

「一般的に、どの鉱物でも、宝石でも、変色の可能性は多いにあり得る。理由は、温度、湿度、酸化、風化、様々なものが変化を及ぼすからだ。もし、どうしても変色させたくないのなら、そういう物質を排除したような空間を作り出さなくてはならない。丁寧に扱うだけで、永遠が保たれるなんて、夢を見るのもいいところだ。それすらもわからない凡人に、答えを教えてやる気はない。だから、変色は、管理が甘かったから。警備員が眠っていたのは、使い物にならない役立たず共だったからだって、結果を提出してやった」

「……怒られただろう」

「んなもん、知るか。小言を聞く時間がもったいないからな。もう二度とこういう依頼はしてくるなと釘をさしておいた」

「……それで、本当の結果は?」

「元々、隕石自体が地球上にはない珍しい物質だ。前の奴の研究結果を基にして調べたが、一概におかしいところを述べろと言われても、いくらでもおかしいところは発見される。だが、一つわかったことは、あの赤色は、外気に触れて変色したものではなかった。ましてや、外側から特別な物質をかけられたわけでもない。内側から、変わっていたということは、ある意味で、面白い展開が期待できるかもしれないと、俺は思った」

「面白いこと?」


コーブツは、エンターキーを押した。


「もし、鉱物に(コア)があったとしたら?」

「……脳?」

「そうだ。もし、鉱物が自分の意志で、考え、身体を変色させることができたのだとしたら、この問題は全て解決する」

「鉱物に意志が……つまりは、」

「鉱物は、生きている」


ニヤリと笑みを浮かべて、コーブツは、紅茶を飲み干した。


「まぁ、元々、鉱物は生きているがな」

「コーブツは、ずっとそう言ってるよね」

「あぁ。だが、コアが存在するとしたら、話は別だ。それに、一般的に、石や鉱物は無生物として扱われている。これに関して、納得はしていないが、自ら栄養を吸収したりせず、死という寿命を正確に持たないことから、そういう定義をされていることは、学術上仕方ないと言える。脳を必要とし、脳が与えられた生物は、おもに活動的な生物が多い。移動しなくては生きていけなかった生物たちは、神経細胞が発達しなければ、生きてはいけなかった。逆に、植物は、その場にとどまって生きるがために、身体の構造をそこまで変える必要がなかった。その代わりに発展したのが、活動動物にはない「再生力」だ。発芽するためのタイミングや、再生するための指令を出す脳が、植物にも存在することは、近年の研究からも明らかになっている。けれども、動物が持つ脳と植物が持つ脳には、大きな差がある。それと同様に、鉱物にも脳が存在しているとしたら、今まで研究者に見つからないくらい変わった脳なのか、それとも脳を持つ鉱物と持たない鉱物がいるのか、どちらにせよ、可能性はある」

「鉱物に脳があるとしたら、今回のパラサイトの件を、コーブツならどう解くの?」

「鉱物に脳があり、自分の本能で、色を変えたのだとすれば、考えられる可能性は、三つ。一、危険が迫っていたから。二、外気の変化による、内部構造の反射的反応。三、他鉱物、もしくは他生物による外部的影響」


指を一つずつ増やしながら答えるコーブツを見て、タカキは頷く。


「なるほど。三の外部的影響だけ、わからない」

「俺も、見たことはないから、あくまでも仮定の話だが、脳のある鉱物が存在したとしよう。だが、今、俺の手元にある鉱物たちには、まだ脳はないとする。その鉱物たちに、脳のある鉱物がある操作をすることで、内部構造を組み替えることができたとする。具体的な例の方がわかりやすいか?」

「うん」

「人間は、遺伝子操作の研究を繰り返している。羊に関しては、新しい生命体として、クローンを生み出した。他にも、人工知能を生みだしたり、遺伝子操作で、新たな生物を産みだそうとしている。脳のあるものが、自分よりも発達していない生物に対して、ある実験を行う。そうして産みだされた生物が、今までとは違う、新しい生命体となる。これでわかるか?」

「わかった。発達した鉱物が、まだ無生物と呼ばれる鉱物に何らかのアクションを起こすことによって、無生物だった鉱物が、新たな生き物として、創造されるってことで、あってる?」

「よし」

「でも、それだけでは、鉱物に意思があると断定できないんじゃない? 鉱物ではない、何者かが鉱物に外側から影響を与えることで鉱物に意識を与えたというように考える方が自然だと思う。その何者かは、人間の可能性が高い」

「人間が外側から鉱物を変えるとするならば、その人間には、特殊な能力がないと説明は無理だ。でなければ、外側に変化をもたらしても、外側だけしか変えることはできない。人間と鉱物、二つの性質を持つようなやつがらいたら、別だがな」


最後の言葉を聞いて、タカキは心の中で、ドキッとした。

まさにタカキとライトのことである。


「進化した鉱物が、脳を持って、他の鉱物に影響を及ぼしたと考えると、辻褄は合うけど、学術的にまだ証明はできないってこと?」

「こんな話を聞いたら、頭の錆びついた奴らは、沸騰するだろうな」

「こんな理論、馬鹿げてるって?」

「もちろん、一般的にはそう考えるのが普通だろう。だが、俺は研究者だ」


コーブツは、珍しく良い笑みを浮かべて言った。


「面白いと思う方を、研究するに決まってる」

「納得だ」

「それに、もう一つ理由はある。ここ最近、鉱物に関する事件を、よく耳にする。先日、公園で化け物が暴れているとの連絡が警察に入った。だが、警察が駆けつけた時には、何もなかったらしい。通報者も見つからず、事件はお蔵入りするかと思ったが、ある少年の一言で、それは変わった」

「少年?」

「まだ小さなガキだが、そいつは警察に向かって言ったそうだ。石の化け物が現れて、ドロドロに公園を壊していったんだと。そして、それを倒したのは、小さな男の子と、女の子だったらしい」

「その子は、一部始終、見ていたのか」

「だが、そのガキしか答えられる奴はいなかった。他の奴らは、まるで記憶喪失のように、その間のことだけスッカリ忘れていたらしい。けれども、公園の遊具の一部が、不可解な液で溶かされていたことや、周辺におかしな鉱物が落ちていたことから、警察は現在、秘密裏に、この事件を調査している」


当然のように、警察の極秘データを覗き見しながら、コーブツは答えた。

タカキは、そのデータに目を通す。

証言が得られなかったのは、タカキが周りの住民にライト・フラッシュを浴びせたからだろう。

どうやら、少年だけが、その光を浴びていなかったようだ。


「これが、その公園の映像だ。木は倒れ、遊具も壊れている。現在、工事中だが、公園内には、入れるらしい」


コーブツは、公園の映像を取り出した。

溶けた遊具の一部を拡大する。


「この遊具を壊した鉱物、なんだかわかるか?」

「……雄黄」

「ハッ、やっぱりな。お前この事件に関わってたのか」


タカキの回答を聞いて、疑いが確信に変わるとコーブツは目を細めた。


「……ごめん」

「何を謝る。てめーが何処で何しようと、俺には関係ねぇ。鉱物に溶かされて消えようと勝手にしろ。でもな……」


タカキの襟を掴んで寄せたコーブツは、目をギラギラさせながら言った。


「面白いもんは隠すな、全部言え」

「コーブツ……」

「で、鉱物について、お前が知りたいことは、何だ」


コーブツの黒い瞳が、前髪の隙間から見える。

その目は、獲物を狩るような目をしていた。


「魔法が使えるような石や鉱物が存在するとして、その詳細が知りたい」

「具体的に言え」

「さっき話した女の子が、敵に狙われている。その敵は、その魔法のような石を持っているんだ。強い想いに反応して、それを現実にしてしまうらしい。俺も見た事はないが、存在することは確かだ。もし何か知っていたら、教えてほしい」

「心当たりは、ある」

「何?」

「賢者の石だ。お前でも、聞いた事ぐらいあるだろ。錬金術師が作ったと言われている、幻の石だ。架空の世界の空想の産物だと言われているが、これがどうも嘘くせぇ」


コーブツは、賢者の石に関する資料をモニターに並べた。


「賢者の石を研究する輩が、世界に多すぎるんだよ。空想のものが、そこまで執着されているのには、何かしらの理由があるはず。おそらく、過去に賢者の石は存在していたんだろう」

「賢者の石か、」

「何でもできる石というのは、俺にも信じがたい。だが、特殊なエネルギーを持っていたとしたら、話は別だ。それこそ、宇宙のダークエネルギーに近いものを含み、人間の意識を読み取り、壮大なエネルギーで再現化することが可能な石が無いとは言い切れない。この世に存在するものは、発見されたものだけだ。未発見のものは、何でも無いものと同じ扱いをされる」


タカキは、賢者の石を見ながら、顎に手を添えて考えた。


「コーブツ。賢者の石について、調べられる?」

「テメー、俺を使う気か」

「お願いします」


タカキが頼むと、コーブツは悩んだ末に頷いた。


「条件がある」

「何?」

「賢者の石について、お前に有益な情報を与えてやる。そのかわり、お前は、俺に鉱物の事件の真相を話せ」

「……!」

「知ってるんだろう。その女とやらには、興味が無いが、鉱物が関わっているなら話は別だ。説明に必要なら、そいつもここに連れてこい」


タカキは、悩んだ。

これは、ライトの事情だった。

タカキが、自分の都合で勝手に人に話していいものなのか。


「彼女と相談してから決めてもいい?」

「こっちも調べるのに、時間がかかる。それまでに話し合っとけ」

「わかった」


タカキは、静かに頷く。

すると、コーブツがジッとタカキを見つめていた。


「コーブツ?」

「お前がまさか、鉱物に興味持つなんてな」

「今までも興味が無かったわけじゃないよ? コーブツの話は、面白かったし」

「だが、今のお前の目を見てると、意識の違いは歴然だ。協力は、してやる。そうまでして、鉱物を知りたがる理由はわからねぇが、面白そうなことを隠してやがるのは、間違いなさそうだ」

「どうかな、」

「まぁ、いい。それより、しばらく篭るから、ここへは来るなよ。邪魔だ。弁当も資料もいらねぇ」

「うん、ありがとう。頼んだ」

「ケッ、俺に頼み事なんざ、五億年はぇーよ。シネ」


タカキは、紅茶を飲み干すと、大人しくコーブツの家を後にした。











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