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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第四章「小心者の×××」
26/52

-19


カフェに行った日の夜。

タカキは、FSに急いで向かった。


「ライト……!」

「タカキっ!!」

「よかった、無事で」


いつも通り、飛びついてきたライトを受け止めながら、タカキはホッとしていた。

そんなタカキを見て、ライトは、不思議そうに首を傾げる。


「どうかしたの?」

「今日、鉱物に関係がありそうな人と接触したんだ」

「えぇ?!」

「でも、ライトが出て来なかったから、もしかして、また弱ってるんじゃないかって心配した」

「そうだったの……でも、鉱物の気配なんて全くしなかったわよ? どうして、タカキは鉱物関係していると思ったの?」


タカキは、ここ数日で激変したカナコの話や、コナカの足についていたアンクレットのことを話した。


「それは、確かに……鉱物が関係してそうね。でも、私が気付かないなんて、そんな鉱物……あ! もしかして、レオン?!」


その時、ライトは思い出したかのように、一つの名前を叫んだ。


「レオン?」

「カメレオン鉱物のレオン。簡単に言えば、触れたものを無色透明な存在に変えてしまうことができる鉱物のことよ。普段は戦闘タイプじゃなくて、穏やかにミネラル星で暮らしていた子なんだけど、あの子がミネアンビーになって、こっちに来ているミネラル戦士と手を組んでいるのなら、厄介な話だわ……」


ライトは苦々しい顔をした。

タカキは、少し考える。


「それなら説明がつくかも」

「なんの?」

「今までの鉱物たちは、俺に対して敵意しか向けて来なかった。だけど、あの子が俺に向けているのは、好意だ。だからこそ、こちらからは、攻撃を仕掛けられない。もしかしたら、こっちが油断した隙を狙っているのかも」

「うぎっ!」


タカキが淡々と説明をしていると、ライトの顔が少しずつ引きつっていく。

ライトの眉間に皺が寄ったのを見て、タカキはその皺を人差し指で伸ばした。


「ライト?」

「こ、好意って……その子に告白されたの?」

「いや、そう言うのじゃない。でも、抱きつかれたり、舞台に誘われたりはした」

「舞台? それって、デートに誘われたってこと?!」

「彼女が出る舞台だから、デートじゃないよ」

「うぅ〜〜、よくわからないけど、それは、それで、モヤモヤするぅ」

「大丈夫?」


タカキがライトの体調を気遣うと、ライトはパッと立ち上がって、そのままズカズカとタカキの側まで寄って来た。

そして、座っているタカキの足の間に自分の体をおろして、横抱きになるように座り込む。


「?」

「モヤモヤするから、くっついてていい?」

「いいけど、大丈夫? 風邪じゃない?」


モヤモヤとザワザワの区別がつかないタカキは、ライトの身体が心配だった。

ライトは、ぎゅっとタカキの首に抱きつく。


「絶対、油断しちゃダメだからね!」

「油断しないよ。ただ、問題はライトが出て来れないってことだ」

「もし、タカキが危険だと判断したら、指輪にキスをして。そうすれば、無理矢理にでも繋がれるし、変身も出来るはずよ」

「それか、俺がここに呼びに来れればいいんだけど」

「そんな時間、きっと無いでしょ!」

「でも、無理矢理ライトを呼び出したら、それだけライトの負担が重くなる」

「その為に私はいるの!! タカキのピンチに戦えないんじゃ、意味がないわ!」

「ライト……わかった。なら、俺が危険だと判断したら、ライトを呼ぶよ」

「うん!」


ライトは、満面の笑みを浮かべた。

その顔を見て、タカキはホッとする。



だけど、心の何処かで、胸騒ぎがしていた。




◇◇◇




翌日。

授業が終わり、タカキとナイトは、教室を後にした。


「……タカキ」

「何?」

「あの舞台、やっぱり行くのか?」

「行くよ。結局、まだお金払えてないから、今度払わないと」

「無理矢理、押し付けて来たんなら、タカキが行く必要なんてないだろ」

「舞台は、好きだよ?」

「……なら、俺も行く」

「ナイト、」


タカキが真面目な声を出すと、ナイトは言葉を詰まらせた。


「わかってる。舞台に出る人達は、真面目にやってるんだもんな。こんな気持ちで観に行くこと、タカキがよく思わないのも、わかってる……けど、」

「けど?」

「モヤモヤする」

「ナイトも?」

「も?」

「あ、」


失言だったとタカキが気づいたのは、ナイトの満面の作り笑顔を見た後だった。


「だーれーに、言われたんだよ」

「……」


ジロリと見られて、思わず黙る。

嘘はつきたくないけども、本当のことも言えなかった。


「まさか……アカリとか言う女?」

「……!」


ナイトは、ライトの存在を知らない。

だが、ピンポイントで、ある意味の正解を突かれたタカキは、露骨に目を見開いてしまった。


「嘘だろ! いつ会った?!」

「えっと、この間……」

「まさか、タカキの家に泊まりに……っ」

「来てない」

「よかった……いや、良くない!」


ナイトは、鋭い目でタカキを見た。


「タカキは、モテ過ぎなんだ!」

「それは、ナイトの方だろ?」

「俺のと違って、タカキのは、本気な奴が多いから厄介なんだよ」

「俺、告白された事ないよ?」

「嘘だ!」

「本当だよ」


タカキは、冷静にナイトを宥めようとする。

だが、ナイトは不貞腐れたように、俯いた。


「ナイトは、何が嫌? 俺が女の子と話す事?」

「タカキが女と話すのはいい。モテるのも当前だから仕方ないと思う。だけど……タカキが彼女作って、彼女ばっかりになるのは、絶対に嫌だ」

「なら、大丈夫。少なくとも、今は誰とも付き合わないし、仮に誰かと付き合っても、ナイトと遊ばなくなったりしない」

「本当に?」

「うん」


タカキが素直に頷いたので、ナイトは、ようやく、顔を上げた。


「舞台の感想教えて」

「わかった」

「あと、今度俺とも舞台観に行こう」

「うん」

「タカキ」

「うん?」

「ありがとう、あと、最近、余裕無くてごめんな」

「何かあった?」

「え、」

「焦っているように見えたから。何か心配事でもあるのかと思って」

「……大丈夫、大した事ないよ」


ナイトは、心配事が無いとは、言わなかった。

だが、肝心な所は伏せている。

タカキは、無理矢理聞き出すような真似はしなかった。

その代わり、ナイトにキチンと自分の気持ちを伝える。


「何かあれば、力になる」

「タカキ、」

「一人で悩むな。意思と意識の声を聞いて、意思に従え。外の言葉に惑わされずに、ナイト自身の声を聞いてあげるんだ」


それは、タカキがナイトに言い聞かせている言葉だった。

ナイトはタカキのこの言葉で救われた事がある。

以来、この言葉を聞くと、ナイトは少し落ち着くのだ。


「ありがとうな、タカキ」

「どういたしまして」


タカキがニコリと微笑んだ

――その瞬間。


「ナイト、危ない……!」


目の前を、二つの剣が通り過ぎる。

間一髪で、ナイトを押して助ける事は出来たものの、ここは人の多い大学の中。

このままでは、タカキは、変身できない。


「今のなんだ?」

「突然、凄い風が……見ろよ、カマイタチみたいに木に傷がついてるぜ!」


学生たちは、驚きながら、ざわめいている。

あまりに一瞬のことで、それがミネラル・ソードだと、誰も気付いていなかった。


「た、タカキ……今のは?」

「わからない、けど、ここは危険だ。今すぐ逃げろ」

「わかった!」


そう言って、ナイトはタカキの手を掴んで逃げた。


「ナイト、俺は、大丈夫だから……!」

「タカキが大丈夫でも、こっちは大丈夫じゃない!」

「……え?」

「タカキこそ、危ないことに巻き込まれるなよ! 強いのは知ってるけど、心配しないわけ無いんだからな!」

「ナイト、」


珍しくナイトに叱られ、タカキは、驚いていた。

目を丸くして、繋がれた手を見つめる。


自分は、絶対に大丈夫だと思っていた。

その事実は、変わらない。

だけど、心配してくれる人がいる。

その気持ちを大事にしない事はいけない事だと、タカキは反省した。


「ナイト、ごめん」

「謝るな。それより、今は遠くに逃げるぞ……!」

「……うん、」


タカキが後ろを振り返るが、敵の姿は見えなかった。

他の生徒が狙われている様子もない。

敵の狙いがタカキなら、ナイトと行動を共にしていては、ナイトまで危険に晒される。

それだけは、避けなくてはならなかった。


「ナイト、」

「シッ、タカキ。ひとまず、ここに隠れよう」


気付けば、キャンパスの裏の駐車場まで来ていた。

授業も終わっているせいか、人は殆どいない。


さっきの言葉で、ナイトの気持ちは、理解した。

だけど、今はナイトの安全を優先させたい。

タカキは、何とか理由をつけて、この場からナイトを離れさせようとした。


その瞬間。

繋がれていた手のぬくもりが、ふと消えた。


「な、」

「こんにちは、タカキさん」


ひらひらと手を振っているカナコを見て、タカキは眉を寄せた。


「あら、私の名前忘れちゃいました? カナコですよ!」

「違う……君は、カナコちゃんじゃない。ましてや、コナカちゃんでもないはずだ」

「……なーんだ、やっぱりバレちゃってたんだ。うふふっ」

「ナイトを離せ」

「もう、手遅れです」


タカキは、腕を構えた。

目の前のカナコは、ニコニコと笑いながら、ナイトを抱きしめている。

ナイトは、気絶しているのか、すっかり意識は飛んでいた。


「タカキさんが悪いのよ? 私を放っておいて、イチャイチャしてるから」

「君の目的は、何だ」

「そんな怖い顔しなくても大丈夫。私の目的は、野蛮なものじゃないわ。ただ、タカキさんには、この子とくっついて貰いたいのよ」


そう言って、カナコは、自分を指さした。


「この子ね、タカキさんのことが大好きなの。私は、貴方のことなんて、どうも思ってないけど、私にも好きな人がいるから、この子の気持ち、すっごく共感できちゃって。誰にも渡したくないって気持ち、貴方にもわかるかしら?」


カナコは、ナイトを手離した。

ドサッと地面に倒れるナイトを見て、タカキは慌てて駆け寄ろうとする。

だが、次の瞬間には、タカキは、カナコの腕の中にいた。


「だぁめ。行かせないわ」

「君は、ミネラル戦士なのか」

「えぇ、そうよ」


ナイトは、カナコによって、タカキから遠ざけられた。

鉱物の力で地面から、駐車場の奥の芝生へと飛ばされてしまう。


カナコは、足で地面を蹴るようにして、飛び上がった。

そして、空中で、ミネラル戦士へと変身する。


美しい鉱物を身に纏い、ひらひらと揺れる布を巻き付け、高らかに言った。


「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物 鳴り響く雷の戦士、ミネラル・マリン!」


彼女は、間違いなくミネラル戦士だった。

コナカの身体を借りているが、ハッキリとした表情が、彼女の存在を物語っている。


「ミネラル・マリン……雷の鉱物」

「そうよ、ご存じだったみたいだけど」

「君の狙いは、」

「だから、さっきから言ってるじゃない」


マリンは、手に武器も持たずにタカキに近づいた。

そして、再び、その身体をタカキに摺り寄せる。


「私は、貴方が欲しいの」

「その理由を聞いている」

「利害が一致したのよ。この子と」

「利害の一致?」

「この子は、今とは違う自分になりたがっていた。だから、私がそれを叶えてあげたの。その代り、私は、この子の身体を貰った」

「……!」


その言葉を聞いた途端、タカキの目の色がガラリと変わった。

無理矢理、マリンの腕の中から逃れて、離れる。

そんなタカキの行動に、マリンはクスクスと笑みを零した。


「小心者のコナカの願いを叶えるかわりに、私の願いを叶えてもらっただけよ? 言わば、等価交換。何の問題もないでしょう?」

「コナカちゃんが、本当にそれを望んでいたとは思えない」

「彼女は望んでいたわ。だから、私と繋がったのだもの」


マリンは、そう言って、コナカの心臓に手を当てた。


「私が身体を欲しがった理由、わかる?」

「わからない。だが、きっと、聞いても理解はできない」

「ふふふ、タカキさん。貴方の中にいるの、ライトお姉さまよね」

「ライト……お姉さま?」

「そうよ。……出てきて、レオン」


名前を呼ばれて、マリンの身体から、黒い霧のようなものが溢れ出た。

それは、やがて、牙を持った鬼のような形に変わる。

霧の先は、マリンの心臓へと繋がっていた。


「……鬼紅石きこうせきと似ている、」

「この子の名前は、レオン。カメレオン鉱物よ。今、この空間は、レオンの力のお陰で、無色透明化されているの。だから、ライトお姉さまは、全然気づかずに、今もきっとFSにいるわ」

「……」

「ライトお姉さまと貴方が合体したことは知ってる。貴方、先日公園で、雄黄ゆうおうと戦っていたでしょ。あの時、私もあそこにいたのよ」

「あの公園に……?」

「えぇ、でも、その時は、まだ力が弱くて気づいて貰えなかったみたいだけど。あの時、貴方とライトお姉さまの合体した姿を見て、思ったの。あぁ、やっぱりライトお姉さまが一番だって」


マリンは、両手を合わせて祈るようなポーズを取ると、目をハートに光らせた。

タカキは、キョトンとする。


「……マリンは、ライトが好きなのか?」

「そうよ! 昔から、ライトお姉さまが一番好き! 何度も告白しているし、ミネラル星では、ライトお姉さまの一番近くにいたのは、私だったのよ! それなのに……っ、まさかこんな男に引っかかるなんて! それも、人間に!」


マリンは、キッとタカキを睨んだ。


「本当は、めためたに引き裂いてやりたかったけど、ライトお姉さまと身体を融合させているなら、その身体は壊せないわ。だから、タカキさんは殺さないことにしたの。でも、それならいっそ、タカキさんごと、私のものにしちゃえばいいんだと思って」


ケロリと何でもないように言い放ったマリンの言葉に、タカキは唖然とした。


「コナカがカナコになって、タカキさんと付き合えば、コナカの願いは叶うわ。そして、私は、ライトお姉さまと、ずっと一緒にいれることになるでしょう。この地球で」


地球、と言う言葉に、タカキは反応した。


「ライトはミネラル星に帰るために、戦っている」

「帰らせないわ。あんな危険な場所。……もう、手遅れよ」


マリンの苦しそうな顔を見て、タカキは握りこぶしを緩めた。


「君は、俺と戦う気は……無いのか」

「無いわ。ライトお姉さまを傷つけたくないもの」

「でも、ライトは、きっと今の君と会ったら、君を叱るよ」

「それでもいいわ。小心者と言われても構わない。好きな人を守って、何が悪いのよ」

「……守る?」

「だって、そうでしょう! ミネラル星に戻れたとしても、絶対に、また負けるに決まってる。あいつらの強さは、底知れないのよ!? ましてや、さらにパワーアップしてるって言うのに……地球に来た私たちに、一体何が出来るって言うのよ」


マリンは、自分の身体をギュッと抱きしめた。


「タカキさん、お願い。()()()を受け入れて?」


カメレオン鉱物は、マリンを取り込み、その感情を支配した。

独占欲。

誰にも譲りたくはないという頑なな感情。

時として、それは。


大きな、闇を生み出す。


「この子を取り込めば、ライトお姉さまも他のミネラル戦士に見つからなくなるわ。そうすれば、ずっとここで暮らせるのよ」

「ドローンの手下が、俺たちを取り込んで、放っておくはずがない」

「だって、レオンは約束してくれたもの……私とライトお姉さまを、守ってくれるって」

「それは、偽りだ」

「そんなわけないわ。だって、私とレオンは、今や一心同体だもの。ライトお姉さまも一緒になれば、みんな、守れる。そうでしょう?」

「……洗脳されているのか」


マリンの瞳は、明らかに正気を保っていなかった。

この場で、いくら説得しても無駄だろう。

マリンの心の奥の気持ちに反応して、ミネアンビーは入り込んできている。

だったら、その奥底の想いを変えなければ、マリンもコナカも助けられない。


「さ、タカキさん、私とキスしましょう。大丈夫、私とレオンが貴方とライトお姉さまを守ってあげますから」

「ミネラル・マリン……」

「大人しくしていれば、危険な目には合わせません」

「――……!」


そう言って、伸ばしてきたマリンの手を振り払って、タカキは、戦闘態勢をとった。

それを見たマリンの顔が歪む。


「……どうして、人間のくせに、」

「戦えないわけじゃないから」

「ミネラル・レコード……!」


マリンは、持ち前の武器を構えた。

黒い霧が、マリンの全身を纏う。

雷の双剣――ミネラル・ダブルソード。

その威力は、凄まじい。


「今なら、まだ許してあげます。貴方だって、ライトお姉さまを守りたくて協力していたんでしょう。だったら……大人しくしていただけますよね」


だが、タカキは怯むことなく二つ返事で答えた。


「断る」

「何ですって……!」

「ライトは、絶対にそんな未来を望まない」


マリンは、わなわなと震える。

その瞳には、怒りを宿していた。


「ならば、無理矢理にでも、ものにします」

「さっきの君に言いたいことがある」

「私に?」


タカキは、真剣な眼で彼女を見つめて言った。


「君が守りたいのは、ライトの外側だけ? 中身は、守りたくないのか」

「!」

「例え、ライトを危険から守れても、それをライトが望んでいなければ、ライトの心は救われない」

「……だけど!」

「ライトが望んでいるのは、ミネラル星の平和だ。そして……その未来が、君たちの幸せに繋がっていると、信じている」

「……っぁ」


マリンは、グッと心臓をおさえた。

ドクン、ドクンと胸が鳴る。

タカキの瞳を見て、ライトの真っ直ぐな正義感の強い瞳を思い出したのだ。


「ライトお姉さま……、」

「ライトの為にも、君の為にも、コナカちゃんの為にも、俺はここで君と戦いたくはない」

「……っ」

「本当にライトが大事なら、レオンに守らせるんじゃなく、自分で守るんだ。君には、その力があるんだろう……ミネラル・マリン」


タカキの言葉を聞いて、マリンは、自分の心臓をギュッとおさえた。

そして、その瞳から、ポロリと涙が零れ落ちる。


泣いたのは、マリンと、こなか、だった。


「あ、あっ……っああああああ!」


マリンの身体から、分裂した黒い霧は、鋭い牙を光らせ、地面へと降り立った。


「私の名は、レオン……カメレオン鉱物」

「レオ、ン……っきゃあ!」

「マリン!」


弱っているマリンを正面から攻撃したレオンは、かつてのレオンの面影を少しも残してはいなかった。

駆け寄ろうとしたタカキにも、レオンはすかさず攻撃を仕掛ける。

間一髪で避けたタカキは、レオンをギロリと睨んだ。


「役に立たないマリンめ……。まぁいい。二人揃って、私がミネラル星へと送ってやる」

「させない」


『私が相手よ!』


その時、ライトがタカキの意識の中に現れた。

レオンとマリンが分裂したことで、マリンの気を察知したのだ。


「ライト!」

『タカキ、変身よ!』

「わかった」


タカキが、指輪にキスをすると、みるみる内に、タカキの身体が変わっていく。

たくさんの光輝く鉱物に包まれ、タカキは目を大きく開けた。


「ミネラル星に選ばれし、戦いの鉱物! きらめく光の戦士、ミネラル・ライト!」


「ぐっ……現れたか、ライトめ」

『レオン……やっぱり貴方だったのね』


ライトは、一瞬寂しそうに目を揺らしたが、すぐに切り替え、タカキに叫んだ。


『タカキ、レオンの弱点は、火よ!』

「わかった。何とか火を起こせればいいんだな」

『えぇ、できる?』

「やってみる。……ミネラル・レコード」


タカキは、剣を構えた。

後ろには、マリンもナイトもいる。

これ以上、先には行かせない。


『タカキ、初めてだけど、一か八か、やってみて欲しいことがあるの』

「なに」

『光の線を思い浮かべながら、ライト・バーニングと叫んで。上手く宇宙と繋がれれば、光のエネルギーが燃え上がるわ!』

「やってみる」


タカキは、剣で、レオンの攻撃を避けながら、少しずつ距離を詰める。


「ライト・バーニング!!」

「チッ……」


だが、間近に迫り、攻撃を放った、その時。

レオンの身体が消えた。

タカキは、意識を集中させるが、気配すら感じられない。


「……消えた、」

『タカキ、逃げて! 見えないだけで、そこにいるわ!』

「っぐぁ!」


何もないはずの場所から、いきなり攻撃され、タカキは地面に叩きつけられる。


「……ごめん、ライト、当たった、」

『タカキ、逃げて!』

「……ッ!」


タカキが起き上がろうとしたその時、上から黒い霧が降ってきて、ライトの身体を締め付けた。

物体がないので、殴ることもできない。

タカキは、身体をギリギリと絞められ、身動きを封じられた。


「うっ、」

「人間風情が……鉱物の力を得たところで、敵うとでも思ったのか」


霧がどんどん濃くなり、その一角から、レオンの顔が現れる。

レオンは、鋭い牙を突きつけ、タカキの喉に食らいつこうとした。

その時。


「ぐあっ!!!」

「……マリン?」

「タカキさん、ライトお姉さま!」


復活したミネラル・マリンが、双剣を投げて、黒い霧からタカキを引き離した。


「怪我は?」

「タカキさんこそ……それより、ライトお姉さまは、無事ですか?!」

「ちょっと、待って。今、代わる」

「代わる?」


一瞬の間を置いて、タカキの声帯をライトに譲る。


「……っこの、大馬鹿マリン!!!!!! アンタ、何してるのよ!!」

「わぁぁぁん、ライトお姉さまぁ!! ごめんなさいいい!」

「ほんっと、馬鹿……ッ!」


ライトは、怒りながら、マリンのことをギュッと抱きしめた。


「怖いなら、地球に残ってて良いわよ。私一人でも戦うんだから」

「嫌です!! ライトお姉さまが戦うなら、私も一緒に戦います!」

「マリンが言った通り、危険よ。無事では、いられないわ」

「それでも、ライトお姉さまが行くなら、私も一緒です! 守りたいんです! ライトお姉さまより、弱いかもしれないですけど、それでも、私だって、大好きな人を守りたい……っ!」


ボロボロに泣く、マリンを見て、ライトは微笑みながら、その涙を拭った。


「うん、その方が、ずっと嬉しい」

「……ライト、お姉さま?」

「私にも守りたいものがあるから、マリンの気持ちはよくわかるよ」

「ライトお姉さまの守りたいものってなんですか……?!」


ライトはマリンを自分から引き剥がし、ミネラル・ソードでレオンからの攻撃を交わして言った。


「しあわせの、全てよ」


マリンは、目を見開いて、ライトの背中を見つめた。

その背中は、強くて、凛としている。

女性の身体なのに。

その背は、立派な戦士の姿だった。


マリンは、自分を奮い立たせ、気合を入れる。

もう逃げたりはしない。

本当に守るべきものと、その守り方がわかったのだから。


「ライトお姉さま! タカキさん! もう一度、さっきの技を」

「え、」

「私に考えがあります」


その言葉を聞いて、ライトはタカキの中へと戻った。

そして、タカキは、言われた通りに、ミネラル・ソードを構える。


「ライト・バーニング!!」


タカキが剣を振るった瞬間。

光の線が放たれ、その周りを熱のエネルギーが取り巻いた。

そして、その攻撃に合わせ、マリンが攻撃を放つ。


「マリン・スパークッ!!!」


放電による火花が散り、ライトの光エネルギーと交わると、一気に炎の渦となった。

吸い込まれるように、レオンへと向かって行く。

レオンが消えて逃げようとした、その時。

マリンが更に、声をあげた。


「マリン・インパルス・ゴールドライン!!」


すると双剣が、クルクルと回転し、ライトの光の線をあらゆる方向へと散らせていった。

逃げ場のなくなったレオンは、悲鳴をあげながら、ただの鉱物へと戻って行く。

ミネアンビーのエネルギーは、ミネラル星へと強制送還された。


ドローンの手下を倒したマリンは、地面に膝をつく。

息を切らしながら、涙ながらに空を見上げた。

タカキは、そんな彼女の肩を掴んで、抱き起こす。


「マリン、大丈夫?」

「タカキさん、ライトお姉さま……」

「ライト、出そうか?」

「いいんです、私もそろそろ、限界だから」

「マリン……」

「色々、ごめんなさい」


マリンが謝ると、タカキはマリンに向かって言った。


「マリンもコナカちゃんも、小心者じゃないよ」

「タカキさん……?」

「小さな心にも気づける優しい女の子なんだ」

「……え、」

「そのことを忘れないで」


タカキの言葉を胸に、マリンは、ふわりと微笑みながら、目を瞑った。


「コナカのこと、よろしくお願いします。タカキ、さん……」


そう言って、マリンは、そのまま意識を落とした。

変身が解け、普段のコナカの姿に戻る。


タカキも変身を解いて、元の姿へと戻った。


目の前には、コナカ。

少し先には、ナイト。


二人抱えて行くのは、難しい。

そう思ったタカキは、ある人へと電話をした。






「すみません、タクシーを一台お願いします」








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