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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第三.五章「番外編」
22/52

ライトの一瞬


タカキが普通に生活している間。

ライトは、指輪の中に身を置いている。


タカキの指に嵌められている指輪は、ライトの化身だ。

それは、タカキの身体と、ほぼ繋がっていて、簡単には外れなくなっている。

外す為には、いくつかの条件が揃わないといけない。


タカキの中に取り込まれたライトが、表でタカキと繋がる為に、指輪の形となっているが、日常では、タカキと生活を共有しているわけではなかった。

あくまでも、事が起きた時のみ、繋がっている。

そうしないと、ライト自身の体力も持たないのだ。

けれども、今のままでは、仲間を探せる時間も限られてしまっている。

少しでも、早くミネラル星を救う為に、ライトは指輪の中で、日々鍛錬を行っていた。



「さて、今日のところは、こんなものかな!」


FSの中で、一通りの鍛練をしたライトは、思い切り伸びをしながら、FSの宇宙そらを見上げた。


「タカキ……今ごろ、何してるのかな。今日はバイトがあるのかしら」


ライトとタカキは、いつも夢の中で繋がっている。

夜になれば、帰ってきたタカキがFSに来て、ライトと情報を共有し合うのだ。


「そろそろ、ミネアンビーが襲ってきてもおかしくはないのよね。その前に、私も体力つけなくちゃ……タカキにばっかり、負担かけていられないもの」


FSに浮かんでいる時空のテトラゴノに映し出された自分の姿を見つめながら、ライトは言った。

テトラゴノに映った自分の顔に手を伸ばす。

自分の口元に指先を持っていき、唇をソッと撫でた。


「……キス、」


ぼふんっと、ライトの顔が赤くなる。

タカキとのキスを思い出したのだ。


「私ってば、こっちに来てから、もう何回も~~っ! タカキから、チュッて! チュッって〜〜、もぉ、恥ずかしい~~っ!!」


FS空間で、ごろごろと転がりながら、羞恥に震える。

正確には、最初にタカキの唇を奪ったのは、ライトの方だ。

その後も、タカキは主に指輪にキスしているのだが、ライトの中では、見事に自分の姿でキスされている映像に変換されていた。


「はぁ……タカキってば、なんであんなに優しいのかしら」


ライトは、不思議そうに首を傾げた。

人間は欲深い生き物とばかり思っていたのに。

タカキは、そんな想像とは全然違っていた。


守ってみせる、と宣言された時。

ライトは、身体中がざわざわした。

出逢ってすぐに、恋に落ちてしまったのだ。


「でも、タカキは、人間。私は、鉱物ミネラル……。一緒になんてなれないのよね」


現実を口にして、しょぼんと落ち込む。

タカキとは、ずっと一緒にはいられない。

いずれ離れる運命なのだ。


わかってはいるのに、心臓が高鳴るのを止めることはできなかった。


「タカキも、ミネラルだったらよかったのに……。無理か、ミネラル星には、男の子なんていないもんね」


ミネラル星に住むミネラリアンたちは、みんな女型ばかりだった。

ミネラル星には、何故か、男型が存在しない。

もともとミネラリアンたちは、生殖行為の上で増えてきた生き物ではなかった。

ミネラリアンは、基本、ミネラル星の星の力から生まれる。

その為、異性という生き物がいなくても、何ら、問題はなかったのだ。


ミネラリアンにも、愛は必要だが、恋は必要ない。

だが、ライトは、地球に来て、初めて「恋」というものを知ってしまった。


「昔、先生に教えてもらったことはあったけど、私たちには関係のないものだと思ってた……こんなことなら、もっとちゃんと勉強しておくんだったわ」


恋をしてからと言うもの、胸がドキドキしたり、わくわくする。

タカキと一緒にいると、心臓(こころ)が五月蠅くて仕方ない。


なんで、幸せなのに、胸が痛くなるんだろう。

どうして、ドキドキすると、苦しくなるんだろう。


ミネラル星では、幸せとは、安らぎや心地よさと比例していた。

つまりは、ゆったりした穏やかな状態で、ホッと心があたたかくなるものを、幸せと呼んでいたのだ。


だけど、地球に来てから、その考えが、少しずつ変わってきた。


五月蠅いくらいに鳴る、わくわくも。

痛いくらいに締めつけられる、ドキドキも。


どちらも、幸せで仕方がないのだ。


こんな気持ちは、初めてで、ライトは、この感情をどう表現していいのかわからなかった。


「タカキと一緒にいると、知らない感情が、どんどん出てくる……」


先日の戦いで、小さな少年がタカキに「俺の嫁にならないか」と口説いてきた時に、心臓がキュッとした。

あれは、なんだったのだろう。

未だに、理解できない感情だった。


「私……このままで強くなれるのかな」


落ち込みながら、床に寝そべり、再び宇宙そらを見上げた。


その時だった。



「ライト、どうかした?」

「!?」

「疲れてる? 今日は、ミーティングやめとく?」

「タカキ……! なんで、ここに?!」

「なんでって……今、0時回ったところだよ?」

「嘘! そんなに時間が過ぎてたなんて……!」


挙動不審にオロオロしているライトの頭をポンッとタカキが撫でた。


「元気?」

「え、あ、うん! もちろん! ちょっと考え事してただけよ! 本当に元気!」

「よかった」

「タカキ、」

「今日も鍛えてたのか?」

「もちろん! 少しずつだけど、体力も出てきたわ!」

「無理してない?」

「してない!」


ニコッと笑ってそう答えると、タカキはニコリと微笑んで頷いた。


「タカキは、今日、どんな一日だったの?」

「今日? 今日は、特別な日だったよ」

「え?! 何かあったの?!」

「キョウカさんが、朝ごはんにおにぎりを握ってくれたんだ」

「おにぎり……?」


ライトが頭にはてなマークを浮かべていたので、タカキは説明を付けたすことに。


「ライト、米はわかる?」

「こめ?」

「見せた方が早いかな。FSの中で、また俺の右手を叩いたらスマフォって、出てくる?」

「スマフォって、あのタカキがいつも持ってる長方形の塊のこと?」

「うん」

「ちょっと待ってね、んっと……えいっ!」


ライトが、頭でうんうんと唸りながら、ライトの右腕をポンッと叩くとスマフォが現れた。


「どんな原理?」

「このブレスレットが、物を取ってくるための媒体なんだけど、私がその物を把握してないと取ってこれないのよ」

「なるほど。俺がこの間スマフォ取りだすことができたのは、変身していたからか」

「そういうこと!」


スマフォをライトの手から受け取ったタカキは、サッと操作して、おにぎりの写真をライトに見せた。


「これが、おにぎり」

「白いのね? ……この黒いのは?」

「海苔」

「のり?」

「パリパリした食べ物だよ」

「ふーん、人間は色々なものを食べるのね」

「ミネラリアンは、食事を取らないんだっけ?」

「取る必要はないわ。必要なのは、空気や水や、光。それすらも必要のないミネラリアンもいるけどね」

「性質によって違うのか」

「えぇ、ずっと水の中で生活しているミネラリアンもいるし、ずっと眠らないミネラリアンもいるわ」

「なるほど。ミネラリアンが純粋なのは、そこが理由なのかもしれないな」


タカキは、顎に手を当てながら考えた。


「全ての人間には、欲がある。その源は、生きる為に必要な欲から発生している。睡眠欲、食欲、性欲、物欲、知識欲、加護欲、数えきれないくらいの欲が存在する。それらの欲を持つこと自体には問題ないが、その感情が増大すると、良くない感情に繋がりやすい。けれども、欲が無ければ、人間は生き続けることができない生き物なんだ」

「どうして?」

「生きたいと願う事が、すでに欲だからだ。人間には寿命と言う生きられる期間が存在している。ミネラリアンには、死はあるのか?」

「もちろん。でも、ミネラリアンにとっての死は、消滅に近いわ」

「消滅か」

「つまりは、星に還ることよ。私たちは、それを不幸だとは思っていない。だから、私達は仲間が消滅しても悲しくないの」


ライトの言葉に、タカキは頷いた。

死は、自然の摂理だ。

どの人間にも生が与えられた瞬間に、平等に死が与えられる。


「人間は、地球に還らないの?」

「土葬すれば、還ることになるな。けど、人間は死を悲しむ傾向がある。自然の摂理だとわかっていても、割り切れないんだ。そこはミネラリアンとは、違うのかもしれない」

「不思議ね。こんなに、私たちは似ているのに。私は、ミネラルで、タカキは人間なんだもの」


ライトはタカキの手と自分の手を合わせた。


「……消滅は悲しむ事では無いけれど、誰かに無理矢理、命を奪われる事は悲しいことよ。だから、ミネラル星が襲われて、次々にミネラリアンたちが鉱物の姿にされた時は、壊れそうなくらいに悲しかった」


その時のことを思い出すだけで、ライトの顔が苦しそうに歪んだ。

それを聞いたタカキは、ライトの重なった手を掴んで言った。


「ミネラリアンたちは、消滅したわけじゃない。必ず、また取り戻せるよ」

「タカキ……」


タカキが安心させるように微笑んだのを見て、ライトもつられて笑顔になる。

タカキは、FSに、丸く円を描いた。


「俺の師匠は、人間が地球に在り続ける理由は、根底として、人間が地球を愛しているからだと言っていた」

「人間が、星を愛するの?」

「そう。そして、地球も、人間を愛してるんだって」


ライトは、キョトンとした顔で聞き返した。


「この地球に居続けたいという欲が、今まで人を地球に残してきた。だからこそ、人間は、子孫を残し、新たな生命を繋いできたんだ」

「新たな命を……」

「ミネラリアンには、命を繋ぐという概念はない。だからこそ、欲も少ないんだろう」

「そうなのかしら……」

「地球は、ゴッデス様が言っていた通り、物質の世界だ。そして多くの物質は、人間が作り出した」

「人間が? 物質は、自然が作り出すものじゃないの?」

「自然から作り出された物質を、人間が作り変えて、新たな《モノ》として、地球に生み出しているんだ」

「それは、良いことなの?」

「一概に、善悪でわけることはできない。だけど、人間が作り出したもので、この世界は創られている」


難しい話に、ライトは、眉を寄せた。


「ライト?」

「よく理解はできないけれど、人間がおにぎりというものを作り出したんだってことは、わかったわ!」

「今度、ライトにも作ってあげるよ」

「本当?!」


ライトが、前の目になってタカキに詰め寄ると、タカキは、コクンと頷いた。


「嬉しい! あ、でも、どうやって食べよう」

「前に、ウパラと戦った時に、俺の声をライトの意識と繋げたことがあったよな?」

「うん!」

「あの状態は、長くは続かなかったけど、どういう状態なんだ?」

「シンクロ率、70%って感じかしら? 通常は、タカキの姿になっている時、50%ぐらいの割合で融合しているの。ちょうど、半分! だから、バランスが取れているの」

「成程。じゃあ、そのシンクロ率の割合が高い時に、口にすれば、ライトも味を共有できるんじゃないのか?」

「そっか! タカキ、流石! 頭良い!」


ライトは、喜んだ。

食事をすることよりも、タカキと何かを共有できることが嬉しかったのだ。


「それなら、美味しいもの作っとかないとな」

「タカキが作ってくれるの?」

「うん、何でも作るよ」

「凄く嬉しい! 早く食べたい!」


ライトの言葉を聞いて、タカキは、クスッと笑ったのだった。


「うん、俺も今日、キョウカさんに作って貰った時、同じ気持ちだったよ」

「!」

「ん? どうかした、ライト?」

「へ?! な、何でもない!」


ライトは、首を横に振りながら、自分の胸をおさえた。

チクリと、一瞬何かが胸を刺したのだ。


感じたことのない鈍い痛みに、ライトは戸惑う。


「ライト?」

「気のせい……?」


タカキと向かい合いながら、首を傾げる。

その痛みの正体が「嫉妬」だという事に、ライトが気づくのは……



もう少し先のお話。




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