カワニシの一時間
どうも。
お忘れの方もいるでしょうが、カワニシです。
カリスマモデル、ミキちゃんの雑誌の件で、ナイトに真相を問いただしていた、モブです。
自分で言ってて、悲しくなってきた……。
そんな俺が、今何をしているかって言うと……大学のアイドル、ナイトくんと顔を突き合わせて、昼飯をとっています。
女子生徒からの視線が痛いです。
「ん? 俺の顔に何かついてる?」
「イケメンがついてる……」
「はは、カワニシにもついてるよ」
「嫌味か!!」
ナイトは、大抵タカキと一緒に行動している。
だが、今日は、タカキは午後からの授業しかはいっていない。
そんなわけで、珍しくナイトは一人だった。
タカキもナイトも同じ学部の友人で、そこそこ話したりはする。
だから、今のこの状況も別に苦ではないはず……なんだけど、俺は、何故か気まずい気持ちでいっぱいだった。
理由は……。
ナイトの話すタカキの話が、何だか、恋人の惚気話にしか聞こえてならないから……。
「それで、その時、タカキが……」
「な、なぁ、ナイト、ちょっと質問してもいいか?」
「え? あぁ、もちろんだよ」
「その……どうして、お前の待ち受けって、タカキとの2ショットなの?」
「どうしてって……?」
ナイトは、キョトンとした顔で、何がおかしいの? とでも言いたげな顔をした。
「この写真、凄くよく撮れてない?」
「お二人とも、とても美しいです! 補正いらず! プリクラもびっくりの目のでかさ! じゃねーよ!! そこじゃ、ねーから!!」
思わず、ノリつっこみを入れてしまう。
俺が変なのか?
俺の感覚がおかしいの?
「あと、さっきから、話を聞いてれば、タカキが可愛いだの、タカキは純粋だの」
「タカキは、可愛くて、純粋だろう?」
「まぁね!! そこはわかるけど、そうじゃないよね?!」
「カワニシ……さっきから、どうしたんだ?」
ナイトが不思議そうに眉を寄せているので、俺は、一から、この少し感覚のズレた友人に確認を取ることにした。
「あのさ、言いにくいことかもしれないから、別に深く追求するつもりはなかったけど、友人として、念のため聞いておきたいから聞いてもいいか?」
「どうぞ?」
「お前らって、付き合ってるの?」
「どこに?」
「……」
「カワニシ?」
「あああああああああああああっ、この典型的パターンの展開は望んじゃいないんだよ! チクショー!!!」
俺は、頭をかきむしりながら、机につっぷした。
そして、おもむろに起き上がって、ナイトを睨みつける。
「ハッキリ言うけど、ナイト、タカキのこと好きだろ?!」
「そりゃあ、もちろん?」
「それって、恋愛的な意味でじゃないのかって、聞いてるんだけど?」
「恋愛的な……意味?」
「そう。だって、ナイトの話聞いてたら、恋人の惚気話聞いてるみたいなんだもんよ。別に偏見とかは無いから、付き合ってようが構わないけど、ハッキリ言ってもらった方が、ありがたい」
「……」
「なんだよ、そのポカンとした顔は」
俺が、ナイトの顔を覗き込むと、ナイトは、呆れたように苦笑して言った。
「カワニシは、結構、想像力が豊かなんだな」
「へ?」
「俺とタカキの間に、そんな感情なんてあるわけないだろ。俺たちは、親友。確かに友達よりは、少し仲が良いとは思うけど、普通だよ、普通」
「普通……?」
「普通の親友だ」
「普通って言うのは、待ち受け写真を2ショットにしたり、休みのたびに二人で遊びに行ったり、毎日のようにLINEしたり、予定を把握していたり、手作り弁当を食べたりするような仲のことを言うのか?」
「それぐらい、普通にあるだろ? え、もしかして、カワニシ友達がいな―……」
「結構いるわ! むさ苦しい男友達だけど、それなりにいますー! でも、俺の友達は、そういうことしてるやつ、あまりいなかったから、もはや、普通の基準がわからん? 俺が、おかしいのか?」
「カワニシもおかしくないし、俺らもおかしくないでいいんじゃないの?」
「……まぁ、いっか。それが、お前らの普通って言うなら」
「そう、そう。俺とタカキは、純粋に友情を育んでいるんだよ」
「純粋ねぇ……、じゃあ、タカキに恋人ができても、ナイトは平気なんだ?」
サラリとたずねた質問に対し、ナイトは目を光らせた。
「…………は?」
「ヒッ?!」
この状況を一言で言うなら……魔 王 降 臨。
ビクッと、全身に悪寒が走った。
まるで、静電気のような電気が襲ってくる。
え、なに、俺地雷踏んだ?
え、待って。恋愛感情は無いって言ったじゃん?
「あの、ナイトくん……?」
「タカキは、恋人なんて今は考えられないって言ってたけど?」
「ヘー、ソウナンダー!」
「タカキと付き合うなら、品行方正で、タカキより可愛くて、タカキより純粋で、タカキより性格が良い女性じゃないと、友人としては応援ができないな」
「……ナイトの中でのタカキのラインが高すぎて、それ越える奴って、もはや聖女とかしかいないんじゃねーの?」
「何か言ったか?」
「イエ! イエ!! ナンデモナイ!!!」
ぶるぶると、顔を横に振る。
これは、触れたらいけない話題だった。
と言うか、待てよ。
ナイトのやつ、タカキのことが友情として好きだって言っていたけど、独占欲とか嫉妬の感情も持ってるってことだよな?
という事は……もしかして、ただの無自覚とか?
「な、なぁ、ナイト、お前の方はどうなんだ?」
「何が?」
「恋人だよ、作る気はないのか?」
「……」
ナイトは、一瞬溜めた後に、当たり前のように言った。
「タカキと一緒にいる方が、楽しいから、今はいらない」
それ、一生、いらなくなっちゃうやつ~~~~~?!
流石に、俺もそれ以上は何も聞けなかった。
末期なくらい手遅れだけど、無自覚な分、性質が悪い。
一つ、学んだことは、コイツを絶対に自覚させてはいけないと言うことだけだった。
「わかった。ナイトとタカキは親友だ。素晴らしい友情に間違いない。俺みたいなのが、無粋な茶々を入れて、大変悪かった、反省する!」
「はは、気にしてないよ」
嘘付け。
爽やかな笑顔の裏で、魔王がこっち睨んでますけど?!
「何はともあれ、今後とも、お前らが仲のいい親友であることを祈るよ」
「俺とタカキは、ずっと親友だ」
「そうだな!」
「あぁ。……タカキが嫌にならない限り、な」
「……え?」
小さな声でそう呟いたナイトだったが、俺にはバッチリ聞こえてしまった。
何故か、少し寂しげな目をしている。
さっきまでの様子だと、俺たちの友情は永遠だ! くらい自信満々に言い切りそうなのに。
複雑そうな眼をするナイトの顔を見て、俺は思わず、手を伸ばした。
「ナイ、」
「ナイト? どうかしたのか?」
「タカキ!!」
俺が声をかけようとした瞬間に、後ろからタカキが現れた。
昼休みの時間があと、少しで終わろうとしていたのだ。
あれから、1時間も過ぎていたなんて、時間の進む速さは、恐ろしい。
タカキの顔を見たナイトは、さっきまでの表情とは、打って変わって、背後に花を背負っていた。
オイ、魔王はどうした、魔王は。
魔王まで、花摘みだしてるじゃねーか。
「昼休み、もう終わるけど、食べきれてないのか?」
「あぁ、すっかり、カワニシと話しこんでて……つい、手が止まっちゃったんだよ」
「珍しい」
「タカキこそ、お腹空いてないのか? 冷めたけど、俺のからあげ一つ食べる?」
ナイトが、箸で掴んで差し出したからあげを、パクンッと咥えるタカキ。
それを見て、やっぱり、こいつら……と疑いの目をかけそうになるが、その瞬間、ナイトが本当に幸せそうな目をしているのに気づいてしまったので、俺は、この心を、奥深くへと仕舞い込むことに決めた。
無粋な真似はしない。
仲がいいなら、それでいいじゃないか。
「じゃあ、カワニシ、俺たち次の授業あるから、行くな」
「おー……、行ってらっしゃい」
ひらひらと、手を振って、二人を見送る。
すっかり冷めてしまった、からあげ定食を目の前にして、俺はやれやれと苦笑したのだった。




