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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第三.五章「番外編」
18/52

ミキの一週間


ミキの月曜日。


学校が終わった後、早々にキッチンに籠ったミキは、ガチャガチャと泡立て器を使いながら、何やら作っていた。


「ミキ、今日も凄い数のお菓子ねぇ。こんなに作って、どうするの?」

「明日、現場で配るからいいの!」


お菓子作りに励むミキを見て、ミキの母親は、不思議そうにそんな娘の姿を眺めていた。

元気になったのは、嬉しいことだけれど、何だか以前にも増して、自分磨きに力が入っている気がするのだ。


「ミキ、何か、あったの?」

「なんで?」

「何だか、ここ最近、特に頑張ってない?」

「アカリ様に会った時に、何も出来ない自分でいたくないの! 試合に出るのが決まってから練習しても意味ないでしょ! 勝負に勝つ為には常に努力し続けなきゃいけないのよ!」

「アカリ様……?」


ミキの母親は、首を傾げた。

アカリ様に出会ってからと言うもの、ミキは自分磨きに命をかけていた。

ミキの目に炎が見える。


「アカリ様って、何が好きなのかしら? ガトーショコラ? シュークリーム? チーズケーキ? マカロン? あぁっ! もう、何でも可愛い!」


ミキは、無我夢中で、お菓子を作る。

母親、そっちのけで、次第に妄想の世界へと入って行った。



「だって、アカリ様がもし、甘いものが好きだったら…」




~以下、ミキの妄想。



『ミキちゃんの作ったお菓子、とっても美味しい」

『アカリ様にそう言っていただけたなら、何よりです……!』

『……』

『どうかしましたか? アカリ様』

『もう、前みたいに呼んでくれないの?』

『へ?!』

『前は、アカリさんって、呼んでくれたのに』

『えっと、これは、その、』


『ね、お願い。アカリさん、ううん、アカリって、呼んで?』




妄想終了。



「なんてね! なんてね! はぁぁぁぁ! 尊い! らぶみがやばい!」

「ミキ……貴方、大丈夫?」

「ハッ、つい、妄想の世界に!」


母親は、怯えたように心配していた。

我に返ったミキは、自分の頬を、パチパチと叩く。


ミキに、油断はない。

毎日のメイク。

毎日のファッション。

毎日のオシャレ。


いつ、どこで、アカリ様に会ってもいいように。

日々、自分を磨いている。







ミキの火曜日。



「ミキぃ~、聞いたよ。ボイストレーニングも始めたんだって?」

「結構、テレビに映る機会も増えたしね。後は、仕事関係の人とカラオケとか行くこともあるから、やっておいて損はないでしょ!」

「あんたの、その仕事魂には、惚れ惚れするよ」


サナは、ミキより一つ年下のモデル仲間だった。

可愛いモデルが多い中で、サナは高身長のボーイッシュ系モデルとして、活躍している。

ユニセックスな服を着こなすサナは、ミキと一緒に仕事することも多い。

ミキとは、仕事抜きにして、仲のいい友人だった。


「それに、もし、いつか、アカリ様とカラオケに行くことになったら……」

「アカリ様?」




~以下、ミキの妄想。



『凄い、歌も上手いのね!』

『そ、それほどでも、』

『歌が上手い人って、憧れるなぁ』

『アカリ様だったら、アイドル目指せると思います! 可愛いし、可愛いし、声も素敵だし、もう、そこにいるだけでも、私にとっては、アイドルって言うか!』

『私が……アイドル?』

『あ! でも、アカリ様が皆のものになっちゃったら、私の手の届かない存在になりそう……!』

『ふふっ、ミキちゃんがおかしなこと言ってる』

『私は、本気です!』

『なら、二人でアイドルデビューしちゃう?』

『アカリ様と!? そんな、恐れ多いっ……!!!!』

『でも、やっぱり、やめよっか』

『アカリ様?』

『せっかくのミキちゃんの歌、独占できなくなっちゃうの、何だか、寂しいから』

『……へ?』


『ねぇ……私の為だけに、ラブソング歌って欲しいな』




妄想終了。



「……ミキ、あんた、涎出てるよ」

「おっと、しまった!」

「あんた……あれ以来、ちょっと変わったよね」

「何か言った?」

「いや、何でも。元気なら、それでいーや」

「元気よ? 当たり前でしょ」

「はいはい」


サナは、呆れたように苦笑した。






ミキの水曜日。



「ミキち~、今日のファッションも可愛いわね~」

「トレンドのセーターに、自分で、アレンジして、リボンをつけてみたんです!」

「んっもう、そういうオリジナリティー大好きっ! あんた、天才っ!」

「へへ、キャノさんに褒められると、凄く嬉しいですね!」

「あら、そ~ぉ?」

「はい! いつか、アカリ様にも、褒められる日が来るのかなぁ……」





~以下、ミキの妄想。



『お待たせしてます……!』

『わぁ、ミキちゃん、今日も可愛いね』

『そんな、アカリさんの方がとっても綺麗で可愛くて素敵です!』

『そんなことないよ。私オシャレとかそんなに得意じゃないから、ミキちゃんに教えて欲しいな』

『私が教えるだなんて……! アカリ様は、何を着ても、可愛いです!』

『ふふっ、オシャレな服も知りたいけど、それよりも、ミキちゃんの好みが知りたいかも』

『わ、私の好み?』

『どんな服が好き? どんな髪型が好き?』

『えっと……私は!』

『ねぇ、』

『……!』


『ミキちゃん好みの私にしてくれる?』




妄想終了。



「……むり」

「ミキちー……?」

「尊みが天元突破。世界は、愛で満たされている」

「何、マザーテレサみたいなこと言ってんのよ」

「ハッ、アカリ様って、生きるマザーテレサじゃない?」

「誰か、このポンコツモデルさっさと、現場に戻してちょーだい!」







ミキの木曜日



「はぁ……肩が痛い」

「ミキ、お風呂湧いてるわよ」

「今入る~」

「入浴剤、この間、作ったやつ置いておいたから、好きなの入れてはいりなさーい」

「はーい」


ミキは、自分で作った、バスボムを選びながら、たい焼きの形をした、シュールな入浴剤を湯船に投げ入れた。

しゅわしゅわと音を立てながら、魚が風呂に溶けていく。


「お風呂……か、そう言えば、私、あのアカリ様と一緒にお風呂に入ったのよね……」


正確には、一緒に入ったのではなく、ミキがアカリを風呂に投げ入れたのだが、そこは綺麗に記憶が修正されていた。




~以下、ミキの妄想。


『可愛い、手作りの入浴剤?』

『はい! 重曹があれば、簡単に作れますよ』

『ミキちゃんって、何でもできるんだね』

『そ、そんなことないですよ~、えへへ』

『そんなことあるよ!』

『よ、よければ、好きなの貰って下さい!』

『え、いいの?』

『アカリさんに、貰って欲しいです!』

『でも、どれも可愛くて悩んじゃうな。ミキちゃんのオススメはどれ?』

『私のオススメ……ですか?』

『うん、教えて』

『じゃあ、この紅茶とハーブの香りの入浴剤なんてどうですか?』

『ミキちゃんはこの匂いが好きなんだね。じゃあこれにする』

『喜んでもらえたなら、嬉しいです』


『ふふっ、ところで、ウチのお風呂、今日はこの匂いなんだけど、一緒にどうですか?』




妄想終了。



「キャー! ミキ、ゆだってる! 浸かり過ぎよ!」

「ふふっ、ふふふ……」


風呂に、真っ赤になりながら、浮かぶミキは、にやにやと口を綻ばせていた。








ミキの金曜日。


「これと、これ下さい!」

「あら、ミキちゃん、今日もたくさん買っていくのね。今回は、何を作るの?」

「今日は、ふわもこ、キュートなパジャマです!」

「あら、素敵ねぇ」


近所の布屋さんは、ミキの行きつけだった。

ここで、リボンや布を調達して、買った服にアレンジしたりしている。


しかし、最近では、アレンジだけでは足らず、服まで作るようになった。


「えっと、型がこれで、布だとここで着るから……」


独学で、どんどん技術をあげていく。

元々器用なミキは、ミシンを使いながら、巧みに服を仕上げて言った。


「アカリ様のくれた服は、宝物だけど、元を辿れば、あの男のものだものね……いや、それでも一度は、アカリ様の着た服だもの! あれは、プレミアよ! でも、アカリ様には、もっと可愛くて素敵なパジャマを着て欲しいわ。そして、素敵なベッドの上で、ぬいぐるみや、お花に囲まれて、すやすやと快適な睡眠をとって貰いたい……!」




~以下、ミキの妄想。



『どう、かな?』

『わっ、凄く似合います!』

『ほんと? ミキちゃんが作ってくれたパジャマ、凄く可愛くて、着る時ドキドキしちゃった』

『本当に、凄くお似合いです! めちゃくちゃ可愛い~っ! ここに、キラキラストーンつけて、よかった!』

『このパジャマ、ミキちゃんのとおそろいなのね?』

『あ、嫌でした?!』

『ううん、違うの、すっごく嬉しい……!』

『アカリ様……!』

『このパジャマ、凄く肌触りがいいのね』

『ふわふわのもこもこの布の方が、寝る時に気持ちがいいかと思って!』

『凄くふわふわ……えいっ』

『わっ! あ、アカリ様?! いきなり抱きついてくるなんて、どうしたんですか!?』

『ミキちゃんも、もこもこで、私ももこもこだから……くっついたら、もっと気持ちがいいんじゃないかと思って……ダメだった?』

『そんなわけ! あ、でも、これは、その』


『ミキちゃんも、ふわふわだね。へへっ、おそろい』




妄想終了。



「あああああああああああああああああ! 頭がふわっふわになっちゃう!!!!」



後日、出来上がったパジャマを着たミキの写真がSNSにアップされると、販売希望のコメントが殺到した。






ミキの土曜日。


「は? 護身術ですか?」

「そうなのよ、ナイトくん」


届けものをしに来ていたナイトは、出された紅茶に口をつけながら、ぽかんと口を開けた、


「ミキ……どこに向かうつもりなんだ?」

「何かあった時に、アカリ様を守るのは、私の役目なの! って、本人は言っていたけれど……アカリ様って、一体誰なのかしら?」

「……さぁ、僕も凄く探しているんですけど、未だに手がかり一つ掴めないんですよ」

「あらあら、そうなの?」

「まぁ、大丈夫だと思いますけど。それで、ミキは、護身術を習いに、今は出かけているんですか?」

「そうなのよ、暫くは帰ってこないと思うわ」





~以下、護身術を学んでいる最中のミキの妄想。


『アカリ様の敵は、私の敵!』

『ミキちゃん、痴漢を撃退してくれるなんて……!』

『ご無事ですか?! アカリ様!』

『怖かったけど、ミキちゃんが助けに来てくれたから、大丈夫。ありがとう』

『この身の程知らずは、私が地獄に送っときますね! 速達で!』

『ミキちゃん、まるで、王子様みたいだった』

『お、王子様だなんて、そんな』

『強くて、恰好よかった。まだ、胸がドキドキしてる……』

『……!』

『聞こえる?』

『……聞こえ、ます』

『でも、ミキちゃんも女の子なんだから、無茶しないでね。ミキちゃんに何かあったら、私……』

『私なら、大丈夫です! 護身術習ってますから! いつだって、アカリ様を守ってあげられます!』

『……それって、ずっと?』

『もちろ……へ?』


『一生、私を守ってくれますか?』




妄想終了。



「はぁぁぁぁぁんっ、御守り致しますとも! うらぁっ!」

「き、君には、護身術は、必要ないんじゃないかな……?」

「次ぃ!」

「はいぃぃっ!」


こうして、今日もミキは強くなっていく。

物理的に。







ミキの日曜日。



「ミキ先輩~、平日は、学校に行きながら、お菓子作りに、入浴剤に、裁縫までして、その上、ボイトレに、護身術も習って……本当に、人間なんですかぁ?」


最近、入ってきた、年上だけど後輩モデルのまゆかは、ぶりっ子が売りのモデルだった。

彼女は、ストイック過ぎるミキの働きっぷりに、尊敬を通り越して、若干引き気味だ。


「自分磨きは、いくらしておいても、損はないわ」

「うぇぇ、私、絶対できなーい」

「できるわよ。簡単だもの?」

「どこがですかぁ? 話聞いただけで、おかしくなりそう~~~」

「簡単よ。好きな人を作ればいいんだもの?」

「へ?! ミキ先輩、好きな人いるんですか? ひゃぁ、彼氏ぃ? どこのモデルさんです? 写真ないの~?」


途端に、積極的にグイグイくるまゆかを押し退けて、ミキは、言った。


「いるわよ。でも、間違えないでね。その人が綺麗な人が好きだから、綺麗になるんじゃないのよ。私が、好きな人の傍で、可愛くいたいから、頑張るの。誰かの為に、頑張るんじゃないわ。全部自分の為よ」

「えぇ、そんなので、綺麗になれます~?」


半信半疑の目でミキを見てくるまゆかに向かって、ミキは美しい顔で微笑んだ。

その顔に、まゆかは、同じ女ながらに、ドキッとする。


「私が証明してみせるわ」


そんな彼女を、ぽーっと見つめながら、まゆかは一人で呟いた。



「私も、好きな人、つくろ……」



~以下、ミキの妄想。



『モデルのお仕事って、大変?』

『そうですね、大変なこともありますけど、これが私の好きなことなので』

『仕事を頑張るミキちゃんって、凄く素敵。それに綺麗』

『アカリ様に言われると、照れちゃいます』

『また、様って呼んでる』

『あ、ごめんなさい。アカリ……さん』

『ふふ、もっとくだけていいのに』

『あの、アカリさんのお陰で、私、振り切ることができたって言うか……すっぴんがブスなのは、変わらないんですけど、前見たいに整形しようって思わなくなって、その分、自分磨きを頑張って、魅力的になろうって思ったんです』

『ミキちゃん』

『ありがとうございます、アカリさんがいたから、今の私があります』

『私は何もしてないよ。ミキちゃんが頑張ったから、今がある。そんなミキちゃんが、好きよ』

『……アカリさん、私、そんなこと言われたら、勘違いしちゃいそうで』

『……勘違いじゃないって言ったら、迷惑?』

『アカリさん……』

『ミキちゃん……』



妄想終了。


「ハーイ、カット! 凄いね、ミキちゃん! 凄く、大人っぽかったよ! 何考えてたの?」

「今後の人生のシミュレーションを考えていました」


キリッとした顔で、ミキはつらつらと答える。


「くっは~、想像まで、真面目だねぇ! でもいいんじゃない? 今回のコンセプトは、好きな人との初デートだからね。この顔バッチリ!」


スタッフから、太鼓判をおされた写真を見て、ミキは、ソッと微笑む。

想像ではなく、妄想だが。


人間、邪な気持ちが、最大限人を成長させる。

……事もあるのだ。





こうして、さらなるカリスマに育っていく、ミキであった。







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