-12
「いってきます」
写真に挨拶をして、タカキは家の扉を開けた。
「……?」
「おはよ、タカキ」
「ナイト? おはよ」
扉の目の前には、いつも階段の下で待っているはずのナイトが立っていた。
ナイトは、目を光らせながら、タカキの部屋を覗き見る。
タカキは、やれやれと息を吐いた。
「誰もいないよ」
「アカリとか言う女、あれから来てないのか?」
「アカリちゃんは、滅多に来ないよ」
「本当に?」
「うん。それに、アカリちゃんがここに来たら、ミキちゃんも飛んできそう」
「それは……間違いないな。あいつ、本気で、アカリとか言う女を探してるから」
今週の雑誌のインタビュー特集でも、憧れの人は? という質問に「アカリ様です!」と元気に答えていた。
ミキ様の憧れのアカリ様って誰?! と、実は世間では、密かな騒ぎになっていることを、タカキたちは知らない。
「昼飯は、食べた?」
ナイトの言葉に、タカキは首を横に振る。
「三限からだと、食べるタイミング見失うよな」
「サンドイッチでも買っていく?」
「そうしよっか」
行きつけのパン屋に向かう為、公園の中を横切ろうとした、その時だった。
「あ、」
「ん?」
「ナイト、ちょっと挨拶してくる」
「え、あ、オイ、タカキ?」
タカキは、トコトコと走って、平日の昼間から、ベンチに横たわるおじさんに声をかけた。
「クラゲさん」
「んあ? あ、なんだ、タカキか」
「昼休憩?」
「おー、すっかり、寝てたわ……そろそろ昼休憩、終わる頃か。起こしてくれて、さんきゅーな~」
「昼飯は?」
「食った」
そう言って、缶コーヒーをひらひらと見せてくるクラゲを見て、タカキは、首を横に振った。
「昼飯食べないと、働けなくなる」
「うーうー、わかっちゃいるんだけどなぁ~、食べ過ぎるともたれるわ、眠くなるわ、で結局食わないんだよ。夜に、無理矢理 酒の席に連れてかれることもあるしなぁ」
「今度、またシジミ汁作りに行くよ」
「マジか、それまで生きるわ」
「ちょっと、タカキ?!」
クラゲと話していると、横から、ものすごい剣幕でナイトが入り込んできた。
その顔は、怒りと嫉妬で、恐ろしい人相になっている。
まるで、般若のようだ。
「あんなホームレスと、いつ知り合ったの?!」
「ホームレスじゃないよ、サラリーマンのクラゲさん」
「クラゲ?! いかにもな名前だけど、怪しさ満点だろ! 何してるんだよ!」
「怪しくないよ。この間、友達になったんだ」
「は?! 友達に?! と言うか、素性も知らない相手と友達って……!」
「本名、倉木さん。二十九才、独身。昔はイギリスに住んでいて、学生時代はバスケをやっていたスポーツマン。現在の仕事は、システムエンジニアで東京在住。身長183センチ、体重69キロ。特技は、珈琲を淹れること」
タカキがすらすらとプロフィールを答えると、ナイトは、グッと顔を引き攣らせた。
「随分と、詳しい間柄になった、みたいだな……クッ」
「あと、シジミ汁がお気に入り」
「それ! さっき、作りに行くからとか言ってたよな?! まさか、あいつの家に作りに行ったのか?!」
「うん。たまたま」
「そんな偶然、どうやったら起きるんだよ! あぁ、もう! これだから、タカキは心配なんだ! 変な人には、近づかない! 怪しい人から何か貰っても口にしない! 再三、言ってきただろう!」
凄い勢いで怒るナイトを見て、クラゲは、気のゆるーい表情で、間に入った。
「まぁ、まぁ、そうカッカしなさんな」
「貴方が原因ですけど?!」
「怪しい人ねぇ、否定はしないけど、大丈夫だよ。この子に危害を加えるつもりはないから」
そう言って、クラゲは、ニコッと笑って、缶コーヒーをポンッと勢いよく投げた。
すると、それが、吸い込まれるように、遠くのゴミ箱の中に入る。
「え、すご、」
思わず、ポロリとナイトの口から言葉が零れた。
ナイトは、慌てて自分の口を抑え込む。
「おしっ、ナイスシュート」
「距離、三十二メートルかな」
「いや、普通に考えて入る距離じゃないだろ?! 何で、そんなことができるんだよ?」
クラゲとタカキがほのぼのと会話しているところに、ナイトがつっこみをいれると、二人はキョトンとした顔で、振り返って言った。
「「 昔、学校で習った 」」
二人の答えがハモった、その瞬間。
タカキとクラゲは、お互いの顔をバッと見合わせた。
「その台詞……タカキがいつも言うやつ」
ナイトの言葉に、クラゲは、眉を吊り上げた。
「マジで? という事は、もしかして、」
「クラゲさん、Heavens College出身なの?」
「おおお、やっぱり! なんだ、俺の後輩だったのか! どうりで、変な奴だと思ったぜ!」
そう言って、クラゲは、タカキを抱きしめた。
その瞬間、ナイトが慌てて、二人を引き剥がす。
クラゲは、気にせず、嬉しそうに大笑いしていた。
「ははは、なるほどな~、お前も、ギフテッド・チャイルドだったってわけか。納得だわ!」
「イギリス出身って言ってたから、まさかとは、思ってたけど」
「偶然って、あるもんだな。はー、笑った」
「タカキ、ギフテッド・チャイルドって?」
ナイトが不安そうな顔で聞いてきたので、タカキは、落ち着かせるように、ナイトの肩をポンッと叩きながら言った。
「今度、説明する。そろそろ行かないと授業始まる」
「あ、そうだった」
「じゃあな、タカキ。お前とは、長い付き合いになりそうだぜ」
「うん」
タカキは、素直に返事をしたが、隣のナイトは、それを良しとは思っていなかった。
振り返って、クラゲに鋭い視線を送りつける。
「お?」
「自己紹介してませんでした。俺は、ナイト。タカキの親友です。今後、貴方には十分、警戒するように、タカキには言っておきますが、念のため」
「ははは、ナイトか。ぴったりだな。俺の名前は、「言わなくていいです」……ハイ、ハイ。適当によろしく頼むわ」
敵対心を剥き出しにするナイトを見て、タカキはナイトに言った。
「ナイト、クラゲさん、良い人だよ」
「タカキの基準で人を測ったら、この世から悪人がいなくなる」
ナイトの台詞に、クラゲはその通りだと笑った。
タカキの前に立って、まるでボディーガードのようにタカキを守ろうとするナイト。
そんな二人の姿を見て、一瞬だけ、クラゲの目が細められる。
それを、タカキは見逃さなかった。
「タカキ~、親友は大事にしろよ」
「うん?」
「貴方に言われると、腹立ちますね」
「仲良きことは、美しきかな~、なんつってな、」
どこか掴めない性格をしているクラゲを見て、ナイトは眉を寄せた。
ぼさぼさの髪の毛のせいで、表情もよく読めない。
昼間から公園のベンチに横たわり、覇気がなく、よれよれのスーツを着ているサラリーマンを信用できるほど、ナイトの警戒心は薄くはなかった。
と言うよりも、タカキに慣れなれしく近づいてくる時点で、もはやナイトの「敵」なのだ。
「言っておきますけど、タカキに何かしたら、絶対に許しませんから」
「怖いね~、最近の若者、みんな怖いなぁ」
「貴方が怪しいのには変わりないですから。もし、タカキを傷付けるようなことがあれば……」
「あれば?」
「全権力を使って、潰します」
「ははっ、ここ最近、俺が出逢うのは、面白いガキばっかだなぁ~。あ~、何か久々に声あげて笑ったかもしれん」
上機嫌のクラゲを忌々しい目で睨みながら、ナイトはタカキを連れて、公園を出たのだった。
◇◇◇
その夜。
タカキが眠りにつくと、FSに連れて行かれた。
「ライト、」
「タカキ! おはよう!」
「おはよう?」
タカキは寝たばかりだが、夢の中では、目覚めたばかりなので、「おはよう」は間違った挨拶ではない。
だが、少し違和感があった。
飛びつくようにして抱きついてきたライトを、タカキは、軽々と受け止める。
「あ、そうだ。聞きたいことがあったんだ」
「なに?」
「最近、仲間の反応を感じなかった?」
「仲間の反応? ウパラの時以来、感じてないけど」
「そっか、」
「何かあったの?」
「いや、ちょっと気になってることがあって」
タカキは、ライトにクラゲのことを説明した。
「ふーん、ギフテッド・チャイルドのサラリーマンねぇ。その人は、何かアクセサリーを身に付けていたりした?」
「多分、見につけてなかったと思う」
「なら、おそらく違うわね。でも、どうしてその人が、鉱物と関係していると思ったの?」
「何でだろう……?」
ライトの質問に、タカキは顎に手をあてて、考える仕草をした。
だが、珍しく答えは出ない。
「ライトって、指輪が本体なんだっけ?」
「そうよ?」
「じゃあ、俺の日常って、本体を通じて見れたりする?」
「ううん。タカキと意識を繋げてる時にしか、外の様子は見れないわ。と言うよりも、わざと、そう言う風にしているの。一応、頑張れば、普段でも繋がることはできるのだけど、無理に繋げると、その後の回復が追いつかないのよ」
「前みたく、しばらく、出て来れなくなるのか」
「だから、ミネラル戦士の反応があった時、もしくは、ドローンの手下が現れた時に、すぐに反応できるよう、普段は力を温存しているの」
「俺が、ライトに隕石の前で話しかけた時は、すぐに反応してくれたよね。あの時は、強いエネルギーを感じることができたから、反応できたってこと?」
「えぇ、そういうこと」
「なるほど」
「変身している時は、常にタカキの意識と共にあるから、問題はないのだけど、指輪の中に籠ってしまうと、どうしても、すぐに反応できない時があるの。ごめんなさい」
「謝らないで。今日は、修行じゃなくて、そこの話をしよう。俺たちは、もっと互いの性質を知るべきだ」
タカキは、ライトに提案をした。
ライトは、大きく頷く。
「今まであったことを纏めて整理しよう。まずは、俺たちの中で、共通の言葉を作る必要がある。ライト、紙とペン出せる?」
「紙とペン? それって、ここじゃダメなの?」
「ここ? FS?」
「そうよ。ここに書けばいいじゃない。フリースペースなんだから」
「どうやって?」
タカキの質問に対して、ライトは自分で実践してみせた。
フリースペースに向かって、書く意識をする。
そして、人差し指を立てながら、そこに文字を書いていった。
すると、時空間に埋め込まれるようにして、文字が刻まれていく。
「書く意識をするだけで、手がペンのかわりになるわ」
「なるほど。さっそく、一つの問題が生まれた。これは、ミネラル星の文字?」
「そうよ。あ、そうか。私、地球の文字は、わからないんだった」
ライトは、頭をおさえながら、しまった! と言う顔をした。
「なら、どうして、地球の言葉で話せるんだ?」
「言葉というよりも、テレパシーに近いからよ。私たちは、会話は全て、文字ではなくて、感情とか意志を、音に直して話しているの。それが、タカキの脳に届くまでに、勝手にタカキの知っている言葉に変換されているだけよ。タカキが知らなかっただけで、私は、ずっとミネラル語を話しているわ」
「そうだったのか。ミネラル語は、後で覚えるとして……とりあえずは、イラストを描いて、まとめよう」
そう言って、タカキは、おもむろに人差し指を立てた。
FSに、イラストを描いていく。
「まず、ここにミネラル星があるだろう。これが地球。そして、これが、俺とライトだとする」
タカキがFSに絵を描き始めると、ライトの目がギョっと見開かれる。
ライトは、おそるおそる、タカキに声をかけた。
「ま、……待って」
「何か、間違えてるところあった?」
「これ、誰と誰って言ったの?」
「俺と、ライト?」
「ふぅ……タカキ、貴方にも苦手なものがあったのね。ちょっと、ホッとしてる」
「何が?」
そう、タカキは画伯だったのだ。
それは、もう、とんでもない生き物を生み出すレベルに。
タカキは、ピカソのように、理解できない絵をFSに描いていた。
「親近感が湧いたわ」
「ん?」
ライトの言葉に、タカキは首を傾げる。
どうやら、絵の才能が無い自覚は、なかったらしい。
「いいわ。絵は、私が描くから、タカキが指示して」
「わかった。じゃあ、ミネラル星に、ゴッデス様と、イリコ・マギアを描いて。それから、ドローンと化け物とミネラル星の住民たちも。あ、ミネラル星の住民と合体してしまった後の化け物の絵も、横に描いて欲しい。後は、地球とミネラル星を矢印で繋いで、地球側に、七人のミネラル戦士と、クロノス様と、あと、ミキちゃん」
「えっと、これがこうで、ここにこうで、……これで、よしっと!」
ライトは、タカキに言われた通りに、相関図のような絵を描き上げていく。
タカキと違い、ライトには絵心が備わっていた。
「まず、整理をしていこう。ミネラル星には、ゴッデス様がいて、彼女はイリコ・マギアと呼ばれる魔法物質の宝石を守っていた」
「そうよ」
「それを狙ってきたのが、侵略者のドローン。彼が、化け物を連れてきたって言ってたけど、この絵を見る限りだと、鬼紅石みたいな化け物とは、少し違う感じだったのか?」
「全然違っていたわ。鬼紅石は、私たちよりな風貌だったでしょう。ミネラル星にいた、化け物たちのことを、私たちは、魔物と呼んでいたわ。尻尾が長い奴がいたり、硬く岩のような肌をしていたり、種類は、様々。でも、彼らは、人間や、私たちとは、かけ離れた姿をしていた」
「その魔物たちは、ミネラル星の住民たちと合体して、さらに強力な力を手に入れた魔物に成長した。ここまでは、あってる?」
「あってるわ。合体する時に、ドローンは、ミネラル星に不思議な黒い煙を放ったの」
「俺がVRで見た、映像の煙かな」
「その煙を吸い込んだミネラルたちは、次々にただの鉱物の姿になっていったわ。それを見て、みんな絶望していた」
ライトの瞳が、苦しそうに歪んだ。
タカキは、ライトの頭をポンッと撫でる。
ライトは、そんなタカキの優しさに、頬を緩ませた。
「魔物に、まず名称をつけよう。Beeだ。ミネラル語で書いて欲しい」
ライトは、言われた通りに、魔物の絵の横にミネラル語で「ビー」と書いた。
「ミネラル語でいいの?」
「いいよ。その字を見て、覚えていくから、問題ない」
「なんで、ビーなの?」
「ドローンは、“雄蜂”の意味を持っている。その下で働く奴らだから、働き蜂の意味を持つBeeにしたんだ」
「凄い、わかりやすい!」
「ビーは、ミネラル星の住民たちの力だけを奪ったわけじゃなく、吸収する形で、その力が仕えるようになったっていう認識で間違いはなかった?」
「そうなの。でも、おかしいのよ。ミネラル星の住民たちも、ミネラル戦士も、確かに他の星の物質と繋がることはできるけど、その為には、ピュアな心が無いとできないはずなの」
「ピュアな心……ライトが、最初に言っていたことか」
「そうよ。ミネラル星に生きる者たちは、みんなピュアなの。だから、その心と繋がれない限り、ミネラル星の住民と繋がることはできないはずなのに、どうして、ビーと繋がれたのかしら……」
「成程。謎が解けてきたぞ。ミネラル星の住民たちを、まず、ミネラリアンと呼ぼう。そして、ミネラリアンとビーが合体した魔物の名前をミネラリアンビーと名付ける。略して、ミネアンビーだ」
タカキが名称をつけると、図に次々に名前が足されていった。
「よし、地球に一旦戻ろう。地球には、七人のミネラル・戦士がいる。まず、光の戦士、ミネラル・ライト。次に、この間、ミキちゃんと合体した、水の戦士、ミネラル・ウパラ」
「そうよ。それから、炎の戦士、ミネラル・パイ。雷の戦士、ミネラル・マリン。氷の戦士、ミネラル・キララ。バイオ・ミネラル・戦士、ミネラル・パール。そして、大地の戦士、ミネラル・ナイト」
「ナイトと同じ名前……ではないか」
「そうなの?」
「ナイトの本名は、騎士だから」
「ナイトくんって、この間ミキちゃんの家にいた、あの子よね? 友達?」
「ううん、親友」
タカキの答えに、ライトは少しビックリしたような顔をした。
「どうしたの?」
「いいなぁって。親友って、ハッキリ言えるような子がいるのが、羨ましくて」
「ライトには、いないの?」
「うーん、口に出したことがないから、わからない。こっちは、親友だと思っていても、あっちが違うって思ってたら、悲しいじゃない?」
「……ライト、」
ライトは、どこか遠くを見つめながら、寂しげな瞳でそう言った。
その顔には、どこか複雑な思いが込められている。
そんな気がした。
「さて、続き! 続き!」
ライトは、ミキの横に「ミネラル・ウパラ」と書き記した。
「ウパラは、まず見つけたっと! だから、ミネラル戦士は、あと五人ね」
「ミネラル戦士は、人間と合体できることを前提として考えるけれど、ミキちゃんがウパラと合体したのに記憶がないのは、どうして? 俺は、ライトと合体してた時の記憶が残っているのに」
「それはね、タカキが私を食べちゃったからよ」
ライトは、右手のブレスレットをポンッと叩いて、立体的な図を取り出した。
「普通のミネラル戦士は、外部から接触して、外から人間と繋がるの。それによって変身するから、身体の変異も殆ど起きないし、あるとしたら、服が戦闘用に変わるくらいね。それも、ある程度、ミネラル戦士の方で調整ができるから、装備の大きさも自由自在ってわけ」
「そうだったのか。ミネラリアンたちも、自らが望めば、その対象と合体することは可能なのか?」
「可能よ。ただし、通じ合うことができればの話だけど。ミネラリアンには、ミネラル戦士のような強大な力はないけど、性質の力は備わっているの。だから合体すれば、その性質くらいは、使えるようになるわ」
「例えば、火の性質を持つ鉱物と合体すれば、火が使えるようになるってこと?」
「そういうこと。ちなみに、タカキと私の合体については、異例中の異例よ! だって、鉱物を食べちゃうなんて、あり得ないもの! だから、私とタカキが融合するときは、きちんとした契約を宇宙に向かって結んだでしょう?」
「あの復唱したやつ?」
「そうよ。本来は、あれを言わなくても、ミネラリアンの方から、ピュアな心と繋がることを意識すれば、変身できるようになっているの。その代り、完全なものではないから、ミネラル戦士の力も100%で使えるわけじゃないわ。だけど、タカキの身体は、ほとんど私と同じようなものだから、シンクロすれば、ほぼ100%に近い力が出せるはずよ!」
「そっか。俺が食べたことにより、内側から融合してしまったせいで、ライトが変身する時に、俺の身体ごと変わらなきゃいけなくなってしまったのか」
「そういうこと。わかってはいたけど、流石に説明したら嫌がるかなって思って、最初は、わざと説明しなかったの。ごめんね」
「それは、いいよ。戦う時も、問題なかったから」
「もう! 本当に、あっさりしてるんだから!」
タカキは、ライトの絵を見ながら質問した。
「外部から、接続してると考えたら、今ミキちゃんの耳についているこのイヤリングがウパラ本体ってことだよね」
「そうよ」
「じゃあ、記憶も、こっちが持ってるの?」
「この間の戦った記憶は、全部ウパラに残っているはずよ。それに、ある程度、力が戻れば、ウパラと私は交信できるようになるはず。今後、何か、大きな事件が起きたら、ウパラにも力を借りることができるわ」
「その場合、ミキちゃんと変身してってこと?」
「うっ……そういうことになるわね、」
「それは、心配だな。女の子を危険な目に遭わせるわけには……」
「で、でも、ミネラル戦士になったわけだから、強さは人間の十倍になったと考えていいと思うの!」
ライトが必死に説得しようとするが、タカキは少し渋い顔をした。
「せっかく、仲間が見つかったんだもの。タカキ一人の負担を減らしたいの……。そりゃあ、ミキちゃんを傷付けるわけにはいかないと思っているけど……」
「じゃあ、どうしようもなくなったら、ミネラル・ウパラの力を借りよう。それまでは、俺一人で何とかする」
「タカキ……」
「俺は、ライトを守るって約束したから、大丈夫。でも、ミキちゃんは、何も知らない女の子だ。なるべくなら、危険な目には合わせたくない」
「そうね。わかったわ……ごめんなさい」
しゅんと、謝ったライトを見て、タカキは、その頭に手を伸ばした。
「謝らないで。ライトの気持ちもわかってる」
「タカキぃ……」
「大丈夫。俺が全員、見つけてみせるよ。それまで、ウパラは、ミキちゃんに預けておこう。多分、襲われることはないと思うけど、万が一があるからね」
「そうね、それがいいと思う!」
ライトが頷いたのを見て、タカキはニコリと笑った。
「さて、ここからが本題だ。俺の考えている仮説なんだけど、話しても平気?」
「もちろんよ!」
「ミネラリアンとビーが合体した魔物、ミネアンビーが何故合体できたのか。ミネラリアンは、ピュアな心としか繋がれないと、ライトは言っていた。けど、それって、本当にそうだったのかな」
「どういうこと?」
「ミネラリアンは、間違いなくピュアな生き物だ。ミネラル星にいる時は、平和で、おそらくピュアな感情しか持たなかったんだろう。この状態のミネラリアンと繋がる為には、同じくらいピュアでないと繋がれない。ここまでは、正しい。けれども、ミネラリアンの感情が、負に傾いた場合は、どうだろう」
「負に傾いた場合?」
「普段のミネラリアンの感情の周波数がプラスだったとして、恐怖、不安、怒り、悲しみ、罪悪感、嫉妬。それらの感情の周波数がマイナスだったとしよう。もし、ミネラリアンの周波数がマイナスに傾いて、ミネラリアンの感情を支配していたとしたら、それらと同じ周波数を持つ、生き物と合体ができるようになってもおかしくないんじゃないか?」
「あ!」
ライトは、目から鱗のような顔をした。
タカキは、話を続ける。
「そう考えたから、ドローンは、まず、ミネラル星を襲撃した。それにより、ミネラリアンたちは、恐怖に陥った。だから、ドローンは、ミネラリアンとビーを合体させることに成功したんだ。単純に、周波数を合わせたというわけさ」
タカキの仮説は、筋が通っていた。
そう考えれば、全ての辻褄が合う。
「それから、ライトたちが地球に逃げてくることも、予測していたということは、ミネラル星に、時空移動石のクロノス様がいたことを、おそらく知っていたんだと考えられる。だとすれば、相手は、ミネラル星に元から詳しかったということだ。つまりは、ドローン側に、内通者がいる可能性が高い」
「それって、つまり、ミネラリアンの中に、裏切り者がいるってこと?!」
「可能性としての話だけど、大いにありうる」
「そんな……っ!」
「ミキちゃんが石を拾った時、おそらくウパラの力は弱まっていた。だから、合体することも叶わなかったんだろう。ミキちゃんが怒りに感情を支配され、気持ちが暴走した瞬間、おそらく強い負のエネルギーが発生した。そこに反応したのが、ウパラの力だ。ウパラは、ミキちゃんの気持ちと、自分の持っていた負のエネルギーがシンクロしたことで、自然とミキちゃんと融合し、変身したんだ。そして、その気持ちに反応して、ミネラル星から送り込まれてきたミネアンビーが、ミネラル・ウパラの感情の中に入り込み、あのような事態が発生したんだと、推測できる」
タカキの説明に、ライトは悲しみを瞳に浮かべた。
「じゃあ、ドローンは、ミネラル戦士の心を支配して、仲間に引き込むつもりなのね」
「ライト、よく考えてみて。これは、逆にチャンスだ」
「チャンス……?」
「ドローンが、ミネアンビーのエネルギーだけを送り込んでいるのだとすれば、そのエネルギーをミネラル星に送り返せばいいだけの話だ。上手くいけば、地球にいながら、ミネラル星のミネアンビー達も、倒せることになる」
「でも、ミネラル戦士が狙われてるなら、ミネラル戦士とまた戦うことになるんでしょう?」
不安そうな顔をするライトに、タカキは言った。
「大丈夫。不安を捨てるんだ。その不安な気持ちにこそ、奴らは、食いついてくる」
「……!」
「ライトの心だって、狙われないとは、限らないんだ」
「そうよね。地球に来た時、不安で堪らなかった。でも、私には、タカキがいた」
タカキが、ライトを暗闇から引き上げたのだ。
ライトは、ごしごしと目を擦った。
「タカキがいれば、私は、大丈夫……っ! 絶対に、希望を失ったりしないわ!」
「うん、絶対に大丈夫。俺がライトを守るよ」
「でも、他の戦士たちは心配だわ。みんなが、みんな、タカキみたいなわけじゃないし……それに、人間って、こう言っちゃなんだけど、欲の塊みたいな人が多い気がするの」
「否定はしない」
「してよ! 希望を持たせてよ!」
タカキは、人差し指を立てながら言った。
「欲が全て悪いわけじゃないよ。必要な欲だってある」
「そうなの?」
「うん。だから、ミネラル戦士たちも、大丈夫だと思う。現に、一度はドローンに支配されたウパラも、正気を取り戻せただろう」
「確かに、そうよね。タカキが、そう言うなら、信じる!」
「よし。じゃあ、後は、戦い方の対策と、探し方の方法を考えよう」
タカキは、ライトの描いた全体図を見ながら、分析を始めた。
こういった分野は、タカキの得意とするものだ。
真剣なタカキの横顔を見つめながら、ライトは、静かに呟いた。
「タカキって、本当に頼りになるのね」
「ん?」
「何でもないわ! 作戦会議を続けましょう!」
ライトとタカキの会議は、その後、朝まで続いたのだった。




