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ミネ☆ぷり  作者: 千豆
第二章「カリスマ××」
11/52

-10


家に帰ってきたタカキは、ミキをベッドの上に下ろして、ふと自分の恰好を思い出した。


「ライト、そうだ。この恰好って、着替えられるの?」

『あ、そうだった、戦闘モードのままだったわ』

「これって、装飾外したら、マズイんだっけ?」

『装飾と言うより、武装よ。一応、戦闘モードだけでも、解除しておくわね』

「どうすればいい?」

『ミネラル・チェンジ!』


ライトが叫ぶと同時に、タカキの着ていた服が、ミネラル星での、ライトの私服に変わった。

服の系統は、少し変わっているが、露出はない。


「ちゃんと、布で覆われてる……」


タカキがホッとした、その時。

ミキが、ゆっくりと目を開けた。


「ん……」

「あ、目が醒めた?」

「ここ、どこ……痛っ」

「どこか痛いの?」

「頭が……つか、アンタ誰よ」

「えっと、通りすがりの……」

「通りすがりって、……っ嘘、ここどこ?! 外なの?! 私、化粧、化粧は?!」

「お、落ち着いて!」

「いやぁっ!! 見ないで!!」


ミキは、叫びながら、布団に隠れてしまった。

タカキは、怯える彼女に、なんて声をかけようか迷う。


「突然、ごめんね。怪しい者じゃないから、安心して」

「何で、こんなところにいるのよ!」

「何だか、パニックになってたみたいで、君が突然、外に飛び出して来たんだ」

「嘘……私が? 記憶にない……と言うか、記憶が飛んでる」

「ぶつかった瞬間に気を失っちゃって、そのままにしておけなかったから、ここまで運んできちゃったの」


ミキは、静かに布団の中から声を出した。


「あんた……私のこと、知ってるわよね」

「え、」

「ニュースぐらい見るでしょ」

「……ミキちゃん、だよね?」

「知ってるなら、なんで助けたの」

「なんでって?」

「あんたも、私のこと、嘘つきのブスだって馬鹿にするんでしょ。あんたみたいな、化粧も碌にしてないのに、美人な人間には、私の気持ちなんて一生わからないんでしょうね。一体、何が目的なの」


ミキは、完璧にタカキを疑っていた。

正確には、誰も信用できなくなっていたのだ。


「マスコミがたくさんいた」

「……でしょうね」

「危ないと思ったから、ここまで連れてきちゃった。勝手なことして、ごめんなさい」


タカキは、布団の上から、ミキをポンポンッと撫でた。


「謝るとか、意味わかんない……っ」


ミキは、苦々しい声でそう呟く。

タカキが口を開こうとした、その時。

彼女が、勢いよく布団から出てきた。


「お風呂、借して。汗で、べったべた」

「うん。今すぐ、用意する」


急いで、湯船にお湯をはる。

タカキは、ミキにタオルを渡して、シャンプー等のボトルの場所を教えた。


「じゃあ、ごゆっくり」


タカキが脱衣所から出ると、しゅるしゅると服を脱ぎ捨てる音が聞こえてきた。

彼女がお風呂に入ると、途端に啜り泣く声が聞こえてくる。

強がっていても、ミキは、女の子なのだ。


「うっ、ひっく、うっ……うぅっ」


お風呂に入って、涙を流す彼女を思うと、心が痛くなった。

タカキは、コンコンっと、風呂場の扉を叩く。


「ミキちゃん、大丈夫?」

「うっさい、話しかけてこないでよ……」

「……泣かないで、」


タカキは、小さな声で、そう呟いた。

ミキの啜り泣く声が、ピタリと止まる。

すると、突然、風呂場の扉が開いた。

真っ裸のミキが、タカキの腕を引いて、無理矢理、風呂場へと引き入れる。


「え、あっ」


気付けば、服を着たまま、湯船にぶち込まれていた。

見た目は女同士とはいえ、タカキは立派な男だ。

慌てて顔を背けようとしたが、ミキの言葉により、それは叶わなかった。


「同情なんて、してんじゃないわよ!!」

「……え、」

「ブスが傷付いちゃいけない?! 泣いたら余計ブスになるから?!」

「ミキちゃん……?」

「涙くらい流させてよ! 悲しいんだから……っ、悔しいんだからぁ!」


大粒の涙が湯船に落ちる度に、水面に波紋が広がる。

ミキの言葉を聞いて、タカキは、自然と彼女の頭を撫でていた。

そして、真っ直ぐな眼差しで、ミキの瞳を捕らえる。


「泣いてもいいよ。でも、一人で泣くのは、辛いでしょ」

「……え、」

「一人で泣かないでって、言いたかったんだ。泣いちゃダメって、意味で言ったわけじゃないよ。ごめんね」


タカキの言葉を聞いて、ミキは、そのままタカキの身体に、思い切り抱きついた。

ぽよんっとした、ミキのまだ小さな胸が、タカキの身体にあたる。

濡れた素肌に触れるのには躊躇したけれど、タカキは優しくミキの背中に手を回した。


「……私、中学まで、ドイツにいたの」

「帰国子女だったんだ」

「ドイツで、同級生たちから、ブスだ、ブスだって馬鹿にされてて、超悔しかった。絶対綺麗になってやるって思って、化粧を勉強したの」

「そっか」

「高校デビューして、綺麗になって、友達も増えて、嬉しかった。でも、どうしてもすっぴんを見せるのが怖くて、お泊り会にも行けないし、彼氏も作れないし、嬉しいはずなのに、どこか寂しくて。そんな寂しさなんて吹き飛ばすくらい、仕事頑張ろうって、いつも必死になってた」

「うん。頑張っていたんだね」


タカキが背中をポンポンッと撫でると、ミキの目に涙が溢れた。


「嘘つきだって、みんなが言うけど、化粧してどこが悪いのよ!」


ミキの叫び声が、風呂場に響く。


「私だって、整形するつもりだったんだもん! すっぴんも綺麗になって、堂々と生きてくつもりだった! その為に、お金もいっぱい貯めてた! でも……っ」

「整形しなかったのは、どうして?」


タカキは、その答えを知っていた。

だけど、あえて、ミキに言わせる。

ミキは、タカキから少し距離をとって、タカキの顔を見ながら言った。

涙で、真っ赤になった目と顔を晒しながら、ミキは、本当のことを話したのだ。


「うちのお爺ちゃん、昔は、凄く元気だったの。なのに、病気で入院してから、凄く痩せちゃって。笑わないお爺ちゃんを初めて見た時、心が凍りつくかと思った。太陽みたいに笑う人だったのに、どうして、こんな寂しい目をするようになってしまったんだろうって、凄く悲しくなったの」


初めて、病院に行った時。

痩せ細って、見る影もないくらいに暗く沈んだお爺ちゃんの姿を見て、ミキは衝撃を受けた。


歳には敵わない。

病気だから、どうしようもない。

親戚の誰もが、仕方のないことだと言った。


だけど、ミキだけは、諦めなかった。


どうしても、また、あの笑顔が見たい。

また、お爺ちゃんに、笑って欲しい。


そんな風に考えていたミキの目に映ったのは、お爺ちゃんが最高の顔で笑っている写真だった。

白黒の古ぼけた、一枚の写真。


お爺ちゃんの隣には、大好きなお婆ちゃんの姿があった。


「お爺ちゃん、私のブスな顔、見る度に、死んだお婆ちゃんに似てる、大好きなお婆ちゃんの顔にそっくりだ、可愛いって、笑うんだもん。ブスだから、見せたくなかったし、外で、すっぴんでいるなんて絶対に嫌だったけど、お爺ちゃんが、あんまりにも幸せそうに笑うから……っだから、私、」

「お爺ちゃんを幸せにしてあげたかったんだね」

「お爺ちゃんに、笑って欲しかったんだもん……っえっぐ、ひっく、だって、ミキのお爺ちゃんだから、世界中で……っ誰より、ミキのこと、本気で可愛いって、言ってくれる、お爺ちゃんだからっ」


ボロボロと零れた涙は、本当に宝石のように美しかった。


「ミキちゃんは、優しいね」

「でも、撮られたけどね!! まさか、あんな場所で撮られるなんて思ってなかったわよ! と言うか、お爺ちゃんのことまで書くなっつーの! ほんっと、マスコミって信じられない! 最低っ!」


散々、叫んだ後に、ミキは、風呂に顔を埋めた。

ぷはっ、と顔をあげた瞬間に、タカキが両手で、パシンッとその顔を捕まえる。


「綺麗だね」

「は?! アンタ、私に嫌味言ってんの?!」

「美しく、輝くって書いて、ミキ、って読むんでしょ。名前の通りだ。美しくてキラキラ輝いてる。おじいちゃんが大好きだから、幸せな気持ちにしてあげたかったんだよね。優しくて、あたたかいミキちゃんがいてくれて、お爺ちゃんは凄く嬉しかったと思うよ。それに、仕事してる時のミキちゃんは、誰より真面目で格好よかった。お化粧もすごく沢山勉強したんでしょ。それ、全部、ミキちゃんの持つ美しさだよ。少しも、無駄じゃない」


タカキの言葉を聞いて、ミキは目を見開いた。

渇いたミキの心に、優しい言葉の雨が降る。

ミキは、ぽつり、ぽつりと話した。


「私、メイクが好き、髪の毛いじるのも、可愛い洋服選ぶのも、大好き」

「うん」

「私がしてきたこと、ほんとに、無駄じゃない?」

「無駄じゃない」

「私、これからも、メイクしてもいい?」

「もちろん」


好きな恰好をして、好きなように生きればいい。

人生は、一度しかない。

それなのに、誰かに遠慮していたら、勿体ない。


「この世には、嫌いなことがたくさんある。それをしなきゃいけない時もある。だからこそ、好きを諦めないで、大好きを手離さないで」


タカキの言葉を聞いて、ミキは泣きながら、頷いた。


「……っうん、」


もう一度、抱きついてきたミキの頭を撫でながら、タカキは、彼女に心からの応援エールを送ったのだった。





「一先ず、これ着て」

「これ……男物?」

「……私のパジャマ」

「顔に似合わず、男っぽいの着るのね。借りるわ」


今更かもしれないが、なるべく、ミキの裸は見ないように服を渡した。

しかし、ミキはタカキの気も知らず、堂々としている。

そして、タカキもタカキで、びしょ濡れになってしまったので、コソコソと服を着替えた。


「ライト、ごめん……」

『別に、タカキなら気にしないから、目を開けて着替えたら?』

「それは、ダメだ」


ミキに聞こえないように、部屋の隅でライトと会話しながら、急いで脱ぎ着する。

目を瞑りながら、器用にタカキの服に着替えた。

若干、大きかったので、袖をまくる。


「なんか、私が着てた服、砂がついてるんだけど?」

「あ……なんか、風が強かったから、そのせいかも」

「ふーん」

「その服でよければ、あげるから、貰って」

「……いいの?」

「うん。帰りは、タクシー呼ぶから、安心して」

「あ、」

「ん?」


ミキは、タカキの服の裾を掴んだ。


「あ、りがと……」

「……! うん、どういたしまして」


タカキがクスッと笑うと、ミキは、ボンッと顔を赤く染めた。


「な、名前、貴女の名前、なんて言うの……?」

「えっと……」


名前までは、考えていなかったので、思わず、言い淀んでしまった。

「タカキ」と言うわけにはいかない。

だけど、「ライト」と答えるのも、どうだろうか。


『適当に言ったらいいじゃないの』


ライトの言葉に、タカキは、悩んだ末に、答えた。


「アカリ、」

「アカリって言うの? 可愛い名前、」

「ミキも可愛い名前だよ」

「……! ね、年齢はいくつ?」

「19歳」


そこは、素直に答えてしまった。

だが、それを聞いて、ミキは「え?!」と目を開かせる。


「嘘、と、年上?! でも、確かに、雰囲気は落ち着いて……え、あ、と言うか、助けてくれたのに、私、最初から、凄く態度悪くて、その……ごめんなさい!」

「いいよ? 気にしないし、年齢とか、大したことじゃないから」

「アカリ……さんは、私のこと、生意気とか思わないの?」

「思わないよ?」

「あんなに、酷い態度取っちゃったのに?」

「余裕が無い時は、誰でもああなるよ。気にしないで」


ミキがタカキの言葉を聞いて感動していると、突然ミキの携帯が鳴った。


「うわ、凄い着信……ってか、何これ」


ミキが携帯を開くと、そこには、夥しい数の連絡通知が来ていた。

ラインにも、友人達や、仕事仲間からの励ましのメールが届いている。

その中には、キャノさんからのメッセージもあった。


≪ あんたは、私が認めたカリスマモデルなんだからね! 引きこもってないで、さっさと出てきなさいよ! あんたの美しさなら、私が写真で証明してあげるわ! ≫


「キャノさん……」

「ミキちゃん、これ見て」

「え、」


タカキがテレビをつけると、ミキの特集番組が取り上げられていた。

朝までは、ミキを非難するような内容だったのが、いつの間にか、一変している。


『カリスマ・モデルのミキチーのすっぴんが明らかになって、非難の声が殺到していましたが、どうやら、事態が急変している模様。現在では、擁護の声が高まっています』

『現場のスタッフたちだけでなく、モデル仲間からも、様々な抗議の言葉が発信されているようです』

『SNSでも、ミキチーのメイク術が知りたい! とのメッセージや、ミキチーを応援する声が、次々に届いています』

『なお、病院に忍び込み、プライベートな写真を盗撮した某編集部の記者は、すでに所属事務所から訴えを起こされており、今後、厳しい処罰が下されることになりそうです』


ネットもニュースも、次々に、ミキを擁護する内容に変わっている。

ニュースキャスターの言葉を聞いて、ミキとタカキは顔を見合わせた。


「ねぇ、これ……こっち側に振り切っちゃうのって、有りかな?」

「はなまる」



タカキは、両手で はなまるのマーク を作った。




◇◇◇




それから、三週間後。


「きゃー! 見てみて、あそこにいるの!」

「カリスマ・ブスのミキ様じゃん?!」

「やだ、いつ見ても、整形級メイク完璧……っ!」

「めっちゃ可愛い〜!!」


撮影現場を通った女子高生たちは、興奮しながら、そんな会話を繰り広げていた。


「あの人見てると、私達でも綺麗になれるかもって、ワクワクするよね!」

「ミキ様と、同じ化粧品買おうって思うもん!」

「私、実は、ミキ様と同じイヤリング買っちゃったんだ!」

「わぁ、いいなぁ!」

「凄く、似合うよ!」


彼女たちの反応を見ていたら、タカキは、いつの間にか頬を綻ばせていた。


前と同じでは、ないけれど。

きっと、前以上に、ミキは、彼女たちに影響を与えていると、そう思ったからだ。


「お待たせ、タカキ」

「ナイト、」

「なんだ、なんだ、またミキか?」

「ミキちゃん、綺麗だね」

「なんだよ、やっぱり、ミキの顔が好みなのか?」


ナイトの目が、吊り上ったのを見て、タカキはクスッと笑った。


「笑顔が素敵な子は、好みかも」

「なっ!」

「なんてね」


鏡は、盾。メイクは、武器。

カリスマ・ブスの黄金メイク術!


そんなキャッチコピーで、今や世間の女の子の中心的存在にまでなった、ミキは、復活と共に、大成功をおさめていた。


「げっ! あんたたち、また見に来たの?」

「一度も見に来た覚えはないし、俺らが行く先々でたまたま撮影していたから、足を止めただけで、俺は、タカキとこれからカフェで珈琲を飲む予定だったんだけど?」

「うわ、男同士で、カフェとか入れるの?」

「俺とタカキがカフェに入ると、女性客が増えて仕方ないのが、現状だ」

「信じられない。世の中の女は、見る目がないわ……ん?」


その時、タカキのパスケースが地面に落ちた。


「これ、あんたの?」

「あ、」


ミキは、パスケースを拾い上げると、そこに入っていた学生証を見て、目を見開いた。

そして、タカキの胸倉を掴んで、叫んだ。


「ちょっと、あんた、なんで、ここに住んでるのよ?!」

「……え?」

「オイ、ミキ?!」

「東京都台東区の河童荘202号室って、あの方の部屋じゃない!! どうして、あんたの住所がココになってるのよ!」

「えっと、それは」


タカキは、完璧に油断していた。

まさか、住所を把握されていたとは、思いもしなかったのだ。

流石、ナイトの従姉妹と言うべきか。


「え、ちょっと待って、じゃあ、あの服、まさか、あんたの……?」

「服?」

「ここに、こういうマークのついたTシャツ。コレよ」


ミキは、スマフォで撮った写真をナイトに見せた。

すると、今度は、ナイトの目が見開かれる。


「あ、それ、タカキが一ヶ月半前に着てたやつ! というか、なんで、ミキが持ってるんだよ!」

「やっぱり、アンタのなのね! と言うか、どういうことよ! え、もしや……あんた、まさか、あの方と、アカリ様と、一緒に暮らしてるの?!」

「は?! タカキは、一人暮らしだよ! アカリって、誰だよ!」

「ナイトに聞いてない! でも、アカリ様、あの部屋で、これパジャマとして着てるって言ってたもん!!」


その言葉で、ナイトの目から光が消える。

ヤバい、と本能的にタカキは、悟った。


「タカキ」

「違う」


全力で首を横に振って否定するが、ナイトは聞き入れちゃくれなかった。


「タカキ、今夜遊びに行っていいか? そういえば、最近タカキの部屋に上がってなかったなぁって、今、思い出したよ」

「今日は、バイトが……」

「終わるまで、待ってる。全然、待ってる」

「本当に、誰もいない」

「じゃあ、アカリ様とは、どういう関係なのよ!」

「アカリ……ちゃんとは……その、知り合い、です」


タカキが、そう返すと、すかさずナイトが前に出た。


「知り合いが、勝手にタカキの家に入ってタカキの私物を他の奴にあげるのか? なんだそれ、泥棒かよ。と言うか、その女、俺会ったことないんだけど、どんなやつ? どこに住んでるの? タカキといつ知り合った?」

「ちょっと、聞き捨てならないわ! 私の憧れのあの方に、なんて事言うのよ! どうせ、この男が、アカリ様のストーカーか、何かなだけでしょ!」

「タカキは、ストーカーにはならないし、だらしない女を連れこむようなタイプでも無いんだよ!」

「だらしないって、誰のことよ! あの方は、気品に満ち溢れていて、穏やかで、美しさの象徴みたいな人なんだから! びっちな女扱いしたら、吊るすわよ!」


二人が大ゲンカをし始めたので、タカキは、何とか宥めようと、間に入った。


「洋服は、俺があげていいからって言ったんだ、だから、泥棒じゃない」

「と言う事は、あの方の連絡先、知ってるのね?!」

「あ、」

「教えて!!」

「勝手に教えるのは、良く無いから……」

「お願い! お礼が言いたいの! やましいことなんて何も無いから!」

「ええっと……」


やましいことは何もないとはいえ、ミキの目は血走っているし、鼻息がとても荒い。

信じていないわけではないが、どちらにせよ、教えることはできないので、タカキは、どうしたものかと、頭を悩ませていた。


「オイ、ミキ! タカキを困らすな!」

「何よ! こっちは、大事な手掛かりを見つけたんだから、黙ってて!」

「そう言って、タカキに近づく口実なんじゃないのか?」

「そんななよっちぃ、男には興味ないわよ!」

「タカキは、武道の達人だぞ?!」

「知らないわよ! 私は、アカリ様にしか興味がないの!」


ギャンギャンと言い合う二人を見て、タカキは、これ以上は何も言えまいと、間に入ることを諦めた。


「ミキ。お前な、そんなことばっかり言ってると、嫁の貰い手なくなるぞ」

「別に、私は、結婚したいわけじゃないわ。いつも綺麗でいて、大好きな人の隣にいられれば、最高に幸せなのよ。と言うか、女の幸せって、結局は、そこなのよ? ナイトこそ、ぜーんぜん、女心わかってないんだから。そんなんじゃ、女の子にモテないわよ!」

「別に、俺はモテなくてもいいし。女の子とデートしているよりも、タカキと遊んでる方が百倍面白いからいいんだよ」

「あー! やだ、やだ! 男って、ほんっと、ガキなんだから!」

「女は、見た目を気にし過ぎなんだよ」

「いいじゃない! 女が見た目を気にするのはね、可愛いものが好きだからよ。だから、とびっきり綺麗で可愛くありたいの。自分を大好きでいたいからね!」


ミキは、そう言って、とびっきり可愛い笑顔で笑った。

その顔を見て、ナイトは、ぽかんと口を開ける。

仕事以外で、こんなに可愛い顔をするミキを、ナイトは初めて見たのだ。


「昨日より、今日。今日より、明日。もっと、もっと、も~~~っと、可愛くなってやるんだから!」


そう言って、ミキは、青空に向かって叫んだ。


「あー! 女に生まれてよかった!」


タカキは、その言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだのだった。




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