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 西門を目指して走っていた。

 目についた魔物を倒そうと警戒していたが、見かけた数は少ない。

 もう殆どが倒されている様だった。

 ロイと同じ様に通りを歩いていた兵士たちとすれ違ったが、彼らは怪我をしている様子がなかった。

 やはり襲撃している個々の魔物はあまり強くはない様だ。

 もちろん普通のゴブリンよりは強くなっているだろう。

 それでもアリスにとっては一撃で屠れる程度の強さでしかないのだが、それ故にどのくらいの実力かは分からない。

 だから弱くても油断は禁物だ。

 アリスは自分を戒めて、路地から出てきた魔物の頭を即座に大刀で砕いた。

 やはりアイテムは落ちなかった。


(やっと半分って所かな)


 アリスは広場に辿り着いた。

 西門から大聖堂までを繋ぐ大通りの中間地点にある大きな広場だ。

 その中央には女神像が西門を向くようにして飾られている。

 向きは違えど、南門の広場と全く同じ造りになっていた。

 女神像がある大広場は東西南北に対称になる様にして存在する。

 いつもなら多くの人がいる筈だが、今は非常事態で一般人は避難している。

 だから広場には閑散とした光景が広がっているだろうとアリスは思ったのだが、その予想は外れていた。

 西の広場には多くの人がいた。


「んん?何事だ」


 広場を占領する人々は市民ではなく、女神教の騎士たちだった。

 隊列を組んで門の方向を見ている。

 指揮官らしき煌びやかな鎧の者は女神像の前で跪き、真摯に祈りを捧げている。

 全身を覆う甲冑で表情は見えない。

 誰もが不動の姿勢で仁王立ちをしているから仕草も見えない。

 しかし場の空気が緊迫している事が、アリスにも手に取るように感じ取れる。

 何事だろうか。

 見渡しても魔物の姿はない。

 門の守りが決壊し、魔物が雪崩れ込んでいる訳ではないようだ。

 ではこの騎士たちは一体何をしているのだろう。

 アリスは疑問に思った。

 しかしそれを質問しに行ける雰囲気ではなく、広場の手前で謎の光景を恐々と眺めていた。

 その状況に変化があったのは数分後の事だった。


「……あ。あの人は」


 アリスはポツリと呟いた。

 視線の先には路地があり、そこから女性が出て来ていた。

 女性は冒険者だ。

 兵士ではなく、騎士でもない。

 鎧姿ではないからだ。

 女性がその身に纏うのは、奇怪な記号が編まれた怪しいローブ。

 先端に青い宝玉が埋め込まれた長杖を持つ事からも、冒険者の中でも特に魔法使いだというのが分かる。

 だがアリスにとって、その姿は違和感しかない格好だった。

 その女性とは知り合いで、更に普段の様子から大きく異なっていたからだ。

 アリスは広場の隅を通って、騎士を横目に女性に近寄った。


「テレリさん」


 呼び掛けると、女性は眉間に皺を寄せ、細めていた目を大きく見開く。

 そして驚いた様子でアリスを振り返る。

 近くで見ても、違和感は拭えない。

 似合ってはいるのだが、受付嬢の格好がアリスの頭に定着していた。

 前に私服姿を見た事はあったが、それとこれでは全く別だ。

 戦闘すると宣言している様な装備に、アリスは違和感を覚えているのだから。


「アリスさん、驚かさないで下さい」


 テレリは大きく息を吐いた。

 話し掛けただけなのだが、随分と驚かせてしまったらしい。

 軽く謝罪をすると、テレリは笑って、謝る必要はないと言った。

 それは良かった。

 アリスは早速本題に入る事にした。


「あの。この集団は何をしようとしているんですか?」

「詳しい事は分からないけど、お告げがあったとは聞いています」

「お告げねぇ」


 アリスは騎士たちを見た。

 神託があったのだとすれば、あの緊張感にも頷ける。

 女神が関わった事だから、この作戦を成功させようと必死なのだろう。

 騎士の作戦がどんな内容なのか、アリスは気になった。

 街の外で冒険者や兵隊、他の騎士たちが戦う間に、この集団が何をしようとしているのか。

 テレリは何か知らないかな。

 そう考えて再度質問をした。


「どんな内容のお告げがあったんです?」

「ここに魔物が現れるって内容だと聞いています」

「ふむ」


 アリスは不思議に思った。

 魔物は既に街中にもいる。

 この広場に来るまでにも何体か倒したけど、アレらに対応するならここで待機する必要もない。

 では別の魔物が現れるのだろうか。

 そうだとすれば不味い事態だとアリスは思う。

 街中に強力な魔物が現れたら、甚大な被害が出てしまう。

 普通の市民は避難させられている筈だし、その事が原因で被害が拡大する事はないと思うが。

 アリスはどうにも嫌な予感がしてならなかった。


(気の所為なら良いけど……)


 自分の予感に従って、アリスは広場に残る事にした。

 外壁周辺の戦闘も心配だけど、それよりもこっちの方が不安だった。


「テレリさんはここの助っ人ですか?」

「ええ、そうよ。上から命令があって、私はここの補助を任されたの」

「なるほど」


 やはりここに残るべきだ。

 アリスは自分の決断に頷いた。

 もし予感が的中して本当に強力な魔物が現れたなら、テレリが危険だ。

 いざとなれば肉壁になる覚悟で守らねばならない。

 NPCはプレイヤーと違って死んだら居なくなってしまうのだから。

 アリスは消極的な決心をする。

 そしてテレリに騎士たちの具体的な作戦について聞こうとした。

 事前に知っておけば心構えになるはずだと考えて。

 しかし、その行動は妨げられる。

 アリスの目に映る世界が、突如として赤く染め上げられた。


「氷よ、護れ!」


 テレリの叫び声の様な詠唱が聞こえた次の瞬間、世界が揺れた。

 突き上げる様な縦揺れで、アリスはバランスを崩した。

 大刀を持っていなければ体が浮き上がっていたかもしれない。

 咄嗟に大刀を地面に突き立て堪える。

 女神像とアリス達を隔てる様にして、巨大な氷の壁が出来ている。

 テレリの魔法だろう。

 揺れが収まった。

 もう大丈夫だろうかと氷の壁から少し顔を出すと、女神像が置かれていた台座に黒い岩塊の様な物があった。

 その周りには女神像らしき白い破片が散乱している。

 アレが落ちて来たのか。

 アリスがそう推測した時に、変化は再び起こった。

 黒い岩塊から赤い光を漏れて来た。

 凄まじい魔力の発露を感じる。

 アリスは顔を引き攣らせる。

 慌てて氷の壁に隠れて、地に刺した大刀を心細いが盾にする。

 轟音が耳を貫く。

 次いで灼熱と衝撃が雪崩の様に押し寄せて、その合間に微かに絶叫が聞こえた気がした。

 肌を突き刺す様な暑さから逃れようと顔を下げる。

 爆風に煽られたマントが煩わしいほどにはためいた。

 だけど何とか耐え切れる。

 そんなアリスの甘い考えは、すぐ様に覆された。


「きゃっ」


 すぐ隣から聞こえた悲鳴に、アリスは失態を悟った。

 素早く視線を動かせば、テレリが仰け反るのが見える。

 爆発で弾かれた瓦礫が、テレリの頭に当たったらしい。

 底冷えする様な恐ろしさだだった。

 テレリが死ぬかもしれないと思うと、恐慌をきたしたアリスは即座に無謀と言える行為に走る。

 大刀を掴んでいた手を離し、爆風を背に吹き飛ばされたテレリを追った。

 背中に何度も重い衝撃を受ける。

 しかし意識さえあれば問題ないと、アリスはテレリを追った。

 途中で腹部を貫いた焼かれる様な激しい痛みに呻いたが、それを堪えて、何とか地面を転がるテレリを捕まえた。

 運良くあった横道に飛び込む。

 建物が影になって、瓦礫の被害が少なくなくなった。


「テレリさん!」


 呼び掛けるが、テレリに意識はない。

 頭から多量の血を流していた。

 このままでは確実に駄目だ。

 インベントリから最初に貰っていた魔法薬を取り出し、テレリに飲ませた。

 見る見るうちに傷が塞がる。

 相変わらずのグロさだ。

 しかし今はそんな事を気にする余裕は、アリスにはない。

 脈を確認し、息を確認する。

 どちらも正常に行われていた。

 ようやくアリスは息を吐いた。


「いつつ」


 そこでアリスは自分も怪我をしている事を思い出した。

 エルメダの作った純白の服が赤黒く濡れていた。

 最後の1つとなった肉体回復用の魔法薬を飲んだ。

 傷は塞がったが、服には開いた穴は塞がらなかった。


「アリス、さん?」

「あ、起きたんですね。良かった」


 テレリはすぐに目を覚ました。

 起きようとするので、アリスは手を貸して立ち上がらせた。

 ありがとう。

 テレリの感謝に、アリスは照れたように淡く染まった頬を掻く。

 不思議そうにテレリは自分の頭を触っていたが、アリスは照れているので、特に何も言わなかった。


「まったく。何が起こったんだ」


 アリスは1人で照れているのも恥ずかしくなって、そんな事を口にした。

 爆風が収まった大通りに出て、広場に目を向けた。

 しかし、そこに広場はない。

 その代わりとばかりに巨大なクレーターが出来ていた。


「マジかよ」


 アリスは呆然と呟いた。

 遅れて出て来たテレリも、目の前に広がる光景に驚いている。

 取り敢えずアリスは自分の大刀を回収しに向かった。

 あの爆風の中にあったのに、地面に刺さったままだ。

 大刀の場所に辿り着くと、そこからはクレーターがよく見えた。

 大広場1つの面積がクレーターになったのだ。

 その大きさと深さが、爆発の威力を表していた。

 だがクレーターとは別の事がアリスは気になった。


「影?」


 クレーターの中心に影があった。

 それは徐々に広がっている。

 アリスは悪夢の最後の光景を幻視する。

 そして冒険者協会で聞いた噂話を思い出した。

 邪悪が空から舞い降りる。

 アリスは頭上を見上げた。


「……はぁ?」


 それは巨大な魔物だった。

 全身を覆う黒い鱗はナイフの様に鋭く凶悪な光沢がある。

 その背には大翼が生えている。

 骨が剥き出しになっているかの様な邪悪さの、巨体を包める程に大きな不気味な翼だ。

 翼の皮膜はボロ布の様に傷だらけだが、大宇宙に偏在する暗黒の様に、不安を掻き立てる常闇色の模様をしていた。

 体躯と同等に長い尻尾は、その先端が剣の様な刃状になっていた。

 触れれば切られてしまいそうだ。

 真紅の目に宿る憎悪と殺意に、自然と体が震える。

 アリスはその名前を口にした。


「ドラゴン!」


 地響きと凄まじい風圧。

 それらを伴って、そいつは地面に降り立った。

 世界を震え上がらせる様な咆哮が轟く。

 上級魔物の中でも更に上位に位置する、真の怪物が現れた。

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