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 強そうなスキルが手に入った事で、アリスは次の予定を決めた。

 良い物を入手したなら使ってみたくなるのが人の性だ。

 それにこのスキルがどれ程の効果を持つのか調べる必要がある。

 性能を把握していないと、いざという時に事故が起きるかもしれない。

 だから魔物と戦闘をして、実験しようとアリスは考えた。

 そのついでに冒険者協会に寄って依頼を見てこよう。

 もしかしたら賞金首とやらの情報も聞けるかもしれない。

 我ながら良い考えだ。

 アリスは得意そうな顔をして、腕を組みながら頷いた。

 予定が決まったのだから、早速行動する事にしよう。

 アリスは来た道を引き返す。

 ただし今度は目立たない様になんて考えず、早歩きで協会を目指した。

 宿で今日は休養にしようと考えていた様な気もするが、これは冒険者としての仕事ではなく、自分の趣味だと割り切る事にした。

 新たなスキルに浮かれながら大通りを歩くアリスは、人目を憚らずにやけ顔を晒していた。

 余程このスキルが手に入った事が嬉しかったらしい。

 行き交う人々の注目を集めている事に気付かないまま、アリスは協会の前まで辿り着いた。

 そこでアリスは驚きの声を上げる。


「あら、アリスさん。こんにちは」


 建物の入り口で、アリスは偶然にも知り合いと出会った。

 お互い呆気に取られながらも、すぐに相手は笑みを浮かべ、朗らかに挨拶をしてきた。

 アリスもぺこりと頭を下げる。


「こんにちは。テレリさん」


 挨拶を返しながら、アリスは物珍しげにテレリを眺める。

 仕事の時には結い上げている長い髪を今は下ろし、普段とは違った雰囲気を放っている。

 冷静な仕事人と言った頼りになる女性であるが、今のテレリは少し違う。

 柔らかく、どこか色っぽい。

 服は仕事着とそんなに変わっていない事務的で地味な物なのに、髪を下ろしただけでこんなに変わるのかと、アリスは心底驚いた。


「そんなまじまじと見つめられると、少し恥ずかしいわ」


 クスリと溢れた笑い声が、優しく耳を撫でる。

 テレリに指摘されて、アリスは初めて慌てて顔を背けた。

 心地良い穏やかな音にくすぐったさを感じながら、アリスは自分の堪え性の無さを恥じる様に耳を赤くした。


「今日も依頼かしら?」

「はい。良さそうなのが有ればですけど」

「なるほど。まあ当然よね」


 最低でもドロップアイテムの売却より利益がないと話にならない。

 平原に居る青牡牛なら、堅実にやれば軽く50体は倒せるはずだ。

 初めて戦った時よりレベルも上がったし、もう少し倒せるかもしれない。

 その単価が幾らくらいになるのかは、そもそもアリスは覚えていないのだが。


「そう言えば今日は街が騒がしいですよね。賞金首だかで」

「あー。随分と殺気立っているよねぇ。まあ事情が事情だし、それが当然なのかもしれないわ」


 鬱陶しいけど。

 テレリは溜息混じりに呟いた。

 聞けば冒険者たちが街を渦巻く殺気にあてられ、協会内で喧嘩が何度か起きたらしい。

 疲れた顔でテレリが饒舌に話すので、その騒ぎを止めるのに苦労したであろう事をアリスは察した。

 長い話になりそうな気がして、アリスは引き攣った笑みを浮かべながら、慌てて話の方向を転換した。


「女神教はどんな賞金首を追っているんでしょうね」


 ここまで騎士を動員するのは、流石に尋常の事ではない。

 どんな奴を捕まえようとしているのか、アリスはとても気になっていた。

 話を逸らすには良い質問だと思う。

 テレリは何か知っていそうな発言をしていた。

 その予想は正しかった様だ。


「アリスはここに来たばかりみたいだし知らないかもね」


 そう前置きして、テレリは話し始める。

 アリスの思った通りである。

 そのはずなのだが、しかしアリスはこの話題の問題点に気が付いた。

 この話も長くなりそうだ。

 アリスはテレリを引き連れて、入り口から避けた壁際に寄った。

 改めて、テレリが口を開いた。


「前にこの街で騒ぎがあったの。女神教に関わる、それなりに大きな事件よ」

「ほう」


 何だか重要そうなイベントの匂いがするぞとアリスは思う。

 もしかしたら、このゲームの物語にも影響があるイベントかもしれない。

 アリスは胸をときめかせ、テレリの話に聞き入った。


「女神教に聖女と呼ばれる人がいるのはアリスも知っているよね?」

「はい。顔までは知らないですけど」


 エルメダと行動を共にしていた時、その話題になった事がある。

 確か今代で10代目だったはずだ。

 女神教は大昔からあったはずだし、それにしては意外と少ないんだなとアリスは思った。

 聖女と言う役職の歴史は比較的浅いとエルメダは説明していた。

 初めて聖女が世界に現れたのが、大体500年ほど昔の話らしい。


「女神教は聖女の遺体をこの街の大聖堂に安置しているの。初代から9代までの全員分をね」

「ふーん。あの建物、一応意味があったんだ」


 アリスは目を大聖堂に向けながら、失礼な呟きを口にする。

 あんまりな物言いにテレリは苦笑する。

 物騒な装備をしている女神教の騎士たちが多く行き来するこの通りで、よくそんな事を言えたなと、無謀に限りなく近い度胸に感心した。


「信者に聞かれない様にしなさいよ」

「それは勿論。私だって面倒事は苦手です」


 アリスは大真面目に頷いた。

 世界で幅を利かす女神教と敵対する危険を進んで冒したくはない。

 女神教が自らの敵として定めた者に対して執念深いのは、この街の光景を見れば分かる事だった。


「あれが起きたのは、確か5年前だったはず。大聖堂で盗みがあったの」

「……まさか」

「そう。盗まれたのは聖女の遺体。それも女神教が最も特別視している、初代聖女の遺体が盗まれたらしいわ」

「まじか」


 呆然である。

 アリスは変な奴がいるなあと思った。

 この街のシンボルにもなっている大聖堂なら、他にも価値のある物が多くありそうなのだが。

 なぜ犯人は態々死体を盗んだのか。


「て言うか初代聖女って500年近く前に死んだはずですよね。もう朽ち果てていそうですけど、何の為に盗んだんでしょう?」

「それは、初代聖女に限っては違うみたいよ」


 アリスの疑問にテレリが訂正を入れた。

 しかし何が違うのだろうか。

 さっぱり間違いが分からない。


「初代聖女の遺体は朽ちない。今でも変わらずに生前の姿を保ち続けているそうよ。何が理由なのか全く分かっていないけどね。女神の力による物なのか、それとも別の何かが原因なのか」

「なるほど」


 アリスは驚きに目を見開いたが、至って冷静である様に頷いた。

 現実にも不朽体と言う単語がある。

 神や魔法が確かに実在しているこの世界では、そう言う事が起こり得るのかもしれない。


「まだ捕まっていないみたいですけど、犯人の目星は付いてるんですよね?」

「ええ、そうよ。だって白昼堂々と盗みに入ったんだもの」

「え、そうなんだ」


 それは何て命知らずな。

 アリスは死体泥棒の頭は狂っているに違いないと思った。

 盗みに入るとして、何で警備が厳重な昼間に実行したんだ。

 夜なら目撃者だって減るだろうに。

 けれどアリスはその犯人の実力の高さにも驚いた。

 そんな状況下でも盗みを成功させているんだから、犯人はきっと超人だろう。


「犯人は誰なんです?」


 アリスは興味深々に聞いた。

 難しい顔をして、テレリは思い出す様に確かと呟く。


「犯人は屍魔女と呼ばれていたわ」

「屍、魔女……?」


 アリスはその単語を呆然と呟く。

 犯人が魔女なのは、別に良い。

 あの種族ならば実力的に盗みを成功させる事も出来るだろう。

 屍と付いているのも分かる。

 遺体を盗んだんだから、そんな言葉が頭にあっても疑問はない。

 しかしその2つが合わさると、途端に心当たりが出来てしまう。


「その屍魔女の名前って分かりますか?」

「それが思い出せないのよねぇ。何だったかなぁ」


 テレリは困った様に唸る。

 冷や汗を垂らしながらアリスはその様子を見守っていた。

 頭の中には、昨日初めて会った者の顔が浮かんでいる。


「その者の名前はカルマ・ウィッチィですよ」


 その時、会話に横から口を挟んで来る者がいた。

 アリスが見れば、光に輝く白い衣を身に纏う女性がいた。

 その服は修道服を白く染め上げた様な意匠をしている。

 どこまでも白い印象を与える女性だ。

 それは服の所為でもあるが、肌の色も原因なのだろう。

 首に掛けられたロザリオのハートと翼の飾りを見るに、彼女も女神教に所属しているらしい。

 そしてその女性の口から出た名前は、アリスの予想通りの物だった。

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