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 薬草の森は多くの薬草が群生する森だ。

 四色薬草が主に採れ、他にも複数の薬草が存在する。

 出現する魔物は不明。

 外部のサイトが使えず、情報が引き出せなかった為だ。

 事前に聞くという手もあったのだろう。

 しかしこの冒険に心が囚われていたアリスは、今の今まで思い付かなかった。

 失態だ。

 舌打ち音が小さく鳴る。

 もう少し早く気付いていれば、まだやりようはあったのに。

 アリスは立ち止まった。

 肩は上下し、息が乱れている。

 見事ここまで走り切ったのだ。

 深い呼吸で息を整える。

 目の前には森があった。


(ここが薬草の森か)


 森を眺める。


(思ったよりも暗いな)


 葉の隙間から光が差し込む新緑の森をイメージしていた。

 しかし、 大きく予想を裏切られた。

 葉は暗い緑色をしている。

 生い茂った葉は光を通さず、だから森は薄暗い。

 日の当らぬ土は湿り、現実なら心霊スポットにでもなっていそうな雰囲気を醸し出している。

 森から来る風は、この季節の割にとても冷たい。

 走り終えたばかりのアリスには程よい清涼感がある。

 だけど、この森で長時間の探索を行おうとすれば、寒さを感じてしまうんじゃないかと思う。

 芯まで凍える冷風だ。

 マントを買っていて良かったと思った。

 本来は敷布団代わりに用意した物だ。

 この森の気温なら、それ以外にも十分活躍してくれるだろう。


(何だか変な涼しさだ。体がもう冷えて来た)


 アリスは半袖から出た二の腕を摩る。

 さっきまで感じていた暑さは既に失せている。

 それはおかしい話だと思った。

 そんなに冷たい風なのに、草木に影響が出ている様には見えない。


(取り敢えずマントを着よっと)


 インベントリからマントを取り出し、服の上から着込む。

 肌触りは、買う時にも感じた事だが、良いとは言えない。

 でも暖かくはなった。

 アリスはほっと息をつく。

 これなら無事に探索が出来そうだ。


(でも、このマント。少し長過ぎたか)


 旅人らしいマントは地に着く程の長さがあった。

 裾は地面に当たるか当たらないかと言う位置だ。

 これでは戦い辛そうだ。


(まあ仕方ないんだけどさ)


 ここに来た依頼の為だ。

 薬草採取と、ベルの頼み事が目的だ。

 決して戦闘に来た訳ではない。

 だから探索に支障が出るくらいなら、マントを着た方が賢明だ。

 自分の決断を肯定する様に頷いた。

 せめて手直しをして貰えば良かったと、後悔を滲ませてはいたが。


(暗いけど、まだ明かりは必要なさそうだ)


 薄暗い森だが、視覚には問題ない明るさだった。

 奥に行けば分からない。

 もしかしたら夜の様な目の効かない暗さかもしれない。

 でもその時はその時だ。

 ランプの用意はしている。

 恐れる事はないのだ。


(でも夜は真っ暗だろうな)


 街よりも暗くなるのは間違いない。

 少なくても明かりがあった街に比べて、こっちは光を遮る物しかない。

 ランプを使っても、探索は危険だと思った方が良さそうだ。


(なら暗くなる前に安全な場所を見つけなきゃね)


 難しそうだと思った。

 でも不安にはならなかった。

 なんとかなるだろうという気楽な考えがあったからだ。

 アリスは心を決める。

 ここで立ち竦んでいても時間ばかりが過ぎていく。

 森の湿った地面に足を踏み出した。


(四色薬草は目立つ色をしている)


 深緑色の草むらに生えた色違いの草をひょいと摘む。

 燃え盛る炎の様に鮮やかな赤色をした草だ。

 間違いなく、これが赤色薬草だ。

 観察して見ると、アリスは気付いた事がある。

 この薬草は随分と特徴的だった。


(この葉っぱ、どれもハートみたいな形をしている)


 ハート型の葉の薬草。

 くすりとした笑いを浮かべた。

 命を癒す薬草が心臓のマークを持っている。

 それを可笑しく思ったからだ。

 薬草を眺めて忍び笑いを零す。

 子供の様な無邪気さで、小さな発見を楽しんだ。


(おっと。こんな事をしてる場合じゃなかった)


 唐突に我に返り、アリスは立ち上がった。

 赤色薬草はインベントリに入れておく。

 他にも沢山集めないといけない。

 目を皿にして辺りを見渡した。


(うん? あれって……)


 その行動によって、アリスの目は黄色い草を見つけた。

 近寄ると、やはり鮮やかな色をしている。

 これが黄色薬草だ。

 だけど黄色薬草と赤色薬草は大きな違いがあった。

 アリスが笑った特徴的な葉の形が異なっている。


(こっちはダイヤだ)


 不思議そうに首を傾げた。

 インベントリに入れると、間違いなく黄色薬草と表示されている。

 四色薬草と言う括りではあっても、どの種類も形が違うのかな。

 そう思うと、それが自然な気がした。


(なるほどね。つまり色しか関連性がないんだ)


 とても残念そうに納得する。

 しかしこうなると緑色薬草を見つけるのが大変そうだ。

 他はまあまあ目立つ色だが、緑色はそうではない。

 幾ら暗い色の植物が多いからと言って、決して明るい色の物がない訳ではないのだ。

 その中から形も分からない緑色薬草を探すのは、骨が折れる作業になりそうだ。

 アリスは目の前に横たわる面倒に、頭を悩ませた。


(うーむ。よし、まずは青から探そう。そうしよう)


 良い方法は結局思いつかず、考える事それ自体が面倒になった。

 アリスは問題を後回しにして他の薬草だけでも回収を急ぐ事にする。

 それはあまり難しくはない。

 ここは薬草の森だから、薬草は探せばすぐに見つかるのだ。

 周囲にぐるりと視線を巡らせる。

 たったそれだけで鮮やかな青色を発見した。

 近寄って確認する。

 それはやはり目当ての物だった。


(これで青色薬草もゲット。あとは緑色を見つけるのが先か、他3色を9つ集めるのが先か。……どっちも早めに終わらせたいなぁ)


 思っていたよりも森が暗くて、少しだけ怖かった。

 アリスは既に帰りたい気持ちで一杯だ。

 目的の達成に集中しよう。

 インベントリに青色薬草をしまおうとして、思い出す。

 赤はハート、黄はダイヤ。

 それなら青は何だろうと。

 手に持った薬草に目をやる。


(えっと、逆さハート型かな)


 青色薬草の葉は赤色の葉とは、違う向きのハートの形をしていた。

 まるで統一感がないと苦い笑いを浮かべる。

 だがアリスは苦笑しながらも、違和感を覚えていた。

 何か勘違いしている気がした。


「んー?」


 唸りながら能く能く観察する。

 そして、ある事に気がついた。

 葉へと続く茎の形が不自然だ。

 三角形になっている。

 そこでアリスは思い至った。


(これ、ハートじゃなくてスペードだ!)


 ここに至り、疑問が氷解した。

 ハート、ダイヤ、スペード。

 ここまで来たらアリスでも分かる。

 葉の形はトランプのマークだった。


(何で気付かなかったんだろう)


 恥ずかしそうに俯く。

 思い返せば、もっと早くに気付いていても不思議じゃなかった。

 自分の頭の弱さに落ち込む。

 だが良い発見だった。

 落ち込む傍でアリスは自分を励ました。

 これで緑色薬草の発見が簡単になる。

 まだ残っているマークは1つだけ。


(つまりクラブの葉を持つのが緑色薬草だ)


 目を凝らして、視線を移動させていく。

 幾度となく紛らわしい鮮やかな色の草に目を奪われた。

 色を元に探すから、それらしい色を見ると、もしやと思ってしまうのだ。

 葉の形を見て、すぐに違うと悟るのだが。


(形は分かっても、見つけるのは難しいみたいね)


 アリスは学んだとばかりに頷く。

 だが、その学習とは裏腹に、それはひょっこりと見つかった。

 3つの丸が合わさった様な形をした、緑色。

 何を思うより先に、すぐに採ってインベントリに入れた。

 表示は期待通り、緑色薬草。


(よし! これで全種類集まったな。あとは数を揃えて依頼達成だ)


 うんと背伸びをする。

 気が抜けた。

 現物を見たから、どんな物を集めれば良いか分かった。

 だから今までよりもスムーズに見つけられるはずだとアリスは思う。

 何となく見た先にも、薬草を見つけた。

 採取依頼はすぐに終わりそうだ。

 良かったと微笑む。

 けど、まだこの森でやるべき事は残っている。

 アリスはすぐに薬草採取を再開した。

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