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 クエスト名、四色草の採取。

 これも1つ目と同じで指定のアイテムを持って来るタイプの依頼だ。

 四色草とは、このゲームでは代表的な薬草を一纏めに呼んだ名前だ。

 つまりこの薬草には複数の種類があって、その全ての形や群生地なんかはほぼほぼ同じ。

 しかし、それらを見分けるのは誰でも出来る。

 とても簡単なのだ。

 四色草には4種類の色違いがある薬草だ。

 赤色薬草。青色薬草。緑色薬草。黄色薬草。

 名前からして明らかだろうが、この4つは色が異なる。

 一説には四精霊が作り出した薬草で、それぞれの象徴である色をしているのだと言われている。

 勿論真実は定かではない。

 アリスに至っては由来そのものに興味がない。

 重要なのは、この薬草から作られる魔法薬である。

 怪我をした時の為の回復薬に使えるから。

 しかしレシピは知らないし、薬を作るためのスキルも持っていない。

 もし使いたいなら誰かから買う必要がありそうだ。


(お金が掛かるなぁ)


 憂鬱そうな溜息が零れる。

 安全の為だから用意しない訳にもいかないし。

 この依頼を受けようかなとアリスは思う。

 お金稼ぎと、もう1つ。

 魔法薬よりも効果は少ないが、薬草を齧っても回復効果はあったはずだ。

 念の為にストックしておいた方が良いだろう。

 効率的な考えの下に、判断をする。

 初めての依頼は薬草採取だ。


(薬草を沢山取れるエリアが近くにあったはず)


 今は何故か使えなくなってしまった外部の情報サイト。

 そこに載っていた簡易地図を思い出す。

 あれはこの街を中心にして周辺のエリアが書かれていた。

 その中に薬草の森があった事を、アリスは覚えている。 

 位置はゴブリンの森の東側、果樹の森の南側だった。

 ビースト平原を抜けて行くのが最も近いはずだ。

 そこまで決めて、取り敢えず依頼書の確保を先にするべきだと思いつく。

 依頼の受注は重複を避ける為に、依頼書を受付嬢の元まで持って行き、そこで契約する必要がある。

 だから依頼書がなければ、依頼は受けられないのだ。

 アリスはクエスト画面から今の依頼を選んで、受注のボタンを押した。

 すると掲示板に貼られていた依頼書の1枚が突然と光を放ち始める。

 そこに近寄った。

 アリスはこの文字を読めないが、これが今し方見ていた薬草採取の依頼であるのを確信している。

 受けたい依頼の依頼書がどこにあるのか。

 それを示してくれる機能が付いているのだ。

 無ければこの時点で依頼が受けられないし、順当な機能だと言える。

 アリスはその依頼書を取ろうとして手を伸ばそうとした時、ふと横に人の気配がある事に、今更ながら気がついた。

 少し気になり、そっと横目に見る。


(女の子?)


 その人とは、また随分と小さな背丈の少女だった。

 小人族かなと思ったけど、それは違う。

 あどかない様子で、武器も持っていない。

 服装も冒険者協会には似つかわしくない子供服だ。

 見た目通りの年齢の人間のようだ。

 しかしそうなると余計に気になる。


(この子、どうしたのかな?)


 凄く真剣な目をして掲示板を眺めている。

 衣服や顔つきを見るに食い扶持に困っている訳じゃなさそうだ。

 とても綺麗な服を着ているし、本人も健康そうだから。

 お金がなくて依頼を受ける者も少なからずいるとは聞くが、この子に関してはその可能性は排除してよさそうだった。

 でも他に考えられる事って何。

 アリスは首をひねる。

 少女の目を見る限り、とても重大な想いを持ってここにいるのは間違いないはずだけど。

 さっぱり想像がつかない。


(仕方ない。聞いてみよう)


 あれこれ考えても分からなかったので、自分で答えを出すのを諦めた。

 そして本人に聞く事にした。

 アリスは長く息を吐いて、心を決める。

 人に話掛けるのは得意じゃない。

 だから相手が誰であっても関係なく、いつになっても緊張してしまう。

 でも話掛けないという選択肢はどこにもない。

 目の前で思い詰めている子供を前に、何もしないなんて選択が出来るはずもなかった。


「ねえ。どうかしたの?」


 あまりにも気が張って、口から出てきた言葉は無愛想な物だった。

 その声はどこまでも無機質だ。

 あまりの平坦さに慌てたのは、発言した本人だ。

 深刻そうな様子なのに、止めを刺すみたいな感じになってしまった。

 もしかして、泣かれる。

 最悪な未来をアリスは幻視した。


「お姉さん、だれ?」


 しかしその予想を裏切り、少女はしっかりとした口調で聞いてきた。

 一先ずほっとする。

 良かった。

 親切心出した結果、子供に大泣きされたら立ち直れない。


「私はアリス。駆け出しの冒険者よ」


 今度は出来る限り優しい感じがする様に注意して名乗った。

 まだ感情に乏しい気がするのは、さっきの失敗が影響しているのだろう。

 まあもう大丈夫だろうとアリスは思う。

 この少女が強い子なのは分かったから。


「ふーん。私はベル。お母様の娘よ」

「ああ、そう」


 アリスは暖かい目をベルに向けた。

 可愛らしい子だなと思う。

 大人ぶろうとして失敗してる感が、凄く。

 きっと、気が強いんだろう。

 ベルは胸を張って、ひたとアリスを見ている。

 アリスは苦笑を浮かべた。

 見上げてばかりじゃ辛いだろうな。

 そう考えて、アリスは床に膝をつけた。

 視線の高さが同じくらいになる。


「それで、こんなとこでどうしたの?」

「ちょっとした探し物よ。別に、何でもないわ」


 目を逸らしてのお返事だ。

 何でもない様には思えない。

 アリスはちょこんと首を傾げた。


「何を探していたの?」


 じっとベルを見る。

 答えてくれれば嬉しく思う。

 アリスは何か手助け出来ればと考えていた。

 理由については聞かなかった。

 探し物を知れば何となく分かるだろうから。

 

「……むぅ。アリスは精霊の話を知ってる?」


 頷いて答えた。

 女神の眷属である四精霊の話はゲームの導入部でも触れられていた。

 世界の秩序を守る為、女神は4体の精霊を作ったと。


「水精霊の事は?」

「あんまり知らないよ」


 素直に答えた。

 導入部で触れたと言っても、本当に軽くだ。

 だから詳しい事は何も知らないと言って良い。


「そう。分かった」


 ベルはそう前置きして、話を始めた。


「水の精霊は癒しを司る女神様の眷属。世界に存在する全ての水を統べているとも言われているわ」


 このゲームでは精霊は強力な存在として描かれている。

 薬草の件もそうだが、他にも例を挙げれば暇がない。

 女神の眷属だからなのだろう。

 この世界を作り出した女神の眷属は、強くなければ不自然だ。

 それにしても、アリスは思う。

 本当にしっかりした子だな。

 子供っぽい部分はちゃんとあるのに。


「私が探しているのは、その精霊が作れるお薬よ」

「なるほど」


 癒しを司る水精霊が作る薬。

 恐らくベルの身内の誰かが必要としているんだろう。

 そして多分、あまり急いではいない。

 アリスが観察した限り、ベルに切羽詰まった様子はない。


「その薬はどこで手に入るのかな?」


 話されたのはアリスは全く心当たりがないアイテムだ。

 でもこんな小さな子が知っているなら有名な物だと考えた。

 協会で探すくらいだ。

 頻繁とは言わなくても、稀に見つかる事もあるのだろう。

 後は場所さえ分かれば、取りに行ける。

 アリスは旅の目的地をそこにしようと思った。


「知らないわ。だって、見た事ないわ」

「あら?」


 しかし、その計画はあっさりとぶち崩された。

 ベルは見た事がないと言った。

 あまり有名じゃないのだろうか。


「でもきっとどこかにあるはずなのよ。お話に書いてあったもの」

「それ、どんなお話?」


 それが手掛かりかもしれない。

 これがイベントだと確信しているから、そう思った。

 この広大な世界の中をノーヒントで指定のアイテムを探すなんて無茶はさせないはずだ。


「お母様が寝る前によく聞かせてくれたの。お姫様はそのお薬のお陰で病気が治ったんだって!」

「……もしかして御伽話?」

「なんだ。アリスも知ってるじゃない。そうよ。オトギ話よ」


 さてどうするか。

 アリスは真剣に悩み始めた。

 ヒントがあると思ったらなかった。

 困った事態になってしまった。

 いっそテレリに聞くべきかなとも考える。

 元々冒険者だったなら、それらしい情報を知っているかもしれない。


「あ! そういえばお話の中に精霊がいる場所が書いてあったわ」

「ふむ。因みにそれはどこ?」


 何かの手掛かりになるかもしれない。

 アリスは願う様な気持ちで聞いた。


「森の泉よ。きっと薬草の森ね。あそこには大きな湖があるもの」


 あ、これは外れだな。

 言葉には出さず、そんな風に思った。

 泉と湖の違いは置いておく。

 どちらも水に関係する以上、否定要素にはならない。

 それよりも精霊がその湖に住んでいる可能性は低い。

 だって街からこんなに近い場所に女神の眷属がいれば、女神教の信者が祀っていないはずがない。

 それにここは聖堂都市だ。

 他の街よりも信者は多い。

 参ったなあ。

 心の中で呟いた。

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