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 街に戻ると、アリスは取り敢えず冒険者協会に向かった。

 特に予定もなかったし、協会は近かったから。

 昼間ともあって、夜中に来た時よりも活気があった。


(いや、騒がしいのは夜だった)


 すぐに考え直す。

 多くの人が寝静まった静寂な夜に、あの酔っ払いたちの大声は煩かった。

 それが実に愉快な雰囲気で、夜特有の孤独感を感じなかったのは事実だが。

 アリスは受付嬢を見渡した。

 そこに見知った顔は居ない。

 テレリは今日の仕事は終えていて、少し前に交代してしまったらしい。

 ちょっと残念だ。

 アイテムを売るだけだし誰だろうと何も問題はないんだけど。

 やっぱり知り合いが居てくれた方が安心出来る。


(次からは午前中に来よう)


 これまでにテレリに会えたのは、どれも朝から昼の時間帯だった。

 昨夜のは臨時と言っていたし、普段はいないはずだ。

 そうすると手に入れたアイテムを翌日に売る事になる。

 けど大丈夫なはずだ。

 アイテムはオーブを破壊しない限り状態が変化しない。

 だから生肉が腐る心配はないのだ。

 問題があるとすれば、オーブを破壊しない限り何のアイテムが入っているのか分からない点だ。

 それもインベントリに入れればちゃんと名前が分かるのだから、ほとほと便利な機能である。

 適当に暇そうにしていた受付嬢の元に行きら、10個のアイテムを売却する。

 8個の青牡牛の肉は取っておいた。

 これはラドヘのお土産用だ。

 値段は500イェンだった。

 平原兎の10倍だった。

 単価で見るなら50倍だ。

 昨日よりもずっと楽だったのに、こんなに高い売値に変わるのかとアリスは複雑に思う。

 平原兎が可哀想だった。


(そう言えば今回はアイテムの鑑定が長かったな)


 アリスは先の取り引きを思い返して、昨夜との違いが気になった。

 テレリが早かったのかは分からないけど、体感では随分と差がある様に感じたのだ。

 顎に指を当てて答えを探す。

 テレリと今日の受付嬢の違いは何だろうか。

 記憶を掘り返し、鑑定直前の行動だろうと当たりを付けた。

 昨日テレリは変な模様の眼鏡を掛けてアイテムの鑑定をしていた。

 対して今回の人が掛けていたのは何とも脆そうな片眼鏡だった。

 あれはアイテムを鑑定する力を持つ眼鏡なのかもしれない。

 そう言えばラドも似たようなのを掛ける事があったと思い出す。

 なるほど、道具の性能の違いか。

 分かってみれば簡単な事だった。

 テレリは元々冒険者だったみたいだから、どんなに良い道具を持っていても不思議じゃない。

 あらゆる場所を冒険する職業柄、珍しい物や優れた物を得る機会は他よりずっと多いのだから。


(私もいつかは冒険しないとね。この街にばかり留まってないで、世界中を見て回ろう。だって冒険者なのだし)


 でもどこに行こうかと悩む。

 世界を冒険しようと言うのに最初の目的地さえ決まらないなら、きっと冒険者としてはまだまだなのだろう。

 まあ特に急く必要もないよね。

 アリスは自分にそんな事を言い聞かせた。

 この街の事はまだこれっぽっちしか知らないのだ。

 イベントだってもっと沢山あるはず。

 やる事は多い。

 気合いを入れ直す。

 手始めに依頼でも受けようかな。

 その考えは、とても良い物に思えた。


(依頼。冒険者の主な収入源)


 依頼は報酬が多いのだ。

 それだけ難しい依頼が沢山あるらしいが、その分ドロップアイテムを売るよりも効率が良いそうだ。

 勿論、強い魔物を1日ずっと狩り続けられるだけの実力があれば話は別だ。

 下級魔物のアイテムでさえ1つ100イェンで取り引きされる物もある。

 そいつらを作業感覚で倒せるなら、旨味のある依頼は少ないだろう。

 しかし、そんな自信家は滅多にいない。

 プレイヤーはサービス開始からまだ間もないためそんなに強くないし、NPCに至っては死ねば終わりだ。

 復活がないから慎重になり、どんな実力者だったとしても好き好んで強い魔物と戦う事がない。

 だから皆が依頼を受けるし、協会が成り立つのだ。

 アリスは前にどこかで読んだ内容をうろ覚えながらに思い出した。


(まあ具体的な事はどうでも良し。それより依頼って何があるんだろう)


 掲示板の前に立つ。

 重なる様に貼られている依頼書に、少し目が痛くなった。

 アリスはシステムパネルを出す。

 それからクエスト画面を表示させた。

 僅かなロード時間の後に読み込みが開始される。

 すると空白だったリストに凄い速さでクエスト名が追加されていく。

 膨大な量だ。

 これは全てのクエスト情報を取得するのに時間がかかりそうだ。


「いつもこんな数の依頼があるのかな」


 辟易した様に呟かれた。

 なんか昨日見た時よりもずっと増えている。

 おかしいなと思った。

 このゲームについての情報集めをしていたアリスは、正式サービスが始まってすぐの頃、1度だけ大きな騒ぎになったのを覚えている。

 どう言う経緯を得て騒ぎが大きくなったのかは知らない。

 でも発端は確か依頼が全く無かったからだ。

 効率の良い金策に群がるプレイヤーの数に比べて、掲示されている依頼の数が少な過ぎたらしい。

 結局その騒動はNPCたちの手により鎮火した。

 冒険者はどんな頼み事でも受けてくれると認識した様で、依頼の件数が爆発的に増えたのである。

 母数が増えた所為で報酬が美味しい依頼の割合は相対的に減少したらしいけど、不満も減った所を見るに、結果的には良かったのだろう。

 だからこそ、こんなに依頼が残っているのは異常だった。

 どれだけあってもプレイヤーによって消化されるから。

 なのに何故これだけ残っているのだろう。


(もしかすると、依頼よりも良い金策が見つかったのかも)


 閃いた答えにそれだと思った。

 その可能性が最も高い。

 きっとまだ使える掲示板で情報共有されているのだろう。

 アリスはもう1度覗いてみようかと考えたが、発狂と大荒れによって支離滅裂な言葉が飛び交う悪夢みたいな状態を思い出し、怖くなって止めた。

 良いお金稼ぎの手段を知る機会が潰れ、残念そうに肩と兎耳を落とす。

 パネルが軽い音を立てたのはその時だった。

 作業が終了した事を教える合図に、アリスは視線をパネルへと戻した。

 リストはクエスト名で埋まっていた。

 ここにある依頼のデータを取り込んだのだ。

 嫌になるくらいに膨大な量だった。


(でもちゃんと読める様になったし、多少はマシね)


 依頼書のままでは文字が読めない。

 当然の話だ。

 最初に文字が異なると知った冒険者登録の時から今に至るまで、文字の勉強なんて全くしていない。

 そう言う怠け者の為のお助け機能がクエスト画面である。

 掲示板にある依頼に限り、文字を訳してくれるのだ。

 既に読み込みを行った掲示板の元に再度行けば、その度に自動で更新され、新規の依頼データが取得出来る様にもなっている。

 これと言い、インベントリと言い、実に助かる機能だった。

 システムパネル様様だ。


(えっと。数が多いな。絞り込みでもするかな)


 そんな考えが過るが、アリスはすぐに否定する。

 どんな依頼があるのか見たいのだ。

 自分の受けたい依頼を探す訳ではない。

 だから適当に選んでみる。

 面白そうなのがあったら受けてみようと決めて。


(それじゃ、まずは1つ目)


 クエスト名は、ワイバーンの皮を求む。

 この時点でアリスはこれを受ける気を失くした。

 中級魔物にはまだ勝てない。

 だけど最後まで目は通してみる。

 勿論その気持ちが覆る事はなかったけど。

 説明によれば依頼主はワイバーンの皮で服を作りたかったらしい。

 友達に自慢しようと思ったのだとか。

 下らないと思った。

 報酬が500イェンぽっちだと分かって、それが馬鹿らしいに変わった。

 画面をリストに戻す。

 とあるプレイヤーがとある辞典を訳し、ネットに上げた内容に、ワイバーンについての記述があった。

 ワイバーンは中級の魔物で、2本足の竜だ。

 亜竜と呼ばれるだけあって、その実力は竜よりかは劣っている。

 しかしそれでも並みの人では太刀打ち出来ない化け物なのは間違いない。

 尻尾の棘には猛毒があって、刺されれば瞬く間にそれが全身を巡り、死に至ってしまうらしい。

 これだけしか知らなくても、まだ戦う時ではないと分かる。

 それにワイバーンは亜竜の沼地と言う場所にいると聞く。

 この街からは随分と離れているみたいだし、どっちにしろしばらくは戦いに行けなそうだ。


(よし。次だ)


 アリスはパネルを操作して、次の依頼を見た。

 この依頼は、どうやら近場で達成出来そうだ。

 興味深かそうにアリスは文字を読み出した。 

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